冒険者一行、薬を作る
「頼む!息子を助けてやってくれ!」
「ああ、入るぞ!」
マスターさんの家に着いた僕達。息子さんはベッドの上で寝ているんだ、早く起こさないと!
「カズハっち、ヨツバソウはどうやって薬にすんのよ?」
「これを使うんだ。」
「馬車?」
「ああ。私が寝坊したあの時だ、シュリから薬の作り方を聞いていたんだよ。専門じゃ無いからいくつか手順を踏むが、メモ通りにやれば大丈夫さ。」
馬車から出したのはお鍋にポーションだ!シュリちゃんが使ったのと同じ物みたい。
「ティムはここに湯を沸かしてくれ。ラーチャオはポーションをメモの通りに混ぜるんだ。」
「任せろし!それ位なら俺でも出来るもんな!」
台所を借りて急いで準備だ。僕は机をどかして、床にドンと鍋を置く。ここにお湯を注いで……。
「ほい出来た、分量は間違い無いっしょ!」
「次はその中に入れてくれ。サキは加熱を頼む!」
「はい!ファイアブラスト!」
ポーションとヨツバソウを中に入れ、それからはラーチャオさんと僕で鍋をかき混ぜる。サキさんは横から魔法で鍋を温めるんだ。
後は重い棒を使って混ぜる。……僕達は皆でやってるけど、シュリちゃんは一人で、しかも魔法で薬を作ってたんだ……。
[別に魔法使いだから打たれ弱い訳じゃねぇぞ!スキルは才能の一端だ。そう、一端に過ぎないんだ。
他が伸びないって訳じゃない、得意分野がはっきりしてるってだけさ。]
ふと頭の中に浮かんだ言葉。これはロットンさんの言葉だ。スキル……才能はもちろんだけど、努力しだいで他も伸ばせる。シュリちゃんは魔法使いの才能もあるけど、努力をたくさんしたんだ。だからあんなに凄い薬も作れる……僕も負けられない!
「ラーチャオさん!ここからは全部僕がやります!休んでて下さい!」
「いーや駄目っしょ!無理したら上手く出来ないだろ?こーいうのは皆でやればいいんだし!はい交代!」
……焦っちゃった。一人で出来ない事は皆でやればいいんだ。皆を見て、僕も色々学ばないと。うん、僕の事は後回しだ、とにかく今は薬を完璧に作るぞ!
「お、お願いします!」
「任せろし!」
しばらく鍋をかき混ぜ続けていると、腕が痺れてきた。も、もし一人でやってたら大変だった……。ラーチャオさんもきつそう、そろそろ交代の時間だ!
「は、はい交代!」
「も、もう少しですね……。」
「ああ。だいぶ色も変わってきたな。ここは私が代わろう。」
「カズハっちー!俺もう腕が疲れたし!」
「お前が居てくれて本当に助かるよ。頼りになる。」
「まだまだやれるぜ!疲れたら言ってくれよな!」
それから鍋をかき混ぜ続けて……
「………出来た!ここで止めてくれ!」
「は、はい!重かった……。」
僕の番で遂に完成だ!鍋の底には緑色の液体が溜まっている!
「後はこれを取って……これで出来たぞ!」
「おお!出来たのか!?」
「ま、マスターさん!」
マスターさんが扉を開けると、そこには散らかった台所と、ポーションの容れ物を持ったカズハさんが目に入った。
「出来たぞ!後はこれを飲ませてやるんだ!」
「分かった!すぐに頼む!」
「ティムっち行くぜ!」
「はい!」
「さあ、飲んでくれ……!」
マスターさんが息子さんの口を開いて、そっと薬を流し込む。
「作り方通りだ、大丈夫とは思うが……。」
「絶対に平気っしょ!だってシュリっちの作り方で、俺達が作ったんだし!」
「落ち着いて、もう少し待ちましょう。」
「う、うう。」
「おお!?」
マスターさんの声で一斉に振り向くと……息子さんが声を出したんだ!
「う、ここは……?」
「起きたのか!?本当に治ったのか!?」
「と、父さん?」
「うう……うおお……!」
マスターさんはガバっと息子さんを抱きしめる。息子さんは、あっ。
「父さん!?お客さんだよ!?恥ずかしいよ!」
「うう……良かった、良かった……!」
「私達は邪魔だな、台所で待つとしようか。」
「え!?感動の場面なのに!?」
「台所の掃除をしないとね。それとも……先にお前を掃除しようか?」
「えっ?……怖いし!?何でそうなるんだ!?」
「冗談だよ。せっかくの再会だ、水を差すのは失礼だろう?さあ、行こう!」
驚くラーチャオさんを連れて僕達は部屋の外に出る。二人が落ち着くまで、掃除をしながら待つ事にしたんだ。
「やあ。待たせてしまってすまないな。」
「マスターさん!息子さんはどうでしたか?」
「ずっと寝ていたせいか、まだ頭がぼーっとするようだが、問題は無さそうだ!」
「良かった良かった!んじゃ、俺達の依頼は!」
「ああ、これで達成だ!」
マスターさんは嬉しそうな顔をしながら書類を用意する。そこには今回の依頼について書かれていた。
「皆、本当に感謝している。私の息子を助けてくれて、ありがとう、ありがとう……!」
「こちらも達成出来て良かったよ。いい経験も出来たからな。」
「これが今回の報酬になる、受け取ってくれ!」
用意されたのはゴールドの入った袋。中身は……20万ゴールドだ!
「もともと準備していた金額になる。本当はもっと用意できれば良かったのだが……。」
「いえ!息子さんが元気になって本当に良かったです!」
「ああ、さっきの再会が一番の報酬だよ。」
「そうだぜ!気にすんなし!」
「あの……私達もですか?」
「び?」
そう、袋はびー君とサキさんの分も用意されていた。
「君達も手伝ってくれたんだ、しっかりと払わせてくれ!それが我々の誠意だ!それとティム。」
「は、はい!」
マスターさんは僕に向かって頭を下げた。
「この前は本当にすまなかった!王国の噂を真に受けて、君に酷い事をしてしまったんだ……本当に申し訳無い。」
出てきたのは、僕に対する謝罪の言葉だった。……うん。あの時は凄く辛かったし、まだ怖いと思う自分もいる。でも……
「分かってもらえたなら良かったです。でも今はそんな事より、息子さんの所に居てあげて下さい!色々話もあると思いますから!」
テイマーの強さを知ってもらえた。それに息子さんも助かった!今はこれでいいよね!
「本当にありがとう……!この恩は忘れない!何かあれば言ってくれ、出来る事なら力になるぞ!」
「ありがとうございます。その時が来たら、よろしくお願いします!」
そして話が終わってすぐ、ラーチャオさんとカズハさんが僕の側に。
「ティム、今回はありがとう。テイマーの強さ、私達も見させてもらったよ。」
「色々世話になったっしょ!俺、皆と旅が出来て楽しかったし!」
「僕もです!ありがとうございます!」
「んじゃ、ここで。」
「そうだな、これで……。」
「はい。」
僕達は息を思いっ切り吸って……同じタイミングで声を出したんだ!
「「「依頼終了!お疲れ様でした!」」」




