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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第三章:静寂の勇者ろうらく作戦
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サレンの仲間意識

 グレーターデーモン率いる魔獣部隊の掃討を終えた探索本隊。

その後は、魔獣の群れの襲撃を警戒して、今まで以上に慎重に先を進むことになった。

スケジュールも見直して、八~九日の予定を一日ずらして、九~十日で目的地に着くようにスケジュールを組み直す。

 ディディアルの存在を知っているカスミとしては、ディディアルの目的がサレンである以上、これ以降はディディアルからの襲撃は無いと分かっている。

更に、スカーマリスから来たディディアルが、これだけ好き勝手に動いているにも拘らず、現地の魔族が動く気配がない事から、彼らはこの件に対しては静観するのだろうと、カスミは判断している。

なので、個人的にはスケジュールを遅らせる必要は無いと思っているのだが、ディディアルとオーマが繋がっている可能性が有る以上、ディディアルの存在の事も、ディディアルの存在を知った事も、カスミは明かすことができない。

 そういうわけなので、隊長の立場ではあるカスミだが、このスケジュール変更を受け入れるのだった。

本隊の行軍を遅らせたのは、準備時間が欲しいディディアルがあの戦いで唯一挙げた戦果だろう。


 そして、本隊がこの決定をしたということは、オーマ達先行討伐隊もこれに従うことになる。

先行討伐隊のメンバーで、この決定に不満を漏らす者はいなかった。

本隊から魔獣の群れの襲撃の報告を聞けば、それは当然の事だろう。

本隊から報告を受けてからは、先行討伐隊もまた今まで以上に慎重になり、索敵範囲を広げて進むのだった。

 そうして行軍する一行だったが、先行討伐隊も探索本隊も、探索四日目はそれ以降、魔物の襲撃は無かった。

これも当然と言えば当然で、上級魔族も含め百体を超える魔族の召喚は、膨大な魔力を持つディディアルの魔力さえ空にするものだったからだ。

そのため、次にディディアルが先行討伐隊に魔物を差し向けられたのは、魔力が回復した次の日だった___。






 探索五日目の午前____。

 先行討伐隊は前日と同様に、索敵範囲を広げながら慎重に進んでいた。

だがこの時は、三日目、四日目と同じで、魔獣と遭遇する事はなった。


 お昼の食事と休憩も手短に済ませ、時間は午後に入る___。

 しばらくの間は再び順調に進めていたが、途中で今度は別の問題が浮上した。


「・・・霧が濃くなっているな」

「ああ。先の道が見えなくなってきている・・・」

「ねぇ、デティット、アラド?前回来た時はこんな霧あったの?事前には聞いてないんだけど」

「いえ。前回ここを通った時は、ここまでの霧はありませんでした」


 高度三千メートル近い山脈なので、山中に霧が出るのは当然なのだが、ここ数日で出た以上の濃い霧が発生している。

ここがただの山道なら、メンバーは皆山登りに慣れているので、そこまで気にする必要は無いかもしれないが、この地がタルトゥニドゥであることと、昨日の魔獣の群れの報告を聞いて慎重になっていた一同は、この事に少し過敏とも言える反応をしていた。


「___止まれ!」


 だがデティットは、今は過敏なくらいが丁度良いと考え、一旦隊の足を止めた。


「この霧の中を進むのは危険だ。しばらく待機して、霧が晴れるのを待とう」

「賛成だ。少なくとも、斥候に出ているフランとウェイフィーが戻って来るまでは待機で良いと思う」

「そうね。この濃霧で単独行動は危険だものね」

「・・・」


デティットの提案に、オーマとヴァリネスが賛成意見を出し、アラドも頷いて同意する。

指揮官四人の意見が一致したとあっては反対する者はおらず、一同は斥候に出ている二人が帰って来るまでの間、早目の休憩に入った____。




 一行が休憩に入ってしばらく経ったが、フランもウェイフィーも戻ってくる気配が無い。


「・・・お二人とも遅いですね。もう帰って来ても良いはずですが・・・大丈夫でしょうか?」


 サレンが二人を心配する声を出す。その表情には不安が有り有りと出ていた。

元々が優しい性格な上、ここ数日で仲間意識も芽生えてきているため、本当に二人を心配しているのが皆には分かった。

 そんなサレンにオーマが声を掛ける。

普段、サレンが不安や心配を抱えている時に励ますのはデティットかアラドだが、今はオーマがその役目だ。

サレンに対してなので、オーマは不自然にならないくらいで、いつもより少し優しく穏やかな口調で話した。


「大丈夫だよ、サレン。フランもウェイフィーも一見頼もしく見えないが、二人とも優秀な戦士だ。特に隠密に関してなら、この二人がウチのツートップだしな」


 オーマのこの言葉にウソは無い。

 フランは、性格はああでも能力は一級品だ。特に、潜在魔法RANK4で肉体の神経まで強化できるのが強みで、この魔法で感覚を鋭くできるのは、戦闘より隠密でこそ、その真価を発揮する。

神経を強化して、周囲の気配を察知する能力と俊敏性が上がったフランを仕留めるのは、例え上級魔獣でも容易ではない。

実はフランは、しぶとさにも定評があるのだ。

 ウェイフィーも、信仰魔法の属性を水、土、樹とサバイバル向きの属性で揃えており、トラップなどを活かせる入り組んだ地形での戦闘が得意だ。

密林の中での戦闘なら、オーマやヴァリネスにさえ勝利でき、隊長達の中では頭一つ抜けた強さを持っている。

岩肌むき出しの禿げたタルトゥニドゥ山脈でも、その力は遺憾なく発揮されるだろう。

 この二人なら、このタルトゥニドゥでも、ちゃんと斥候としての仕事をして生きて戻るとオーマは信じている。

もし、この二人で斥候が務まらないのなら、サンダーラッツがタルトゥニドゥで先行部隊の仕事をするのは不可能だろう。


「でも・・・本隊からの報告でも上級の魔獣が現れています。フランさんとウェイフィーさんの実力を疑うつもりは無いのですが・・・やはり心配です」


確かに。先のストーンバジリスクなどなら、二人でも一対一は分が悪いだろう。

だが、それでもオーマの気持ちは変わらない。


「それでも大丈夫だ。二人共、自分ができる範囲と引き際は判断できる。格上の相手と出くわしても、必ず生きて戻って来るさ」

「すごい自信ですね・・・」

「自身じゃなくて信頼だよ。共に生きてきた仲間だからね」

「仲間・・・フフッ♪では、きっと大丈夫ですね。私も信じます♪」


オーマの“仲間”という単語でサレンは笑顔を見せた。

 ここ数日で、サンダーラッツにも興味を持ってくれたサレンだが、その会話の中で一番サレンが良い反応を見せるのが、“仲間”という単語が出た時だ。

 これまでのサレンには、“仲間”といった人間関係は存在し無かった。

デティットとアラドとの関係が限りなくそれに近いが、二人がサレンを敬って自分達より上に置いている以上、サレンの思う“仲間”という関係にはならないだろう。

 サレンの思う“仲間”とは、もっと対等で、より近しく、共に生き、共に笑い、共に支え合うといった関係・・・サレンの中での“仲間”とは、そういう人間関係を表す言葉のようだった。

誰か一人が矢面に立ち、責任や期待を背負う___といったモノとは反対の意味になる言葉だ。

 サレンの力は強い。本人も自覚している。そして正義感も強く、思いやりも強い。だからその力を、世のため人のために役立てたいとは思っているのだ。

だがそれでも、全てを背負わされるのはツライ・・・頼られるのは嬉しく誇らしいが、頼られ全てを任されるのはツライ・・・これがサレンの本音だ。

 デティットもアラドも、いや、ひょっとしたら他のゴレストとオンデールの者達も、サレンにそこまで負担を強いるつもりは無いのかもしれないが、今の国の状勢と、それに対する一人一人のサレンへの期待が積もって、サレンはそんな気持ちを抱える様になってしまっていた。

そんな気持ちを抱えるサレンにとって、オーマ達の関係性は羨ましく、興味深いものだった。



 サレンがオーマ達から聞いたサンダーラッツの武勇伝。

大国の強敵との戦いに、遠征道中の自然の過酷さ、魔族との戦闘と、その内容は凄まじいものだった。

正直に言えば、聞いていて耳を塞ぎたくなる内容(オーマ達はできるだけ表現を柔らかくしたつもりだった)もあって、話自体にはあまり関心が持てなかった。

だが、どの話をしていても、問題や失敗があったとき、誰も本気で誰かを責めることも無く、お互い最後には冗談と笑いで許し合っていた。

今、自分が苦しんでいる責任や期待のプレッシャーを、明るく、当たり前の様に皆で分け合う姿を見たのだ。

 サレンはサンダーラッツの武勇伝を聞いて、オーマ達のその仲間意識と人間関係に憧れを抱いたのだった。

 そんな訳で、サレンもオーマに倣い、“仲間”意識を持って二人を信じて待つと心に決める。

共に信じて待つと決めて笑顔を見せるサレンに、オーマ達の中で温かい感情が芽生えてくる。

そうして、その場には穏やかな雰囲気が流れていた___。



 だが、その雰囲気を壊したのは、その“仲間”からのSOSだった。



「団長!!皆!!助けて!!」


 一瞬、誰だか分からない人物からのSOSは、ウェイフィーからのものだった。

普段、大声を出さないウェイフィーの空気を裂く様な悲鳴で、メンバーに緊張が走った____。

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