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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第三章:静寂の勇者ろうらく作戦
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探索本隊VSディディアル軍(1)

 タルトゥニドゥ探索三日目____。

昨日の強敵との遭遇や戦闘回数の多さを踏まえ、先行討伐隊の一行は昨日よりさらに注意して先を進む。

だが、肩透かしと言うべきか、三日目は上級魔獣どころか魔物との遭遇自体が無かった。

 理由は、ディディアルがオーマ達の目的を探るため、現地の魔族と接触していて攻撃してこなかったからだ。

だが、先行討伐隊の一行はそうとは知らず、この事実に、「今日は魔物と出くわさなくてラッキー」、「昨日が異常だったのでは?」といった会話をするのみだった。

結局、一日かけて進行ルート上の近くに在った魔物の巣を一つ駆除しただけで三日目の探索は終了した。


 特にこれといった問題も無く三日目の探索を終えて、迎えた探索四日目____。

この日も先行討伐隊は、いつもと変わらぬ朝を迎える。

いや、サレンがオーマを中心に、サンダーラッツに対して心を開いて来ているという点では良い変化が起きているのだが、探索に関しては特に変化は無かった。



 変化が起きていたのは探索本隊の方だった___。



 先行討伐隊の後方約四.五キロ地点で、カスミたち探索本隊は野営している。

その様子を、ディディアルがカラスに似た魔獣を使って、二キロほど離れた所で見ていた。


「・・・あの腑抜け共が!」


 本隊の様子を見ながら、ディディアルはそう吐き捨てる。

だが、野営している者達に対して言ったのではない。

昨日会った、この地の魔族達に対して言ったのだ。

 昨日ディディアルは、オーマ達との決戦に向けて戦力を増やす事と、オーマ達の目的を探るという二つの理由で、この地に住む魔族達に接触した。

だが、この地の魔族達は、ディディアル達の前の代の魔王軍の者達で、前魔王配下のディディアルが百年経って腑抜けていたように、彼等もまた同じ様に・・いや、ディディアルから見て、それ以上に腑抜けになっていた。

そして、サレンを恐れて、戦いに参加することを拒んだのだった。

 ディディアルはそれに対して、自分の事を棚に上げて憤慨したが、この地の魔族達が何故サレンの存在を知っていたのか事情を聴くことによって、オーマ達の目的と目的地を知ることができた。


 この地の魔族が言うには、サレン達は前にもこの地に足を踏み入れて、ドワーフの遺跡まで足を延ばして来たという。

そこから更にサレン達が以前来た時の進行ルートを聴き、そのルートが今回のルートと同じだと分かると、ディディアルの中で答えが出た。


 彼らの行き先は、前回と同じドワーフの遺跡で、その目的は拠点作りだ___と。


 オーマ達が先行して魔物や魔物の巣を狩っているのは、本隊が魔物に襲われる被害を減らすためだろう。

ディディアルは、この地の魔族達を戦力に加える事には失敗したが、オーマ達の目的は分かったので、自身の作戦方針は決めることができた。

 となれば、後必要なのは相手の戦闘データだけである。

当然、この探索本隊の実力も知りたいところだった____。


「数はおよそ千。だが、武装していない者が二百五十人程いる。基地を作る作業員か?ダークエルフが約二百。ゴレスト兵が約五百。数はそれなりだが、こいつらは大した事ないだろう。問題は____」


 ディディアルは、魔獣に一番大きな天幕の様子を見るよう、意思を送る。

そうして、魔獣を介してディディアルの脳に映し出された光景には、本隊の一番大きな天幕(カスミの天幕)の周辺に、三十人ほどの見慣れた鎧を着た騎士たちが映っていた。


「___チッ!・・・ドネレイム帝国軍」


 ディディアルは苛立ち、舌打つ。

ディディアルにとっては忌まわしき存在。自分の野望を砕き、今なお番人の如くスカーマリスの魔族達を監視する者達だ。


「しかも、あの鎧は精鋭の方だ・・・厄介だ」


 ディディアルは帝国の強さを知っている。

先日、オーマ達の戦いぶりも見ているし、なにより昔とはいえ自分自身でも戦った経験が有る。

それらの経験で、帝国の精鋭は、連携すれば上級魔獣さえ屠る連中だ。

いや、個人で上級魔獣と渡り合う者さえいる場合がある。三十人とはいえ、侮れる相手ではない。

“源流の英知”がいる先行部隊が相手の勢力の中で精鋭なのは間違いないだろうが、だからといって本隊が弱いとは限らない。

さすがに“源流の英知”ほどの者は居ないだろうが、他の先行部隊の隊員以上の“個”の存在がいる可能性は有る。


「・・・・・」


 ディディアルは本隊の戦力分析について考える___。

できるなら、じっくり調べたいところではある。

だが、本隊の行軍速度と目的地までの距離を計算すると、あと四日ほどで到着する距離で、魔獣を差し向け行軍を遅らせて五日といったところだ。

 本命の“源流の英知”を持つダークエルフの娘とその部隊の分析もまだ足りないし、罠を張る時間も要る。

それには魔力も膨大に使うので、分析と準備を終えたら魔力の回復だってしたい。

なので、この本隊の分析に掛けられる時間はあまり無い。


「本隊と合流する前に先行部隊を叩くという選択も有るしな・・・」


 ディディアルの目的はダークエルフの少女を殺して、“源流の英知”を奪う事。この部隊を殲滅する必要は無い。

時間を掛けて万全を期して本隊も先行部隊も相手にするか、時間を掛けず本隊が合流する前に速攻で先行部隊を叩くか、ディディアルには先ずその判断が求められる。


「____よし」


 ディディアルは作戦を決めた。

時間に余裕が無い事と、本隊を相手にするべきかを判断するため、ディディアルは自身が召喚魔法で一度に投入できる最大戦力で、威力偵察を行うことにした。


「場合によっては、そのまま本隊を殲滅・・・いや、それだと先行部隊が撤退してしまうか・・・こんなチャンスはそうないしな。基地の設置に取り掛かれる人員は残してやる必要が有る。それと囮だ。数種の魔物が混在する部隊なら、召喚主や組織的犯行を疑うだろう。私の代わりに首謀者となる魔族も____」


ディディアルは、またいつもの様にブツブツと独り言を言いながら、強襲する魔獣の種族や数など、作戦の細かい部分を考えながら召喚の準備に入った___。






 タルトゥニドゥ探索本隊の天幕____。


 本隊の野営で一番大きな天幕は探索隊隊長のカスミの天幕だ。

中に入ってみると、カーテンで三つのエリアに区切られていて、入り口から入ってすぐが、来客・会議用の事務エリア。その左のエリアがベッドのある寝室だ。

そして、右のエリアが禁術エリアになっていて、護衛の本土防衛軍隊長二人(第一貴族)しか知らない。

 禁術エリアは天幕とカーテンとは別に、屏風というアマノニダイ特有の調度品が四つ、仕切りとして置かれて、四角形の空間を作っている。

この屏風には、魔法を外から探知されないようにするため、魔法阻害の魔法が付与されている。

 その中でカスミは、魔法術式を二つ展開し、二体の悪魔を召喚していた。

 一体は、黒いフード付きのローブを身に纏う白髪の老人風の悪魔、『ヴァサーゴ』。

“千里眼”という遠くの魔力を探知する魔法を扱う、魔力の観測に長けた上級悪魔だ。

 もう一体も上級悪魔で、パッと見だと白と黒のモノクロカラーの騎士に見える。

だがよく見ると、黒い骸骨が白い骨で作られたボーンメイルを身に着けていて、真っ黒で禍々しいオーラを放ちながら赤い瞳を光らせている。

この悪魔の名は『ダンタリオン』。

“天眼通”という魔法で、魔法や人物の力量を測り、分析する力を持つ悪魔だ。

 この二体の他に、『バルバルス』という古に知識を持つ上級悪魔を加えた三体が、カスミが召喚できる魔族の中で最高の魔族達だ。

三体とも最上級魔族に位置する悪魔達で、元魔王軍幹部のディディアルと比肩する力を持っている。

そのため、最上級悪魔で召喚魔法が得意なディディアルでさえ召喚・使役はできないが、カスミは長年の魔法の研究と鍛錬でこれを可能にする。

ただし条件が有り、今、この場の様に、特殊な魔法術式の上でなければ召喚ができない。

 自分と同等以上の存在を召喚する場合は、このように条件付きでの召喚になったり、声や魔法など体の一部や力の一端だけの部分的な召喚になったりする場合が有る。

多少不便ではあるが、自分以上の破格の力を利用するなら仕方がないことだ。

最上級悪魔、幻獣、大精霊といった高位の存在を何のペナルティも無く、複数体バンバン召喚できる存在など、居るとしたら魔王と勇者くらいだろう。

条件付きながらも最上級悪魔を二体同時に召喚して見せるカスミも、十分に破格な力を持つ者だ。


 実際カスミは、この二体の悪魔を使って、勇者候補達ですら気付いていないディディアルの存在に気付こうとしていた___。



「セイシンゾクセイノ、キョダイナマリョクヲタンチ」

「誰?」

「ゼンカイトドウイツノコタイ」

「やはり・・・また動いたわね」


 カスミは、このタルトゥニドゥ探索が始まってから、何度もヴァサーゴとダンタリオンを召喚して周囲を調べさせていた。

天幕の中に居る間だけという条件ながらも、サレン達の力やタルトゥニドゥの魔族達の力を調べられるかもしれないと思ってのことだ。

 これは早い時期に成果が出ていた。

カスミは探索二日目の夜に、何者かが多数のアンデッドを召喚してオーマ達を襲ったのを観測していたのだった。

 そして今、再びヴァサーゴがその者の召喚魔法を探知していた。


「距離は?」

「ココカラヒガシヘ2キロチテン」

「東へ二キロ?オーマ達からは離れているわね。狙いは私達かしら?・・・ダンタリオン、二キロ位なら分析できますか?」

「ハッ。ヴァサーゴがデータを送ってくれるのならば可能です」


ダンタリオンは、見た目の禍々しい姿からは想像できないほど、丁寧かつ覇気の有る声で答えた。


「ヴァサーゴ」

「ギョイ」


言うとヴァサーゴは、魔法術式を展開し、通信魔法の応用で自身が観測したデータをダンタリオンに送る。

データを受け取ったダンタリオンも、召喚魔法とその使用者を分析するため、魔法術式を展開した。


「複数の魔獣が召喚されています。総数は百八体。ハーピィ三十体。ヘルハウンド四十体。グレイトホーン二十体。マーダーパイソン十体。ストーンバジリスク二体。グレーターデーモン一体」

「ストーンバジリスク・・・先行部隊の報告にもありましたね。空から強襲できるハーピィに、機動力と殺傷力の高いヘルハウンド、突進力と破壊力のあるグレイトホーンに加え、毒持ちのマーダーパイソンは伏兵でしょうか?そして、指揮官にグレーターデーモン・・・良い部隊編成ね。でも、これを一人でやるとなると、人物は限られてくるはず・・・ダンタリオン、過去のデータに該当者はいる?」

「おります。九十八年前、FD822年に、スカーマリスでディディアルという悪魔が、同じ編成で魔獣召喚を行っております。術式も同じなので、同一の存在で間違いありません」

「FD822年?魔王が倒されて三年後、まだ魔王軍の残党が精力的に活動していた頃ね・・・スカーマリス・・・ディディアル・・・」


カスミはブツブツ言いながら魔法術式を展開し、自分の過去のデータでも参照する。


「ああ。あったわ。魔王軍第四魔術団団長ディディアル・・・元魔王軍幹部ですか、なるほど。これほどの召喚ができるのも納得です」


そう言って、今度はディディアルの目的について考える。


「スカーマリスの魔王軍残党が何故ここに?帝国の邪魔?いえ、さすがに今更過ぎるわ・・・やはり、サレンの力かしら?この地で、隠居した元魔王軍幹部が急にやる気になる理由なんて、それくらいしかない・・・。でもそれなら、どうやってサレンの存在と力の事を知ったのか?という疑問が出てくるわ」


 サレンの存在は少し前まで、ずっとオンデンラルの森に張られた結界で隠されていた。

カスミですら、魔力観測を定期的に行い、殆ど偶然で見つけられたのだ。

元魔王軍幹部とはいえ、そう簡単に調べが付くとは思えない・・・。


「ダンタリオン。ディディアルはあなたやヴァサーゴ、或いはあなた達に匹敵する探知・観測能力を持つ存在を使役できる?」

「不可能です。ディディアルは召喚できる種類も数も多いですが、我ら最上級魔族を使役する力はありません。ディディアルが召喚できる最高位の魔族は、グレーターデーモン、ストーンバジリスク、ケルベロス、エレメンタルフォッグの四種です」

「そう・・・」


その四種も十分強力な上級魔族ではあるが、ダンタリオン達最上級の魔族ほどではない。

となると、ディディアルは独自でサレンの事を調べたとは考え難く、誰かから教えられた可能性が高い。


「でも、誰が?・・・まさかオーマ?オーマが内通している魔族とはスカーマリスの魔族?でも、だったら何故、オーマ達も襲う?私達に怪しまれないよう自作自演しようとしている?・・・いえ、でもそれ以前に、オーマと繋がっているなら、オーマと一緒にサレンを捕縛すれば良いはず・・・」


カスミはしばらく考えるが、ディディアルがサレンの事を知った情報の出所が分からない。


「・・・クラースに相談するしかないですね。本人からは聴けないでしょう。戦って負ける気はしませんが、生け捕りは難しいでしょうし」


 カスミは、ディディアルにサレンの存在を教えた人物の特定を一旦諦める。

そして、ディディアルが自分達に差し向けてくるであろう魔獣部隊の対策を練るのだった____。

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