ろうらく作戦会議:サレン編(1)
オーマがサレンと初対面を果たした日の夜_____。
サンダーラッツの一行は、カスミと晩餐会に出席しているジェネリーとレインを除いて、デティットの厚意で借りられたロストの家に集まっていた。
「おりゃーーーー!!第四回勇者ろうらく作戦会議だぁ!こんちくしょーーー!!」
そして、ヴァリネスの投げやりな怒号で作戦会議が始まった・・・・だが、そのテンションに隊長達は眉をひそめるのだった____。
「声が大きいですよ、副長」
「近所迷惑」
「どうしたんだよ?」
「うるさい!!どうしたもこうしたも無いわ!せっかくターゲットに近づくチャンスがあったっていうのに、この唐変木が!!」
「面目ありません・・・・・」
皆がリビングのソファーやアームチェアに腰掛ける中、団長のオーマは一人だけ床で正座している。
そして、心底申し訳ないと言った表情で縮こまっていた。
「・・・・ひょっとして、失敗ですか?」
「いや、ロジよ・・・ひょっとしなくても分かるだろう・・・」
「そうですよね・・・・スイマセン」
「ロジくんが謝ることじゃないわ!悪いのは、この唐変木よ!!」
視線だけで人を殺せそうな瞳で、ヴァリネスはオーマを射貫く。
自覚しているオーマは、萎縮するしかなかった。
「副長、容赦ないですね。団長が可哀想です。幹部の皆さんだけで集まったときは、いつもこうなのですか?」
「いいえ。違います、ナナリー。副長がやかましいのは、いつもの事だけど、団長がこんな態度になって責められるのは稀です」
「サレンちゃんと会った時、それだけの事があったんだなー・・・」
「そうよ!!せっかくデティットとアラドがお膳立てしてくれて、私もアシストしたってのに!このボケェ!!」
「・・・面目ありません・・・・・」
「ま、まあまあ、副長。そうはいっても、この調子じゃ会議が進みませから、そろそろ機嫌直してください」
「イヤよ!この怒りは、そう簡単には収まらないわ!」
見ていられなくなったクシナが団長を庇うものの、ヴァリネスの機嫌は直らない。
それどころか、クシナが団長を庇ったことで、ウェイフィーとフランがニヤついて、それを見たクシナの機嫌も若干悪くなった。
「まったく・・・なんとか、私がサレンと親しくなれたから、良いようなものの、このバカは____」
「え?副長、もうサレンさんと親しくなったのですか?凄いですね!」
「え?そう?ロジくん、本当?」
「はい!それなら後は、副長が団長とサレンさんの中を取り持てば良いわけですよね?さすが副長です!」
「えへへへへー♪そうかなぁ?それほどでもないよー♪」
ロジに褒められて、ヴァリネスはデレデレになった。
「もう、機嫌が直っているな・・・」
「なにがそう簡単には直らないだよ。速攻だったじゃねーか」
「それは当然ですよ。イワ、フラン。副長ですよ?」
「いつもの事。チョロ過ぎ」
「そこ!何ブツブツ言ってるの!私の活躍でせっかく突破口が見えたんだから、それを台無しにしないように作戦を練るわよ!」
「「はーい」」
ヴァリネスの機嫌が直ったところで、改めて作戦会議が始まった。
だが、オーマは相変わらず縮こまっているので、ヴァリネスが進行役を務めるのだった。
「さて、まず現状を把握するわ。皆もすでに知っている通り、プロトス卿のおかげでゴレストのデティットが反乱軍に加わって、そのデティットの誘いでオンデールのアラドも反乱軍に加わってくれたわ。サレンを紹介してくれたことから、この二人の意志は本気と見てよいでしょう。で、私達はこれからカスミ達の目を掻い潜って、二人と一緒にサレンを優先的に口説きつつ、ゴレストとオンデールの高官達も調略していくわけなんだけど、団長が甲斐性無しだってところ以外で何か問題ある?」
「団長が問題なのは確定なんですね・・・」
「当然!今日のこの男の態度で確信したわ!」
「まあ、俺達も否定はしない」
今回に関しては、誰一人オーマを庇う者は居なかった。
「うぅ・・面目ない・・・・でも仕方ないだろ・・・女の子との日常会話は苦手なんだ・・・」
「副長やクシナ、ウェイフィーちゃんとは普通に話せているじゃん」
「三人には、さすがの団長も慣れているだろう」
「あー、でも、そういえば、団長との会話は軍事関係ばっかりだったわね・・・・気にしたことないけど」
「振り返ってみるとそうかも・・・気にしたことないけど」
「ええ、そうですね・・・・・・・気にしてましたけど」
付き合いの長いヴァリネス、ウェイフィー、クシナでも、オーマとの日常会話の少なさは思い当たるらしい。
「え?でも、ジェネリーさんとレインさんとは、上手くコミュニケーション取れてますよね?」
「レインちゃんの時にはデートもして、上手くいったって自慢してたじゃねーか」
「二人とは知り合う切っ掛けも、その後の会話も、殆ど軍事関係の話題だったんだよ。レインとのデートは、レインにリードしてもらったんだ・・・」
「軍事の話題が出せない、戦嫌いの少女のサレンさんとの会話では甲斐性無しが浮き彫りになったのですね」
「油断していたわ・・・二人女の子を口説いたから、多少はマシになっているかと思っていたのに・・・」
「面目ない・・・・」
オーマは再び縮こまる。言われ過ぎのようにも思うが、甲斐性無しなのは事実だし、それでもどうにかなったのはヴァリネスのおかげだ。
ヴァリネスに、“こういう場面では、こういうニュアンスの事を言え!”とアドバイスしてもらえたから、ジェネリーとレインから好感を得られたのだ。
それだけに、この件に関しては、オーマはヴァリネスに一切頭が上がらないため、黙っていることしかできなかった。
「ですが、そうはいっても、いつかはサレンさんも一緒に戦ってもらえるように誘うわけですよね?」
「それは、ある程度親しくなってからでいいでしょ?」
「副長。自分はその、“ある程度の親しい関係”というのに疑問を持ちます」
「イワ・・どういうこと?」
「デティット将軍とアラド団長でさえ、サレンの前では戦争の話題は避けているのですよね?サレンと最も親しい二人でさえ、口にすると萎縮してしまう話題を我々が出せる“ある程度の親しい関係”とは、どの程度なのでしょうか?」
「む・・・」
イワナミの指摘に思うところが有ったのか、ヴァリネスは眉をひそめた。
「確かに、ボク達や団長がデティット将軍やアラドさんより、サレンさんと親しくなるのは難しいですよね」
「だから籠絡するんじゃねーか。ろうらく作戦を実行して、本気で惚れさせれば良いんじゃねーの?」
「不謹慎ですよ、フラン」
「でもよー、これが第一貴族に命令された事で、俺達の反乱計画だろ?」
「で、ですけど・・・・」
サレンが世間知らずの少女というのも有ってか、クシナは今まで以上にろうらく作戦に対して、拒否反応を示した。
「クシナ。フランの言い分は正しい。サレンにもろうらく作戦を仕掛けるべき」
「ウェイフィー・・・あなたまで・・・」
「善人ぶってもダメ。私達は自分達が生き残るために何でも利用すると決めた。そして、年頃の女の子を籠絡して利用すると決めて、実行もしてしまった。言い逃れなんてできない。後戻りもできない」
「ウェイフィー・・・」
「・・・・・・」
クシナは、ウェイフィーに非情に言い放たれ、口を閉じてしまった。
だが、その本当の理由は、オーマが死なないためにオーマが始めた事を、“自分達が死なないため”と言い換えている事に対してだった。
その言葉の言い換えには、ウェイフィーの仲間に対する思いがある。
それに対して、クシナは言い返せなくなったのだ。
そして、クシナと同じ様にサレンを籠絡する事を躊躇していたオーマもまた、その事に対して感謝と罪悪感が芽生えた。
この計画に参加させた団員が覚悟を決めてくれているのに、何故、発起人の自分が覚悟していないのかと、内心で自分に叱咤する。
オーマは心を入れ替え、サレンを籠絡する覚悟を決めて発言しようとした。
だが、それより先にナナリーが口を開いた。
「サレン様を籠絡するなら、むしろ、ろうらく作戦はしない方が良いかもしれませんよ?」
「どういうこと?ナナリー?」
「サレン様は、今日デティット将軍から聞いた限りでは、勘の良い方と思えます。周囲が何も言わずとも、自分が何を求められているか気付いているわけですから。団長が籠絡しようと近づいたら、自分の力が目当てだと気付くかもしれません。・・いえ、帝国の使者が自分に会いに来た今現時点で、薄々気づいているかもしれません。自分の力を当てにして近づいてくる者には、惚れたりしないと思います。仮に、今気付いてなかったとしても、籠絡した後にそれが分かった時、“惚れた弱み”で自分が利用されていることを許容できるタイプか分かりません。私は最初から真摯な態度で反乱軍に誘った方が良いように思えます」
「そうです!ジェネリーとレインの時とでは状況が違います。二人は普通に誘っても、手を貸しては貰えないから籠絡したわけです。反乱軍もまだ立ち上げてませんでしたし。でも今回のサレンさん場合、デティット将軍とアラド団長が既に反乱軍に加わっているわけですから、サレンさんが反乱軍の仲間になる理由も可能性も有ります。籠絡なんて下劣な方法でなくても良いと思います」
「ふむ・・・」
「確かに・・」
「まあ・・一理あるか・・・」
クシナの後付けは感情論だろうが、ナナリーの意見は、反対されたウェイフィーにもフランにも納得がいく意見だった。
「だが、それだと結局、最初に戻るんじゃないか?サレンの性格的に、親しくなる前に反乱軍に誘うのは難しいだろう。やはり籠絡すべきだと思う」
「でも、ナナリーさんの言う様に、ろうらく作戦も危険ですよね?」
会議は始まった序盤から、サレンに対するアプローチの仕方で、意見が割れた。
(俺・・・役に立ってない・・・・)
オーマは、一度は会議に混ざろうとしたが失敗し、ずっと萎縮して黙っているだけだった__。




