少年テイマー、女性の身の上話を聞く
「ふう。ごちそうさまでした。」
「全部飲んじゃいましたね。体の方はどうですか?」
「はい。もう大丈夫です!」
女性は樽いっぱいのミルクを飲み干し、ベッドにちょこんと座っている。だいぶ落ち着いたみたいだし、そろそろいいかな?
「すみません!貴方はどうしてあんな怪我をしてたんですか?やっぱり魔物に襲われたんでしょうか?」
「は、はい。よく分からなかったんですが、後ろから斬られてしまって。」
「なるほど……。でも、どうしてあの山の中に?服を見た時、きれいな物だったので気になってしまって。」
「………。」
女性は口を閉じてしまった。聞いちゃいけない事だったかもしれない。
「す、すみません。言いづらいですよね。」
「あっ……い、いえ!お話しします。私、実は……。」
腕をさすった後、慌てたように話し出した女性。いったい何があったんだろう?
「私、実は逃げてきたんです。」
「ほう、逃げてきた?いったいどこから?」
マイラさんも一緒に話を聞く。いきなり気になる言葉が出てきたよ……。
「はい、私は元々グランド王国に住んでいたのです。」
「グランド王国に!?」
「ティム、落ち着いて下さい。」
「ご、ごめんなさい。」
僕が聞きたいって言ったのに、話を止めたら駄目だよね。気をつけます……。
「私は小さい頃に両親を亡くしました。それで途方に暮れていた所を、人間の男に拾われたのです。」
「ふむ。」
「私は初め、その男に感謝していたのです。身寄りのない私を引き取ってくれた。私はその方をご主人様として、屋敷でお仕えしていたのです。」
「その人、いい人だったんですね。やっぱり魔物と共存できる人もいるんですよ!」
「ですが……私は……。」
「私は?何があったのですか?」
「……うう。ああ……!」
女性は急に泣き出しちゃった!?
「ある日私は男の寝室に呼ばれました。ご主人様の用事、私は何事かと思い、すぐに向かったのです。」
「は、はい。」
「そこで待っていたのは、他の使用人を含めた大勢の男達でした。そしてご主人様は私に、皆の前で自分の隣に座るよう求めたのです。」
「ま、まさか……考え過ぎ、ですよね。」
「そ、そうでしょう。しかしサキュバスの言い伝えの通りなら、もしかしたら……おそらく貴方も。」
女性はタオルで顔を拭きながら、話を続ける。
「はい。……私は初めから道具としか思われていなかった。私はそれを拒否しました。いくらご主人様でも、それは出来なかったのです……。」
「酷い事を……それで貴方は。」
「そしてその日の夜、私はクビを宣告されました。そしてこうも言われたのです……[人の姿をしていてもやはり魔物、オモチャにもなれない出来損ない。]と。」
「…………。」
僕は拳をギュッと握っていた。そんな酷い事があるなんて……。
「私はすぐに荷物をまとめて家を出ました。そして走って走って、気づいたら森の中に居たのです。ようやく落ち着けると思ったら、後ろから斬られてしまって……。」
「「…………。」」
僕とマイラさんは黙ったままだった。言葉が見つからなかったんだ……。
「それで、今は助けて頂いてここに居ます。本当に、本当にありがとうございます!」
「そんな事情があったとは知らず、深く聞いてしまいましたね……。すみません。」
「……。」
今、この人は行き先がどこにも無い。追放された時の僕と一緒だ。何とか、何か出来ないかな……?
「そうだ!」
「ティム?どうしました?」
「いえ、それならしばらくここに居てもらったらどうでしょうか?傷は治りましたし、落ち着ける拠点としてここを使ってもらえば!」
「ふむ。ではリースの許可をもらいますか。しばらく待っていて下さい。」
「その必要はありません!」
「……リース、それに二人も。」
マイラさんが外に出ると、そこにはリースさんにラルフさん、ミーさんの三人が居た。扉に耳をつけて、話を聞いていたんだ。
「もしここで良ければ、空いたお家があるのでそこを使って下さい!今後の事はゆっくりと考えましょう!」
「そうだぜ!まあ、俺達が何を出来るって訳じゃないけど、ひとまず家があった方がいいよ!」
「そーそー!困ったらティムに相談して!そしたらミー達も話を聞いてあげられるよ!」
「皆さん……。」
女性は笑顔をこちらに向け、ペコリとお辞儀をした。
「しばらくの間、ここでお世話になります。よろしくお願いします!」
「はい!こちらこそよろしくお願いします!」
リースさんが女性の手を取り、ギュッと握った。それを見た女性も嬉しそうだ!
「それではご飯をお持ちしますね!しばらく待ってて下さい!」
「は、はい!お願いします。」
リースさんが外に出ていく。これで一安心だ、僕もまた休憩しよう!
「ラルフさん!ミーさん!一緒にジュース飲みましょう!」
「いいね!先生こっちだ!」
「ティムの分もちゃんとあるよ!いそげー!」
◇◇◇
「ところで一つ気になったのですが……。」
「はい、何でしょうか?えっと、マイラさん?」
「ええ。その腕輪、綺麗ですね。」
「あ、ありがとうございます。こ、これは親からもらった形見なんです。肌身離さずつけておくよう言われた、お守りなんです。」
「そうですか。しかし……。」
「あ、あの……?」
「いえ。利用されていたとはいえ、お屋敷勤めなのでしょう?その腕輪、仕事の邪魔にはなりませんでしたか?」
「っ!いえ、特には……。り、理解のあるご主人様でしたので……と、当時は。」
「そうでしたか。変な質問をして申し訳ありません。では、失礼しますね。ゆっくりと休んで下さい。」
「は、はい。」
パタン。
「う、うまく入りこめたけど……ここからどうしよう……?」




