タンク、少女を捕まえる
「その……助けて頂きありがとうございます!」
「気にしないでいい、困った時はお互い様さ。」
女の子はカズハさんにペコリとお辞儀をして、馬車の外に出てきた。サラサラの緑髪が揺れ、耳にはドラゴンのアクセサリーを着けてる。
「お嬢ちゃん、かわいいねー!名前はなんて言うの?」
「すみません、その前に!」
「ん?どーしたの?」
「この子を!」
ラーチャオさんが名前を聞くと女の子が立ち上がり、手をそっと出す。そこで見せてくれたのは……
「がおー!」
緑色のちっちゃいドラゴンだ。まだ赤ちゃん……ドラゴン!?
「この子、怪我してない!?見て欲しいんです!」
「は、はい!僕が診ます!」
僕はドラゴンを手に乗せ、体を撫でながら異常を探す。馬車が激しく揺れたからか、体のあちこちにすり傷がついてるけど……さすがドラゴン、特に問題無さそうだ!
「怪我は軽いから大丈夫ですよ!でも、一度ちゃんとした所で診てもらった方が確実です。」
僕は回復魔法をかけながら女の子に説明した。女の子は嬉しそう!
「あ、ありがとう!よかった、よかったね!」
「がおー!」
「がおー!」
「よしよしいい子でちゅねー。お兄ちゃんが撫でてあげるし!」
「ぐあー!」
休憩を挟んで落ち着いた僕達。そこでカズハさんが口を開き、女の子に質問した。
「さて、少し話を聞かせてくれないかな?君はどうしてこの場所に?」
「はい。私はちょっと調べ物があって、ここを走ってたんです。」
「調べ物?それは一体何だい?」
「はい。この辺り……あ、この辺りはアースラっていう国の土地なんですけど、そこからの指令で見回りを行っているんです。」
「ほう。つまり君は国の人間……相当な立場なのかな?」
「え、ええ。」
この子はアースラに所属している人なんだ。…………待って、国から仕事を受けたんだよね?
「あの……それではお付きの人達は?」
「はい。アースラ所属の冒険者さんですよ?」
「……どういう事?」
「なら何故自分達だけで逃げたんだ……?いや、だが都合がいい!私達は」
「おっ、マジか!お嬢ちゃん凄い所にいるんだな!」
カズハさんの言葉にラーチャオさんが割り込む。ラーチャオさん、肩にドラゴンを乗せてこっちに来た!すっかり仲良しだね!
「って事は!お嬢ちゃんはいい家柄の子って事だな!つまりここから新たな出会いに……俺はたくさん女の子と知り合って、ここからハーレムっしょ!」
何言ってるんだろうこの人。
「貴様、真面目にやれ!ふざけてるのか!?こんな状態で何を言い出すかと思えば……。」
「なーんて。おとぎ話じゃあるまいし。俺は真剣だぜ?」
ラーチャオさん?急に真面目な顔つきになった?
「よくあるっしょ?名家のお嬢様を助けて、そこから有力者と繋がって、たちまち女子にモテモテ!憧れるよなぁ。」
「いい加減にしろ!貴様という奴は」
「話は最後まで聞けし!こーんな所に、良い所のお嬢様が来るなんて普通おかしくね?つまり……。」
「な、何だ?」
ラーチャオさん……怖い。ふざけた物言いだけど……顔は全然笑ってない。すごく真剣な表情だ。
「そんな偉い人が出でくるって事は!それだけの異常事態が起きている、或いは……[たまたま]魔物に襲われて死んでくれた方がありがたい、もーっと偉い奴が居るって事っしょ?護衛が逃げたなら怪しさ満点だし?」
「何!?」
「俺、物語読んでて気になるのよね。何で主役の子は何も疑わずにただ女の子を助けるのか。普通その辺の事情、考えない?もっと言えば……バインド!」
「きゃっ!?」
ラーチャオさん……何それ!拘束用の魔法!?光の輪っかが現れて、女の子に巻き付いた!
「ターゲットに探りを入れるスパイの可能性もあるってーわけ。簡単に助けるのはおかしいんだよな。」
ガタン!
何だろう?後ろの馬車が揺れたみたい。サキさん大丈夫かな?
「お、お前!いくら何でもそこまでは……。」
「カズハっち、自分で言ったじゃん。真面目にやれって!俺はタンクだし?怪しいものは押さえとくべしっしょ?」
「た、確かに言ったが、これは極端過ぎるだろう!?」
「女の子でも手は抜くなし。俺はカズハっち達の方が大切なのよ。」
カズハさん、ラーチャオさんにびっくりしてる……僕だってそうだ。チャラチャラした人だと思ってたけど……冷静に事態を見てるんだ。
「ま、待って!この辺りで怪しい気配があるの!本当だよ!?だから、せめてそれだけはやらせて!そうしたら何でも言う事聞くから!」
「き、君が言っていた見回りの事か。では、ここには何か異常があると見ていいんだな。」
カズハさんは頭をひねっている。少し落ち着いたからか、ラーチャオさんの言い分も含めて考えてるんだ。
「僕はこのまま調査するべきだと思います。実際にここまで来てるんですし、国の偉い人が出てくるなら大事ですよ!」
「私も賛成だ。だが……ラーチャオの言う事にも一理ある。いきなり信用するのは難しいな。そこでだ。」
カズハさんは女の子の前にしゃがみこんだ。
「君の言う場所まで案内してくれ。そしてそれが事実なら拘束を外す、そうすれば対処出来るだろう。……ラーチャオ、これでいいか?」
カズハさんの質問に、ラーチャオさんは……ニコッとしながら答えてくれた。
「二人がいいなら俺はいいし!ま、俺も少々無茶な言い分だったのは認めるし、こんなかわいい子が悪い奴な訳ないっしょ!……ごめんね。」
「よかった……あっちです!あそこから何か怪しい気配が出てるの!お願い、連れてって!」
女の子は遠くを指差す。……アースラからは遠ざかりそうだなあ。
「うし!じゃあ俺が馬車に連れてってやるよ!拘束したお詫びだし!」
「うわっ!」
女の子を体の前に抱えて、ラーチャオさんは僕達の馬車に走る。僕とカズハさんもそれを追った。
「皆座ったな、では……出発だ!はいっ!」
「ヒヒーン。」
馬に鞭を入れて、馬車は走り出す。予定とは違うけど、やっぱり放っておけないよね。
「頑張ろうね、びー君!」
「びー!」
「俺も頑張るから、応援ヨロシクー!」
「がおー!」
「はあ……はあ……。」
「さ、サキさん?どうしたんです?」
「い!いえ!な、何でも……ありません……。」
サキさん!体が凄い震えてるよ!
「大丈夫ですか?」
「すみません……何か怖くなってきてしまって……。」
「僕達が力を合わせればきっと大丈夫です!だから、一緒に頑張りましょう!」
「は、はい。」
僕はサキさんの手を握って、馬車に揺られていた。




