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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第三章:静寂の勇者ろうらく作戦
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先行討伐隊の探索(5)

 先行討伐隊とストーンバジリスクの戦いを最後まで見ていたディディアル。

ストーンバジリスクの死体を確認して部隊の回復を始めるオーマ達を見ながら、いつものように分析を始める。


「どうやら罠は有効のようだな。特に魔物の気配が濃いここでは上手く察知できないようだ。奴らとの決戦では上級魔族しか当てにできないと思っていたが、下級の魔物もかく乱には使えそうだ。だが、毒はダメだな。解毒ができる魔導士が二人もいる。足止めくらいはできるかもしれんが主力にはできん。連中の攻撃力も良しだった。ストーンバジリスクの硬い皮膚に傷を負わせるものが複数人居た」


 ストーンバジリスクはディディアルの召喚できる魔獣で一番の防御力を誇る魔獣だ。

そのストーンバジリスクの防御を突破できるとなると、ディディアルの作戦に大きな影響を及ぼす。

持久戦などの防御重視の戦術や陣形を使った作戦は難しいだろう。


「消耗戦が有効だと思っていたが、こちらの意図に気付かれ、火力で押されたら不味いか?特にダークエルフの娘の火力は異常だ。作戦は敵を罠にはめて、高火力で一気に片付けるか?それとも安全に、罠を使って戦力を分散するか?・・・今回で奴ら全員の魔法属性が見られたのは大きな収穫だが、その熟練度と戦術幅はもっと調べたいところだ・・・。後は奴らの目的だ。罠を張るなら、奴らの目的地を知る必要が有る。あの後続の千人ほどの部隊も気になるしな・・・明日はそれを探るか?ならば、今夜もう一度仕掛けておくか・・・今度は誰を使うか・・・魔法の熟練度や戦術を見るなら、物理耐性が有るアンデッドあたりが____」


あらかたの分析を終えて、今後の行動を決めたディディアルは、またブツブツと独り言を言いながらその場を離れて行った____。






 先行討伐隊の一行は、誰一人として犠牲を出すことなく、ストーンバジリスクという難敵に勝利した。

だが、毒を受けたイワナミ達といい、上級の攻撃魔法を連発したオーマ達といい、その消耗は激しいものだった。

そのためデティットは、行軍はこれまでとし、今日はここで野営することを決めた。

 イワナミ、クシナ、ロジが毒でしばらく動けなかったりして、野営の準備は昨日より遅れる。

天幕を張り、食事の準備が進む内に日も落ちてしまい、夕食ができる頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。




 皆の夕食が済み、後は体を休めるだけとなると、一同は見張りのウェイフィーを除いて焚火を囲み、雑談を始めていた。

主な話題はやはり、今日の戦闘の事だった。


「いや~、朝のフロドアップルはともかく、さっきのストーンバジリスクはヤバかったな」

「皆、デティット隊長。お役に立てず申し訳ありませんでした」

「イワナミが謝る必要はありません。私が油断していたのです。通信魔法を使用している間は守ってもらえていると思って、高を括っていたのです。申し訳ありません」


 ストーンバジリスクの話が出て、その戦闘で早々に戦闘不能になったイワナミとクシナは、足を引っ張ってしまったと思って落ち込んでいる。

その二人をデティットは、“気にするな”といった態度で慰める。


「よせよ、二人共。他の者達だって休憩中だったとはいえ、奴の気配を察知できなかったんだ。お前達だけを責めることはできんさ」

「そうです。それに関しては、むしろ私の責任だと言いたいですね」

「いや・・・なんで、アラドの責任になるんだよ」

「この部隊で、サレン様の探知魔法を除けば一番索敵能力が高いのは自分です。だから、ああいった魔物には、自分が一番に気付くべきだったと思っていたのです」


イワナミとクシナに続いて、アラドまで落ち込み始めた。


「あー!もう!三人とも真面目ね!全員無事だったんだから良いじゃない!」

「で、ですが、ヴァリネスさん。あの相手は下手したら死人が出る相手でした。もし、この中の誰かが犠牲になっていたらと思うと・・・」

「じゃー、落ち込むんじゃなくて、対策を立てましょ!アラド!今後も犠牲を出さないようにするなら、ここですべきは反省と改善よ!」

「た、確かに・・・」

「なら、先ずは毒対策だな。解毒ができる者同士は距離を空けよう。解毒ができるのはアラドとウェイフィーだけか?」

「あ、私もできます」

「サレンもか。さすがだな」

「もう、ほんとアンタは何でも有りね」

「え、いえ、・・・あの・・・」


オーマとヴァリネスに褒められて、サレンは顔を赤くして俯いてしまった。


「解毒もそうだが、なにより索敵が大事だ。サレン様。明日からは索敵魔法の使用頻度を上げて頂きたいのですが、よろしいですか?」

「もちろんです、デティット。皆さんを守るためですから」


サレンはハッキリと力強く返事した。

その瞳はサンダーラッツに向いており、デティットとアラドだけじゃなく、サンダーラッツの皆も守るという意思があった。


「・・・・・」

「・・・・・」


そのサレンの意思表示に、皆、特にデティットとヴァリネスは内心で驚いていた。


「フフ♪ありがと、サレン」

「おい、聞いたか?サレンちゃんてば、俺を守ってくれるってさ」

「“フラン”とは言ってませんが?」

「細かい事は良いじゃねーか、クシナ」

「守ってもらうのは良いが、油断はするなよ」

「分かってるよ、団長」


フランの発言が冗談だと分かりつつも、オーマはサレンの手前、フランに釘を刺しておく。

そして、ついでにサレンにも、軽く釘を刺しておこうと思った。


「サレンもな。気持ちは嬉しいが背負い過ぎるなよ。この隊で一番強いからといって、一人で背負い込む必要は無い。皆の命は皆で背負うんだ」

「あ・・・はい♪」

「・・・・・」

「・・・・・」


普段、自分の力を当てにされているからだろうか?このオーマの何気ない一言は、サレンの気持ちを軽くするものだった。

周囲にも自分自身にも心を押しつぶされていたサレンは、その一言をくれたオーマに心からの笑顔を向けた。

 そして、そのサレンの様子を、デティットとヴァリネスは無言で見つめていた。

先の意思表示と今の笑顔に、二人はサレンの心の変化を感じていた。

 それを確認しようとして、口を開いたのはヴァリネスだった。


「まあ、団長の言うとおりね。私達は一蓮托生。命も責任も、失敗も成功も、皆で背負う!それが私達サンダーラッツのチームワークよね!」

「はい!そうですね!」

「な、なんだよ、副長・・・急に暑苦しいな。ロジまで」

「まあ、良いじゃないですか♪」

「フフ♪皆さんは本当に良いチームですね。カッコイイです」

「まあね♪戦場じゃー、お互い背中を預けるんだ。誰か一人に負担を強いるなんて真似はできないね」

「暑苦しかったんじゃないのか?フラン」

「サレンが褒めた途端にそれですか・・・本当に現金ですね」

「うるせー。俺だって本当にこのチームワークのおかげで、今日まで生き残ってこれたって、分かってんだよ」

「じゃー、素直にそう言えばいいのに・・・」

「はいはい。ごめんなさいよ」

「へぇ・・・そうなんですね・・・。あの、皆さんは、どんな戦場を生き抜いてきたのですか?」


「「!?」」


今度はデティットとヴァリネスだけじゃなく、他のメンバー全員がサレンの変化に気が付いた。

サレンから“戦場”の話題が出たのは、これが初めてである。

このタルトゥニドゥの環境だからなのか、共に死線を乗り越えてきたからなのか、或いはオーマの地道な好感度稼ぎが功を奏したのか分からないが、サレンの中で間違いなく心の変化が起きていて、サンダーラッツに興味を持ち始めていた。


「興味ありますか?サレンさん?」

「はい!皆さんの事もっと知りたいです!」

「嬉しいねぇ・・・」

「じゃー、リクエストにお応えしなくちゃね、団長?」

「ああ、そうだな。じゃー、先ずは___」

「____待った!!」


「「!?」」


オーマがサレンにサンダーラッツの話を聞かせようとしたところで、ウェイフィーの“待った!”が入る。

見張りのウェイフィーからの“待った!”に、メンバー全員に緊張が走った。

全員が武器を構えて、ウェイフィーに“待った!”の理由を聞こうとすると、ウェイフィーが先に理由となる単語を口にした。


「アンデッド」


「「!?」」


「間違いないのか?ウェイフィー?」

「間違いない。ゴーストらしき光と、ゾンビらしき影を見た」

「この暗さで分かるのか?」

「もち」


デティットの質問に、ウェイフィーは暗闇を見つめながら自信たっぷりに頷いた。


「・・・確かに、土と獣臭に混じって、微かに腐敗臭がしてきます・・・しかも、周囲一帯から」

「囲まれたってのか!?」

「そこまでは断定できませんが・・・」

「サレン様。お願いできますか?」

「はい」


デティットの指示を受け、サレンは魔法術式を展開した____属性は風。


「ハイディテクト・ウィンド」


 ウェイフィーの話では、宙に浮いているゴーストも居ると言う。

そこで、空中に居る敵も探知できるよう、風の探知魔法で、敵を探知する風を起こした___。


「____ッ!囲まれています!数は五十八体!ゾンビが四十、ゴーストが十、スケルトンナイトが八体で距離は約三十。あと二十秒ほどで接敵します!」

「チッ!多いな」

「この暗い中でその数に襲われたら乱戦になりますね」

「危険」

「そうですね。ゾンビは毒を持っていますし・・・」

「どうする?デティット?」

「フ・・・」


多数のアンデッドに囲まれているにも拘らず、デティットはオーマの質問に不敵な笑み見せた。


「全員、私を中心に防御陣形!」


そう言うや否や、デティットは大きく白い光の魔法術式を展開する。

他のメンバーは、その光に吸い寄せられる様にデティットに集り、防御陣を敷いた。


「これって・・・浄化の光?」

「風の性質変化の魔法術式」

「ああ。そういえば、デティットって____」


デティットの魔法術式を見て、彼女が何者であったかを思い出し、何をしようとしているのかを理解した。


 ゴレスト神国、ゴレスト聖騎士団団長、デティット・ファイバー____。

土の神マガツマを主神とする宗教国家ゴレスト神国、その聖騎士団の長である。

マガツマとは違う風属性だが、神に対する信仰は厚い。

そんなデティットが、浄化の技を心得ていないわけがなかった。


「アンデッドなど、物の数ではないよ。_____ホーリー・ウィンド!」




_____カゼゾクセイノ、ジョウカノマリョクヲタンチ。




デティットの魔法術式がより一層白い輝きを放つと、神聖な力を宿した風が吹き荒れた。

先行討伐隊を囲んで襲おうとしていたアンデッドの部隊は、その吹きすさぶ聖なる風を受けて、何もできず砂と化していった____。


「____まあ、ざっとこんなもんだ」

「ひょー♪すげーぜ、姉さん!」

「浄化の技・・・やはりアンデッドには便利ですね。私も習おうかしら?」

「いや、でも、普通ここまでの浄化の力は得られないだろ?」

「まあ、そこは、私は聖騎士だからな。年季も違うし」

「隊長カッコイイ」

「ありがとうよ、ウェイフィー。___さて、敵は一掃した。サレン様。念の為、もう一度索敵をお願いします。それで安全と分かれば、サンダーラッツの武勇伝を聞かせてもらいましょう♪」

「はい!」


サレンは元気よく返事をして、再び“ハイディテクト・ウィンド”を発動した____。






 「____チッ!」


 戦闘を見ていたディディアルは大きな舌打ちをした。それも仕方が無い事だろう。

張り切って、五十体以上のアンデッドを召喚したのに、白い鎧の女が強力な浄化の力を持っているということ以外、何も分からなかったのだ。

今回ディディアルは、不貞腐れたまま、その場を後にした_____。



 ディディアルが離脱した後、先行討伐隊を襲う魔物は現れなかった。

オーマはサレンにたっぷりとサンダーラッツの話を聞かせて、二日目の夜を過ごした____。

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