閑話 現在の勇者パーティー
「クソっ!撤退だお前達!早く転移魔法を!」
「分かってるわよ!うるさいわね、今準備中よ!」
今ダンジョンに潜っているのは、世界を救う勇者パーティー、そのメンバーである。彼らは実力を高め、魔王を打ち倒すべくダンジョンへと潜っていた。
「早くしろ!俺ももう限界だ!」
「うるせぇ!そんなの分かってんだよ!」
勇者シャーユ、魔法使いマーチ、武闘家ケビン……三人は勇者パーティー、そして実力者として認識されている。……その三人は現在ダンジョンからの脱出を図り、マーチの魔法陣へ移動している。三人の後ろには魔物の大群が現れ、侵入者を仕留めようと追跡していた。
「ゴォォォー!」
「もう来たのか!マーチ、命令だ!早くしろ!」
「クソっ、おいシャーユ、お前も手伝え!」
追いついたのはシルバーゴーレム。全身鋼鉄で構成されている、Cランククラスのゴーレムである。本来なら勇者パーティーが手こずる相手ではないのだが……。
「ゴォォォーーー!!」
「ガッ……クソっ!」
ケビンは鍛えられた拳をアイアンゴーレムに打ちつけるが、逆にパンチを受けてしまい、壁に叩きつけられる。更に追撃をしようとするアイアンゴーレム、その後ろからシャーユが斬りつけた。
……カチン。
「な、何だと!?」
「ガァァァーー!」
「ガフッ!?」
「な、キャッ!?」
斬りつけた剣は鋼鉄の体に弾かれ、無防備になったシャーユにゴーレムの攻撃が直撃する。彼はそのまま吹き飛ばされ、詠唱中のマーチに激突してしまった。
「お、おい!早くしろ、このままでは全滅だ!」
「痛ったいわね……言われなくてもやってるわ!魔法陣は出来てるから乗りなさい!転移するわよ!」
マーチの号令に合わせて、シャーユ達は慌てて魔法陣に乗る。ゴーレムのパンチがぶつかる直前、マーチは魔法陣へ魔力を送る。
「行くわよ!転移!」
マーチが魔法を起動させ、地面の魔法陣がキラッと光る。すると三人は一斉に輝きだし、数秒も経たずにこの場から消失する。
「ゴォォォー!ゴォォォーー!!」
獲物を逃して怒り狂うアイアンゴーレム。彼はダンジョンの通路をドタドタと歩きながら、どこかに行ってしまった……。
◇◇◇
「それでは、今回もクエストは失敗ですか……。」
「え、ええ。今回は調子が悪かったのよ……。」
「気をつけてくださいね。貴方達は勇者パーティー、その影響力は世界の情勢にも関わるのですから。」
「わ、分かってるわよ。じゃあ、これは他の冒険者に任せるわね。」
ここは勇者パーティーが拠点とする国、グランド王国。……テイマーのティムを追放してからしばらく後、彼らは街役場の側にある、行きつけの料理店に足を運んでいた。
「クソっ、何で俺達がCランクダンジョンなんかに!しかもそれで失敗なんて……俺達はAランク、世界を救う勇者パーティーだぞ!」
「落ち着けシャーユ。とりあえず飲もうぜ。」
シャーユとケビンは二人で酒を飲みながら愚痴をこぼしていた。すると役場で手続きが終わったマーチが二人の元に戻って来る。
「だいたい、マーチが魔法で敵を倒していれば、俺達が魔物から逃げる事も無かったんだ!責任を取れ!」
「はあ!?時間をくれなきゃ魔法なんて撃てるわけ無いでしょ!?シャーユこそ前衛なのに敵を防げてないじゃない!そっちこそ責任取りなさいよ!」
「二人共落ち着け。次のクエストで挽回すればいい。」
喧嘩を始めたシャーユとマーチ。この二人をケビンはなだめるのだが、二人は聞く耳を持たない。
「うるさい!だいたいケビンが速攻で倒さないから負担がこっちに来るんじゃない!上から目線でイライラするのよ!」
「そうだ!お前が早く数を減らしていれば、強い魔物でもタイマンに持ち込めたんだ!大群が来たのはお前の責任だ!」
「何だと!?人が大人しくしていれば……!」
三人が大声で話しているのを見て、役場に来ていた他の冒険者達はヒソヒソ話をしている。
「なーんだ。勇者パーティーって言っても、クエスト失敗が続いてちゃ笑えないわよねー?」
「全く情けないな。あれで本当にAランクのパーティーなのか?」
「……何だと!?好き放題言ってくれるじゃないか!なら勝負するか!?」
「おお怖い怖い。行こうぜ。」
勇者パーティーを馬鹿にする冒険者達。それを間近で見たシャーユとケビンは憤慨していた。しかし……マーチはしばらく前から感じていた疑問、それを口に出す。
「ね、ねぇ……そういえば私達がクエストを失敗するようになったのは、ティムが居なくなったからじゃない?」
「何だと!?お前、あんな汚いゴミスキル持ちの肩を持つってのか!?」
「違うわよ!?でも、あいつがいなくなってから、索敵も時間稼ぎも全部私達でやってるでしょ?でも全然手が回ってないじゃない。」
「ふむ、確かにな……。」
ケビンも何となく違和感を感じているようだった。しかしシャーユはそれを強い言葉で遮る。
「あいつは忌むべき存在!魔物と手を組んで人に害を及ぼす、テイマーのスキル持ちだ!あんな奴に頼る事なんて無い!」
「そ、そうよね。私達は今回調子が悪かっただけ!次は何とかなるわ!」
「そ、そうだな。間違い無い。」
シャーユの言葉ですぐに自信を取り戻す二人。そして三人は更に、とんでもない事を口走った。
「だが……もしかしてティムをクビにしたのは早すぎたかな?もし奴がいれば……。」
「そうだな。サンドバッグには使えただろうに。」
「それはそうね。あいつは何でもやってくれるから、世話係としては優秀だったんじゃないかしら?」
「まあ、あんな汚い奴の事なんてどうでもいい!次のダンジョンに備えて、飲もうじゃないか!」
「「「アハハハハハ!」」」
そして勇者パーティーの三人は街に繰り出してゆく。……「とんでもない事」を聞いていた、一人の冒険者には気づかずに。
「……チッ、やっぱり腐ってるわね。全くふざけた奴らだわ。」
その冒険者も役場を出て、勇者パーティーとは別の方向へ向かう。そして街を出ると同時に、冒険者は走り出すのだった。
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