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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第三章:静寂の勇者ろうらく作戦
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探索本隊VSディディアル軍(3)

 ポイズンブレスの直撃を受けて平然としているだけでなく、その細身の体でストーンバジリスクの硬い皮膚を砕き、その巨体を殴り飛ばしたジェネリー。

ストーンバジリスク、オンデール兵、ディディアルと、周囲がジェネリーのその異常さに驚いている中、驚かせたジェネリー本人は至って冷静だった。


「ふぅ・・・良かった。この魔獣に襲われたのが私で。先頭のオンデールの部隊が襲われていたら、どうなっていたか・・・」


そう言いながら心を落ち着けて、ストーンバジリスクが戦意を無くしているのを確認すると、止めを刺す前に周囲を見渡して伏兵が居ないかを警戒する。


 すると、前方の進行ルートの方から土煙が上がっているのが見えた。


「新手!?」


ジェネリーは上がる土煙に目を凝らす。すると、先頭を走る生き物の姿を捉えることができた。


 四足歩行の黒毛の牛の様な姿をしている。

だが、牛ではない。遠目だが、体格が通常の牛の倍以上の大きさだ。

 一番特徴的なのが角だ。

馬上槍試合に用いられるランス槍の様な太く長い角をしている。

その角には人の血管の様な筋があり、その筋は微かに赤く光っている。魔力を宿した角だ。

 ジェネリーは魔獣に詳しい方ではないが、その特徴ある角を持つ魔獣の事は、軍学校で習って知っていた。


「グレイトホーン!?____ッ、正面からグレイトホーンが多数接近!!」


 ジェネリーは、直ぐにオンデール兵達に向かって叫ぶ。

そしてオンデール兵達も、それを聞いて直ぐに迎撃態勢を取る。

 もし、ジェネリーが居なかったら、先頭のオンデール兵士達はストーンバジリスクの挟撃を受けた挙句、混乱しているところにグレイトホーンを押し込まれていただろう。

そうなれば、オンデール兵二百は十秒も持たずにズタズタにされていただろう。

だが、ジェネリーがストーンバジリスクの攻撃を受けながらもカウンターを入れて戦意を奪い、さらにグレイトホーンの襲来を知らせたことで、オンデール兵達は十分な態勢で敵を迎え撃つことができるのだった。

 そしてこれは、他の隊にも同じ事が言える。

ジェネリーが偶然(の様にカスミが見せかけて)囮になり、魔獣の襲来を知らせてもらえたことで、他の部隊も余裕を持って魔獣に対処できていた。


 後衛の帝国軍は背後から忍び寄っていたヘルハウンドを見つけ出せた。

ヘルハウンド四十体に、帝国軍三十人___。

数の上ではヘルハウンドの方が多いが、大陸一の軍事大国の精鋭であり、ヘルハウンド以上の魔獣とも戦ってきた帝国軍精鋭にとっては不利になる数ではない。

不意を突かれなければ、余裕で戦える相手だ。

実際、ヘルハウンドと帝国軍精鋭の戦いは、ヘルハウンドだけが一方的に数を減らしていく___。


 中央で非戦闘員を守るゴレスト兵も同じだ。

相手はマーダーパイソンが十体。身体の太さが一メートル以上あり、全長は八~十メートルの樹木のような大きさの蛇だ。

紺色の体に黄色い斑模様があって、毒々しい見た目をしている。

その見た目通りに猛毒を持っていて、人間なら噛まれれば数分で息絶えてしまうだろう。

十体とはいえ、もし、オンデール兵達が潰されて、ゴレスト兵がグレイトホーンの相手をすることになっていたなら、地を這って毒牙で襲ってくるマーダーパイソン達は最悪の伏兵になっていただろう。

だが、襲われる前にマーダーパイソンを察知したゴレスト兵は、動じることなく安定した戦いぶりを見せ、着実にマーダーパイソンを削っていった___。




 ディディアルはその様子を、苦虫を噛んだ様な顔(顔は無い)で見ていた。

 本来、襲撃が成功していたなら、ストーンバジリスクの挟撃で前衛のオンデール軍を混乱させ、グレイトホーンが粉砕。

そのまま、中衛のゴレスト軍へと雪崩込み、ゴレスト軍がこれを迎え撃とうとしたところに、マーダーパイソンが横撃して陣形を崩す。

そうして、ゴレスト軍を追い込めば、後衛の帝国軍が非戦闘員を守るため援護に来る。

そこをヘルハウンドとハーピィが乱戦に持ち込んで潰す。

個の強者はストーンバジリスクとグレーターデーモンで各個撃破____という流れだった。

だがそれが、最初のストーンバジリスクの不意打から予想していた展開から外れてしまった。


 不意を突けないのなら、有力な戦力はストーンバジリスクとグレイトホーンくらいだ。

だが、そこには“源流の英知”に匹敵する個の存在が居て、ストーンバジリスクとグレイトホーンなど物ともしていない。

ヘルハウンドも、相手がオンデールやゴレストならば活躍するだろうが、帝国の精鋭相手では分が悪い。

 作戦を練っている時は、相手を全滅させないように___などと、余裕に考えていたが、蓋を開けてみれば苦戦させることすら難しかった。

ディディアルは既に勝利を諦めているが、生物の本能か魔族の意地か、魔獣部隊に一矢報いてほしいと願う様になっていた。


 そして、その願いを空に居るハーピィ部隊に託す。


「____空からならば!」


 空からの攻撃なら部隊の陣形は余り効果が無い。

対空迎撃手段がなければ、ハーピィ達は縦横無尽に暴れ回ることができる。

敵の中でちゃんとした対空迎撃ができるのは、弓矢を持っているオンデール軍と魔法砲撃ができるまで魔術練度を上げている帝国軍精鋭だけだ。

そして、そのどちらも現在戦闘中な上、ハーピィ達の狙い(ディディアルの作戦)は非戦闘員だ___。



「お、おい!空から魔物だ!!」

「ど、どうすんだよ!!軍の人達は!?」

「まだ戦闘中だよ!!」

「ゴ、ゴレストの人達は手が空いているだろ!?」

「でも空からじゃ、どうにもなんねぇって!!」


 もちろん、非戦闘員を殺してしまえば基地の設置が行えず、作戦を中止させてしまうので、ハーピィ達に非戦闘員を襲わせる気はディディアルには無かった。

ハーピィ達を彼らの所に向かわせたのは、敵兵に救助させて戦力を分断したり陣形を解除させたりすること、非戦闘員を襲うと見せかけて救助に来た敵兵の不意を突く、等といった用途のためだ。

 だが、ディディアルはこの状況で唯一勝算の立つ作戦を思い付き、ハーピィ達に指示を出した。


「ハーピィ共!武器を持っていない者達を捕獲しろ!人質を取るのだ!!」


ディディアルの指示を受け、空中を旋回しながら様子を見ていたハーピィ達が、非戦闘員達に向かって急降下を始める。


「ヒ、ヒィッ!?」

「来るぞ!!」

「速い!?」


非戦闘員達は悲鳴を上げて、オロオロと逃げ惑いだす。

その姿にディディアルは嬉々とした表情(やっぱり顔は無ない)を浮かべる。

そして、作戦は上手く行くに違いないと希望を湧かせたその時、その希望を絶望へと変える雷鳴が響き渡った___。


_____ズガガガァアアアアアンンン!!バリバリバリ!!バチバチバチィイイイ!!


「「___!?」」


 雷が落ちて、一瞬ハーピィ達が雷の牢獄に閉じ込められた様な光景が出来上がる。

ディディアル含め周囲の者達は、全く理解が追い付いていなかった。

殆どのハーピィ達が黒焦げになって地面に落下していく中、生き残った数匹のハーピィ達が混乱しながらも逃げようとする。

 そのハーピィ達への追撃の雷を見て、ディディアルはようやく事態を把握できるのだった。


_____バリバリ!!ズガガァアアアアン!!バチバチバチィイイイ!!


先程と同じく、空中で広がっているハーピィ達を閉じ込める様な広範囲の雷。

雷に触れたハーピィ達を一瞬で黒焦げにし、羽虫の様に打ち落とす高威力の雷。

ディディアルは、二度目の今度は、雷が“落ちた”のではなく、“打ち上がった”のをハッキリと見たのだった。


「な、なんだ・・・メイドだと?」


ディディアルは、雷を打ち上げた者の姿に戸惑いを見せる。


「なんで、メイドがあんなに強いんだ?・・・いや、なんで、あんなに強い奴がメイドをしているんだ?・・・アイツも“源流の英知”と同格か?」


少し頭が混乱していたが、冷静さが戻って来ると、先の二発の電撃魔法でディディアルはそう判断する。

威力、範囲、術式速度と、どれもが常人のレベルでは無かったのだ。


「・・・・・」


ディディアルは呆然とした表情で(もちろん顔は無い)一瞬で全滅したハーピィ達を眺める。

そこから、他の状況も確認してみれば、他でも魔獣達の掃討が済んでいた・・・・敵に被害は全く出ていない。


「・・・・・」


あまりの戦力差にディディアルは絶句する。ディディアルにあの部隊を倒す術など無い。


「・・・行け。グレーターデーモン・・・」


ディディアルに後できるのは、この魔獣の襲撃の首謀者として足が付かないよう、グレーターデーモンを囮にする事だけだった___。




 カスミの期待通りに仕事を終えたジェネリーとレインが、カスミの下に戻って来る。


「戻りましたカスミ様」

「同じくです」

「お二人共、ご苦労様でした。申し訳ありません。私が余計な指示を出したばかりに、お二人を危険な目に遭わせてしまいました・・・」

「お気になさらないでください。そのおかげで、あれだけの魔獣の群れを相手に被害を出さずに済んだのです」

「そうです!民間人の方にも被害が出ていたかもしれませんから、むしろナイスタイミングでした!」

「そう言って頂けると安心します。お二人とも頼もしいですね。___では、後は仕上げだけですね」

「仕上げ?」

「まだ何か有るのですか?」

「この魔獣の数と種類です、自然にできた群れではないでしょう。上級魔獣も居ましたし、統率している者が居るはずです」

「なるほど」

「では、その首謀者を逃がさず、炙り出す必要が有りますね。どうしますか?」

「今、ナナリーさんに索敵をお願いしています。どうですか?ナナリーさん?」

「それが・・あ!いえ!来ます!高い魔力!恐らく上級魔族が一体、北東の空からこちらに向かってきます!」


ナナリーの言葉を聞いて三人が北東の空を眺めると、蝙蝠の様な羽をはためかせながら、こちらに向かってくる悪魔の存在が見えた。


「あれは・・・グレーターデーモンですね」

「奴が首謀者か!?」

「他の者達では強敵になりますね。被害が出ない様に私達で仕留めましょう。よろしいですね?」


「「はい!」」


カスミの指示の下、四人は兵士達を巻き込まない様に本隊から離れ、グレーターデーモンを迎え撃ちに行った。

 そして、お互いがもうすぐ接触するかという所の手前から、グレーターデーモンは先制攻撃のために炎属性の魔法術式を展開する。


「私が防御します!」


カスミはそう言うと、グレーターデーモンの魔法術式に合せ、水属性の魔法術式を展開した。


「ナパーム!」

「アクア・ドーム」


グレーターデーモンが自身の最強攻撃魔法を発動し、火の玉の雨を降らせる。

これに対してカスミは、四人を守るため、水属性の防護魔法を発動し、薄い水の膜のドームを作った。


___ドドドドドドドドド!!


火の玉の雨が水膜のドームに降り注がれると____ボジュゥウウウ!!と音を立てて水が蒸発し、湯気が立ち込める。

火の玉の雨が全て降り終わる頃には、カスミ達が居た周囲は濃い霧で覆われていた。


「愚かなり!人間!!ここは我ら魔に属する者達の地よ!貴様らが足を踏み入れて良い所ではない!早々に立ち去れ!!これ以上進むなら、先程の下僕では比較にならん魔の物達のアギトで噛み砕かれると知れい!!」


グレーターデーモンは、空から下の濃霧に向かって、主人に言われた通りの口上を述べた。


「魔に属する者達の地?変ですね。この地は、元はドワーフの地のはずです。ドワーフに立ち去れと言われるならまだしも、魔族に命じられる言われはありませんね」


グレーターデーモンの言葉に、濃霧から女性の声の返事が返って来る。

 すると、それを合図にしたかの様に霧が晴れ、グレーターデーモンとディディアルの視界には、先程と変わらぬアクア・ドームで守られた四人が映った。


「「チッ!」」


 グレーターデーモンとディディアルは、示し合わせたかのように同時に舌を鳴らした。

グレーターデーモンの最強魔法でダメージを与えるどころか、防護魔法を突破することすらできていない。

しかも、“源流の英知”と同格とみられる二人とは別の人物の魔法によって防がれた。


「あのエリストエルフが指揮官か?あ奴も只者ではない。あの二人と同等・・・いや、リデルと同等か?・・・私より強い・・・これは何としてでも、こいつらと先行部隊が合流する前に、“源流の英知”を奪わなければ!」


 ジェネリーが登場した最初から、本隊と先行部隊が合流してから戦うのは避けるべきと考えていたが、レイン、カスミと、立て続けにサレンに匹敵する強者が現れ、ディディアルは完全に本隊と戦う気を無くした。

 そして、作戦方針を本隊と合流する前に先行部隊を叩くと決める。

作戦も覚悟も決まると、ディディアルは一秒でも準備の時間が欲しくなり、グレーターデーモンの事を放ってその場を立ち去った____。


「ウォオオオオオ!!」


 主人に見捨てられても、グレーターデーモンは主人の命に従い、カスミ達に立ち向かって行った。

だが、上級悪魔という強者でありながらも、カスミ達を相手にするには非力過ぎた。

グレーターデーモンは、直ぐにレインの電撃魔法に打たれ、地上に落とされる。

何とか無事に着地できたが、そこをジェネリーの剣で真っ二つにされ、決着はついた___。

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