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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第三章:静寂の勇者ろうらく作戦
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静寂の勇者ろうらく作戦(1)

 タルトゥニドゥ探索五日目の夜。

和やかな夕食の時間の中で、サレンとの絆が深まりつつあったサンダーラッツ一同だったが、デティットとアラドの二人に水を差される。

それだけではなく、今はデティットの態度で一触即発な険悪なムードが漂っている。

その雰囲気に、サレンは不安と緊張を抱えていた。

サンダーラッツも同じく緊張していたが、それは実は、デティットのその態度こそ“静寂の勇者ろうらく作戦”の開始を告げる合図だからだった____。






 「“お前らは所詮、帝国軍だろう?”か・・・。言わんとしている事は分かるが、よくも今、このタイミングで言えたものだな?」

「そうだな・・・。確かに、探索中で協力し合っている、このタイミングで言うのは不味かったかもな。だが、言わせたのはお前達だ。よくもぬけぬけとサレン様を“仲間”などと呼んでくれたな?」

「悪いぃ?本当にそう思ったんだから、別に良いじゃない」

「それに、私達を最初に仲間と呼んでくれたのはサレンの方」

「そうですね。ですので、サレン様には訂正すべきと申し上げているのですよ」

「アラド・・・・」

「良くお考え下さい、サレン様。確かにサンダーラッツ個人で見れば、人格的に優れている者も居るでしょう。仲間と呼びたくなる気持ちも分からなくは無いです。ですが、彼らの立場はあくまで帝国軍。侵略国家で、この者達はその尖兵です」

「人格的に優れているというのは、どうだかな・・・甘くないか?アラド。侵略国家で軍人になって、喜んで人を殺しているような連中だ。人格的にも、ろくでもないだろう」

「デティット!?」

「何ですってぇ!?」


オーマ達を否定しつつも、一定の評価をするアラドと違い、完全にサンダーラッツを否定したデティットの言葉に、いよいよヴァリネスが声を荒げた。


「いい加減にしないさいよ!!こっちだって好きで戦争してるんじゃないわよ!!」

「言い訳するつもりか?侵略者で人殺しなのは事実だろう?」


声を荒げるヴァリネスとは違い、デティットは変らず冷静な態度で淡々と言い返す。

その冷静な態度が逆に腹立たしいかったのか、ヴァリネスは益々ヒートアップしていった。


「言い訳するわよ!!あんたが問うたのは私達の罪じゃなくて、私達の人格だもん!人を殺した罪を問われれば事実だから言い訳する気は無いわ。でも、その罪を“喜んで”しているなんて人格を否定されるいわれは無いわ!」

「変らないだろう?殺された連中からすれば、殺して奪った事実は一緒だ」

「変るわよ!!私だったら殺した奴の理由次第で自分の死に納得できるもの!ふざけた理由で殺されたら呪ってやるけど、相手に正義が有ったなら仕方が無いって思えるもの!」

「ずいぶん自分勝手な言い分だな」

「自分勝手じゃないわ!人の世の基準だもの!どこの国の法でも犯行の動機で罰が変わるわ!」

「おい、副長。少し落ち着け」

「嫌よ!!ここまで言われたら黙ってらんないわ!!」


ヴァリネスはどんどんヒートアップして、オーマでも抑えられない様子だった。

そんなヴァリネスを前に、デティットは“当然”余裕の態度だった。


「だが、帝国の第一貴族は違うだろう?表向きは魔王に対抗するためなどと言っているが、自分達の野心のために戦争しているだろう?なら結局、お前達も同じだ」

「同じじゃない!!私達には私達の正義が有るもの!あんな奴らと一緒にしないで!!大体、私達は!___」

「___ッ!?ヴァリネス!よせ!!」


ヴァリネスが言おうとした事を察して(というより知っていて)、オーマは声を荒げてヴァリネスを止めた。

だが、すでに手遅れで、デティットは再び不敵な笑みを浮かべて問い詰めた。


「“大体、私達は!___”・・・何だ?その先は何て言うつもりだった?ヴァリネス?」

「ッ!?・・・」

「“大体、私達は!帝国の反乱軍よ!”とでも言うつもりだったんじゃないか?」


「「!?」」


「え?・・・」


デティットの発言にサンダーラッツ一同は、さっきとはまた別の緊張感を漂わせた。

そしてサレンは、デティットの発言とサンダーラッツの放つ雰囲気に、只々困惑していった。


「デティット・・・あんた何を根拠にそんな____」

「私にはセンテージに友人が居てな・・・その友人が、センテージと帝国の親善会合の後、会いに来てくれたんだ。その時に、お前達と反乱軍を結成したと聞いた・・・。最初はその友人の話さえ疑っていたが、お前達と出会ってそれが本当だと確信した。友人もお前達も本気だとな・・・」


「「・・・・・」」


サンダーラッツの一同は黙る・・・。この事で、デティットの話が本当であると、サレンは理解した。


(反乱軍・・・オーマさん達は、帝国の反逆しようというの?・・・)


流れる沈黙の中で、サレンは困惑しながらも、話を理解しようとしている。

だが、サレンの頭の中で、話の整理がつく前にオーマが沈黙を破ったことで、再びサレンは翻弄されていく。


「・・・それで?デティット。この場で俺達の正体を暴露してどうしたいんだ?口封じに殺されたい訳じゃないんだろう?」

「ああ、そうだ。殺されるのはゴメンだ。お前達にも、帝国の奴らにもな・・・。お前達が本気で帝国に反旗を翻すなら、先の私の発言は謝罪して撤回するよ」

「急に態度を変えたわね」

「元々、お前達の本心を探るためにした挑発だしな」

「そう・・・。謝罪と撤回は受け入れるわ」

「では、仲直りだな」

「まだよ。団長の質問に答えて無いわ。デティット。私達が帝国の反乱軍だと暴露してどうしたかったの?」


問われて、デティットは一度小さく深呼吸する。それから何かを覚悟した表情で口を開いた。


「いや、なに・・簡単な事だ。お前達が帝国の敵なら、敵の敵は友と呼べると思ってな・・・」

「反乱軍に加わるつもり?」

「そうだ」

「デティット!?」


デティットの発言にサレンは更に混乱する。だが、デティットの顔を覗けば、その表情は吐いた言葉の軽さと違い、覚悟を決めた者の表情だった。

サレンはデティットとの長い付き合いで、デティットは最初からこの探索でこの話をするつもりだったのだと理解した。

 そんな覚悟が伺えるデティットの表情だったが、オーマ達はその表情を疑惑の眼差しで射貫いていた。


「怪しいな。今お前達は、帝国と友好的な外交の真っ最中だろう?俺達を売るつもりじゃないのか?」

「それは無い。お前達を売るつもりなら、大使のカスミの前で反乱軍だと暴露するさ。こんな、口封じし易い状況で話したりしない」

「それに、友好的な外交と仰いますが、我々オンデールとゴレストが帝国と手を組む事など有りえません」

「はっきり言い切るじゃない、アラド。あなた、ただの一軍の指揮官でしょ?何でそんな風に言い切れるの?」

「我々が帝国と手を組むことになれば、その力の関係上、表向きどんな言い方をしても、帝国に下る形になります。帝国はこれまで、傘下に加えた国の宗教活動を全て禁止しています。例外は、建国に携わったトウショウジンだけです。マガツマを信仰するマガツ教が国教であるオンデールとゴレストが、そんな国の傘下に加わる事など、例え滅んでもあり得ません。我々には対立の道しかないのです」


言葉の最後の方は、はっきりと“誰かに言い聞かせる様に”アラドは言った。


「「・・・・・・・・」」


デティットとアラドの意思表示に、サンダーラッツ一同は再び沈黙して、値踏みするような目で二人の顔を覗いていた。

 そして暫くして、ヴァリネスが今度はオーマの顔を覗きながらポツリと呟いた。


「・・・どうする?団長?」

「・・・・」


オーマはヴァリネスの質問には答えず、ずっとデティットとアラドを睨み続けていたが、一度だけサレンに目を移してから口を開いた。


「今の話、他の誰かに話したか?」

「いや、誰にも話していない」

「入れるとしたら誰が入る?まさか、サレンまで巻き込んで加入させるとは言わないよな?」

「オーマさん・・・」

「ああ、そのつもりだ。サレン様を巻き込む気は無い。加入希望は私とアラドの二人だ」

「そうか・・・。サレンを加入させないなら、この場で話してほしくなかったな・・・。俺もサレンは巻き込みたくはない」

「それはすまない。だが、この話をするなら、探索中の今しかないと思っていた。サレン様には後で、私から言っておくよ」

「デティット・・・」

「それで、どうなんだ?オーマ?」

「・・・今すぐには答えを出せない。探索を終えてから考えさせてもらう。いいな?」

「そうね。今は危険なタルトゥニドゥ探索中だし、上級魔族に目を付けられているかもしれない訳だし、ゆっくり考える時間は無いわね」

「・・・分かった」

「今は探索に集中すべきですし、仕方ないですね」

「なら、話は終わりだ。俺は、今日はもう休ませてもらうよ・・・」

「あ・・・・」


そう言って、オーマは天幕に入って行った。サレンが何か聞きたそうにしていたが、努めて無視した。

 他の者達も、今日はもう雑談する空気ではないため、この日の夜はそこで解散となった。


(オーマさん達が帝国で反乱を起こす・・・。デティットもアラドもそれに加わると言っている・・・。私は・・・。オーマさんは巻き込みたくないと言ってくれたけど・・・)


 この日、最初に夜の見張りを任されていたサレンは、頭の中でずっとオーマと反乱軍の事について考えていた。

だが結局、その内容も自分の気持ちも整理することができなかった。

そのため、オーマがサレンを巻き込みたくないと言った時、戦うことを期待されずに済んで安心する気持ちより、オーマが自分を誘ってくれなかった淋しさが勝っていた事に、この時は自分でも気が付けないのだった___。

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