閑話 その頃の実家/騎士団長の思惑
次回本編へ戻る予定になります。よろしくお願いします。
「せいっ、はあっ!」
「いいぞ!その調子だ!」
ここはある人物の自宅前。そこでは少年と男性が二人で剣を打ち合っていた。少年は自分の剣に魔力を込め、果敢に攻めたてる。
「そこだっ!」
「やるな!だが、まだ甘い!」
「なっ!?」
少年が剣を振り下ろした瞬間、その剣が上に弾き飛ばされる。それを見て呆気にとられた少年が次に見たのは、自分の首元に突きつけられた剣先であった。
「あっ。」
「今日はここまでだな。いやー!持久力が上がってきたな!もう何時間打ち合ったか、忘れてしまったぞ!」
「ありがとうございます!でもまだまだ足りません。俺はもっと強くなって、皆を守れるようになります!」
「その意気だ!でも今日は帰ろう。そろそろ夕飯を作らねばな。」
剣を下ろし、帰る支度をする二人。すると家から一人の執事がこちらに走って来た。
「旦那様!坊ちゃま!大変です、至急こちらに来て下さい!」
「ど、どうしたんですそんなに慌てて!?」
「坊ちゃま!急いで下さいませ!」
「行こう!何事か確認しなければな!」
「は、はい!」
三人は家に向かって大急ぎで帰って行った。
そして到着。執事が走る先にはメイドや料理人、護衛の騎士……ここで働く人達が集まっていた。
「ど、どうしたのだ皆!?」
「旦那様!これをご覧下さい!」
「これ?」
男性が受け取ったのは平らな機械……魔導パソコン。皆が見ていたのは配信された映像だった。
「ほう。そうか、皆休憩中だったな。という事は何かな?旨い料理の作り方でもあったのか?」
「いえ!と、とにかく早く!」
「ハハ、あまり急かさないでくれ!」
パソコンを操作し、皆が見ていた配信を確認する。すると……
◇◇◇
「ぴゅわー!」
「ピギャァァァァァァァァァ!!????」
「今だ!合わせて!」
「びー!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「びー!びー!」
「突っ込めーーーー!」
「とりゃぁぁぁぁぁぁ![魔技] ヴェノムスパイラル!」
「ピギャァァァァァァァァァ!!!!」
◇◇◇
映し出されたのは、異形の魔物と戦う少年テイマー、ティムの映像だった。それを見た男性は……
「うおおおおお!やったぞー!凄いじゃないかティム!」
「父上!?兄上に何かありましたか!?」
「これを見てみるんだ。ソード、お前も驚くぞ!」
配信にかじりつく二人。この二人はティムの家族である。父親であり剣聖でもあるガイアと、ティムの弟で剣聖のスキルを持つ少年、ソード。
二人は配信を最初からチェック。ティムの動きを目で追いかけ、興奮しながらパソコンに話しかけている。
「いいぞ!そこだティム!お前の力は凄いんだぞ!」
「沢山の魔物と、知らない魔物も居ます!それを上手く対処するなんて……流石です兄上!」
「おお、これは以前の配信で見たぞ!魔技という技だな……うん?レルさんはどうしたのだ?あの魔物は?」
配信の中にレルが居ない事に気づき、首を傾けるガイア。ソードは魔物を指差し、ガイアに話をしている。
「今回はお休みかもしれませんね。ここに居るのはポイズンビーですか。びーさん……きっと兄上の新しい友達ですよ!」
「そのようだな。ティム、お前はどんどん強くなるな!ソードももっと強くなるんだ。お前ならティムを超えられるぞ!」
「はい、任せて下さい!皆を守る、その為に俺は強くなります!」
「私も協力するぞ!まあ、それはそれとして今は休憩だ!皆もくつろいでくれ、今軽食を用意しよう!」
「父上、俺も手伝います!」
調理場に立つ二人。自分の家族が活躍する様子を胸に刻み、修行と休憩に力を入れるのだった。
「兄上……俺は必ず兄上を超えてみせます!待っていて下さい!」
「旦那様!お手紙が届いています!」
「手紙か。分かった、これが終わったらすぐに行こう!誰からの手紙か……楽しみだな!」
◇◇◇
「クソッ、しくじっただと!?……分かった。持ち場に戻れ、いいな?」
場所が変わって、ここはグランド王国。騎士達の特訓が終わり、一人の女性が騎士団長の部屋で激昂していた。
「ロストガルーダの卵を回収する手筈が……全て台無しになった、という事か……。」
緑色の髪を揺らして頭を抱えるのは、グランド王国の騎士団長、ジャンヌである。彼女がテイマーのティムを捕らえるべく作戦を実行し……そして彼が地竜の国、アースラを出発した頃、部下から連絡が入ったのだった。
「連絡がかなり遅れたが……これはティムの仕業か!」
彼女は魔導パソコンを立ち上げ、ある配信を確認する。そこには三人の冒険者が映っていた。
◇◇◇
「皆の者、良く来てくれた!今日は街のピンチを救ってくれたこの方達に感謝を伝える為にパーティーを開く事になった!皆も思いっ切り楽しんでくれ!」
「「「「おおーーー!!」」」」
「今回、この街はトロールの襲撃によって脅威に晒された……しかし、それには王国から依頼された人さらい達が関わっていたのだ。」
「ひ、人さらいが!?」
「人さらい達はトロールの襲撃の後、街を襲撃してきた。おそらく街を支配して、武器の生産を一手に握るつもりだったのだろう。しかし、その陰謀をこの四人が解決してくれたんだ!」
「今回の冒険者達、そのリーダーのロットン!配信者のミー!テイマーのティムとパートナーのレル!そして……戦士のラルフとパートナーのタルトだ!」
「お、俺が一番目立ってる!?活躍したのは他の皆だろ!?」
「では、街の平和と彼らの今後の活躍を祈って……乾杯!」
「「「「「「乾杯ー!!」」」」」」
◇◇◇
映し出されたのはカーノンの街。リーダーに紹介される形でパーティーに参加していたのは……戦士のラルフ、有名配信者のミー。そして、テイマーのティム。
「気づくのが遅かったか……ここで言う王国からの刺客は、フォージャーの事に違いない。奴に街を制圧してもらい、武器を一手に握る……計画が台無しになったか。」
一人ワインをグラスに注ぎ、口をつける。
「まあいい。私達にはティムを手に入れる秘策がある。奴が献上する数々の手柄、それに比べればどうという事もない。」
そして机の上に置いたアクセサリーを見る。それは小さい腕輪の様な、真ん中が空洞になった円型のアクセサリーだった。
「慌てるな……ティムがこちらに戻って来たら責任を取らせてやる。今は我慢の時だ……。」
ワインを飲みながら笑うジャンヌの声は、部屋のドアに遮られ、外には聞こえなかった。




