黒いドラゴンを追え!/動く準備、進む思惑
「ギル、あーしと交代っす!少し休んだ方がいいっすよ!」
「そうだな。しばらく頼む。」
「カズハ!僕が運転するよ!」
「助かるよ、ありがとう。」
皆で馬車に乗って数時間、僕達は交代しながら馬車を進める。こうやって走っていると、この前王国に行った時を思い出すなぁ。
「ティム、ちゃんと配信は出来てるっすか?」
「うん!こっちはギルが持ってね!」
「了解だ。」
二人で魔導カメラを持って、上のドラゴンを映す。本当にゆっくり動くだけ……周りの事は気にしてないんだ。
「もがっ!もがっ!」
「黙っていろ!」
「もがっ!?」
神父を縛り上げ、カメラに手を戻すギル。僕はもっとポーション飲んでおこう。絶対に戦いになるんだから!
「マイラ!上空から見て、何か変わった事は無いか!」
「いえ、今の所は平気ですよ。まあ、この状態が異常なんですがね。」
「マイラ、アンタは休まなくていいんですか?下からでも見張りは出来るっすよ?」
「このままでお願いします。変身するのに時間がかかりますから。」
マイラさんは上空からドラゴンを監視している。僕もカメラをうまく操作して……
「分かったっす。ティム、冒険者さん達が来てくれるといいっすね。」
「う、うん。レル、もうすぐだよ。ちゃんと準備しようね!」
「わん!わん!」
僕達はポーションを飲み続けて、体力と魔力を回復させる。これが今の仕事だ!
◇◇◇
会議が中断してから早くも数時間。魔獣の国の王、ドレイクと機械の王シンマ……二人がベランダで見張りをしている頃、ジャンヌは魔導パソコンを操作していた。
「ジャンヌよ。お前は何をやっているのだ!」
「王様……ティムの影響力は思ったよりも大きいようです。これを。」
「こ、これは!」
覗いたのは魔導掲示板。配信を見ている冒険者達が、こちらに向かうコメントを残していた。
「ど、どうする!?もし冒険者達が押し寄せてくれば、シャーユの出番が無くなる!王国の威厳が守られない!」
「ここは私にお任せ下さい。……こうだな。指名依頼と同じ様に、コメントを残して……。」
ポチッ。
「これで大丈夫です。来ると言った冒険者達の近場に、魔物が発生していると情報を出しました。奴らはこれで来られなくなる。」
「おお!流石だジャンヌ!」
「実際に魔物が増えているのです。奴らは確認を行うから、こちらに来るのが遅れるでしょう。その間に勇者様があの化け物を倒せば良いのです!」
「……マヌケじゃのう。」
「き、貴様は!」
さっきまでうとうとしていた魔王ライアが、鋭い視線を向けている。ジャンヌは王の前に移動し剣を握った。
「お前達は配信を信用してない。なのに何故、勇者の出番を用意する必要があるのじゃ?だってドラゴン来てないんじゃろ?」
「そ、それは……そうだ!これはでっち上げだからな。冒険者達は自分の地域を守るべきだ!下げるのは当然だろう!万が一本当だとしても、勇者様だけで充分だ!」
「……そうか。なら、儂は気にせず寝ているとしよう。外に出ると駄目なのじゃろう?」
ライアはまた目を閉じ、うとうとし始めた。
「はあ、はあ……。」
「ぼ、坊ちゃま。」
「な、何で皆逃げてくれないんだ!本当に危ないのに!」
一方ソードは街を巡り、ひたすら警告を発していた。しかし街の人達は全く気にせず、むしろ嫌がっているようだった。
「あ、あの……。」
「は、はい!」
「魔物が来るって聞いたんだけどねぇ……ひ、避難所って無いかい?」
声を掛けられ振り向くソード。そこに居たのは街に住む女性だった。杖をついて不安そうに空を見ている。
「何だか空が暗くなってきてねぇ……不安になっちゃったんだよ。」
「……!は、はい!おばあちゃん、俺の背中に乗って下さい!」
ソードは女性を背負ってひたすら走る。そして……一度王の城に戻って来た。
「安全な場所はやはり会議室……で、でも他の人達も入れる場所を!」
「こっちだ少年!その人を連れてきてくれ!」
「あ、あなたは!」
ソードの前に立つのはフェイク。彼は城の側にある建物に住人を誘導していた。
「ここは騎士達の詰め所だ。相当頑丈に出来ているから、隠れるには最適だ!」
「あ、あの……フェイクさんですよね。兄上の配信で見ました!」
「兄上?そうか、ティムの弟か。では、さっきの魔王の言葉は本当のようだな。
ティムが剣聖殿の息子とは……まあ、私にとって彼は彼だ。家の事などどうでもいい!優先するのは民の安全、だろう?」
「ありがとうございます!おばあちゃん、ここに入りましょう!」
「すまないねぇ。」
中に入るとそこには、何人かの住人が中央で食事をとっている。机や椅子は他の入り口に積まれ、バリケードになっていた。女性を降ろし、外に出ようとするソード、すると後ろから呼び止められた。
「剣聖様!お疲れ様です!」
「お、お疲れ様です!……この人達は?」
「騎士団の一部の方達だ。事情を説明したら、ここを開放してくれたんだ。これだけ広ければ多くの人を助けられる!」
目の前に居る騎士は敬礼でソードを迎える。その数はたった三人、しかしソードはどこか嬉しそうだった。
「で、でもどうして?」
「ハッ!王を守るのは当然ですが……民を守るのも騎士の務め!それは心得ております!」
「剣聖様、ご指示を!我々に出来る事なら何でも致します!」
「あ、ありがとうございます!では、他の人達の避難の手伝い、これをお願いします!」
「お任せ下さい!ゆくぞー!」
「「おおー!」」
ドタドタと駆け出す騎士達を見て、ソードとフェイクは頬を緩ませた。
「フェイクさん、外に出て良かったのですか?王のあの顔を考えたら……。」
「あそこは混乱していたからな。一人街のリーダーが消えた程度、気付かないだろう。頭の中でこの先の作戦は考えている、ここは私に任せてくれ!」
「は、はい!行ってきます!」
ソードは詰め所を出て、街へと走っていった。
「配信で見た魔物、奴につられて他の魔物が来るかもしれないな。ひとまず大砲を持って来よう。」
フェイクは一人呟き、自分が納品した大砲を探しに王国の武器庫へと歩き出した。
そしてその王国に向けて…………遠くから黒い点が近づいていた。
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