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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第三章:静寂の勇者ろうらく作戦
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ヴァリネスのモテ講座(前半)

 会議で方針が決まったサンダーラッツ一同は、それぞれの役割を果たすため行動を開始した。

 ジェネリー、レイン、ナナリーの三人は、オーマの予想通りにタルトゥニドゥ探索に興味を示したカスミと共に、共働探索実現のため、四か国の高官達と面会して根回しを始めている。

フランとイワナミは、デティットとアラドの反乱軍の人員を増やす活動を手伝うため、ゴレスト軍とオンデール軍の軍事訓練に参加し、兵士達と交流している。

クシナは、連絡役として今回のアジトとなっているロストの家で待機しており、オーマ、ヴァリネス、ウェイフィー、ロジの四人も、オーマの特訓のため同じくロストの家に居た。

 ロストの家では、オーマとロジがテーブルを挟んで向かい合って、会話をしている。

サレンを攻略するため、オーマの女の子とのコミュニケーション能力を上げる目的で、日常会話のシミュレーションが行われているのだ。

そのシミュレーションの会話の流れで、ロジはデティットに案内されて行ったお店の話をしていた。


「____それで、そこのお店はスイーツも美味しいんです!生クリームが軽くてふわふわで、優しい甘さだから団長にもお勧めです!」

「へぇー・・・」

「え?・・・・え、えっと・・・・それで・・・・・」

「___カット!何やってんの!?このバカ団長!」

「____ゴフッ!?」


ヴァリネスは怒号を飛ばしたかと思うと、ズカズカとオーマに歩み寄り、今日何回目かのアッパーカットを打ち放った。


「だからぁ!会話を広げろって何回言わせんのよ!!」

「い、いや、すまん・・・思い浮かばなくて・・・」

「何かあるでしょ!?“そのスイーツなら俺も好きになれそう”とか、“他にもお勧め有るの?”とか、“今度行ったら何食べたい?”とかぁ!」

「な、なるほど・・・興味が湧かなくて思いつかなかった」

「興味が無いからって、興味が有りません、って態度じゃダメ!興味が無くても、興味を持ってそうな態度と会話、楽しく喋らせる質問と相槌は有るわ!女の子との会話するときは、最低でもグルメ、旅行、ファッションの話題には、興味が無くても、そういう対応ができるようになっておきなさい!!」

「り、了解であります!」


床で正座して説教を聞いていたオーマは、懐からメモ帳を取り出し、いそいそと今のヴァリネスの教えを書き留めた。

そのオーマの勤勉な態度に、ヴァリネスはやれやれといった溜め息をついた。


「はあ・・・学習態度は良いのだけれどねぇ・・・中々成績が上がらないのよねぇ、この生徒」

「はは・・・生徒ですか」

「副長、意外とノリノリ」

「それは、楽しくて結構なのですけど、あの・・・会話の相手は、本当にボクで良いのでしょうか?・・・ボク、男なんですけど・・・」

「え?全然良いんじゃない?違和感なかったし。少なくとも、ロジくんが今までで一番良い相手よ?」

「確かに・・・クシナが相手役の時は酷かった」

「ちょ!?・・ウェイフィーがそれを言いますか!?ウェイフィーが相手した時は会話すら、無かったじゃないですか!」


 オーマの特訓に当たり、女の子との日常会話をシミュレーションすることになったわけだが、直ぐに問題が浮上した。


 実は、オーマの相手役で適任な人物が居なかったのだ。


 最初にウェイフィーが相手役をしたときは、ウェイフィー自信が淡白過ぎて全く会話にならなかった。

次に、連絡役として待機中だったクシナに相手役をやってもらったのだが、会話こそ成立していたものの、話題が軍事、政治を中心に固い話ばかりで、“サレンとの日常会話を想定したシミュレーション”というわけにはいかなかった。

そして、最終的に、ロジにこの役が回ってきていたのだった・・・。


「もう・・こんなことなら、ユイラも連れてくるべきだったわね。迂闊だったわ。ウチの女性陣って、なんでこんなに癖が強い女ばかりなのかしら?」

「副長が言わないでください!」

「不本意」


一番癖が強いヴァリネスには言われたくないクシナとウェイフィーだった。


「まあ、とにかく、ロジくんが気に病むことじゃないわ」

「そうですか?団長はどうでしたか?ボク、お役に立ててますか?」


そう心配そうに聞いてくるロジの瞳は潤んでいて、妙な色気があった。

そのロジの表情に、オーマは思わず照れて顔を赤らめてしまった。


「あ、ああ・・・ロジは特に問題は無かったよ。協力してくれてありがとうな、ロジ」

「あ・・・はい♪」

「うっ・・・」


ニコッとロジの笑顔が弾けて、オーマは“先程のシミュレーションと同様に”再びドキッと心臓を跳ね上げた。

 ロジは、自分の事を役不足なのではと心配している様だが、とんでもない。

透き通った肌、潤んだ瞳、それを強調する長いまつげ、普段は意識していないが、改めて向き合うとロジはどこまでも女性らしく可愛かった。

会話をしている最中、オーマはずっと緊張しっぱなしだった。

そういった意味で、可愛い女の子とのコミュニケーションを取る練習相手としては申し分なかった。


 だが、それ以前にオーマには気になる事があった。いや、正確に言えば、気にしてしまう事があった。


「でもなんかさ・・・俺みたいなおっさんが、どう頑張っても、あの年頃のにん・・・いや、エルフの女の子を口説くのは無理なんじゃないかって思えてくるんだよなぁ・・・」

「おっさんって・・・団長そこまで年取ってないじゃないですか」

「いや、ジェネリーでもギリギリだったんだから、サレンから見たら立派なおっさんだろ?」


 ジェネリーとレインの時は、共通する部分や、求められる部分があったから上手く行っていたが、今回はそれが全く無い。

サレンと友好を深める取っ掛かりが見えず、オーマは弱気になっていた。


「何言い訳してんのよ。やりたくないのを年のせいにしない」

「そう。年齢差なんて人次第」

「ウェイフィーの言う通り。どっちみち、やらなきゃならない事なんだから、コンプレックスに感じていてもしょうがないわよ」


オーマの言い分は、ヴァリネスとウェイフィーによって、ただの愚痴として処理されてしまったが、オーマは腑に落ちなかった。


「こ、コンプレックスなのか?俺は事実だと思うのだが・・・」

「コンプレックスよ。人によるけど、でも、どちらかといえば女は年上好きの方が多いわ・・・・私は違うけど」

「そうなのか?おっさんって、若い子に嫌われているイメージだった」

「人による」

「そうよ。ポイントを押さえれば、モテるのに歳はあまり関係無いわ」

「本当か!?ポイントってなんだ!?どうすれば若い女の子にモテるんだ!?教えてくれ!」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・ど、どうした?三人とも黙ってしまって・・・」

「いや・・何かキモイ」

「引くわー」

「モテようと必死みたいですよ・・・」

「ふっっざけんなよ!やらなきゃならんと言ったのは、お前達だぞ!?そりゃー必死だよ?生死が係っているんだからさ!」


女性陣のリアクションに、さすがに理不尽さを感じて訴えるオーマだった。


「俺は、純粋に任務を遂行する上で、必要なポイントを押さえておきたいだけだ!」

「・・・本当ですか?」

「ほ、本当だ!」


 今回サレンを口説く上で、今までで一番若い(実年齢はそうでもない)という点と、今までで一番有効だった話題が出しづらいという点で、本気でやりづらさを覚えているオーマは、本当に純粋に若い女の子とコミュニケーションをとるポイントを押さえたいだけなのだが、何となく“若い女の子にモテようと必死なおっさん”という感じになってしまい、女性陣(特にクシナ)から白い目で見られるのだった____。


(どうしろってんだよ・・・まったく・・・)




 多少の誤解なんかも有りつつ、改めてヴァリネスからサレンを攻略する上での“若い女の子に年上の男性がモテる”スタンスの解説が始まった。

例によって、オーマは床に正座して、メモも用意してヴァリネスの授業を聞くのだった。


「いい?年上の男が、若い女の子にモテるっていったら、もちろん経験豊富であることは大事よ?でもね、それを態度や言動に出したらダメ。人って実力を付けたり、偉くなると直ぐに自慢するけど、絶対ダメよ?」

「ああ、それは分かる」


 男女がどうのというより、直ぐに自慢する人や威張り散らす者を好きになる人は居ないだろう。

帝国で第二貴族に威張り散らされているオーマには良く分かる話だ。


「・・・・ちなみに、俺って普段自慢したり、威張っていたりするのか?」

「いや。それは無いわね」

「団長を偉そうと思った事はない」

「そうですね。だからその点は、そんなに気にしなくてもいいと思います」

「ほっ・・・」


気になって聞いてみたものの、改めて自分の日ごろの態度を聞くのは恐ろしい。

自分の評判が悪いものではなくて、オーマは心底ほっとした。


「あ、でも時々、作戦命令を出す時に、ドヤ顔しているのが鼻につくことがあるわ」

「あ、分かる」

「ぐほっ!?」


ヴァリネスの告白とウェイフィーの同意に、ほっとしたもの束の間、ぐほっとなった。


「・・・・お、俺、命令出すときドヤ顔してんの?」

「そうでしょうか?気にしたことないですけど・・・」

「同じくです。特に変だとは思っていません・・・・・むしろ、凛々しいと思っています・・・」


クシナの言葉の最後の方は、声が小さくて聞き取れなかったが、とにかくクシナとロジは気にしていない様なので、オーマは再びほっとした。


「え~?うそぉ?ドヤ顔してるでしょう?特に、良い作戦を思いついた時には」

「うん。自信がある作戦の時は、良くドヤ顔になってる」

「そうそう。団長、自分の作戦に自信があるときと、そうでないときの表情が違うから分かり易いのよね~」

「あー・・・・そういえば」

「言われてみると確かに・・・」

「ぐほっ!?」


今度はロジとクシナにも心当たりがあったらしく、ほっとしたもの束の間、ぐほっとなった。


「そ・・・そうだったんだ・・・恥ずかしい・・・」

「あ・・・ま、まあ誰だって、自信がある時は多少ドヤるわよね!そんなに気にしないで!」

「そ、そうです。自信をもって指示を出してくださる方が、ボクたちも安心できますし!」

「うんうん」

「そうです!・・・・そ、それに・・・・・あの表情・・・私は結構す・・・・・好きです」


オーマに自信を持たせるはずが、落ち込ませる結果になってしまって、四人は慌ててフォローする。

照れて上手くフォローできないクシナを除いた三人のおかげで、オーマは何とか立ち直った。


 そして、ヴァリネスの授業も続く____。

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