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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第三章:静寂の勇者ろうらく作戦
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戦いが終わって始まる戦い(前半)

 戦いが終わった後に始まる戦いがある____。

 エレメンタルフォッグと先行討伐隊の戦いを観察していたディディアルは、戦いを最後まで見届けると、次の戦いのために分析という戦いを始める。


「四属性同時とは・・・化け物めっ!!」


 分析の第一声は、分析や感想というより愚痴だった。

サレンが“源流の英知”を持つゆえ、基本属性を全て扱える魔導士というのは分かっていたし、今回の襲撃の目的は相手の魔法の練度や戦術幅を推し量る事なので、サレンの四属性の魔法術式同時展開を見られたのは大きな収穫なのだが、魔族から見ても非常識なそのサレンの強さに、愚痴らずにはいられなかった。


「____だが、まあ、それが戦う前に分かったのは良しとせねば・・・」


 しばらく愚痴った後でそう呟いて、ディディアルは冷静さを取り戻し、ちゃんとした分析を始めた。


「“源流の英知”は思っていた以上の戦術幅があったが、他の者達は予想の範囲内だった。帝国の奴らは、やはり基本属性を二つ備えていて、練度・戦術共に良しだ。だが、ゴレストの女指揮官と、ダークエルフの男は違う。ダークエルフの男は、他の者たちが霧を払う中、何もしていなかったし、ゴレストの女指揮官もこれまでに他の属性を使う気配が無かった。ダークエルフの男の方は土属性と樹属性の二つ、ゴレストの女は風属性のみだ。回復と浄化ができるから戦法には工夫がいるが、私が恐れる相手ではない・・・・・次は、数で仕掛けて、相手の陣形の強度や、乱戦に持ち込んで個人の技量を量るか・・・」


今回の分析を終え、次の分析課題も決めたディディアルは、今日の襲撃はこれまでとし、次に備えるためその場を後にした___。




 ディディアルが今日の活動を終わらせたように、デティットも先行討伐隊の五日目の探索を、少し早いが切り上げることにした。

本隊がスケジュールをずらして行軍に余裕ができた事と、フランとウェイフィーという二人の斥候役の消耗が激しかったのが主な理由だ。

この指示を受けて、フランとウェイフィーの回復を任されたロジ(ヴァリネスが不満気だった)以外のメンバーで野営と食事の準備をした___。


 野営の準備ができて、その後用意された今日の夕食は、いつもより豪勢だった。

いつもより早めに野営を始めて時間が有ったので、アラドとサレンが周囲の見回りがてら狩りに出て、山鳥を数羽捕えてきたのだ。

 調理したのはオーマだった。

サレンと一緒だったアラド曰く、先日のオーマの肉料理の話を聞いて、サレンは秘かにオーマに調理して欲しがっていると言う話だった。

それを聞いたオーマは、喜んでその腕を振るった。

 慣れた手つきで皮を剥ぎ、臓物を取り出す。

そこに、調味料を組み合わせて作った手製のタレ(サレンの好みに合わせて少しさっぱりめ)を鳥肉に塗る。

後は串に刺して焚火で焼けば、オーマ特製の鳥ローストの出来上がりだ。

 食欲をそそる香ばしい香りに耐えきれず、皆がその料理を口に運べば、何度か食べているメンバーはもちろん、初めてオーマの手料理を食べるサレン達三人からも称賛と笑顔が届いた。

ヴァリネスだけが「酒が欲しくなるでしょーが!!」と、よく分からない逆ギレをしていたが、サレンの笑顔が見れたオーマにはどうでも良かった。

 食事が美味しいだけでなく、上級魔族二体との緊迫した戦いの後だから、その反動で皆が解放的な気分になっていて、食事と会話は明るい雰囲気で進んでいた。


「うーん、美味い!血が足りなくなっていたから、肉で補充しないとな!」

「何を言っているのですか、フラン。ちゃんとロジに回復してもらったじゃないですか」

「はいはい。毎回律義にツッコミ入れてくれてありがとうよ、クシナ」

「フランが毎回律儀に軽口を言うからですよ」

「良いじゃんか、ノリだよノリ。飯が上手いとテンション上がるだろ?」

「フフッ。まあ、そうですね」

「ハハッ」


いつものフランとクシナのやり取りも、どこかノリが軽い。

お互いが、無事に生き残れた事を喜び合っている。

 その仲間内のノリを、サレンは微笑ましく見ていた。


「でもフランじゃないけど、本当に戦闘後に美味しい物が食べられるのはテンション上がる。美味い、この肉」

「今日はウェイフィーさん大変でしたもんね」

「まだ肉はいっぱいあるぞ?」

「まぐまぐ・・頂きます」


ウェイフィーは片方の手で鳥肉を食べながら、もう片方の手を伸ばして、オーマが差し出した料理を掴む。

そのウェイフィーの食欲旺盛な姿に、サレンは再び微笑ましい気持ちになりクスッと笑みをこぼした。


「ん?」

「ああ、ごめんなさい。ウェイフィーさんの元気な姿が見れて、嬉しくって、つい・・・」

「そうだな。あの霧の中で、倒れてぐったりしているウェイフィーを見た時は、血の気が引いたからな」

「うん。確かにやばかった。相手がもう一段上の魔法を使っていたら、多分死んでたと思う」

「本当に無事でよかったです」

「そんな中でよく敵の正体を見破ってくれた。感謝するぞ、ウェイフィー」

「ぶい」

「ウェイフィーちゃんが正体を見破ってなきゃ今頃どうなっていた事か・・・やべー相手だったよな。えーと、名前何だっけ?」

「エレメンタルフォッグです」

「そうそう、それ。アラド、戦闘中にも叫んでたよな?知ってたのか?」

「ええ、まあ。でも、実物を見たのは初めてです。オンデールの過去の記録に、一度だけオンデンラルの森に出現した記述がありました。数日前に戦ったストーンバジリスク同様、この大陸には基本存在しない上級魔族だそうです」

「まあ、確かに、あんな奴が大陸のそこかしこに居たら、もっと世に知られているはずだもんな」

「昔、魔王の根城だったタルトゥニドゥならでは、ということかしらね」

「・・・いえ、どうでしょうね」

「え?」


アラドは急にトーンを落として、神妙な様子を見せた。


「・・・違うのですか?」

「今日の戦闘で何か気になる事でもあったのですか?アラドさん?」

「はい。あ、いえ、今日の戦闘で気になった事と言うより、今日の戦闘を切っ掛けに、これまでの戦いが気になり始めたと言いますか・・・」

「・・・どういうこと?」

「・・・・・」


 それを聞いて、オーマの眉間にシワが寄る。

実を言うと、オーマも先日の本隊の魔獣襲撃の報告を聞いてから違和感を抱いていて、今日の戦闘でも幾つか疑問が残っていた。

そして、直感的に、アラドの気になり始めた事と、自分が抱いる違和感が、同じものだと思った。


 アラドが口にしたその気になる事とは、オーマの予想通り、自分が抱いた違和感と同じものだった。


「我々を襲ってくる魔物たちの動きに計画性を感じるのです。我々の事を試しているような・・・これまでの戦いを振り返るとそんな気がしてくるのです」

「どういうところで、そんな風に思ったのですか?」

「先ず回数です。いくら魔物の生息地といっても、この短い期間の間に襲われ過ぎです」

「でもそれは、前回ここに来て暴れたせいで、この地の魔物の動きが活発になったからだって、自分で言っていたじゃない?」

「はい。あの時はそう思っていました。でも今は、それでも多い気がします。前回といい、今回といい、上級魔族とも戦っています。野生の弱い魔物なら、そんな戦闘があった場所には近寄りませんし、上級魔族同士も、縄張りで棲み分けられているはずですから、いくらタルトゥニドゥでも頻繁に上級魔族とは戦闘になりません」

「確かに・・・本隊への襲撃も含めると、上級魔族との戦闘は、二日目、四日目、五日目と三回だ。前回は一回だけだったから比較すると確かに多いな・・・」

「我々もこれまでの遠征先で、ここまで頻繁に上級魔族と遭遇したことは無かったな・・・」


アラドの意見で、皆も過去の戦闘を振り返って考え始める。

 オーマも、自身が感じた違和感を伝えるために会話に交じった。


「俺も違和感が有った。本隊がグレーターデーモン率いる魔獣の群れに襲われたと聞いた時、実はこれまでの襲撃は組織的な犯行だったんじゃないかって思い始めた。今日の戦いで益々そう思えてきた」

「どういうことですか?団長?」

「あの二体は炎と水という反対の属性だっただろ?エレメンタルフォッグとかいう魔物については詳しくないが、普通、野生の魔物は自分と反対の属性や性質の魔物とは共存しないだろ?違う性質の魔物同士が協力する場合って、何者かの支配下にある場合が殆どだ」

「言われてみると確かにそうね・・・」

「では団長は、あの二体は何者かの命令で我々を襲ってきたとお考えなのですね?」

「ああ。そして、そいつが姿を見せていない以上、アラドの“試している”って意見は的を射ている気がする。これまで、俺達が見つけた魔物が重なった事は有るが、俺達を襲ってきた魔物は重なった事が無い。最初は魔物の生息圏だから、色々な魔物に出くわすのは自然だと思っていたが、ここまで同じ種類が重なること無く襲われるのは違和感がある」

「ああ、そういえば・・・。私達を襲ってきた魔物だけで見ると、バラエティーに富んでいるわね」

「何者かが我々の戦力を分析するために、色々な魔物をけしかけていると考えた方が自然だと思うわけですね?」

「そうだ」


「「・・・・・」」


アラドとオーマの意見を聞いて、一同はこれまでの事を改めて振り返ってみる。

 そして、少しの間沈黙が流れた後、また誰からとは言わずに、ブツブツと皆で推理をし始めた。


「確かに、団長やアラドの意見には納得ができます。このタルトゥニドゥは、ただの魔物の住処じゃない。かつて魔王が居た場所だ。上級魔族すら使役または召喚できる者が居てもおかしくは無い」

「元魔王軍の指揮官とかか?でもよ、そんな奴が裏に居るなら、それはそれで疑問が有るぜ?そいつの目的は何だよ?何で本隊だけじゃなく、俺達も狙う?」

「フラン。まだ、本隊を襲った魔物と、私達を襲った魔物の主人が同一人物とは分かっていませんよ?」

「だとしても、初日のアイアンモールもそうなら、五日も俺達を付け回しているって事だぜ?なら本隊の存在も把握してるだろ」

「そうですね。我々の邪魔をするなら、本隊を叩けば良いわけですから、本隊を差し置いて、我々に攻撃を仕掛ける意味は無いように思えます」

「ロジの言う通りだ。我々はただの先行部隊。五日もじっくり時間を掛けて分析するのは奇妙に感じます」

「本腰入れている感じ」

「そうねー。裏に何者かが居たとして、もしそうなら、そいつの目的はこの先行部隊そのものって感じの動きよねー・・・・・なんで?」

「・・・・・それは、私かもしれません」


皆の疑問に、サレンがポツリと答えた___。

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