依頼の中身とカインの事情
「君達の事は配信で見てるよ!はい、ここに座って!ギルはどうする?」
「我は立ったままでいい。早く始めてくれ。」
「オッケー。じゃあ皆、今からクエストの説明をするから、よく聞いてね。」
街役場に入った僕達は、早速依頼について話を聞く事に。カインさんはギルの方を見て、お互いに頷いた後口を開いた。
「かめー……。」
タルトはおやすみ中かな。後でご飯を食べる時に起こしてあげよう。
「サリアに受けてもらったクエストはこれなんだ。はい。」
「どれ、ちょっと拝見します。」
マイラさんが受け取った依頼書を皆で眺める。
場所はここから離れた小さな街。ある日を境に、住んでいる人達が眠れなくなっちゃったんだね。この原因を調べる為に冒険者を探していたんだ。
「なあカインさん、こういうのって冒険者関係あるかな?先生達も村で言ってたけど、病気か何かならやっぱりお医者さんだろ?」
「もちろん。ラルフがそう思うのは当然だよね。でも、こういうのは最初に様子を見てから決めるものかな。
例えば本当に病気だとして……魔物が原因だったら?悪い奴が関わっていたら?って考えたら、冒険者が対応した方が良いと思ったんだよ。」
「へぇー。」
「はい。」
「えっと、カズハだね。質問かい?」
手を挙げたのはカズハさん。カインさんはお茶を飲みながら視線を向ける。
「それでは、様子見の結果はどうだったんだ?私達を呼んだんだ、想定外が起こったと考えて間違い無い。」
「我が説明しよう。村では簡単にしか言わなかったからな、確認も兼ねて伝えておくべきか。」
「そうだよギル、ちゃんと教えてよ!そしたらここで準備出来るから!」
「わん!わん!」
ギルは壁に寄りかかったまま話し始めた……。
「まず我らが街に向かった時、そこには黒い霧が立ち込めていた。街を覆うようにな。そこに入る際、一瞬だが体が重くなった。おそらく侵入者を遠ざける物だろう。」
「く、黒い霧!?」
「ティム、これはまさか!」
「ま、まだ話を聞きましょう!それでギル、街の中は!?」
「ああ、酷い物だった。建物の中が滅茶苦茶に荒らされ、街の外も傷だらけだ。夜になると一層酷くなる。今住民は教会に避難している。まともに住めたものではないな。」
「何か魔物がいたずらしているのかな?それってシャドウプランクじゃない?」
シャドウプランク。こっそりと現れていたずらをしていく、影みたいな魔物。今の話で考えられるのはこの魔物だ。
「我と同じ予想だな。だが、どうも違うようだ。確かに奴らは現れたが、もっと強大な何かが関わっている、今はそう考えている。」
「そ、それは?」
「今はそれを調べている最中だ。大きい魔力が一箇所に留まっているようなのだ。サリアは向こうに滞在中だから、荷物の補充に我が戻っているという訳だ。」
ギルもコップから水を一杯。ごくんと飲み干すと僕達の方を見た。
「ティム、何か思い当たる事があるようだな。そういえばお前のハイシンしたアースラの映像……あそこにも黒い霧が出ていたな。」
「うん。配信を見たなら、その後も知ってるよね?」
「異形の魔物だろう?お前なら絶対に負けないと思っていたからな、驚きは無かったぞ。」
「その黒い霧、僕達にも関係あるのかな?シュリちゃんが言ってたんだ、最近黒い霧が増えてるって。」
「それは分からんな。何にせよ、その原因を突き止めて対処するのが今回の依頼だ。」
そうだ、ここで僕の疑問をぶつけてみよう!
「あの!カインさんはここに行く事って出来ないんですよね……。」
「ああ。ごめんよ、今はどうしても外せない事情があるんだ。」
「街の修復は進んでいるようですし……何か他にも?」
「そうなんだ。内緒の理由……いや、ティムはある意味当事者だな。なら教えてもいいかな。」
か、カインさん?立ち上がって部屋から出ると、一通の手紙を持って戻って来た。
「これが理由さ。」
「これか、何が書いてあるんだ?」
「私にも見せてくれ、中身が気になる。」
「ラルフさん、カズハさん!僕が先ですよ!」
そこにあったのは……勇者パーティー擁する、グランド王国からの招待状だった。
[王国会議への出席要請。
この手紙を受け取った国、街、並びに役場のリーダーは期日までにグランド王国に集まるように。来なければ敵対行為と見なし、王国から部隊を出撃させる。必ず来るように。]
「お、王国会議?」
「何かね、会議をやるらしくて色々な所に手紙を送ってるみたいなんだ。始めはただ行けばいいと思ったけどね。」
「……すまぬカイン、我がしくじったな。まさかこう来るとは……。」
「カインさん、何かトラブルでも!?」
カインさんはちょっと苦笑い。ギルは頭を伏せていた。もしかして言いがかり!?
「アハハ……ほら、ブラッドゴーレムを誘導して街を襲わせた冒険者が居ただろう?丁度君がカーノンの街を出た頃だね、そこで纏めて王国に突き出したんだよ。」
「……えっ!?あっ、ギル!前グランド王国からの帰りで、その人達の事で考えがあるって言ってたよね!?」
「ああ。王国が勇者の件でゴタゴタしているようだからな、ここで送って一気に勇者を捕らえようとしたのだが……。」
「……そうしたらこの手紙が?」
「参ったね、行ったら首が飛ぶかもしれないや。」
カインさん、ニコニコしながら言う事じゃ無いと思うけど……。
「お前、奴らが手を出してきたら、真っ向から歯向かうつもりだろう?楽しそうな顔をしているぞ。」
「どうかなギル?でも、俺達の事をゴミだの掃き溜めだのと言ってくれてるからな……お礼をするのもアリかな?あっ心配無いよ、これは皆が外にいる間に街で話し合った事さ。万一の時には、ね。」
カインさん……。
「さて、ギルから聞いたと思うけど、荷物はこっちで用意してあるよ。君達には明日出発してもらおう!必要な物があれば言ってくれよ!」
「分かった!んじゃ俺達は飯を食べるぜ!行こう先生、レル!」
「わん!?」
「ら、ラルフさん、今ですか!?」
「早く食べて早く寝よう!明日から忙しくなるぞー!皆も早く来いよ!」
もう!で、でもここにはカズハさんとマイラさんが居るし、何かあったら聞けばいいかな?おなかも空いたし……。
「ま、待ってください!料理店はこっちですよー!」
「わん!わん!」
料理店の席も取らないと!……カインさんは絶対に大丈夫だ!今はサリアの事を考えなきゃ!
「行っちゃった……。ティムはいい仲間に会えたようだね。それで、カズハは何か欲しい物は?」
「欲しい物……属性を持った魔物の素材を頂きたい。私は魔力で矢を作るんだが、弓を調整するのに使えればと思ってね。」
「うん!こっちで用意するよ!で、貴方は……マイラさん?」
「私は結構です。迷惑をかける訳にはいきませんからね。先に食事に行かせてもらいますよ。」
「フン、では我も行こう。カイン、お前は王国会議か……気をつけろよ。」
「任せろって!俺はこの街のリーダーだからね!」
「では、続きは明日だ。さらばだ!」
「うん!楽しんで来なよ!」
「頼むよ皆……サリアを助けてやってくれ……!」




