少年テイマー、依頼を引き受ける?
「さあ!こちらです!入って下さい!」
僕とロットンさんはもう一度街に来た。受付さんに案内されて、役場の建物に入る。
「僕は強いんだ。僕は頑張ってきたんだ!すごいんだ!」
「そうそう!ティム君、自信を持てよ!」
小さく声に出しながら自分を鼓舞して、受付のカウンターへ。そこには大きな男の人が立っていた!
「マスター!ティムさんをお連れしました!」
「来たか!奥へ通すように!私もすぐ行こう。」
「は、はい!ではこちらへ!」
僕達は奥に案内されて、ある部屋に辿り着く。ここは執務室かな。机の上にたくさん書類が乗っているよ!
それから少し待っていると、ここのリーダーさんがやって来た。…………この人、やっぱり怖い。最初の印象が強すぎたんだ。でも、まずは話を聞かなきゃ。
「お待たせして申し訳ない。色々と忙しくてな。」
何だか酷く汗をかいている。それに顔色も酷い。何かあったんだ、どんな依頼が……。
「は、はい。」
「それで貴方は?私はティムを連れてくるよう言ったのだが。」
「いえ、私も役場の職員でしてね。そこのお嬢さんにも言ったのですが、彼が酷い目に会わないよう付き添っているのですよ。」
「そうなのか?」
マスターさんは受付さんの方を振り向くと、受付さんは首を縦に振った。
「まあいい。それで、君に頼みたいのはこの依頼なんだ。」
マスターさんは依頼書を机に置く。そこにはアイテムの採集依頼が貼ってあった。
緊急クエスト(Bランク)
ヨツバソウの採集、並びに周辺地域の調査
「……ヨツバソウ!」
「幸運のお守りになる植物だな。四つの葉がきれいに並んだ植物だ。かなり高価な薬の原料にもなる、中々お目にかかれない素材だぞ。」
「ティム、君にはこれの採集をお願いしたいんだ。引き受けてくれるね?」
「えっ?」
受ける事前提で話が進んでる!?
「待って下さい!僕はただ話を聞きに来たんです。どんな依頼なんだろうって……。」
「そう言わずに頼む!……そう、これは君に任せるつもりでとっておいたクエストなんだ!前来た時は無かったから、急遽用意したんだ。受けてくれるね!?」
「で、でもこれは」
「はいストップ!」
ロットンさんが僕とマスターさんの前に手を突き出す。
「何だ君は!礼儀がなっていないぞ!私はティムと話をしているんだ!」
「礼儀ね……ならこのクエスト、ランクはBランクだ。受けるなら最低Cランクは欲しいもんだが。」
ロットンさんは咳払いをして、マスターさんの方を睨む。
「一応ルールを確認しておきますか。ティム君も復習しとけよ!」
「はい!」
「冒険者や配信者に出す依頼……業界用語では[クエスト]だな。どっちでもいいが、これは基本的に一個上のランクまで受けられるんだ。
勝手に高ランクに行かれて死なれちゃ、人材の喪失になるし名声も落ちる。そこの管理はしっかりしておかねぇとな。」
「冒険者のランクは基本的に、強さや実績が大前提。その上で緊急クエストっていう特別な依頼をクリアしてランクが上がるんだ。……後はそれぞれの方針によって条件は変わるな、俺の役場なら人柄も求められるか。」
マスターさんはうんざりとした表情で話を聞いていた。
「何を今更……そんな事分かってないとでも?」
「じゃあこの依頼のランクは?」
「Bランクだ!馬鹿にしているのか!?」
「なら、彼は受けられませんね。」
ロットンさんの言葉に、マスターさんと受付さんはポカンと口を開けていた。
「な、何故だ!?彼は勇者パーティーのメンバー、Aランクなのは分かっているぞ!」
「彼はここで冒険者証を更新したでしょう?」
「ああ!ちゃんと更新してやったさ!彼は私達に恩がある!」
「………呆れたぜ。ティム君、冒険者証を。」
「?」
僕は疑問に思いながら冒険者証をロットンさんに渡す。彼はそれを見てから、机にバンと叩きつけた。
「ここを見て下さい。」
「何だと?ここ…………」
「あっ!」
僕の冒険者証、ランクの部分が……黒く塗りつぶされてる!?
「あ、ああ……。」
「彼は今ランクが無いのです。そんな新人君にBランクの依頼なんか受けさせたら、貴方の首が飛びますよ?」
「いや、これは……。」
「何か理由があるのですかな?[Aランクレベル冒険者のランクを塗りつぶした]ちゃんとした理由が。」
「し、しかし!」
頭を抱えるマスターさん。彼を見下ろしロットンさんは僕の手を引いて歩き出す。
「残念でしたな。他の方を当たって下さい。では……行こうティム君。」
「た、頼む!待ってくれ!私が悪かった!ランクは修正するから、依頼を受けてくれ!」
「ロットンさん……。」
「あんまり謙遜しちゃ駄目だぞ?あーいう奴らにはドカンと言ってやりゃいいのさ!
それに君は間違い無く強い。……さっきのは大げさだが、実際Bランク以上は確実だろう。何なら俺の役場で手続きするか?」
「そうですね……。」
僕はちょっと迷っていた。冒険者証の事は酷いと思ったし、ちゃんと確認するべきだった。でもマスターさん、すごく必死だったし……。
「頼む!頼むよ!この依頼を受けてくれ!お願いだ!」
マスターさん!?追いついてきたんだ!
「嫌です。だいたいそっちもテイマーは嫌でしょう?他の方に頼めばいいのでは?実際、冒険者証に細工してたのですから。」
ロットンさんがマスターさんを遮り、冷たく対応した。
「それは謝る!私が全部悪かったんだ!頼む、このクエストを受けてくれ……。」
ポロポロと涙をこぼし、その場にうずくまるマスターさん。やっぱり受けた方がいいのかな……。
「これは私が依頼したんだ!頼む、私の息子を助けてくれ!」
「……ティム君?」
僕の足は止まっていた。
「ロットンさん、僕はやっぱり……。」
「……そうか。ったくしょうがねぇな!」
ロットンさんと僕は二人でもう一度、マスターさんの方を向いた。
「もう一度お話を聞きたいです。その依頼、引き受けます!」




