閑話 テイマー捕獲作戦
ここはグランド王国。王国擁する勇者パーティーのリーダー、シャーユは、いつもの料理店で一人で座っていた。
「ど……どうしてこんな事になったんだ……。何で、どうして……。」
一人でぶつぶつと呟いていると、そこに一人の女性が現れる。それは緑髪の女性……騎士団長ジャンヌである。
「勇者様!しっかりして下さい!貴方は世界最強の勇者であり、魔王を討ち滅ぼすお方なのです!私がお傍に居ます、だから安心して下さい!」
「ジャンヌ……。」
二人は王にティムの捕獲を命じられ、現在はここで休憩を取っている。ジャンヌは考えがあると言っていたが、シャーユには見当もつかなかった。
「では、行きましょうか。」
「あ、ああ!」
二人は料理店から出ると、騎士団の拠点に足を運ぶ。ここでは多くの騎士達が訓練に励んでいた。
「ジャンヌ様!お戻りになられましたか!」
「ああ。私は少し地下に籠もる。私が出て来るまで誰も入れないようにしろ。いいな?」
「了解しました!」
近くに居た騎士に命令を飛ばし、二人は地下室へ。そこには大量の訓練器具や武器が綺麗に並べられていた。
「ジャンヌ?ここに何の用があるんだ?普通の訓練所じゃないか。」
「いえ、ここはただの訓練所ではありません。見ていて下さい。確かこの辺りに……。」
ジャンヌは壁を手探りで調べだす。すると一箇所、感触の違う所が手に触れた。
「ここだな。……ハアッ!」
「な、何だこの音!?」
掛け声と共に強く壁を押すと、地面から轟音が響く。シャーユが驚いて目を向けると、そこには階段が現れていた。
「この下に私の考えがあるのです。さあ、一緒に!」
「ああ!よろしく頼む!」
二人はまるで恋人のように手を繋ぎ、一緒に階段を降りていった。
地下に広がるのは巨大な空間。そこには多くの魔物が閉じ込められていた。
「ガウウゥ!ガウウゥ!」
「グルルル……。」
「ちっ、ちっ、ちっ!」
「フン……ゴミ共が……。」
「ジャンヌ?ここは一体……。」
「ここでは魔物を捕獲して、騎士団の成長に活用しているのです。訓練用のターゲットにするも良し、ストレス解消のオモチャにするも良し、最悪死んでも何の問題もありませんからね。」
魔物の入っている檻を抜け、ひたすら奥に進む。するとある一つの檻で、ジャンヌは足を止めた。
「ここです。ここに私の作戦があります。」
「ここか?一体どんな魔物が……な、何!?」
「ひっ、な、何よ!?」
二人の目の前に現れたのは、オレンジ色の髪をした魔物。こちらに気づいた彼女は、スラッとした長身に怯えた表情をしている。シャーユはその姿を見て、思わず唾を飲んだ。
「な……何て美しい女だ……!」
「勇者様もそう思いますか。確かに、コレは見た目だけなら絶世の美女でしょう。しかし……見て下さい。コレは魔物なのです。」
ジャンヌは魔物の背中を指差す。シャーユがそこを見ると、黒い羽が背中に生えているのが分かった。
「こ、この女は!」
「そう。私の作戦にはコレを使います。ティムはテイマー、魔物と共に戦うのです。つまり……パートナーには絶対の信頼を置いている。」
「つ、つまり……?」
「はい。コレを奴の所に送り込んで、奴を懐柔するのです。奴とて男、コレに惹かれるのは間違い無いでしょう。」
「そうか!」
シャーユはジャンヌの言おうとしている事が分かり、強くうなずいた。
「奴はパートナーの言う事なら簡単に聞くでしょう。言う事を聞いてこちらに戻って来ればそれで良し、来ないなら……。」
「こ、来ないなら……。」
「命令を出してすぐに始末できる。その為に送り込むのです。」
「なるほど!しかし……。」
シャーユは目の前の魔物を見て、何かつまらなそうな顔をしていた。
「勿体ないな。コレをティムなんかに渡してしまうのか。」
「我らには不要な物です。勇者様の為なら何の問題もありません。」
「そうか……だが、どうやって送り込む?ティムの場所は分かってるのか?」
「配信動画がありましたよね?あそこはカーノンの街に属する村です。ならカーノンに向かわせればいい。……あそこには私が取り引きしている物があるのです。もうすぐ達成されるでしょう。」
得意気に語るジャンヌ。どうやら、カーノンの街で何かを行っている様だった。
「色々大変だな。だが、これでティムを取り戻せる!あのクソテイマーや配信者共には渡さないぞ!」
「しかし、流石にこのままでは駄目です。奴と長く過ごすきっかけを作らねば……。」
そう言うとジャンヌは牢を開け、魔物をじっと見下ろした。
「な……何ですか……?」
「お前にはこれから任務を言い渡す。成功すれば自由の身にしてやろう。」
「ほ、本当ですか!?」
「だが、まずはこれを着けてもらう。」
ジャンヌは魔物に腕輪を取り付ける。
「いいか、お前の任務は…………。」
「は、はい……。」
何分か話していた二人。それが終わり、魔物は牢から外に出される。
「さあ、行け。失敗すれば命は無いと思え。」
「は、はい。」
魔物は外に出て、一歩踏み出す。そのすぐ後ろには、ジャンヌが腰の剣に手を掛けていた。
「だが……流石に無傷で合流すれば、怪しまれるだろうな。」
「えっ?」
ジャンヌは魔物に向けて、自分の剣を振り下ろした。
場所は変わって再び料理店に。シャーユとジャンヌは食事をしながら話し合っていた。
「上手く行けばいいな。」
「大丈夫でしょう。貴方は勇者様なのですから!」
「そうだな!俺は勇者なんだ!」
二人は今後の栄光を夢見て食事を続けるのだった。




