サキュバスと出会った日
僕達は一度、椅子に座って休憩する事にしたんだ。皆でジュースを飲みながら、カーノンの街であったことを話してるよ!
「それでねー!ミーはここでドカーンって敵を投げ飛ばしたの!そしたらみんな驚いてたんだよ!」
「すごいです!見てみたいです!」
「いいよ!ラルフで試してみよう!」
「駄目に決まってんだろ!?」
「わん!わん!」
「かめー。」
僕は楽しそうに話す皆を見ながらレルを撫でる。忙しくてあんまり出来なかったから、今はたくさんもふもふしたいなー。
「わふー。」
「もふもふー!」
「さて……どうするかな。」
「ロットンさん?」
「どうしたロットン?」
ロットンさんは腕を組んで椅子に座ってる。考え事があるみたい。
「いやな、この書類と映像を送らねぇと審査できねぇからな。早めに行きたいんだが……。」
「なら俺が行くよ!お前はここに居たらどうだ?」
「さっきも言ったがお前は少し休め。それと……お前が行ったら駄目だぞ、試験官がやらないとな。」
「俺はすぐじゃなくても良いよ。お前もここに残れば?」
「そうだな……。」
ロットンさんはそう言ってミルクをグイッと飲む。そのタイミングでマイラさんが部屋から出てきた。
「ティム、少し来てくれませんか?」
「マイラさん?どうしましたか?」
「いえ……少し困りましてね。こちらで見て頂きたいのです。」
「はい、今行きます!」
何だろう?僕はジュースの入ったコップを置いて、マイラさんの部屋に入った。
「失礼しま、わっ!?」
「来ましたか、ティム。」
「ど、どうして彼女は裸なんですか!?」
「服が汚れていたので、後で洗おうと思って脱いでもらいました。見て下さい、傷は完全に治りましたよ。」
僕の目の前には、ズボンを履いて背中を向ける女性が眠っていた。た、確かに傷は無い。傷跡も無い!さすがマイラさんだ!でも彼女の背中には……
「黒い、羽?」
「ええ。この人は普通の人間では無いようですね。」
背中に二本、羽が畳んである。怪我を治した時は服を着てたから気づかなかった……。
「しかし、見た感じは間違い無く人間です。呼んだ理由はこれです。ティム、どう見ますか?」
「そうですね……思い当たる種族はあります。でも……。」
「でも?何です?」
僕は顔をふさいだ。だって……
「早く確認しますよ?それによって今後の対応も変わってくるでしょう?」
「そうなんですけど……。」
それで、後ろを向いてからその理由を言ったんだ。
「その人……おしりに尻尾はありましたか?」
「はい。黒い尻尾がありましたね。」
「だったら……。」
よかった、それが分かれば方法はある!この人は!
「この人はおそらく……サキュバスです。」
「サキュバス?あのサキュバスですか?」
サキュバス……気に入った生き物を巣に連れ帰って捕食する……って言われている魔物。目撃例の少ない珍しい魔物だ。
「サキュバス……こんな話がありますね。サキュバスと他の生き物の間に生まれた子は、優れた才能を持つという話があります。それを目当てに各地の有力者が乱獲して、数を一気に減らしてしまったと……。」
「はい。でも、そのサキュバスがどうしてここに?」
「考えている余裕はありません。傷は塞ぎましたが、早く精のつくものを用意しなければ。」
「分かりました!」
「ではティム、早く用意しましょう!」
「はい!すぐに準備します!」
僕はカバンを降ろして、装備を脱ぎ始めた。
「短剣と荷物はここに置いておきます!」
「分かりました。行ってらっしゃい。」
僕は駆け足で皆の所へ!
「ティム先生?」
「ちょっと街までミルクを買いに行ってきます!」
「ん?なんでミルクなの?」
「あの人はサキュバスだったんです!」
「「サキュバス!?」」
ラルフさんとミーさんは驚いて椅子から落ちちゃった。
「先生!?サキュバスって、あのサキュバスか!?」
「嘘!全然気づかなかった!」
「サキュバスの好きな物はミルクなんです。魔力回復の効率がいいのか、種族全体での好物みたいです。」
「マジか……。」
僕はレルに乗って、街へ向かう!この村の近くにあった街ならミルクも売っているはず!冒険者証を更新したあの街なら!
◇◇◇
[悪いが君に出すクエストは無い。君は勇者パーティーを追放されたんだ。そんな汚いテイマーの面倒を見るほどウチには余裕は無い。帰りたまえ。]
[えっ!?あの]
[聞こえなかったか!さっさと消えろ!]
[ま、待って下さい!]
[しつこい奴だ!あまり付き纏うと力ずくで追い出すぞ!]
◇◇◇
あの街……なら…………。
「どうしたティム君!震えてるぞ!」
「あ、あの。」
思い出しちゃった……冒険者証の更新の時、すごく怒られたんだ。あの街じゃ、もしかして売ってもらえないかも……。
「僕、あそこには……。」
僕はロットンさんに事情を説明したんだ……。
「嘘だろ!?役場の職員がそんな事言ったのか!?言うにしても言い方ってもんがあるだろ……。」
「ど、どうしよう……。」
「他の奴らが行くでもいいが、ミーとラルフだと……追い返されるだろう。ティム君と知り合いなのは配信を見てれば分かるからな。でも、ティム君の今後の活動の為には……。」
「僕は……」
不安になった僕、その肩にロットンさんは手を置いた。
「乗りかかった船だ。帰る前にもうひと仕事してくかな!俺が着いていこう!」
「ろ、ロットンさん!」
「いやー!デキる職員は辛いねぇ!ま、任せときな!」
ロットンさん……かっこいいなぁ。僕も頑張らないと……!
「僕はずっと頑張って来たんだ。大丈夫……大丈夫だ!」
「その意気だぜ!んじゃ、行こうか!」
「はい!お願い、レル!」
「わん!」
僕はレルの背中に乗って、ロットンさんと一緒に街に向かう。
僕は強いんだ!絶対にミルクを手に入れてみせるぞ!




