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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第三章:静寂の勇者ろうらく作戦
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先行討伐隊の探索(2)

 探索初日はアイアンモールの襲撃以降、魔物が襲ってくることは無く、無事に夜を過ごした。

そして先行討伐隊は、タルトゥニドゥ探索二日目の朝を迎えた____。


 探索二日目の朝、特に変わった様子もなく、オーマはのんびりと目を覚ました。


「ふぁあ・・・あぁ・・・っと!」


欠伸をしながら身体を伸ばすと、ブルッと体が震えた。

季節は夏とはいえ、北方の山の朝は少し肌寒かった。


「ふー・・・冬の季節ほどじゃないけど、酒が欲しくなるな・・・」


 オーマ達が遠征していたリジェース地方は、冬になると簡単に氷点下を下回る極寒の地だった。

そのため、リジェース地方の多くの者達が、体を温めるためによく酒を飲む。

サンダーラッツもそれに倣い、遠征先では酒で温まり身体を寄せ合って一夜を過ごす____という様な事がよくあった。

サンダーラッツ幹部全員が酒好きになった理由である。

そのせいか、オーマは肌寒さを感じると、酒が欲しくなる体質になっていた。

現在は探索中なので飲酒はできないが、体の温まる物が飲みたくて、フラフラと天幕から出た_____。


 外はやはり天幕より寒く、オーマは再び体を震わせた。

だがその空気は澄んでおり、冷たく新鮮な空気が肺に入ると、オーマの脳を爽快に目覚めさせてくれた。

 クリアになった頭で周囲を見渡すと、朝食を作っているサレンと、見張りをしているロジが視界に入った。

食事の良い香りに空腹を刺激されたオーマは、匂いの方へと釣られて歩いて行いくと、サレンに声を掛けた。


「サレン、おはよう」

「おはようございます。オーマさん。早いですね」

「いい匂いだな。お腹が空いてきた」

「フフッ。腕によりをかけて作っていますから、もう少し待っていてください」

「むぅ・・・そうか。ただ、身体が少し冷えているんだが、何かないか?」

「あ。じゃー、お湯が沸いていますから、お茶を入れましょう。少し待っていてください」

「ありがとう。でも自分でやるよ。食事の支度の邪魔しちゃ悪い」

「そうですか?では、茶葉は洗った食器の所にありますから」

「ありがとう」


そう言ってオーマは、サレンの食事の支度を眺めながらお茶を入れる。

 サレンは、鍋の様子を気にしながら、木の板の上でパン生地を練っている。

その板の端には、野菜とハムとチーズが用意されていて、今朝の献立がサンドイッチとシチューだと分かる。

献立が分かると、出来上がりも想像できるというものだ。

その想像で更にお腹が刺激され、オーマのお腹がグルルルルと悲鳴を上げた。

 その悲鳴がサレンにまで届いたのか、サレンは小麦粉で白くした手を口元に当てて笑った。

そのサレンの笑いに、オーマは照れ笑いを返した。


「い、いや・・旨そうだなって思ったらさ・・・ハハ」

「フフフ♪そうですか?味付けもオーマさんの好みに合わせてみたので、お口に合うと良いのですけど・・・」

「え?俺の好み分かるの?」

「何回か一緒に食事したので、分かっていると思います。でも初めてなので、自信はありません」

「いや、すげー嬉しいよ!もう、すっごく美味しい!」

「クスッ。まだ、食べて無いですよ?」

「見ただけで分かるよ。それは絶対に俺好みの美味しいシチューだ。自信持って良い」

「フフ♪ありがとうございます♪」


 実際に料理は美味しそうだったが、サレンが自分好みの味付けにしてくれていると知って、より一層美味しそうに見えてくる。

ちゃっかり好みの味付けをしてもらえるほどの好感度をサレンから得ている事になるのだが、本々鈍感な上、お腹を空かせているオーマは気が付かなかった。

 だが、サレンの中での好感度には気が付かなかったが、自分の中での好感度には気付いていた。

サレンが料理を作っている姿を見ていて、オーマの中でサレンの好感度は上がっていた。



 オーマは一人身が長く、遠征軍でキャンプもよくしているため、料理は意外にも上手く自給自足は得意だ。

だから、仮に結婚するならば、相手が家事をできるかどうかは、そこまで大事ではない。

片付けができないとか、部屋をよく汚すとかでない限り気にしない。

 そんなオーマから見ても、サレンの料理する姿は、キャンプとはいえ家庭的な魅力があった。

更にそんなサレンに、“あなた好みの味付けにしました”、と言われれば嬉しくないわけがない。好感度も上がるというものだった。

 オーマは、お腹は空でも胸は一杯になって、サレンの食事が出来上がるのを楽しみに待った___。



 オーマがカップのお茶をカラにした頃、他のメンバーも目覚めて天幕から出てくる。

そして、ワイワイと雑談をしながら皆が支度すると、それに合わせたかのようにサレンの食事の支度も整った。

食べてみると、味は実際のところ、設備の良い帝国野営での食事の方がクオリティは高いのだが、“自分好みに味付けしてもらえた”という魔法が掛けられていたオーマには、いつも以上の美味しさに感じられた。

 お腹も心も一杯になったオーマは、食事と天幕の片付けを終え、探索へと出発すると、張り切って先頭を行くのだった。

そして、デティットに前に出過ぎだと怒られた。

キャリアの長いオーマが行軍で怒られるのは久しぶりだった____。



 二日目の行軍を開始した先行討伐隊の一行。

この日も初日同様に、朝は順調に先を進むことができていた。

だが、行軍を始めて数刻し、太陽が真上に上ろうかという昼少し前、一行は再び魔物との戦闘に入っていた__。


「正面!ウェイフィー!」

「バインウォール!」


オーマの指示が飛び、ウェイフィーは樹属性の防護魔法を発動し、自分達に襲い掛かって来たウネウネと動く多数の木の根にツタ植物を絡ませ、その木の根の動きを止めた。


 討伐隊を襲ってきた木の根の主は、フロドアップル___。

植物が育ちにくい寒冷地などに生息する樹木型の魔物で、甘い匂いを発する果実を自身の肉体である木の枝から生やしている。

その果実を使って、食料を求めている獲物を誘い、近づいて来た所を木の根(正確には触手)で獲物を捕獲する。


 デティットにサレン、そして魔族に詳しいアラドでも、フロドアップルが緑豊かなオンデンラルの森には生息していないため気付けなかったが、北方遠征で何度か戦ったことがあるサンダーラッツの一同は直ぐに気が付いた。

そして、過去に戦闘経験が有るという事で、デティットはこの戦いの指揮をオーマに任せていた。


 数は十体と、こちらと同数____。

頭数は同じでも、フロドアップルの触手は一体につき十数本あるため、攻撃の手数は相手の方が多い。

だが、オーマはそれをちゃんと理解して作戦を組み立て、冷静に指示を出す。


「ロジとイワは左から!デティットとアラドは右から攻めろ!囮になって敵を引き付けるんだ!」


「「了解!」」


 オーマの指示を受けた四人は、別れて左右から回り込むように攻め上がる。

それに反応したフロドアップル達が、四人に触手を伸ばす。

これをそれぞれ、ロジは身軽な動きと剣技で、デティットは風魔法の旋風で、イワナミは炎の防護魔法で、アラドはウェイフィーと同じ樹属性の防護魔法で敵の攻撃を防ぎながら囮をこなした。

 四人が左右に散って、敵の攻撃を引き付けたことで、正面の手数が減る____反撃のチャンスだ。


(アタッカーは誰にする?植物系なら炎属性が有効だからサレンかクシナだが・・・クシナだと、一度に十体を一掃するのは難しいか?それだけの火力を出すには時間も掛かるし・・・ならサレンになるが、まだ時刻は昼だ。この後の探索を考えると、切り札のサレンの力は温存しておきたい。だが、クシナの一番大事な役割は連絡役だし___)


オーマはほんの一瞬の間に、今の戦況、今後の探索、個々の役割を考えた上で、作戦を決めて指示を出した。


「サレンは後退して遠距離から反撃に出てくれ!正面は俺と副長とウェイフィーだ!クシナは俺達の援護!」


「「了解!」」


 オーマから指示が出ると、五人はすぐに動き、陣形を組み替える。

そして、アタッカーに選ばれたサレンが、敵を一掃するための炎魔法の術式を展開する。

他の者達は、それが発動するまで敵を引き付けるわけだが、フロドアップルは中級の魔物でわりと強い。

本気で戦えば負ける相手ではないが、探索のために余力を残して置くというのなら、手数も多いため手こずる相手だ______と、オーマは思っていたが、ここでも勇者候補のサレンの力が冴え渡る。

サレンは、普通の魔導士が上級魔法を発動するのに必要な時間の半分以下で上級魔法を発動して見せた___。


「ナパーム!」


サレンが魔法を発動すると、術式から巨大な火球が上空へと飛び、フロドアップル達に向かって弧を描く。

そして、フロドアップル達の居る上空まで来ると、火球は炸裂してソフトボールほどの大きさの火の玉の雨を降らせた。


_____ドゴゴゴゴゴン!ドゴン!ゴゴゴゴゴン!


 火の玉が大きな爆発音を立ててフロドアップル達を襲う____。

 その爆発音と火の玉で燃える光が止む頃には、フロドアップルは、十体全て消炭になっていた___。






 「____フム。待ち伏せが有効であるかは分からなかったが、奴らが魔族の知識に明るいのは分かった・・・」


 不意打ちの強襲作戦が無理なら、罠は有効であるか知りたくて、今回フロドアップルを使ったディディアル。

フロドアップルは食物の育ちにくい場所にしか生息していないため、人間やエルフにはその存在はあまり知られていないと思っていた。

だが、予想外にもフロドアップルの存在を知っていて、戦闘経験まである者がおり、罠が有効かの判断はできなかった。

それでも、“敵は魔族の知識にも明るい”と判明したのは収穫と考え、ディディアルは分析を続ける。


「奴らは、現状とリデルの話を照らし合わせれば、オンデールのダークエルフと、ゴレスト神国とドネレイム帝国の人間という複数の勢力が混在している部隊のはず・・・だが、どうだ?あの白い鎧の女が指揮官のはずだが、帝国の男が指揮を任されても、見事な連携で余力を残して勝利して見せおった・・・どういう関係なのだ?奴らは?・・・まあ、この際それはいい。混在部隊とはいえ、連携も良しだ・・・。ならば、奴らは分断して、各個撃破を狙った方が良いか?連携の要は白い鎧の女と今指揮していた帝国指揮官のようだ。この二人を他と引き剥がすだけでも勝率は上がるだろう。それと、余力を残して勝とうとしたという事は、消耗戦も有効のはず・・・フッフッフッ」


 少しずつではあるが分析が進み、自身の勝機も見えてくる。

その事にディディアルは嬉しそうに喉を鳴らしながら、次に差し向ける魔物を考えるのだった___。

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