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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第三章:静寂の勇者ろうらく作戦
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先行討伐隊の探索(3)

 フロドアップルを全て撃退した後、念の為に周囲を警戒して安全を確かめてから、オーマは戦闘終了の合図を出した。

その合図で皆の緊張の糸が切れて、空気が緩んだ。


「ヒュ~♪さすがサレンちゃん」

「凄まじい威力の炎魔法でしたね」

「いえ、それより術式の速度です。私、自信無くしそうです・・・」

「気持ちは分かるぞ、クシナ。俺もジェネリー嬢と居る時はそうだからな」

「そ、そんな・・・皆さんこそ____」


 緩んだ空気の中、メンバーが雑談を始める。

そんな中、オーマ、ヴァリネス、デティット、アラドの指揮官四人組はこれからのことを相談するため、誰が声を掛けるわけでもなく自然に集合していた。


「ご苦労だったな、オーマ。でも、お前が指揮してくれたおかげで、余力を十分に残して戦闘を終わらせられた。感謝する」

「とんでもない、デティット隊長。あの魔物にもサンダーラッツの指揮にも慣れている俺に、貴方が指揮を任せてくれた事こそを俺は称賛したい」

「フフッ・・・そうか?」


オーマの本心だった。

 この先行討伐隊の様に、複数の勢力が混在し、他勢力の指揮官が数人混じっている場合、どうしても派閥争いが起きやすい。

「指揮を任されているのは誰々だ___」、「誰々の方が現場の指揮には向いている___」、「他の連中に舐められてたまるか___」、「自分達が___」・・・といった具合に、お互いが面子のために意地になって、部隊の主導権争いをしてしまうものだ。

まして、今回の様に政治も絡むなら自分や現場の意志とは関係なく、後の政治交渉のために主導権を握って、“自分達が一番成果を上げました”と主張する必要があったりもする。

チームワークを大事に皆一丸となって____とは行かないのが現実だ。

 だがデティットは、そんな政治の事情にも自分のプライドにも囚われず、適材適所の考えでオーマに指揮権を渡して戦闘を任せた。

人としての器が分かるというものだ。

そんな器の大きいデティットに、同じ指揮官であるオーマは尊敬の念を抱いた。

そして、そのデティットに指揮を任され、頼りにされたことが嬉しくもあり誇らしくもあった___。




「さて、これからの事だが___」


デティットが三人に、“何か意見はあるか?”と視線を送り、相談を持ち掛ける。

最初に口を開いたのは、サバイバル経験が豊富でタルトゥニドゥ探索経験もあるアラドだった。


「もうすぐタルトゥニドゥの深部___つまり、魔物の生息圏に入ります。そして、その奥にドワーフ遺跡があります。どちらのエリアも、強力な魔物が数多く生息しているエリアです」

「ここからは更に注意が必要ね」

「そうですね。今回は、前回より魔物の襲撃も多いですし___」

「そうなのか?」

「はい。前回は、まだこの辺りでは魔物と遭遇しておりませんでした」

「そうだったな。前回の魔物との戦闘は、魔物の生息圏に入ってから三回、ドワーフ遺跡に到着して一回だった」

「何か原因があるのかしら?」

「恐らくですが、前回、三百人規模でこの地を踏み荒らしたから、魔物達も警戒して、動きが活発になっているのではないでしょうか?」

「そうかもな。なら、この辺りから討伐隊らしい仕事をしていく必要が有るかもな」

「そうですね。既に二度、魔物と戦闘になってますし、予定より少し早いですが、ここから索敵していった方が良いかもしれません」

「じゃないと、本隊が魔物と遭遇するかもしれないわね」

「分かった。なら少し早いが、ここで昼食を取ろう。その後は予定を早め、作戦にもあったように周囲を索敵しながら進む。いいな?」


「「了解」」


 今回、タルトゥニドゥ探索を行う上で、高官達の作戦会議で話し合われた主な内容は、設置する基地の規模と設備の内装、それに伴う部隊編成と必要な資材の見積もり、その部隊が目的地に無事に辿り着くためのルートとスケジュールの決定だ。

前回、ゴレストとオンデールでタルトゥニドゥを探索した際は、約三百人規模の部隊が出発六日目でドワーフ遺跡に辿り着いている。

このデータを参考に、今回の探索では、本隊の部隊編成が非戦闘員を含む千人を超える規模である事と、基地を設置するための資材を運んでいる事を踏まえ、更に安全を重視して、八日から九日で目的地に着くスケジュールを組んである。

 オーマ達先行討伐隊は、本隊の被害を減らすだけでなく、本隊がスケジュール通り、或いはそれ以上に早く目的地に着けるように、本隊が魔物に襲われる機会を減らすのが任務だ。

そのため、ここからの魔物の生息圏、そして魔王軍の残党が住み着いている旧ドワーフ領では、囮になるだけではなく、こちらから本隊を襲う可能性のある魔物や、進行ルートに近い距離にある魔物の巣などを駆除していかなければならない。

 以上の事から、先行討伐隊はアラドの助言も踏まえて、予定より早く、魔物の索敵・討伐をしながら進むことを決めた___。




 これからの方針が決まった先行討伐隊の一行は、少し早めの昼食を兼ねた大休憩に入る。

昼食は手軽に食べられる干し肉と乾パン。そして栄養価の高い木の実が少々。

 遠征で食べ慣れている物で、普段なら不満もないのだが、オーマの中では今朝の食事が印象に残っており、朝食で食べたサレンの手料理が恋しくなっていた。


「うーん。見慣れた食事だが、サレンの手料理の後だと味気なくて、中々に虚しくなるな・・・」

「今朝の朝食がそんなに気に入ったんですか?」

「そりゃあもう、な・・・サレンのサンドイッチは、完全に俺の好物になったよ」

「フフ♪それは良かったです♪」

「また、サレンが当番になった時が楽しみだ」

「ありがとうございます。でも、キャンプでの食事はそんなに慣れていなくて、レパートリーは少ないです」

「それは普通だろう。普段はどんな料理を作っているんだ?得意料理は?」

「得意・・・というか家でよく作るのはグラタンですね。簡単ですし、色々な食材が入れられますから。私、オニオンスープが好きなんですけど、それともよく合うので、よくこの組み合わせで作ります」

「いいなぁ。俺もどっちも好みだ」

「そうですか?でしたら、探索から戻ったらご馳走しましょうか?」

「本当か!?是非食べてみたいね!じゃあ、探索から帰って来たら打ち上げで、皆で料理大会をしよう。食材を買い込んで、料理の得意なメンバーが手料理を出し合うんだ」

「ああ!良いですねぇ♪私、オーマさんの手料理食べてみたいです!」

「おう。長い独身生活で練り上げた腕前をお見せようじゃないか」

「オーマさんの得意料理は何ですか?」

「肉!」

「に、肉!・・ですか」

「ああ、肉だ。理由はもちろん肉だからだ。やっぱり肉なんだよ。いや、もちろん他にも好物はあるよ?今朝のサレンの野菜シチューも上手かったし。でもやっぱり、一番となれば肉!____なんだ」

「肉!____なんですね」

「それで、肉料理を研究しているわけなんだが____」


 オーマは頑張ってサレンとの会話を盛り上げる。

こちらが本来の目的なので、内心では探索以上に気を張っている。

それは他のメンバーも同じで、二人の会話が進まなければ会話に交ざり、二人の会話が進んでいれば気を利かせて二人きりにしていた。

 そうして、味気ない食事の時間でも、何気ない休憩の時間でも、オーマは皆のサポートも受けながら着実にサレンから好感度を稼いでいくのだった____。




 昼食も終わり探索を再開すると、先行討伐隊は打ち合わせ通り、索敵をしながら進む。

隠密行動の得意なアラド、フラン、ウェイフィーの三人が、討伐隊の左右に一人ずつ交代で斥候に出る。

そうして進む中、途中で蜂の巣の様な魔虫の巣を見つけ、これを駆除したりと、先行討伐隊は午後の探索も順調に進めていく。

だが、そのまま順調に進んで行くも、オーマ達は徐々にこの地の探索の難しさを肌で感じるようになっていた。


「・・・気配がつかみ難くなっているわね」

「ああ・・・。この地が完全な秘境になった理由が分かる気がする・・・」

「魔物がどこに居て、どこから来るか分からない」


 魔物の気配が濃い____。

タルトゥニドゥの魔物の生息圏に入って、奥へと進めば進むほど、魔物の気配がそこら中で漂うようになって皆がそう感じ始める。

魔物の生息圏に入っているのだから当然なのだが、常に何者かに見られ、常に何者かに待ち伏せされている様な感覚だ。

何処に魔物が潜んでいるのか分からず、初日に探索していた場所や、これまでの遠征先より明らかに魔物を捕捉するのが難しい・・・。



 タルトゥニドゥとスカーマリス_____。

この二つの地は大陸二大秘境と呼ばれ、探索するのは最大最難の地と言われている。

その最大の特徴は“魔王が支配していた地”という事。

元魔王軍の魔族や、人が居なくなったことで移り住んだ魔物の数が、他の地とは桁が違うのだ。

 そんな魔に属する者達の獰猛な気配が霧のように立ち込める中の行軍は、オーマ達に今までに無い緊張とプレッシャーを与え、疲労を誘った。

そうして皆が消耗していく中、空が夜を迎えるために赤みを帯びてきた頃、オーマ達は再びディディアルの召喚する魔獣と戦う事になるのだった___。

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