閑話 剣聖、王国から追放される
遅れてしまって申し訳ありません。今回は少し遡って、王国会議終了後の一幕になります。
今年もよろしくお願いします。
「王よ!こちらに居るかな?」
「き、貴様は剣聖ガイア!何の用だ!?」
王国会議が終わって少し後。ガイアは王と顔を合わせていた。その場にはストーレの街のリーダーのカイン、カーノンの街のリーダーであるフェイク、二人が同席している。
「このお二人が王に話があるのだ。それに私も。会議では途中だったから、ここで我らの意見を聞いてもらえないだろうか?」
「何だ、またお前達か!俺達に逆らうのか?」
「早く帰る事だ。でないとここで命を落とす事になるぞ!」
この場に勇者シャーユと騎士団長ジャンヌも合流し、一触即発の空気が流れる。
「……王よ。最近の街や国で色々話題になっている事がある。王国の手の者が各地で悪事を働いているようだ。今回の件だけでも、要人の暗殺を狙ったり、街を崩壊させようとしている事が分かった。何故そのような事を?」
「し、知らぬ!我らは関係無い!」
「ならば取り締まって欲しいのだ。このままでは王国の権威が更に堕ちてしまう、そうなれば王の責任は避けられまい。」
「黙れ!そもそも王国の治安を守るのは貴様の役割だろう!?貴様の責任で何とかしろ!」
王の暴言にため息をつきながら、ガイアは改めて王を見た。
「な、何だ!?」
「それで宜しいのかな?我らは王国を守っているが、他所の国に出るとすれば手続きが……。」
「口ごたえをするな!王国の命令だぞ!」
「……ならば遠慮なくやらせて貰おう。国同士で和解も進むのだ、直接出向いて捕らえるのもありだろう。その場で尋問すれば向こうと情報の共有も出来る。」
「な、何!?それは困る!?捕まえた者は保護して連れてくるのだ!」
「支離滅裂だな……こちらの責任と言ったばかりではないか。」
「そうだ!貴様の責任で奴らを保護し、他の国々を黙らせるのだ。剣聖の説得なら奴らも口を閉じるだろう!」
次々と出てくる言葉にガイアは呆れていた。そして王を見るカインとフェイクの顔はどんどん険しくなっていった。
「いい加減にしてくれ!お前達は何を考えているんだ!俺達の事といい、戦いでも起こすつもりか!?」
「私達とて攻撃されれば黙ってはいない。そもそも街を襲えば収益が減る、国を襲えば争いになる。何故このような事を!」
「カイン、フェイク。街役場の職員の分際で、うるさい奴らだ!王が栄えればそれでいい。他はどうなろうと構わないのだ!分かったらそちらの利益を献上しろ!」
「騎士団長……本気で言っているのだな?」
ジャンヌの言葉に、ガイアは冷たく問いかける。
「その通りだ。何なら貴様達を処刑してもいい。今回の責任を取ってもらわねばな。そうだ……こちらにも裏切り者が居たな。騎士団の詰め所を勝手に使った騎士達……奴らも始末せねばならない。」
「彼らは民を守ろうとしたのだ!あの判断が無ければ多くの民が犠牲になっていた!」
「フェイク殿、もういい。王よ、本当にこれで良いと思っているのか?」
ガイアの呼びかけに、王は……
「当然だろう?だが、もう我慢の限界だ!ガイア、貴様は我らに反抗するばかり。大人しく聞いていれば調子に乗りおって!」
「私は間違っていると思ったから進言しているのだ!自分達から争いの火種を作るなど、愚かな事だと何故分からない!」
「黙れ!そもそも前から気に入らなかったのだ!剣聖でありながら息子はテイマー、人間の敵ではないか!そのような者を要職に就けていた事が間違いだったのだ!」
「何だと!?」
「剣聖ガイア、お前をここから追放する!カイン、フェイク。貴様達もだ!もう王国の庇護は受けられないと思え!」
それを聞いて口を閉ざすガイア達三人。勝ち誇ったように、王達は彼らを見ていた。
するとカインが笑顔になって、王達を見た。
「分かった。なら俺達はもう、グランド王国とは縁を切る!」
「……何?」
「もともとゴミだの掃き溜めだの言われてきたんだ。色々と嫌がらせもあったし、何とか抜けたいと思っていたんだよ!そっちから提案してくれて助かった!」
「な、何!?」
「なら私達も離れようと思う。ここまで理不尽な扱いを受けた上に、民を捨てるなど理解できない!私達から関係を切らせてもらおう!」
フェイクも堂々と言葉を突きつける。王や勇者達は明らかに動揺していた。
「き、貴様王に逆らうつもりか!?始末してやるぞ!」
「出来るのかい勇者?俺は真っ向から受けて立つよ、何なら今やろうか!」
そう言ったカインは、ドラゴンとの戦闘で怪我を負っている。しかしシャーユはそれにも気づかず、ビクッと体を震わせた。
「くっ……それでいいのか!?王国から離れれば貴様達は終わりだ!」
「街は俺達冒険者が守っているから平気さ。それに俺達を滅ぼそうとしていた国に言われたくはないね!」
「私達もだ。そちらとの武器の取引は打ち切りにして、他を探す事にする。そもそも街の特産品は武器だけでは無い、充分やっていけるさ。」
「何を言うのだ!?それで本当にいいのか!?ガイア、貴様も止めろ、これは命令だ!」
王の怒鳴り声が響く中、ガイアは一歩も動かない。この状態がしばらく続いた後、やれやれといった様子でガイアは口を開けた。
「申し訳ないがそれは出来ない。もう私は追放されたのだからな。今からここを出るとしよう。」
「き、貴様!」
「私達の身の振り方を考えるいい機会だ。そちらには勇者と騎士団長が居る、何の問題も無いな。そうだ、詰め所を開けた騎士さん達はこちらで預かる。色々と手続きがいるからな。」
「お、おのれ……テイマーの息子と同じで、貴様も我らを裏切るのか!?」
「知りませんな。そもそも今!この場で!自分から追い出したのにそう言われても困るのだが!第一ティムはそのような事はしていない!」
「ぐ……。」
自分の言葉で窮地に立たされる王。それをガイアは眺め、部屋の外へ歩き出す。
「では、追放された我々は立ち去るとしよう。さらばだ!」
「ま、待て!」
ガイアはカインとフェイクを連れ、外へ出て行った。
「こ、この愚か者共が!シャーユ、ジャンヌ!どうするのだ、剣聖が居なければ王国は大変な事になる!」
「何だと!?あのクソ剣聖を追い出したのは王だろ!?」
「くっ。どうすれば、どうすればいい……!」
「そうですね……良い手があります。お二人とも、耳を貸してください。」
ぷるぷると震える王と勇者、その側にジャンヌが近寄り、そっと耳打ちをした。
「……なるほど。でかしたぞジャンヌ!それならば王国の威信を示す事が出来る!」
「そりゃあ良い。俺達も楽しめそうだ!」
「闘技大会……ここで私達の権力と王国の力を見せれば、きっと他の国も我々に従うでしょう。今から楽しみです。」
話を聞いた王とシャーユ。二人はニヤッと笑い、それを見たジャンヌも微笑む。
「だな!ジャンヌ、景気づけに一杯やるぞ!付き合え!」
「はい、勇者様!王様、私達はここで失礼します。」
そして二人は街へと消えていった……。
◇◇◇
一方ガイア達は王国の門の前に居た。歩きながら今後の事を話し合っている。
「では、私は自分の居場所へ帰るとしよう。カイン殿、フェイク殿、貴方達も帰るのだろう?」
「ああ!俺も闘技大会には出たいし、サリア達と特訓しようと思ってるんだ。」
「私は街の整備を優先しよう。後は三人の騎士さんの事を何とかしなければな。あの時助けてくれたから、人々は無事だったんだ。」
「あの三人の方は、私が責任を持って保護しよう。それから意見を聞いて、今後の処遇を考える。それで良いかな?」
「お願いします。剣聖殿、彼らに一言伝えてもらえませんか?貴方達のおかげで本当に助かった、もしカーノンに来るなら歓迎すると。」
「了解だ!必ず伝えよう!」
そして話をしながら門を出ると、三人の前には大きな馬車が待っていた。
「旦那様、こちらに!馬車の準備は出来ております!」
「御苦労!さ、カイン殿、フェイク殿。お二人も乗ってくれ、近くまでお送りしよう!」
「本当!?ならお願いするよ、歩くよりも早く着きそうだ!」
「私も乗るとしよう。ここまで色々あったから、少し落ち着きたい。」
「さあ帰ろう!皆で話をしながら!ティムの事、友達の事、色々聞きたいものだ!」
三人が馬車に乗り、ゆっくりと動き出す。それぞれが話をしながら、外の景色は動いて行くのだった。
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