閑話 勇者の大誤算
今回から少し閑話が続きます。よろしくお願いします。
ここはグランド王国。王国擁する勇者パーティーのリーダー、シャーユは、いつもの料理店で一人で座っていた。
「ど……どうしてこんな事になったんだ……。何で、どうして……。」
一人でぶつぶつと呟いていると、そこに一人の女性が現れる。それは緑髪の女性……騎士団長ジャンヌである。
「勇者様!しっかりして下さい!貴方は世界最強の勇者であり、魔王を討ち滅ぼすお方なのです!私がお傍に居ます、だから安心して下さい!」
「ジャンヌ……。」
二人が何故この様な状態になっているのか。それは少し前、魔王の王国襲撃事件に遡る。
◇◇◇
「おお!シャーユよ!よくぞ来てくれた!さあ、我らを守ってくれ!」
「ああ!勇者の俺に任せてくれ!」
「私もお供致します!」
グランド王国にそびえ立つ王の城。王と貴族達は逃げるでもなく、戦うでもなく…………自分達の王国で魔王が暴れているのをじっと見物していた。
「シャーユよ、あそこで戦いをしているのが魔王なのだろうが……戦っているのは相手は何者だ?」
「おそらく冒険者達だろう。だが、おそらくすぐにやられるだろうな。ここに魔王が来た時は任せてくれ、必ず仕留めてみせよう!」
「頼りにしているぞ!シャーユよ!」
王と貴族達は、シャーユとジャンヌを前にして見物を続けている。彼らは勇者が魔王を打ち倒し、その勇者を抱える王国の力を世に示す……訪れるその場面の為、敢えてここに居るのだった。
しかし、いつまで待っても魔王はここに来ない。街が蹂躙される様子も見られず、王達は苛立ち始めた。
「うむ……シャーユよ。魔王はすぐここに来るのではないのか?」
「お、おかしいな。そろそろ倒されると思ってたが……。」
「お、王様!緊急事態です!」
シャーユが首をかしげて居ると、外から騎士が血相を変えて城に入って来た。
「お、王国の街が魔王と思われる女二人に襲撃を受けております!すぐに対応しなければ!」
「何、気にする事はない!ここに居るシャーユとジャンヌが、魔王を滅ぼしてくれるからな!ここは安全だ!」
「い、いえ!下にある街が危ないと言っているのです!勇者様達も早くお願いします!」
「うるさい奴だな。俺は王の護衛で忙しいんだ、適当にやってくれ。」
「し、しかし!このままでは突破されてしまいます!我らでは手に負えず……あの二人に任せるしか無いのです……。」
この言葉を聞き、シャーユは嫌な予感が全身に駆け巡った。
「お、お前!今すぐ街に向かえ!」
「し、しかし」
「命令だ!すぐに行け!お前が魔王を足止めするんだ!」
「まあ待てシャーユ。その二人はお前の為に捨て駒になってくれているのだ。お前の英雄譚に載せてやろうではないか。その二人とは誰なのだ?」
「ハッ!それは……これを見て下さい!」
「……ほう?」
王はポカンと口を開け、シャーユの全身に悪寒が走った。
「な……何だ?何が映っているのだ?」
「はい!これをご覧下さい!」
騎士は魔導パソコンで映像を映す。そこでは何者かが動画を配信しており、映った先では……
「な……何だこれは!?」
王達が見たのは、テイマーの子どもがメイド服を着た女と戦っている場面だった。ブレードウルフと共に戦い、互角の戦いを行っている様だった。
「こ、こっちは何だ!?」
そしてカメラが空中に移動し、もう一方の戦いを映し出す。そこには鎌を持った女が、魔法を操る子どもと激闘を繰り広げていた。
「あの魔物は……ギルティスだと!?何故あんな魔物が街に!?いや、何故人間と一緒に戦っているのだ!?」
「いや、そんな事よりあのガキだ!戦っているのは魔王なのだろう!?ここで食い止めているというのか!?」
貴族達は驚愕の表情をして画面に釘付けになっている。それを見たシャーユは……冷や汗をポタポタと流していた。
そして場面は流れ……全力でぶつかったそれぞれの一撃により、辺りが煙に包まれる。それと同時にカメラがおかしくなったのか、プツンと映像が途切れてしまった。
「ああ……ああ……。」
その場に座り込むシャーユ。その顔は真っ青になっていた。
一方の王達は、驚いた表情で固まっていた。王国を蹂躙し、破壊の限りを尽くした魔王、それを勇者が討伐する……その目論見が崩れたからである。
「お、王様!あれを!」
「ん?」
ふと空を見ると、二人の女……おそらく魔王が空を飛び上がり……一瞬で消え去った。
「ま、魔王を追い払ったと言うのか?それでは、勇者は……。」
がっかりした様子の王。しかし……次の瞬間。王は立ち上がり、騎士達に命令を出す。
「お前達!あそこで戦っていた者達について調べるのだ!そして奴らを我らの物にする!行け!」
「「「は、はい!」」」
慌てた様子で走り出す騎士達。勇者の力は示せなかった。その代わり……魔王と戦えるレベルの冒険者が街に居る事実を手に入れた王は、ニヤリと笑っていた。
「あの者たちは何者なのか。後で報告を聞くとしよう。……どうしたのだシャーユ。顔色が悪いようだが?」
「いや……何でもない。」
シャーユは真っ白になった顔で王に答えていた。




