少女テイマー、迎撃と決意
今回で一度サリアの話は終わり、次回からは本編の予定になります。
よろしくお願いします。
「皆、準備は良いっすか?」
「うん!」
「うけー。」
「我も大丈夫だ、いつでも戻れるぞ!」
皆は山側の入り口に集まり迎撃態勢に入ってるっすね。ギルもこっち側で待機してるけど、街へ戻れるようにあーし達より内側に居るっす。
「リッチ、そっちは平気っすか?」
「今の所問題は無いのう。引き続き山の方を見てくれー。」
「分かったっす!」
いつ来るか分からない以上、今はここで待つしかない。どう来るか……ちゃんと見張っておかないとっすね。
そして夜、月の明かりが街を照らしている。……そろそろっすかね。
「気を引き締めるんだ。ここからは何が起こるか分からんからな。」
「分かってるっすよ。ね、アオハ、シロメ!」
「もちろん!大船に乗った気分でいてよ!」
「うけー。」
「お前達!来た……来たぞー!」
リッチの声が空に響く!さあ、どんな奴が来たっすかね!
「我はここに居る!向こうは任せておけ!」
「ええ!じゃあギル、行ってくるっす!」
あーしは鎌を持って外に走る!どんどん行くっすよ!
「ヒュー……ヒュー……。」
「やっぱり……シャドウプランク!」
「ヒュー!」
あーしの目の前には、猛スピードでこちらに迫るシャドウプランクが二体。爪でこちらを引っかいてきたっす!
「このっ!」
「ヒュー!?」
鎌でガードしすかさず斬りつけると、風に揺られて飛んでいった。
「行かせないっすよ!」
「ヒュー!?」
抜けたもう一体の下へダッシュ、胴体に蹴りを入れると、やっぱり空中へ飛んでいってしまった。
「アオハ!そっちはどうっすか!?」
「へへーん!こんなの楽勝だよ!」
そう言うアオハの前には、シャドウプランクが四体居る。大丈夫っすか!
「それー!ライトアロー!」
アオハの指先に光が集まり、そこから一本の矢が放たれる。シャドウプランクに命中したそれは、眩しく光を放って敵を貫いた!
「それそれそれー!」
指から矢を生み出し、次々と撃ち抜くアオハ。……強いっすね。魔力の扱いに相当慣れてるっす。腕が立つっていうのは嘘じゃ無かったって事っすね。
「うけー!」
「ヒュー!?」
シロメもくちばしを光らせ、シャドウプランクを追いかけ回しているっす。つついた場所が光り、それが爆発する。ダメージは無さそうだけど……吹っ飛ばされた敵はそのまま気絶してるっすね。
「何か、思ったより簡単に終わりそうっすね。アオハ達もそう思いませんか?」
「うん、そうだよね。何か簡単過ぎるっていうのかな。街は大丈夫そうだね。」
シャドウプランクはいたずらをする魔物。そこまで悪い魔物じゃ無いし、あまり強くない。本当に犯人なのか……。
「サリア、そっちにもたくさん来たよ!」
「……任せてっす!ここは通さないっすよ!」
とにかく今は追い払う事を優先にするっす!どんどんやっつけてやるっす!
「「ヒュー!ヒュー!?」」
「あっ逃げた!サリア、どうする?」
「追わなくていいっす!これで奴らも反省したはずっすから。」
あれから何体も襲って来たけど、結果はこの通り。簡単にやっつけられたっす。
「リッチ!こっちは終わったっすよ!」
「お、終わったのか?もう?」
「えっ?」
「いや、敵は皆倒したのかの?」
「ええ。全員山に逃げ帰って行ったっすよ。」
ありゃ、何か凄く不安そうな顔をしてる。気になる事があるみたいっすね。
「と、とにかく追い払ったのならそれで良かった!今から結界を張るから見張りを続けてくれ!」
「今から?もう追い払ったのに?」
「いいからいいから!もうしばらく頼むぞ!」
「……ええ。」
あーしはリッチの対応が気になってしまった。そんなあーしの横では……。
「ごくろうさま!はい、あーん!」
「うけー!」
アオハがシロメにジャーキーを渡していた。
◇◇◇
「そ、それでは悪い魔物はやっつけてくれたのですか!」
「ええ!コテンパンにしたからもう来ないはずっす!」
「我の出番は無かったか。まあそれも良い。お前達だけで出来たならそれが一番だ。」
「おお!これで私達もようやく安心して眠れます……。ありがとうございます!」
依頼者さん、とっても嬉しそうっす!ここまで来たかいがあったっす!
「うーん……。」
「どうした?何を唸っている?」
「いや……おかしい……。」
「そんな暗い顔をするな。貴様のお陰で襲撃を予測できたのだ。助かったぞ!」
「ち、違うのじゃ……。」
リッチ?何で震えてるっすか?
「ワシの言っていた影は……シャドウプランクでは無かったのか……!」
「えっ?」
「何だと?」
皆一瞬で凍りつく。リッチから出た言葉に、ここに居る全員が驚愕していた。
「ど、どういう事っす?」
「まだ……まだ山にはドス黒い魔力が残っておる……!」
「何だと?」
「奴らはその魔力に集まっただけに過ぎん……本命は他におるのじゃ!」
「はあ!?」
それじゃあ、あーし達がやっつけたシャドウプランクとは別に……まだ敵が居るって事ですか?
「なら、もう一度山に行かないと!」
「サリア、それは辞めておけ。」
「ギル?何で止めるっすか!」
「下手に刺激をして動き出したら、非常にまずい事になるからな。」
ギルは落ち着いた口調で、皆に話しかけた。
「リッチ、その魔力に何か動きはあるか?」
「い、いや全く変化無しじゃ。」
「そうか。すぐ終わると思っていたが……これは長丁場になりそうだな。」
「どういう事っすか?」
ギルはあーし達を見て、話を続ける。
「我らはここに留まったほうが良い。黒い魔力が何なのかは知らんが、少し調べるべきだろう。得体の知れない物だ、下手をしたらこの地域だけで留まらないかも知れない。」
「そこまで重大な事態って訳っすか……。分かったっす、ここに残りましょう。」
「えっ、そうなの?」
「うけー?」
不思議そうにこっちを見るアオハとシロメ。二人にとっては、ここでクエスト終了のつもりだったんですよね。
「どうします?二人はここで帰っても大丈夫っすよ?」
「ど、どうするシロメ?」
「う、うけ?」
二人で相談してるっすね。
「……うん!よし!」
「うけー。」
「サリア!僕達もここに残るよ!もし戦いになるなら、人数が多い方がいいでしょ!」
「うけー!」
「決まりだな。物資は我が調達してくるから、少し待っていてくれ。ついでにカインに報告を済ませてくるか。……依頼者達はまだ教会に居た方がいい。外には出られんだろうからな。」
「は、はい。分かりました。」
ギルがこの場を立って外に出る。これは予想以上にでっかいクエストになりそうっす……。
そして荷物から、ストーレの街への転移用結晶を出す。
「これを使うのはティムと一緒に行った時以来か。行き専用だから、帰りは足で来るしか無いな。サリア、しばらく頼むぞ!」
「大丈夫っす!あーしは強いテイマーっすから、そうでしょ、ギル!」
「その通りだ!我らなら出来る!では、行ってくるぞ!」
ギルは街の外に出て行く。……本当に予想外の事態っす。でも……あーし達なら大丈夫っす!……ティムもきっと頑張ってる、あーし達だって頑張らないと!
「さーて……張り切って行くっすよー!」
あーしは外に出て思いっ切り空気を吸う。そこに広がる空は、まるで何も不安が無いかのように晴れ渡っていた。




