閑話 勇者、悪行が一気にのしかかる
勇者パーティー解散からしばらく後。シャーユは街役場でクエストを探していた。
「クソッ!高いランクのクエストに行かなければ!俺は勇者なんだ!」
[ティムは自分達よりずっと強かった]マーチ達から聞いたこの言葉。納得がいかないシャーユがクエストを探しているとそこに一人の女性が現れる。
「勇者様!こちらに居たのですね!」
「お前は……ジャンヌか!」
緑髪の女性……ジャンヌ。王国の騎士団長である彼女は、シャーユを見つけるとすぐに手を握った。
「ジャンヌ?どうしたんだ?」
「王様からのご命令です。至急私達二人に来るようにとの事です。」
「王が?何でだ?」
「とにかく急ぎましょう!さあ!」
「あ、ああ!」
二人は手を繋ぎ、一緒に王の城へ向かっていった。
そしてここは謁見の間。玉座に座る王の下に、シャーユとジャンヌが現れた。
「王樣!到着致しました!」
「何の用だ?俺は今クエスト探しで忙しいんだ。早めに済ませてくれよな。」
「……この。」
「王様?どうしたのです?」
王は玉座から立ち、二人を見下ろす。
「この馬鹿者がぁぁぁぁ!とんでもない事をしてくれたな!?」
「な、何だ!?」
王が怒り出し、二人で顔を見合わせていると、更に怒りがヒートアップしてきたようだった。
「調べさせて分かったが、魔王を追い払ったのは……よりにもよってあのティムだと!?これはどういう事だ!?」
「な!やっぱり……。」
「それだけで無い!これを見ろ!」
「何だこれ?」
シャーユの目の前に、貴族が魔導カメラを持って行く。そこに映っていたのは、シャーユの想像を遥かに超える映像だった。
◇◇◇
[みんなー!今日もミーの配信に来てくれてありがとー!今日は何と!冒険者さんの昇格試験に密着しちゃうよー!]
[皆さん、僕は今から試験官として、昇格試験に挑戦します。緊張するけど、よろしくお願いします!]
[わん!]
[って事で、今回はコラボ配信……って奴なのかな?俺の昇格試験だ!配信者のミー、そしてティム先生と一緒にクエストに行ってくるよ!よろしくな!]
[かめ!]
◇◇◇
「……何だこれは?ティムと他の冒険者のコラボ配信か?大した事は無さそうだな!」
「お前達は……何も分かっていないのか!?」
「王様、どういう事ですか?」
ジャンヌの質問に、王の側に控えていた貴族はため息をついて、二人に説明を始めるのだった。
「あそこに居る女はミー。腕の立つ冒険者であり、ファンも大勢いる配信者です!
そして一緒に居るのは、ラルフという冒険者。奴は急に実力をつけて来た、しかも魔物と一緒に戦うという物珍しさから、ここ最近人気になっている男です!」
「それとティムに何の関係が?」
「何故奴らの所にティムが居るのだ!?」
「へ?」
「貴様……ティムは使い物にならないゴミだと言っていたではないか!?だが実際はどうだ!?魔王とも戦える、有力な配信者とも繋がりがある!貴様パーティーで使っていたのに知らなかったのか!?」
この瞬間、シャーユは理解した。心は拒んでいるが、頭では完全に理解してしまった。
ティムは追放するべきではなかった、と。しかし……
「奴はゴミスキル持ちだ!疎まれている所を煽ててやれば、一生いい道具として使えたはずだ!何故追放などしたのだ!?」
「そ、それは王も同意しただろ!?人の国に魔物を連れているゴミは必要無い!一緒に語り合ったじゃないか!」
「ぐ、ぐっ……。」
シャーユの言葉に王も詰まる。ティムを追放したのはシャーユの意思だけではなく……王や貴族達も合わせての決定だったからである。
しかし王はコホンと咳をすると、すぐにシャーユを睨みつける。
「こ、これだけではない!更に問題を持ってきおって……衛兵!前へ!」
「ハッ!」
王が呼んだ衛兵……彼は三人の冒険者を連れてきていた。
「お!お前達は!?」
「よくも見捨てたな……!お前のせいで俺達は散々な目に遭ったんだ!ふざけやがって!」
「貴様を糾弾する為に、全部話してやったさ!ざまあみろ!」
そこに居たのは、ブラッドゴーレムの件……ストーレの街を襲撃した際に連れて来た冒険者達である。
「シャーユ……もしストーレの街と戦いになったらどうするつもりだ!?あそこには凄腕の冒険者、カインが居るのだぞ!?」
「だ、大丈夫だろ?こっちには俺が居るんだ!」
「これだけではないわ!」
王は書状を持って来て、シャーユの前に突き出した。
「次から次へと問題を起こしおって!王国の冒険者や民達から不満が噴出しているではないか!」
「な、お待ち下さい!それは勇者様とは関係無いでしょう!?」
「貴様のせいでもあるのだぞ、ジャンヌ!」
すると再び貴族がやって来て、魔導カメラを操作する。そこには魔王から離れ王の城へ向かう、二人の様子が映っていた。
◇◇◇
[お、俺はこんな所にいられるか!俺には王国を守る義務があるんだ!俺は王の城に行くから、後は勝手にやってくれ!]
[勇者様、私もお供します!]
[な、何ふざけた事言ってるんすか!?ここでやらなきゃ街の人達全滅するっすよ!?]
[貴様には一度言わなかったか?王や勇者様の為なら、他の有象無象がどうなろうと知ったことではない!]
[そ、それをアンタが言うんですか!?アンタはこの王国の騎士団長でしょう!?]
[くどい!さあ、行きましょう勇者様!早く王の下へ!]
[ああ!]
魔王襲撃の直前の場面……ゴミスキル持ちのテイマーが正論を言い、それを気にする事もなく民を見捨てて城に向かう、最悪の場面が。
◇◇◇
「このままでは、我らの王としての、貴族としての権力が危うい……そこでだ!」
「な、何だよ……?」
王はシャーユを見て、とんでもない発言をするのだった。
「シャーユ……貴様にはティムの捕獲を命ずる!」
「は、はあ!?」
「あれだけの実力と影響力を持つのなら、再び王国に入れてやれば手柄と名声は全部我らの物だ!民の支持も回復できる!
だが……逆恨みで王国に牙を剥くかもしれぬ。無理なら抹殺しろ!勇者のお前なら出来るだろう!?」
「な、何だと!?無茶苦茶だ!」
「黙れ!確かに命令を出したぞ!後は何とかしろ!」
王はそう言い残し、玉座を離れるのだった。
◇◇◇
「ど、どうするジャンヌ……このままでは……。」
「ふむ。どうするべきか……。」
シャーユとジャンヌは首をひねって方法を考えているが、案が思いつかない。いくら勇者であっても、ここまでの大きな失態を取り返せなければ……。
「そうだ。私に良い考えがあります。」
「な、何だ!?」
「奴はテイマーです。それを利用するのですよ。」
「……どういう事だ?」
「勇者様、こちらに。」
二人は街中を歩き出し、ジャンヌの言う場所に向かう。その過程で、二人には住人や冒険者からの冷たい視線が突き刺さる。
「……俺は勇者なのに、どうしてこんな目に……。」
「気にする事はありません。この作戦が成功すれば、奴らは再び貴方に跪く事になりますよ。」
聖騎士であり、騎士団長でもあるジャンヌ。だが今の彼女は、そのどちらにも相応しくない作戦を考えている様だった。




