戦いが終わって始まる戦い(後半)
「どういうこと、サレン?」
「何か心当たりがあるのですか?」
敵の目的が自分だというサレンに、皆の視線が集中した。
「・・・私は特殊な力を持っています。ひょっとしたら、それを狙っているのかもしれません」
「サレン様!?それは____」
「良いのです、アラド。私のせいで皆さんを危険な目に遭わせているなら、説明する責任があると思います」
サレンは神妙な面持ちでそう断言した。
サンダーラッツ一同は当然、それの事を知っている。
そして、当然知らない体で話を聞くのだった。
「サレンは高い魔力を持っていたり、四種の基本属性を扱えたりと、かなり卓越した魔法技術を持っていると分かっていますが、それとは別で、という事ですか?」
「はい、そうです・・・・」
「サレン・・・それって、君と初めて会った時に訓練していた、七色の魔法術式の事か?」
「あ、はい。そうです。覚えていらしたのですね」
「まあ、見たことも無い術式で、印象的な光景だったからな」
「そうですか。今まで詮索しないでいてくださって、ありがとうございます」
「感謝は必要ない。お互いの立場を考えれば、話すはずがないと思って詮索しなかっただけだ」
「フフッ。オーマさんらしいですね」
「そっちこそ。だが、それなら尚の事聞いて良いのか?アラドの反応だと、マズイ事のように見えるが?」
「相手の目的が私の力なら、むしろ知って貰わなければなりません。相手は上級魔族さえも使役できる存在ですから、目的も分からぬまま迎え撃つのは危険過ぎます」
「で、ですが、まだ、そうと決まったわけでは・・・」
「被害が出てからでは遅いです。アラド」
まだ、納得いっていない様子のアラドが食い下がるが、サレンの表情と意思は変わらない。サレンなりに、この事態に責任を感じているようだった。
「・・・・デティット、アラド。いいのか?」
「仕方あるまい」
「・・・不本意ですが、サレン様ご自身でお決めになった事ですから」
「そうか。じゃー、サレン。すまないが、話してくれるか?」
「はい__。えっと、前回タルトゥニドゥの探索に来た時に____」
オーマの返事に応えて、サレンは、前回のタルトゥニドゥ探索でベヒーモスと戦った時の事を皆に話し始めた・・・・・。
「____その時に、“扉が開いた”ような感覚で、この力を自覚できたのです。それで、咄嗟にその感覚を信じて、魔法を発動したら・・・」
「ベヒーモスの自爆魔法を封じることができたのね?」
「___はい」
「なるほど・・・魔族がサレンを狙うのも納得だな」
「そんな力と戦うなら、魔族でも相手の戦力を調べる必要が有るでしょう。これまでの魔獣の襲撃とも辻褄が合いますね」
「それで、サレン。その力はどこまで扱えるんだ?」
「その日以降、ずっと鍛錬をしているのですが、何分情報が少なくて思うようには上達していません。歴代の勇者様と同じ力だというのも、今、オーマさんから初めて聞きました」
「我々では、サレン様がお話してくださった感覚が、私が派生属性を扱える様になった感覚と似ているから、基本の四属性を扱える様になって派生した、新しい属性だろうという事位しか見当がついていませんでした」
派生属性は、ある日突然扱える様になる。
派生元の属性を使い続けていると突然、その属性を扱える感覚を自覚できるのだ。
この感覚を魔導士達は“扉が開いた”とか“才能が花開く”と言っている。
派生元の属性を、何時、どれだけ使い続ければ、派生属性を扱える様になるかは個人差がある。
STAGE1で、もう派生属性を扱える様になる者もいれば、STAGE5まで行ってようやく派生属性を扱える様になる者もいる。
(カスミがサレンの力を、仮で四属性の派生属性として定義していたが、間違いじゃなかったんだな・・・)
オーマが頭の中でそんな事を考えていると、話している間、目を伏せがちだったサレンがまた目を伏せた時、そのまま頭も下げてきた。
「申し訳ありません、皆さん。私のせいで危険なことに巻き込んでしまって・・・」
「あーーー!!ホラッ!やっぱり~!」
「ひゃ、ひゃい!?」
謝ったサレンにヴァリネスが大きな声を出したので、サレンは驚いて変な声を上げてしまった。
何事かと思って、サレンがヴァリネスを見ると、ヴァリネスは呆れたような態度だった。
「な、なんですか?ヴァリネス?」
「いや、もう!予想通りよ!アンタとの付き合いは一ヵ月位だけど、絶対に勝手に責任感じているって思ってたのよ!」
ヴァリネスは自信満々な態度で言い切った。
そう予想した理由は何となく察するサンダーラッツ一同だが、どうしてそんなテンションになるのかは謎だった。
周囲の呆気にとれた態度を無視して、ヴァリネスはそのテンションを貫いた。
「もう~!しょーが無いわね~!あんた達!この真面目で、勝手に責任を感じている小娘を慰めて、思い知らせてやりなさい!!」
「ど、どんな命令ですか?副長?」
「“慰めて思い知らせる”って何だよ・・・」
「でも、言いたい事のニュアンスは分かります。サレンさんがご自身を責めているなら、ボク達の気持ちを伝える場面ですよね!」
「そう!その通りよ、ロジくん♪」
「は、はあ・・・」
「サレン、覚悟しなさい!さあ皆!私達の本音を喰らわせてやりなさい!!」
「副長うざい」
「余計言いづらいです」
「そうか?じゃー、俺から・・・コホン。サレンちゃん。君はとっても可憐で素敵だよ。その潤んだ瞳。艶やかな肌は___ほげぇ!?」
フランは、ヴァリネスに特殊警棒(魔法で錬成した)で殴られた。
「誰が口説けつったよ。このボケッ!」
「空気読みましょうよ、フラン」
「ぞ、ぞんなごどいだっで・・・」
「・・・・」
フランとヴァリネスのやり取りに、目をぱちくりさせるサレン。
そんなサレンに、クシナは気まずそうな表情を浮かべながら、優しく声を掛けた。
「ま、まあ、とにかくですね。御覧の通り、誰も気にしていないので、自分を責める必要は無いって事ですよ。サレン」
「で、でも、巻き込んでしまったのに・・・」
「あなたが巻き込んだのではありません。私達が巻き込まれに行ったのです。ね?団長?」
「その通りだ。このタルトゥニドゥ探索は四か国共同だしな。俺達は自分達の意志でここに居る」
「オーマさん・・・」
「それに、巻き込まれたなら、巻き込まれたで構わない」
「ウェ、ウェイフィーさん?」
ウェイフィーにしては珍しく、その言い方は確固たる意思を持って断言する言い方だった。
その、いつもと様子の違うウェイフィーに思う事があったのか、サンダーラッツ一同は口を閉じて、慰め役をウェイフィーに任せた。
「サレン。私がエレメンタルフォッグに襲われた時、何て言ったか覚えてる?」
「え?えっと・・・」
「____“仲間”。サレンは私のこと“仲間”って言ってくれた」
「「・・・・・」」
「あ、あの、スイマセン。あれは、その、つい・・・」
「嬉しかった」
「え?」
「サレンが私のこと“仲間”って言ってくれたこと、私は嬉しかった。これはウソじゃない」
“作戦で言っているんじゃない”と、皆に伝える言い方だった・・・。
「だから、巻き込まれて本望。私は私のことを“仲間”と呼んでくれる人を見捨てる気は無い。サレンが私達の知らないところで危険な目に遭うくらいなら、巻き込んでそばに居させてほしい。お願い」
「ウェイフィーさん・・・」
「サレン。力を持つ者は、そのことに対して常に責任が付いて回る。自身で望んだ力でないのなら、それは理不尽なしがらみだろう。でも・・いや、だからこそ、一人で背負う必要は無い。仲間を巻き込んで、一緒に責任を果たせばいい」
「・・・・」
「ウェイフィーの事を仲間と呼んでくれた君と、お互いに支え合う事、俺達は歓迎する。な?」
「はい」
「もっちろん」
「望むところです」
「当然ですよ」
「あ・・・・」
サレンの中で、明るく温かい感情が芽生えてくる。
穏やかな日の光の様な、爽やかな春風の様な、そんなものが優しくサレンの心を軽くする。
戦い、力、責任、期待・・・このような言葉が必要な場では、芽生えた事の無い感情だった・・・。
(好いなぁ・・・)
サレンはこの感情が好きだ。この感情を与えてくれる、ここに居る仲間達が好きだ。
そして、その仲間達と共に居ると思うと、誇らしい気持ちになり、勇気が湧いてくるのだった。
仲間達と支え合い、共に生きる___。
サレンの心の中で、そんな思いが生まれてきている。
「・・・・・」
サレンのその感情は表情にも表れていて、何かを察したデティットがそのサレンの表情を覗いていた。
だが、サレンはそんな事は気にせず、自分の中で生まれた思いを口にした。
「皆さん。本当にありがとうございます。私、サンダーラッツの皆さんに出会えて本当に良かったです。私達、立場は違いますけど、四か国共、お互いをもっとよく知れば、きっともっと関係は良くなっていくと思います!だ、だから、その・・きっと私達もいつか本当の仲間になれるんじゃないかって思います!」
「サレン・・・」
オーマ達がサレンと接してきた中で、一番強いと感じる主張だった。
サンダーラッツの皆が、サレンの本心だと分かった。
メンバーも嬉しくなって、“一部を除いて”、優しく、力強い絆が生まれる様な空気に包まれる。
「私も、いえ、私達も、皆さんと支え合うことを歓迎します!ね!?デティット、アラド?」
「いや、それは無い」
「同じくです」
「えっ!?」
自分と同じ気持ちで同意してもらえると思っていたため、二人に否定されてサレンはショックを受ける。
そして、否定されたサンダーラッツにも、温かい空気が一変、不穏な空気が漂った。
「それはどういう意味だ?デティット?」
「そのままだよ。オーマ」
気を使って、穏便に何気なく聞いたオーマに対して、デティットの返事はバッサリと冷たく切り捨てる言い方だった。
「「_____」」
その事で、場の空気は更に凍る。特にサンダーラッツの隊長達は敵意すら見せ始めていた。
普段はどうであれ、根っこの部分でオーマを慕っているため、デティットのオーマへの態度は、明らかに不快な様子だった。
「あー・・・デティットの姉さん。どういう態度だよ?」
「今、この場で、そんなハッキリと否定する必要は無かったのではないですか?」
「お互いに立場の有る身ではあるので、分からなくも無いですがー・・・」
「いえ、分からないでしょう。不快です」
「空気読め」
「あ、あの!・・・」
サンダーラッツの隊長達が、不快感を見せながらデティットに詰める。
サレンは予想外過ぎて、オロオロと戸惑う事しかできずにいる。
だが、デティットとアラドは、そんな様子を気にするでもなく・・・いや、デティットに至っては不敵な笑みすら浮かべて、言葉を返した。
「ハハッ!ずいぶんな言い方だな?だが、当然だろ?国同士の決定なら従うし、協力もするが、そうでないのなら願い下げだ。お前らは所詮、帝国軍だろう?」
「同意見です。サレン様、訂正してください。この場は協力しても、このような侵略者共とは馴れ合うべきではありません」
「「____!!」」
「そんな・・・訂正だなんて・・・。二人共、言い過ぎです」
更に空気が悪くなって、それに耐えかねたサレンが声を上げる。
だが、デティットもアラドも態度を改める様子は無く、二人とサンダーラッツの間に一触即発の空気が流れる。
その緊張感に、サレンは焦りと動揺を隠せず、泣きそうな顔をしている。
サンダーラッツもその空気に緊張しているが、中身はサレンの物とは全く違う。
サンダーラッツ一同が緊張しているのは、デティットから“お前らは所詮、帝国軍だろう?”という作戦開始の合図が出たからだった___。
タルトゥニドゥ探索五日目。
これから後半戦に入るというところで、“静寂の勇者ろうらく作戦”も本格的に始動するのだった____。




