魔王の提案……緊急事態発生!
シャーユがポカンと口を開け、周りも静寂に包まれる。その反応を見て、ライアはニヤリと笑った後、口を動かした。
「この配信は皆ティム先生が撮った物じゃ。だから、事件の当事者と言うわけじゃな。なら本人に聞くのが一番都合がいいのではないか?」
「それはいい考えです!早速探して来ますね!」
「ま、待て!」
ライアの提案を再び王が止める。彼の顔にも冷や汗が流れていた。
「ふざけた事を言いおって!奴は王国の冒険者だ!そんな事はワシが許さん!」
「(追い出しておいてよく言うのう……なら。)
なら、先生は確か勇者パーティーじゃろう?それなら王達の会議に出れる身分じゃ!本人に了解とれば来てくれるぞ!」
「い、いや、それは困る!そんな事をされる訳にはいかん!」
「王様!」
「どうしたジャンヌ?」
騎士団長ジャンヌが王の耳元で何か伝えている。その後すぐ、王は堂々とした態度を取り戻した。
「フフフ…………奴は王国から追放した身じゃ!そんな地位の者は、王国会議への参加資格は無い!つまり、奴らが騒ぐ証拠など出てこないのだ!」
「「「「つ、追放!?」」」」
ドレイク達を始め、参加者がまた驚きの顔を見せた。
「あんな良い冒険者を追放!?お前達の目はどうなってんだ!?」
「し、知らんな!とにかくこれでこの話は終わりだ!」
「(あ、アホ過ぎじゃろこの王!?今度は地位とか言い出しおった……それなら!)
な、なら尚更出てもらわねばな!」
ライアは呆れた顔をしながら、今度は参加者に向けて話し出した。
「ティム先生は[元]勇者パーティーの経歴の持ち主じゃ。それと、配信を見て分かるじゃろ?いい子じゃし、実績もちゃんと積んでいる!」
一呼吸置いて、ライアの話は続く。
「それとこれは儂らが調べたのじゃが……先生はあそこに居る剣聖、ガイア殿のご長男なのじゃ!実力で見ても、地位で見ても、ここに来る資格は充分にある!」
「「「「おおおー!」」」」
「ドレイクと言ったかの。お前も良いじゃろう?先生に話を聞きたいようじゃし。」
「あ、ああ!アタシは歓迎するぜ!」
「我らも歓迎する!実に良い!」
周りの反応を見たライアは、ルーの方を向いて指示を出す。
「決まりじゃな。ルー!先生を探して来てくれ!」
「はい!ただいま!」
ルーが席を立ち、扉から出ようとする。その様子を、勇者達は慌てた様子で見ている事しか出来なかった。
「が、ガイア!貴様王国の剣聖だろう!命令を出してティムをここに近づけさせるな!」
「王よ、ティムはここを追い出された身。今更私が何を言っても聞く事は無いだろう。それにここは会議の場。命令を出せば王国の理不尽を認める事になる。配信で流れて……王国の名誉が傷ついてしまうが宜しいか?」
「ぐ、ぐぬぬ……どうすればいいのだ!?シャーユ!元はといえば貴様が!」
「し、知るか!王だって賛成してただろ!?」
「ではでは!私はティム先生を探して来ます!」
勇者と王の罵り合いが配信される中、ルーはティムを探しに会議の場を後にした。
そして扉に手を掛けると、反対側から勢いよく扉が開いた。
「き、緊急です!緊急です!」
「わ、わっ!何ですか!?」
「王様!緊急事態です!」
「何だ!こんな忙しい時に!」
「この配信を見て下さい!」
入って来た王国の騎士、彼が持って来た配信を皆で覗き込む。
「な…………何だこれは!?どうなっているのだ!?」
映ったのは、王国に向けて黒いドラゴンが飛んでいる配信動画。それを配信しているのは……今議題に上がったテイマー、ティムとその友人、同じくテイマーのサリアであった。
◇◇◇
「み、皆さん、見えますか!僕達は現在、空から配信を行っています!大変です、大変なんです!」
「ティム、落ち着くっす!あーし達は見ての通り、魔物を追っているっすよ。見えると思いますが……あれっす。ドラゴンっぽい魔物っすね。」
空を飛び、ティムとサリアが配信を行っている。その前には、黒いドラゴンが霧を体中に纏いながら、ゆっくりと漂っている光景があった。
「あの魔物は今、グランド王国に向かってます。でも、今の僕達じゃ攻撃できないんです!だから今のうちに、王国の人達に避難するよう言って欲しいんです!」
「あーしからもお願いするっす!追跡してるっすけど、このままじゃ本当に大変な事になるっす!
だから王国の人達、見てる人がいたらすぐに安全な所へ!それから冒険者さん達、もしも近くに居るなら力を貸して欲しいっす!避難の手伝いでも何でもいい!時間が無いっすよ!」
◇◇◇
「あのドラゴン……いや、何か違うな!あれは一体?」
「おいおい、もしかしてここで議題に上がった未知の魔物じゃないか!?」
「あれは危険よ。こっちに向かってるとしたら、タイミング的に狙いは……。」
三人の王がグランド王国の王を見る。
「ま、この会議だろうな。とんでもない事になってきたぜ!」
「すぐに住民の避難準備だ!我らで主導すれば」
「駄目だ!」
「駄目!?馬鹿かお前、あんなの来たら皆死んじまうぞ!」
ドレイクがジャンヌに掴みかかるが、彼女はさっきまでとは逆に至って冷静だった。
「参加者達にはここに残ってもらう。ここからは出る事は私が許さない!」
「何を言っているのだ!?実にまずいタイミング、ここは動かねば!」
「あんな配信者の言っている事が事実だと言うのか?配信者は注目される事が目的だ。指名の依頼やスポンサーが付くからな。恐らくこれもでっち上げだろう。」
「そうだとしても念には念をだ!あの動きならここに来るまで数時間はかかる。とりあえず準備は必要だ!」
「奴を追っているテイマーの子達……さっき見た配信もそうだが、とても嘘をついている様には見えなかった。我らは一度外に出よう。あれだけの巨体、警戒していれば気づけるはずだ。」
ドレイクとシンマは対応を提案する。魔王ライアはそれを頷きながら聞いていた。
「それが順当じゃろう。嘘ならそれで良し、本当なら大ピンチじゃ。儂は……魔王じゃからな。早急に見張りに行くとしよう!」
「駄目だ!貴様達にはここに残ってもらう!」
それも頑なに拒むジャンヌ。彼女をじっと見て、ジュリアが一言。
「……なるほど。ここが会議の拠点、ここが潰れたら各地が大混乱よね。戦力を集中させて死守するのなら悪くないわ。
それなら騎士を出して住民は避難させないと!言い方は悪いけど、戦闘に巻き込まれるとこっちが迷惑よ。」
邪魔になるから住民を退ける……王国の意図を汲みつつ、住民を逃がす為の提案を出したジュリア。しかしジャンヌは不思議そうな顔をしていた。
「お前達は何を言っているんだ?民などよりも王を優先するのは当然の事だ!お前達の力で王を守れ!これは命令だ!」
「……は?」
「ジュリア、貴様はとことん癪に障る奴だ。邪魔になるなら捨てておけばいい!避難の必要など無いだろう!だが王は別だ、全戦力を持って王を守るのだ!」
王国の騎士団長の言葉とは思えない内容に、周りが凍りつく。それを聞いたジュリアは、バンと机を叩いた。
「…………もう我慢できない!私は出て行くわ!」
「ま、待て!ここから出すわけにはいかない!」
「退きなさい!邪魔をするなら殺すわよ!」
「ヒッ!?」
騎士達を威圧してこの場から立ち去るジュリア。すると剣聖ガイアは息子のソードに話しかけた。
「ソード。何をすれば良いか、分かっているな?」
「はい!分かっています!剣聖の役割は、民を守る事です!」
「王国の街には家の者が待機している。一緒に皆を助けるのだ!」
「はい!」
そしてソードが立ち上がると、開いた扉を越えて外に出る。
「王を守らず抜け出すとは……俺が奴らを始末してやろう!」
「なら丁度いい!俺も抜けるからついて来なよ!そうすればドラゴンが来た時、俺ごと倒してくれるんだよな!」
シャーユの静止を無視し、次に抜けるのはカイン。会議は中断した状態、この場は一刻を争う場面に切り替わった。
「ぐっ……お、俺には王を守る仕事がある。ここを離れるつもりは無い!」
「いやいや!王も、いやここに居る者達は、この剣聖ガイアがお守りしよう!勇者殿は抜け出した者達と一緒に、準備に行かなくてよいのかな?」
「な、何だと!?知るか、俺はここに残る!」
「そうか……残念だ……。」
ガイアは上に首を向ける。そこには[各国の有力者達の監視の為に飛ばした]魔導カメラがあちこち飛び回っていた。
「私はここに残ろう。住民が避難してくる事もあり得る。ここに居ても頭で演習は出来るからな……。何も起きなければいいが……。」
そして周りが混乱している中、フェイクは一人席でじっとしているのだった。
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