ヴァリネスのモテ講座(後半)
「とにかく!モテたいなら、その実力や権力で相手の認められるところを褒めたり、自分に足らない部分を相手に頼ったりした方がモテるわね」
「そ・・・そういうもんか?」
「男もそうでしょう?実力のある人物に褒められたり、必要とされたりすると嬉しいでしょ?そういうのって、男女関係なく嬉しいものよ」
「なるほどなぁ・・・実力者や権力者がモテるのって、そういう部分も有るからなのか・・・・」
ヴァリネスの授業内容に納得はするものの、オーマは不安を抱いていた。
サレンに対しては、軍事関連の話題は出しづらいのに、軍人一筋で生きてきたオーマが、サレンの何を認めて褒めたら好感を持ってもらえるのだろうか?
必要としたり、頼ったりというのも、ぶっちゃけサレンを必要としている一番の理由は、サレンの戦闘力なのだ。
今のヴァリネスの話をどう自分とサレンに当てはめれば良いかが、オーマには分からないでいた。
「でも、その話、俺がサレンに対してどう応用すれば良いんだ?」
「団長は、教養だってそれなりに有るでしょう?一応、軍学校の筆記試験の成績だって主席だったし、外の世界を見て回った経験だってあるでしょう?サレンは内向的な性格だけど、外の世界には興味があるのよ。団長のその知識と経験でサレンを励ましてあげたら、きっと自信が付いて好感を持ってくれるわ。女は自分に自信を持たせてくれる男は好きよ」
「でも、昨日は失敗したぞ?」
「内容の選び方を、でしょ?外の世界の話をすること自体は良い事よ。外の世界の何について話すかが大事よ。私と話している時は、その話題で盛り上がっていたでしょ?外の話題を振って、あの子の考え方や価値観を知って、それを認めたり、アドバイスしたりして、あの子に自信を持たせるのよ」
「り、了解であります」
オーマはせっせとヴァリネスの授業内容をメモしている。
「そんで、後、“俺が彼女を育ててやろう”ってスタンスはダメよ」
「うそぉ!?ダメなのか!?・・・だって、ジェネリーとレインの時はそれで上手く行ったのに・・・」
ジェネリーとレインの時には、まさにそのスタンスで接していた為、オーマは驚かずにはいられなかった。
「それは二人が望んでいたからよ。二人とも伸び悩んでいた時期で、自分を育ててくれる人を探していたから、そのスタンスが合っただけ。運が良かっただけよ。基本的には、望んでいないアドバイスなんて余計なお世話よ。特に年上から言われると、説教臭くなって、より鬱陶しいわ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。サレンに自信を持たせるためにアドバイスした方が良いのに、アドバイスが余計なお世話って、どういうことだ?」
「“望んでいないアドバイス”って言ったでしょ?説教臭くならないようにアドバイスする方法は有るわ。大事なのは共感。年上ならこれに加えて、相手のペースやルールを尊重する包容力よ」
「・・・ど、どういうことでしょう?」
経験の乏しいオーマには、ヴァリネスの言っている事のニュアンスが分からなかった。
「軍の上官みたいに、上から指図するなってことよ」
「“ああしろ!こうしろ!”って感じじゃなく、“こうした方が良い”・・・みたいな?」
「年上の男が、若い女の子にするなら、もっと目線を合わせて、寄り添った方が良いかもね。“もしこうしたら上手く行くんじゃないか?”とか、“もし自分だったら、こうしてみるよ”とか」
「・・・・文法が仮定法になっただけじゃないか?」
オーマには、自分の言い方と、ヴァリネスの言い方の違いが良く分からない。
文法が変わっただけで、大きな違いがあるようには思えなかった。
「それが大事なのよ。どの国の言語だって、相手を気遣ったり、敬ったりする場合は仮定法を使うでしょ?“もし~して頂けたら幸いです”とか、“もし可能でしたら、~した方がよろしいかと思います”とか。直接的な言い方を避けるのは、どの国のどの種族でも同じよ。言い切ったり断言したりすると、自信があるように見える反面、冷たく威圧的に感じたりもするのよ。特に年が離れていると余計にね」
「な、なるほど・・・言われてみると、そんな気がする・・・」
ヴァリネスに言われて、オーマは納得する。
それとは別で、心の中で、“意外と言葉遣いに気を使っていたんだな、コイツ”と、ヴァリネスの意外な気遣いに感心して驚いていた。
「本当は両方使い分けて、自信と優しさの両方を見せられたら良いんだけど、今の団長に、サレンとのコミュニケーションでそこまでは求めないわ。先ずはファーストステップとして、仮定法を使った優しい言葉を女の子に使えるようになりなさい」
「わ・・わかった」
オーマはしっかりと、メモに書き下ろした。
「よーし。じゃー、ここまでの内容を、復唱してみなさい」
「分かった。えーと・・・興味ない話題でも、興味があるように見せて話題を広げる。年上で経験が豊富な点は、説教や自慢ではなく、褒めたり自信を持たせたりするために使う。相手の意見や価値観に共感する。相手のやり方を尊重する包容力を持つ。・・・えーと、それから、自分の意見やアドバイスは直接的に言わず、遠回しに優しく言う・・・こんなところか?」
「あ、言い忘れた。後、あまり物事や女性の言動に執着しない事」
「・・・どういうことでしょう?」
ヴァリネスから、再び経験の乏しいオーマには理解できないアドバイスが飛んできた。
「女の子に変な誤解されたり、ちょっと不機嫌な態度を取られたりしても気にするなってこと。その場で誤解を解こうとか、機嫌を直そうとか思って、しつこく付き纏うと余計に嫌われるわ」
「そういうもんか?」
「恋人とか気になる相手になら、構ってほしいと思う女も居るでしょうけど、まだ親しくない場合にはしつこくしない方が良いわよ。絶対拒絶されるから。覚えておきなさい」
「り・・・了解であります・・・」
オーマはまたメモを取ると、ブツブツと復唱して頭に叩き込んだ。
「よし。じゃー、もう一回シミュレーションしてみましょう。今度はクシナとやってみなさい。固い話題にならないようにね」
「了解だ!」
「クシナも、サレンを想定しているのだから、固い話に話題が逸れないように」
「は、はい!了解です!」
ヴァリネスの指示で、オーマとクシナはテーブルを挟んで椅子に座る。
そして再び、女の子との会話のシミュレーションが開始された。
オーマは自分が会話をリードするべく、慣れないながらも必死に頭を働かせて、話題を振った。
「クシナ。ゴレストに来てみてどうだ?居心地は?」
「夏になって、熱くなってきましたが、ここは帝国より涼しくて良いですね。過ごしやすいです。団長はどうですか?」
「そうだな・・・オンデンラルの森は深く、木も大きいから警戒するときは木の上も____」
「ッ!」
ヴァリネスの視線がオーマに刺さり、オーマは慌てて話題を切り替える。
「____あ、いや、森が深くて空気が美味いな。確かに、涼しくて過ごしやすい。けど正直言って、ベルヘラの方が居心地よかったかな」
「確かに、ベルヘラも良いですよね。ベルヘラは、今の時期だったら海水浴のシーズンですね」
「海水浴かぁ・・良いな。泳いでみたい。海では泳いだ事無いんだよ、俺」
「私も無いです」
「そうか。なら一緒に泳ぎに行かないか?」
「ええ!?泳ぎに、ですか?・・・で、でも私、水着を着て人前に肌を晒すのはちょっと・・・」
「___む!」
クシナのその一言を聞いて、オーマの瞳がキュピーンと光かった。
今こそ、ヴァリネスの教えを実践するタイミングだと判断したのだ。
(経験豊富!___褒める!___必要とされる!___上から目線はダメ!___自信を付けさせる!____包容力!____行くぞ!)
頭の中で、ヴァリネスに教わったことをグルグルと復唱して、オーマは言葉を選ぶ。
そしてオーマは、ヴァリネスに教えられた通り、満を持して“若い女の子にモテる年上男性”を実践した___。
「いや、大丈夫だよクシナ。俺は経験豊富で色んな女を見てきたが、クシナはお尻が大きいから自信を持って良い。もし良かったら、Tバックを選ぶと良い。きっと良く似合と思うよ?」
「は?・・・・・」
「「・・・・・・・・・」」
___________時が止まった。
「・・・・・・・・あれ?」
「あれ?・・じゃねーーーーーー!!!!」
ヴァリネスの今日一のアッパーカットが、オーマの顎に直撃した。
「この超大馬鹿者ぉ!!誰がセクハラしろって言ったぁ!?ああぁん!?」
「ぞ、ぞんだづぼびじゃばびばぜんでじだ・・・・」
「団長ぉ・・・・」
「な・・・なんか最初より酷くなりましたね」
「ドン引き・・・」
さすがに、ヴァリネスとウェイフィーだけじゃなく、クシナとロジも、オーマの今の発言は弁護のしようがなかった・・・。
「このバカ!!バカぁ!!なんでモテるための教えを実践して、キモくなれんのよぉ!?ワザとやってんのぉ!?」
「ご・・・ごべんだざい・・・」
なおもボコボコに蹴り飛ばされながら、ヴァリネスの説教が続いた___。
その後も、ヴァリネスのアッパーカットを喰らいながらの地獄の特訓(ほぼオーマの自業自得)が続くのだった____。




