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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第三章:静寂の勇者ろうらく作戦
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霧の中の戦い

 視界の悪い霧の中でウェイフィーのSOSを聞いた一同は、一斉に声を張り上げた。


「ウェイフィー!!どうした!?」

「何があったの!?何処にいるの!?」

「信号を出せぇ!!」

「何度も出している!!誰かに襲われているの!!」

「なんだと!?こっちには届いていないぞ!?」

「・・・これじゃ、居場所が分からない」


既に何度も救難信号を出していたというウェイフィーの発言に、メンバーは焦り始める。



 そして、更にメンバーを焦せらせる事態が起きる。



「団長!!デティットの姉さん!!フランだ!!こっちも攻撃されている!!」

「フランもなの!?」


ウェイフィーとは反対の方向から、フランからもSOSの声が上がった。


「おい!!二人共!何に襲われている!?どんな攻撃を受けている!?」

「分からない!!何も見えない!!姿も数も分からない!!突然、炎魔法が飛んでくるの!!」

「こっちもだ!!水属性の攻撃魔法を仕掛けてくる相手だ!!正体は分かんねぇ!!」

「そんな!?」

「クソッ!___サレン様!索敵を!」

「もうやっています!でも、おかしいの!敵だけじゃなく、二人の反応も無いの!」

「敵だけじゃなく、二人も!?バカ言わないで!!」

「本当なんです!フランさんとウェイフィーさんも索敵魔法に引っ掛からない!」

「なんだと!?それなら・・・」

「阻害されていますね・・・もしかしたら、この霧・・・」

「探知阻害の防護魔法か!?」

「ただの霧じゃなくて、水属性の防護魔法か?何者かが我々を分断している!?」


 オーマ達の推測はかなり惜しい____。

この濃霧には、確かに生体反応や魔力反応を遮断して、探知魔法を阻害している場所が在る。

だが、水属性の防護魔法ではない。

 先に正解を言ってしまうと、防護魔法の霧なのではなく、普通の霧の中に防護魔法の効果を持つ霧の魔物が潜んでいるのだ。


 エレメンタルフォッグ____。

 ディディアルが召喚できる魔族の中で、グレーターデーモンやストーンバジリスクに並ぶ最高クラスの上級魔族だ。

霧状の魔物で、“エレメンタル”というだけあって、基本属性から派生属性までのどれかの属性を持ち、その属性魔法を扱える。

 ディディアルが召喚できるのは、基本属性のいずれかを持つエレメンタルフォッグだ。

派生属性のエレメンタルフォッグは、基本属性のエレメンタルフォッグの上位種になり、最上級魔族に分類されるので、ディディアルには召喚できない。

 今は、炎属性のエレメンタルフォッグと水属性のエレメンタルフォッグを召喚しており、エレメンタルフォッグ(炎)がウェイフィーに、エレメンタルフォッグ(水)がフランに攻撃しているわけだ。

 エレメンタルフォッグの体長(体積)は約九立方メートル程度で、とてもオーマ達からフラン・ウェイフィーが居る場所までを囲える大きさではないのだが、ディディアルは二体のエレメンタルフォッグに命じて、炎と水の魔法で水蒸気を作り、それを凝結させて霧を大量に発生させている。

皆が居る数百立方メートルの普通の霧の中に、二体の霧の魔物が隠れている状態というわけだ。

 霧の魔物なので、肉体が無いのが一番の特徴だろう。

物理攻撃が一切効かないため、魔法で攻撃するしかない。

また、エレメンタルフォッグの攻撃手段も魔法なので、防御にも魔法が必要になるだろう。

よって、攻撃にも防御にも魔法が必要なため、相手の魔法の技量を量るのに最適な魔物だ。

これが、前回アンデッドを使った襲撃で、先行討伐隊の魔法の技量を量るのに失敗したディディアルが、今回の襲撃でエレメンタルフォッグを選んだ理由だ。

 ここまで聞くと、かなり凶悪な強さを誇る魔物に聞こえるが、弱点も有る。それは攻撃だ。

攻撃があらゆる点で、他の上級魔族より劣る。

先ず、攻撃の種類が一つしかない。エレメンタルフォッグはその属性の攻撃魔法しか使えない。

よって、その属性の攻撃魔法を防ぐ術を持つ相手を仕留めるのは、かなり難しい。

さらに、その攻撃魔法も中級程度で、術式の展開速度も速いわけではないので、威力と速度も平凡だ。

 そして、ワンパターンだ。

エレメンタルフォッグには知能というものが無い。

自身の霧に入り込んだ相手に攻撃魔法を打つという、機械的な攻撃しかせず単調だ。

 倒すのが難しく、相手を惑わせるのには非情に向いている魔物ではあるが、殲滅力はあまりない。

フランとウェイフィーが孤立させられて、一対一で戦う羽目になっているにも拘わらず、未だに二人共生きているのがその証拠だ。

ストーンバジリスクのポイズンブレスの様に、一撃でサンダーラッツの幹部を戦闘不能にする火力はエレメンタルフォッグには無い。

最も、ディディアルの目的がオーマ達の戦力分析なので、火力は別に必要ない。

それに、まだ霧の正体すら分かっていない先行討伐隊の面々にとっては、強敵である事には変わりない。


 広く濃い霧の中で敵の正体を知らないオーマ達は、自分達も襲われると考えてしまい周囲を警戒しているため、迂闊に二人の救助に向かえず、フランとウェイフィーは消耗していく一方だった。

 特に、相性の差でウェイフィーの消耗の方が激しかった。

 フランは風属性の魔法で、一部だが霧を払うことができ、エレメンタルフォッグ(水)の攻撃も防げている。

本人も状況を理解し、皆が助けに来るまで無理をせず、最小限の力で身を守ることに専念している。

そのため、フランはある程度体力と魔力の消耗を抑えられている。

 だが、ウェイフィーの方はそうは行っていない。

ウェイフィーの持つ属性は、水、土、そして土から派生した樹属性だ。

三つとも霧を払うのには向いていない。さらに、一番得意な樹属性は炎属性とは相性が悪い。

三つの属性の中で、炎魔法を防ぐのに向いているのは水属性だが、そこまで得意ではないため、術式速度が追い付かず防ぎ切れない。

それに防げても、水と炎で相殺した時に水蒸気が発生して、霧を増々濃くしてしまう事になる。

じり貧の状態が続き、仲間からの救援はまだ来ない。


「待ってろ!二人共!」

「クシナ!そっちはどうだ!?」

「無理です!蒸発させても、またすぐに霧が発生します!」

「やはり、何者かが故意で発生させている霧ですね」

「クソッ!!敵はどこだ!?」


 オーマ達は、二人を見つけるため炎魔法で霧を蒸発させたり、風魔法で霧を払ったりしているが、霧はまたすぐに発生してオーマ達の視界を覆ってしまう。

サレン辺りが本気を出せば全て払えるだろうが、その場合はフランとウェイフィーも無事では済まないだろう。


 オーマ達が霧を払えずに苦戦している間に、ウェイフィーは自身の体力と魔力の限界を感じ始めていた。

ウェイフィーは追い詰められたこの状況で、一旦メンバーとの連携を諦め、身を隠すことを考える。

 そして、土属性の魔法を駆使して、炎魔法と霧から身を守るため、土中に潜った____。

堂々と土中に潜ったので、敵が近くに居ればまる見えだが、それで良かった。


(もし、霧と炎が届かないこの土の中に追撃してくるなら、敵の姿が見えるはず・・・!)


ただ身を守るだけではなくて、未だに正体が分からない敵を誘う意味も含めた行動だった。

だが、ウェイフィーのこの行動は、どちらの意味でも、ウェイフィーの予想通りには行かなかった。


____ゴォオオ!!


「___!?」


ウェイフィーが潜っていた土の中から、突然炎が吹き荒れる___。


「___ィイヤアアア!!」


「「ウェイフィー!!」」


全く予想していなかった展開にウェイフィーは反応できず、エレメンタルフォッグ(炎)の攻撃魔法の直撃を受けてしまった。

明らかに大ダメージを受けたと分かるウェイフィーの叫びに、メンバー一同からも悲鳴が上がる。

 エレメンタルフォッグの魔法が中級程度とはいえ、無防備な状態で受ければ、人間では一溜りもない。

帝国軍の装備の性能のおかげで即死こそ免れたが、ウェイフィーは重傷を負ってしまった____だが。


(・・・そういう事!?)


その代わりと言ってはなんだが、この攻撃でウェイフィーは敵の正体に気が付いた。

ウェイフィーは炎に焼かれながらも、この事を皆に伝えるため、再び慣れない叫び声を上げた。


「霧!敵の正体は霧だよ!!霧に隠れているんじゃなくて、霧が魔物なの!!」


「「___!?」」


姿も見せず、あの状態の自分に土の中から攻撃するなど、他に答えは無い。

土中に潜ったときに、一緒に入り込んだ霧こそが敵だったのだ。


「霧状の魔物!?エレメンタルフォッグか!?」

「この霧全部が魔物ってこと!?」

「いや、違う!それなら俺達も攻撃されている!フランは水で、ウェイフィーは炎で攻撃されているから、霧の魔物がこの霧を作っているんだ!!」

「霧である自分を隠すため、二体で霧を発生させているのか!?___なら!」


ウェイフィーの言葉を切っ掛けに、意識が覚醒したメンバーたちは敵の正体と状況を掴む。

そして、デティットは即座に指示を出した。


「フラン!!私達の声のする方へ走って来い!!敵が霧なら振り切れるはずだ!!」

「了解!!___ハイウィンド・アーマー!」


何者かが霧の中に潜伏しているワケでないのなら、仲間との合流を邪魔されることは無いはず。

敵の正体が分かり、周囲を警戒する必要が無いと分かったデティットは、フランに強引に霧を突破するよう指示を出す。

指示を受けたフランは、中級レベルの風の防護魔法を身に纏うと、周囲には目もくれず走り出した。

 そして、デティットは更にウェイフィーの救出に向かうための指示も出す。


「私とサレン様とイワナミでウェイフィーの救出に向かう!残りはここで、フランと合流しろ!」


「「了解!」」


「オーマ!そちらの指揮を任せる!」

「分かった!ウェイフィーのこと頼んだぞ!」

「ああ!行くぞ!二人共!」

「はい!」

「了解!」


デティットが風魔法で霧を払いながら強引に霧の突破を始め、ウェイフィーの声がした方へと向かって走る。

サレンとイワナミもその後に続いた。


 フランは潜在魔法で強化した足で、二百メートル程の距離を十秒も掛けずに駆け抜けて、エレメンタルフォッグ(水)を振り切りオーマ達と合流することができた。


「よし!後はこの霧を打ち払う!ロジ!クシナ!」


「「了解!」」


 ロジとクシナが、風の魔法で霧を払い始める。

ロジは普段、風属性の魔法を使わないので勢いがあまり無いが、炎だけでなく風の練度も高いクシナはどんどん霧を払っていく。

だが、相手もまた直ぐに霧を発生させてきて、イタチごっこの状態になった。

 敵が霧で、しかも探知魔法を阻害できるため、この霧の中では居場所を特定するのは難しい。

だからオーマとしては、この霧を晴らして敵の居場所を突き止めたいが、霧を払い切ることができない。

ならば、この霧の発生を止めたいところだが、その敵を見つけなければ霧の発生を止められない。

決め手に欠ける膠着状態になり、オーマは頭を悩ませる。


 オーマ達がそんな状態になった一方で、デティット達の方は、この事態を好転させようとしていた。


「居た!!ウェイフィーだ!イワナミ!」

「了解!___フレイム・ウォール!」


 デティットが風魔法で霧を払い進んだ先で、地面に倒れているウェイフィーを発見する。

イワナミはデティットの指示で、予め準備していた敵と同属性の炎の防護魔法でウェイフィーを守る。

それから近寄って、ウェイフィーの容体を確認し、生きている事が分かると、直ぐにデティットが聖騎士らしく風の癒しの魔法で治療を始めた。


「サレン様!」

「はい!」


 イワナミが護衛、デティットが治療となれば、迎撃はサレンだ。


「よくも私の仲間を!許せない!」


 ウェイフィー達を背にして、サレンは魔法術式を展開する。

怒るサレンが展開した魔法術式は四つ。上級クラスの土と水と風の魔法術式と、中級の炎魔法の術式だった。


「___な!?」


四つの属性を同時に扱うサレンの姿に、遠くから見ていたディディアルは思わず声を上げる。

その主人の声に反応するように、エレメンタルフォッグ(炎)が炎魔法を仕掛ける_____これでサレンの勝利が決まった。

霧自体が敵と判明している以上、迂闊に魔法を使えば、自身の居場所を教えているような物だ。

知能の無いエレメンタルフォッグでは、居場所を悟られないように攻撃する事などできない。

 サレンは見逃すこと無く、しっかりと敵の居場所を見極めた。


「フレイム・ウォール」


サレンはエレメンタルフォッグ(炎)の攻撃を、同属性の壁で受けて相殺する。


「アース・ドーム」


続いて、土属性の魔法でエレメンタルフォッグ(炎)が居る場所にドームを作り、エレメンタルフォッグ(炎)を閉じ込めた。

そして___


「アクア・ランチャー!」


高出力の水弾をドームの入り口に放り込んだ___。


___ボジュウウウウ!!


ドームの中で、炎が沈下する音が響き渡り、霧の魔物エレメンタルフォッグ(炎)は水蒸気となり、最後は本当の霧になってしまった。


「___ハイウィンド!」


サレンは仕上げに、風魔法で周囲の霧を晴らした___。


 サレンがエレメンタルフォッグ(炎)を倒し、霧を晴らしたことで、オーマ達の事態も好転する。

霧を増やすことができなくなったことで、クシナとロジにどんどん霧を払われて、エレメンタルフォッグ(水)はその居場所を特定されてしまう。


「___居た!あそこです!」

「もらった!フレイム・キャノン!」


 オーマは待ちわびたと言わんばかりに、準備していた炎魔法でエレメンタルフォッグ(水)を蒸発させて、決着をつけた。

先行討伐隊は、途中ウェイフィーが戦闘不能になるも、再び上級魔族相手に勝利を収めたのだった___。

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