閑話 勇者パーティー、解散する
魔王の襲撃が終わった次の日。勇者シャーユはいつもの料理店で食事の真っ最中である。
「まさか、魔王が逃げ出したのは本当にティム達が戦ったからか?いや、そんな事出来る訳が無い!魔王は俺が居なければ勝てないんだ!……そうだ!あの場にはマーチとケビンが居た、きっと二人が追い払ったんだ!」
「お邪魔するわよ。」
「シャーユ、ここに居たのか。」
料理店でぶつぶつと呟いていると、そこに二人の仲間が合流する。魔法使いのマーチ、武闘家のケビン。勇者パーティーの一員である二人は、席に座りシャーユの方を向く。
「おお!やっと来たかお前達!心配したぞ!」
「心配、ねぇ。」
「な、何だよその顔……。」
不服そうな顔を見せるマーチ。その顔を見て、シャーユは驚きの顔を見せた。
「いやー!しかしお前達が魔王を追い払ったとは驚いた!さすが俺の仲間だな!」
「そうね。」
「ど、どうしたんだよさっきから……。」
素っ気無い返事を返すマーチに困惑するシャーユ。するとケビンがシャーユをじっと見た。
「お前……俺達を置いて逃げ出したらしいな。」
「な、何!?」
「私達が起きた時、シャーユは居なかったわよね?どこに居たのよ?」
「お、俺は王の護衛と言う大切な任務があってだな。だから、お前達はあそこに置いていったんだ。だが結果的にはこれでよかった!魔王の脅威は去ったのだ、俺の英断だな!」
シャーユのこの言葉を聞き……二人はため息をついていた。
「……駄目だな。」
「ええ。決心ついたわ。」
「ん?何だ?」
「私達……このパーティーを抜けさせてもらうわ。」
「…………え?」
一瞬固まるシャーユ。しかしすぐにマーチに掴みかかった。
「な、何故だ!?俺達は皆揃って勇者パーティーだろ!それに、俺は勇者だぞ!俺の考えに文句でもあるのか!?」
「私達……こんな事を当たり前に思ってたのよね。ティムには本当に酷い事をしちゃったわ……。」
「ティ、ティムだと!?何でアイツの名前が出てくる!?」
「あの魔王達を追い払ったのはティムよ。それと、あのサリアっていうテイマー、二人とそのパートナーがやったのよ。」
「な、何だと!?それじゃあ、お前達はずっと寝てただけだったのか!?」
シャーユは激昂する。最強の勇者パーティーが、追い出したテイマーに後れを取った。あってはいけない事だからである。
「その通りよ。ティムは私達よりもずっと強かったわ。パーティーから追放されて正解だったのよ。」
「黙れ!この役立たず共が!だいたい、お前達も俺と一緒にバカにしていただろう!今さら何を言ってるんだ!」
「だからあの状況を見て分かったんだ。俺達はどうしようもないクズだったんだよ。」
淡々と事実を話す二人に、シャーユは怒りをぶつけていた。
「そんなに辞めたいのなら、二人ともクビにしてやる!さっさと俺の前から消えろ!俺の英雄譚に、お前達は必要無い!」
「そうね……。じゃあ、私達は行くわ。元気でね。」
「シャーユ、達者でな。」
二人は料理店から出る為扉に向かう。すると後ろから手が伸びてきて、ケビンの腕を掴んだ。
「ど、どうしてそんな素っ気無いんだ!俺達は勇者パーティーだろう!?ここはホラ、頼むから残らせてくれって言う所だろ!」
「……お前、何を言ってるんだ?」
「だから、俺達は栄光ある勇者パーティーなんだ!俺の為に一緒に戦ってくれ!」
さっきの激昂から一転、縋るように見てくるシャーユ。二人は彼の姿に困惑しながら返事を返していた。
「私達……色々しなきゃいけない事があるのよ。好き勝手にやりすぎたから、まずはそれを清算しないとね。」
「それに、今のままではこれから通用しなくなる。時間があるうちに、もう一度鍛え直すつもりだ。」
「そ、そうなのか?」
シャーユの落ち込んだ様子を見て……二人は顔を見合わせる。
「……どうする?やはりお前もやり直すか?」
「シャーユ。それなら今の栄光を捨てて、先を見ましょう?やる事を済ませて、そうしたら今度こそ……。」
二人の言葉に、シャーユは……。
「分かった。ならお前達はやはりクビだ!」
「「……。」」
「俺は勇者だ!お前達が居なくても、俺は魔王を倒せるし、栄光は俺の物だ!役立たずは必要無い!」
「……じゃあ、元気でね。」
「……しっかりと特訓するんだぞ。お前が王国の希望なんだ、忘れるなよ。」
そして扉に手を掛けたケビンが最後に一言、シャーユに伝える。
「そうだ、ティムから伝言だ。お前のもとに戻るつもりは無い。今は大切な人達と一緒に冒険してるから、そう言ってたぞ。」
[勇者]の肩書を見せつけるシャーユ。それを見た二人は伝言を伝えると、料理店から出て行った。
「俺は勇者なんだ……俺が世界の中心なんだ……。」
再びぶつぶつと呟くシャーユ。彼の運命が動くのは、もう少し後である。




