ろうらく作戦会議:ゲスト二人(1)
カスミやナナリーたちの働きもあって、四か国会談でタルトゥニドゥの探索および、ドワーフ遺跡の発掘を行う事が決定した。
ナナリーからこの報告を受けたオーマは、その日の夜、再び作戦会議を開くべく、主要メンバーをロストの家に集めた___。
「___こほん。えー・・では、第五回勇者ろうらく作戦会議を始める。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「お願い致します」
「よろしく」
「よ・・よろしく?」
「お、おお・・・」
「え、ええ・・・」
オーマが会議を開くと、メンバーの数人(ヴァリネス、フラン、ウェイフィー)から、微妙なリアクションが返って来た。
そのメンバーの反応に、オーマは眉をひそめた。
「む?・・何だ?歯切れの悪い返事をしている奴がいるな。どうした?」
「いや~・・何か、普通に始まったなって・・・」
「うん。妙な気分」
「前の訳の分からないノリとテンションはどうしたの?」
「不評だったから止めた。それに、今回はゲストも居るしな」
「・・・・・」
「・・・・・」
オーマがそう言うと、メンバーの注目が、ゲストのデティットとアラドに集まった。
例によって、ジェネリーとレインは、カスミの付き添いのため、会議に参加しておらず、ナナリーも今回はカスミ達と共に居る。
その代わりというわけではないが、タルトゥニドゥ探索の詳細を知る者として、デティットとアラドの二人を呼んで、サレン攻略のアドバイザーも兼ねて、会議に参加してもらっていた。
「というわけで、皆も知っていると思うが、一応紹介しよう。本日の会議に参加してくれたゲスト、デティット・ファイバーとアラド・マイクス・オールズだ」
「・・・・・」
「・・・・・」
メンバーからパチパチと拍手で迎えられるも、デティットとアラドの二人は、ずっと黙っている。
「二人とも、どうしたの?緊張してんの?」
「あ、いえ。別にそういうわけでは無いのですが・・・・」
「何なんだ?これは?ふざけているのか?作戦会議と聞いていたが?」
デティットが冷めた口調と表情で、メンバー達に詰めた。
サンダーラッツのメンバー達には、訳が分からなかった。
「え?そうよ?作戦会議よ?何?何か変だった?」
「いえ、特には・・・」
「いつも通りだよな?」
「いつもより真面目に始まったくらいですよね?」
「そうだな」
「ッ___やれやれ・・・普段の“いつも通り”を知るのが怖いな・・・何なんだ?これは!?」
「「これぇ?」」
そう言ったデティットの指差す方を見てみれば、その先には、お酒とそのつまみになりそうな乾物などの食料が用意されていた。
「___何故、作戦会議に、酒とつまみがあるんだ?」
「「・・・・・」」
サンダーラッツ一同の思考が一瞬停止した______。
「_____ああ!そういえば!普通は、酒盛りはしないんだっけ?」
「おお!そういえば、そうだ!」
「忘れてた」
「わ・・・忘れてた?」
皆の言い分に、アラドとデティットは引き気味だった。
それを見たサンダーラッツの皆は、慌てて言い訳をし始めた。
「ま、まあまあ。別に会議中に飲み食いするわけじゃないし!」
「そう。終わった後のお楽しみ」
「姉さんもアラドも、固い話は無しにしよーぜ?」
「そうそう。会議中に酒を飲むなんて、たまにしかしないわよ」
「たまにはするのか?お前達、ふざけているのか?」
本心なのかワザとなのか、皆の言い分は全く言い訳になっておらず、デティットは苛立ち、アラドは呆れ始める。
さすがにマズイと思ったのか、今度はオーマが慌てて弁明した。
「い、いや、二人とも大丈夫だ。俺が普段、最後の一線は守らせている。これは団長としてハッキリ言える。今回もそうだ」
「オーマ・・・はぁ・・・まあ、良いだろう。他所のやり方なんだ。風紀が乱れない内は黙っていよう。始めてくれ」
「ありがとう。よーし。皆そういうわけだ。“今日は”ゲストも居るから、会議中の飲食は控える様に」
「「はーい」」
「・・・今、“今日は”って言いましたね」
「はぁ・・・ったく」
サンダーラッツの会議初参加のデティットとアラドが多少この場の風紀を気にするも、オーマの進行で会議が始まるのだった。
「じゃー先ずは、前回の会議から今日までの経過報告からだ。ナナリー、ジェネリー、レインの三名は、前回の会議で決まった通り、タルトゥニドゥ探索を実現してくれた。サレンから聞いた限りでは、オンデールでこの動きを怪しんでいる者はいないと思っているが、アラドから見てどうだ?」
「その通りです。話が出たのがゴレストからでしたし、元々オンデールはタルトゥニドゥの魔物を脅威と感じていましたから、その脅威を排除できる今回の流れを好ましく受け止めています」
「デティット、ゴレストの方はどうだ?脅迫を受けた連中の様子は?」
「問題無いな。ゴレスト王も前向きだし、脅迫された者達も特に反発する動きは無い。脅迫されたわりに自分達や国が損する内容では無かったのが良かったのだろう。それに、誰にでも相談できるわけじゃないからな。表沙汰にはならんだろう」
「そうか。なら、ナナリー達の任務は問題なく終了したと言えるな。次に、俺とサレンの交流についてだが、こちらも順調だ」
「「ウソだ!!」」
オーマの報告はその場に居る者達全員に否定された___。
「ほ、本当だって!!」
「いやー、無いわー。無理有るわー」
「ウソつき」
「そりゃー、確かに普通なら、一月あれば友人や恋人にもなれるだろうが、団長だろ?」
「団長では、サレン相手にその期間では無理でしょう」
「オーマぁ・・・私とアラドは、サレン様の友人だから、直ぐウソだとバレるぞ?」
「そうですよ。作戦会議なのですから、見栄張ってないで本当のこと言ってください」
「そうです。そうじゃないと、有効的な作戦が立てられません」
「団長・・・さすがにウソは良くないですよ?ちゃんと協力しますから、正直に言ってください」
「そ・・・そんな・・・ロジまで・・・」
本当の事なのに、誰も信じてくれなくて、オーマは心が折れそうになった。
だが、それよりも怒りが勝り、反論するのだった。
「本当だって!サレンが俺と副長の事を、“外の世界で初めてできた友人”って、言ってくれたんだ!てか、副長やデティットとアラドは、俺をサポートしている時、俺とサレンの距離が縮まっていくの見てただろ!?」
「え~~・・・そうだっけ?」
「いや・・・そういえば、そうかも・・・」
「アラド、本当か?」
「ええ。一応、親しくはなっていたような・・・」
「な、なんで忘れているんだよ・・・・」
副長だけじゃなく、デティットとアラドにも忘れられて、オーマはヘコんだ。
ヘコんでいるオーマがさすがに不憫だったのか、アラドは慌てて弁解した。
「い、いえ。忘れているのではなくて、印象が薄かったのですよ。いや、違うな。この言い方じゃない。えーと・・・なんていうか、オーマさんが失敗しているイメージが強かったから、と言いますか・・・」
「あー・・そういえば、そうかも。団長がやらかして、それに説教してばっかだったもんね」
「確かに・・・ずっと怒ってばかりだったから、上手く行っていない気がしていただけかもな・・・」
「そう言われたら、それはそれで何も言えんのだが・・・」
腑に落ちないオーマだった・・・・。
「じゃー、本当にサレン様とは、親しくなれているんだな?」
「ああ。個人的な分析だと、オフィシャルとプライベートの狭間を行き来している感じだ」
「「ふ~ん・・・」」
「お前達、まだ信用してないだろ・・・クソ。まあ、いい。その話は後だ。いい加減、報告を続けよう」
オーマは、サレンとの距離を縮められたことを内心で喜んで、会議が始まる前まで得意になっていた。
だが、皆に信じてもらえず、落ち込むのだった。
落ち込みながらも、その気持ちを一旦仕舞い、会議の進行を続けた。
「デティット、アラド。反乱軍の人員を増やす活動の方はどうだ?」
「まあ、わりと順調ではあります。イワナミ隊長とフラン隊長が手伝ってくれたおかげで、エルフ達の警戒心は薄れてきています」
「____フランは余計だったがな」
「ちょ!?姉さん!?そりゃー、無いぜ!俺、頑張ってんじゃん!」
「うるさい。私は、貴様にナンパしろとは言っていない」
デティットの発言で、サンダーラッツのメンバーの温度が下がった。
「フラン・・・アンタねぇ・・・」
「ナンパなどしてないで、真面目にやってください」
「ばか」
「ナンパしたいなら、ナンパしても問題無い相手を選べ。他にも相手がいるだろ?」
「フランさん。大事な任務ですよ?真面目にやりましょう」
ジト目のメンバーから、非難の言葉がフランに飛ぶ。
皆の視線に刺されるも、フランはめげずに言い訳を始めた。
「いや、ちゃんとやっているって!ちょっとカワイイ子に声を掛けて、食事や飲みに誘っているだけだって!」
「ナンパじゃねーか」
「遊んでる」
「人として距離を縮めるんだから、遊びも有りだろ?」
「うわっ!?認めた」
「良くないです・・・」
「開き直るなよ」
「節度を守れと言っているのです!」
「守ってるよ!ちゃんと一部の女の子とは、仲好しになれているぞ!」
「“一部の女の子”でしょ?」
「一部でも大事だろ?」
「一部の人と仲良くなるのがダメなんじゃない。一部の人と仲良くなるために、他の人から嫌われるやり方をするなって話だ。んなもんプライベートでやれ。これは団長命令だ」
「な!?パ・・・パワハラだ・・・」
サレンが引いていた以上、フランの態度を放っておくこともできなので、有無を言わせず命令した。
何やらフランがブツブツと言っているが、オーマも皆も、それを無視して話を続けた。
「じゃ―フランの所為で親交は深まっていないの?」
「いや。イワナミさんは、上手く立ち回ってくれていますし、フランさんも一応、一部の女性以外とは仲良くやっていますから、全体的には上手く行っているとは思うのですが、親交が深まったからといっても、反乱軍に誘える段階とは言い難いです。一度、信頼のおける指揮官数人に話をしましたが、やはり抵抗がある様子でした」
「やはり彼らを反乱軍に引っ張るには、サンダーラッツとの友好だけじゃ無理だ。彼らを反乱軍として戦場に立たせるには、サレン様が反乱軍に入らなければならない」
「じゃー、ゴレスト軍とオンデール軍の加入は、サレンさん次第ってことになりますか?」
「そうなります」
「なるほどな・・・」
親交こそ深まっているものの、ゴレスト軍とオンデール軍の反乱軍への勧誘は、あまり上手く行っていないという報告を受け、場の雰囲気が暗くなる。
だが、いつも通り、ヴァリネスが皆の気持ちを鼓舞するのだった。
「ちょっと!別に、落ち込む必要は無いでしょ!?サレンが入ってくれれば、ゴレスト軍もオンデール軍も反乱軍に入ってくれるわけだし、そのことは予想していたでしょ?」
「そうですね。ゴレストやオンデールの兵士達と、親交を深めたこと自体は無駄ではない筈ですし」
「カワイイ子とも知り合えたしな♪」
「そういう事じゃないでしょ」
「これで目的はハッキリした」
「じゃー、他に言っておきたい事が無ければ、サレンとの親交を深めるための今日の本題。タルトゥニドゥの探索の話に移るぞ?いいな?」
「「了解」」
経過報告を終えて、現状を把握した一同。
そして議題は、タルトゥニドゥ探索の話に移るのだった___。




