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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第三章:静寂の勇者ろうらく作戦
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虚しいアシスト

 オンデールの砦は、十メートル近くの高い木の塀に囲まれている。

塀には防護魔法が付与されており、簡易的に作られた見た目と違い、かなり堅牢だろう。

見張り用の櫓なども、帝国軍人のオーマから見れば、木製の古いタイプの櫓だが、付与された防護魔法とエルフの魔術と弓術が合わされば、落とすのは容易ではないだろうと感じた。

 軍人の癖でオーマはそんな事を考えながら、アラドの案内で砦の中を歩いている。

休んでいる兵士。

弓の練習をしている兵士。

食事をとっている兵士。

談笑している兵士。

どっちを向いても、普段は見かけないダークエルフ達が視界に入って来る。

 そうやって周囲を見渡していると、アラドが向かっている方向に人だかりができていた。

“何事だ?”と疑問を持つ前に、オーマはその人だかりの意味を理解した。


(ッ!____何て魔力だ!?ジェネリーやレイン以上だ!!)


 人だかりの奥から感じる、途方もない魔力にオーマは卒倒しそうになる。

だが同時に、この奥に居る人物がお目当ての人物だと分かった。

オーマは勇気を持って、人ごみをかき分けるアラドの後に続いた。


 そしてオーマは目を奪われた______。


 一人の少女が、瞳を閉じて魔法術式を展開している。

だが、その光景は異様だ。

赤色、水色、土色、黄緑色の四つの魔法術式が展開され、光っている。

その光に照らされ、その小柄なダークエルフの少女は神々しい美しさを放っていた。


(____基本の四属性!?____四つ同時!?____すごい!!____綺麗だ・・・)


魔法も容姿も異彩を放つ少女の衝撃的な光景に、オーマは他の野次馬同様に見惚れて立ち尽くす。

 だが、少女が本当に異彩を放つのはここからだった。

四種の魔法術式が、一つに重なったかと思えば、術式は七色の光を発し、一つの大きな魔法術式へと変化した。


「「____!?」」


自分達が見たこともない魔法術式を見て、オーマとヴァリネスは驚きすぎて、逆に冷静になった。


「・・・・団長、あれ」

「ああ・・・多分、報告にあったやつだ・・・」


全く見たこともない魔法術式だが、事前に報告を受けていたので、二人はその術式の正体に気付いた。


 静寂の力____。


 帝国が源属性と定めた、魔法の根本となる力にして魔法そのものを封じる力。

聞かされた時の驚きもすごかったが、実際に目の当たりにした驚きは筆舌に尽くしがたい。

 オーマはしばしの間、少女の姿と魔法に目を奪われていた____。




 訓練が終わったのか、少女が術式を解除して、小さく息をついてから目を開けた。


(あっ・・・あの子・・・)


改めて少女を見れば、オーマが馬車で見た魔導士の少女だった。


「サレン様」

「アラド・・来ていたのですね。今日は帝国の使者の方と会うと言っていましたが・・・」

「はい。その使者の方をサレン様に紹介しようと、お連れしました」


 アラドの一言で、さっきまで少女に向いていたエルフ達の視線がオーマ達に集まる。

それらの視線は、友好的なものではなかった。

だが、ここで萎縮するほどオーマもヴァリネスも肝は小さくない。

なにより、先のサレンの魔力のプレッシャーと比べれば、大したことない。


「帝国から来たオーマ・ロブレム殿と、ヴァリネス・イザイア殿です。お二方、この方がサレン・キャビル・レジョン様です」


 アラドに紹介され、周囲の冷めた視線に晒されながらも、二人は気にすることなく前に出た。


「初めまして、ドネレイム帝国、北方遠征軍第三師団所属、雷鼠戦士団団長、オーマ・ロブレムです」

「同じく雷鼠戦士団副団長のヴァリネス・イザイアです」

「初めまして、オンデール魔導戦士団、特務団員サレン・キャビル・レジョンです」


 サレンは名を名乗ると、二人に穏やかな表情を見せてくれた。

周囲が冷たい視線を送る中、馬車ですれ違った時と同じ様な負の感情の無い表情でサレンは向き合ってくれた。

その事で、オーマは再び心惹かれるのだった___。




 人だかりの中にあっては交流もままならないため、アラドの厚意で砦の三階に在るベランダへと通された。

広々としたベランダに、イスとテーブルが置かれ、ドリンク代わりに喉を潤すフルーツの盛り合わせがテーブルに用意された。


「良ければどうぞ。熟していて甘いですよ」


アラドが用意してくれたフルーツの盛り合わせは、帝都や遠征先では見られないカラフルな色の果物が多く、ベルヘラ市場で見た果物に似ているが少し違う。


「じゃあ、遠慮なく」


オーマは、橙色の楕円形の果物を一つ取って、皮をむいて中の実を一欠片だけ口に放り込んでみた。

果肉を噛み砕くと、程よい酸味と爽やかな甘さが口の中に広がった。


「ん!美味い!」


味が気に入ったのか、オーマはそのままパクパクと果肉の欠片を口の中に運ぶ。

その様子にヴァリネスが、呆れたような表情を見せた。


「団長・・・私が言うのもなんだけど、食い意地張ってるみたいで、はしたないわよ」

「でも美味いぞ、副長。食べてみろ。喉も潤う」

「はいはい」


言われて、ヴァリネスも同じ果物を手に取った。


(・・・・団長、緊張しているわね)


 オーマは、実はそんなに食に関心が強くない。

そんなオーマが食の話題を振るときは、決まって緊張して何を話して良いか分からない時だった。

長い付き合いでその事を知っているヴァリネスは、オーマに勧められた果実を食べながら、ここは自分が会話をリードしようと決意した。


「うん♪本当においしいわね。他の果物はどうなのかしら?サレン様のお勧めはありますか?」

「私のお勧めですか?私は、その黄色くて細長いナバナの実がお勧めです」

「これ?食べていい?」

「もちろんです♪是非試してみてください」

「ありがと♪いただきます・・・・・ん、うん・・・美味しい♪濃厚な甘さなのにくどくない。後味が良い」

「はい。そうなのです。だから私もついつい食べ過ぎてしまいます」

「分かるわぁ。これは後引く味よ」

「フフッ♪」


喋りながらムグムグとナバナを食べるヴァリネスに、サレンが微笑ましい表情を浮かべると、場が和んでいく。


「アラド。これ、幾つかお土産に持って帰っていい?ウチの子達にも食べさせたいわ・・・・特にロジくん」

「ええ。もちろん構いませんよ。では、これとは別に帰りに用意しましょう」

「ありがと♪」

「気に入って頂けて良かったです」

「うん。大陸中、色々な所に行って、色々なもの食べたけど、私が食べた果物でこれはトップ3に入るわ」

「へぇー・・・お二人は、大陸中を回っているのですか?」


空気が和み始めて、サレンからも質問が飛んでくる。オーマも頑張って会話に交ざろうと口を挟んだ。


「ああ。遠征軍として北方を中心に、色々な戦場に行ったな」

「戦場・・・・・」

「やはり戦場では食糧が大事で、場合によっては敵兵より食糧を狙っ___がっ!?」


 オーマは、テーブルの下でヴァリネスに足を踏まれた。

___何故に?という表情をヴァリネスに送ってみれば、ヴァリネスはアラドとサレンの手前、笑っているものの、額に青筋を立てて怒っていて、いつものアイコンタクトでバチバチと説教をしてきた。


(このバカ!!戦いが嫌いな子だって言われたでしょ!?そんな女の子との会話で、食べ物の話からわざわざ戦場の話に話題を変えるな!!)

(す、すまん!緊張して何話して良いか分からなかったんだよ!)

(とにかく!サレンから話題にするまで、戦の話は禁止!分かった!?)

(り、了解であります!)


「・・・・・」


見れば、サレンは不思議そうな顔をして、キョトンとしていた。


「えっとー・・・」

「あはははは。気にしないでください、サレン様。団長は、唐変木の甲斐性無しなだけですから」

「そ、そう!その通り!」

「は、はあ・・・」


「「・・・・・」」


気まずい空気が流れ、ヴァリネスは再び場を和ませるべく、話題を振った。


「サレン様は外の世界に興味があるのですか?どこか行ってみたい所でも?」

「そうですね。私は、オンデールとゴレストの共存エリア以外の場所には数えるくらいしか行った事が無いので、興味があります。ゴレスト以外の人間の国も見てみたいですし、海や雪といった自然の景色とか・・あ、後、アマノニダイにも行ってみたいです。同じエルフでもかなり文化が違うとか」

「ハハハハハ。それ、殆ど大陸全土じゃない。でも、良いわね。どの国のどの景色も見ごたえがあるから。私達は、本国以外ではリジェース地方によく行っていたのですが、雪景色が綺麗ですよ。オーロラも見たことあるけど、っもう、すっごく!幻想的な景色なんです!」

「へぇー。良いですねぇ!見てみたいなぁ・・・」


サレンの瞳に好奇の光が宿る。

それを見たヴァリネスが、オーマにアシストするべくパスを出した。


「ね?団長。雪景色は良いよね♪」

「ああ。そうだな。オーロラを見るなら雪山だが、遭難事故が多いから気を付けた方が良い」

「遭難・・・・・」

「雪山を舐めたら絶対にダメだ。しっかり準備して、もし吹雪いたら下手に動かず____がっ!?」


オーマは再び足を踏まれた。そして再び、アイコンタクトで怒られる。


(何でわざわざ遭難事故とか暗い話題にするのよ!?バカじゃない!?)

(え?え?でも、本当に見に行くんだったら、ちゃんと教えてあげた方が___)

(んなもん、実際に行くときになったらで良いでしょーが!!先ずは明るい話題や、興味を持ってくれそうな話題で、コミュニケーション取るの!!)

(り、了解であります!)


「・・・・・」


見れば、サレンは再び不思議そうな顔をして、キョトンとしていた。


「えっとー・・・」

「あはははは。気にしないでください、サレン様。団長は、唐変木の甲斐性無しなだけですから!」

「そ、そうそう!その通り!」

「は、はあ・・・」


「「・・・・・」」


気まずい空気が流れ、ヴァリネスは再び場を和ませるべく、話題を振った。


「そ、そうそう!最近じゃー、港湾都市のベルヘラに行ったのよ!海が広くてキレイで観光も盛んだから面白い物がたくさん売っていて、人が多くて賑やかなの!」

「海ですか?良いですね!見てみたいです!」

「綺麗よ~。海が地平線まで伸びていて、陽が沈む時なんか最高の景色だったわ」

「へぇー。良いですねぇ!見てみたいなぁ・・・」


サレンの瞳に好奇の光が宿る。

それを見たヴァリネスが、オーマにアシストするべくパスを出した。


「ね?団長。海の陽が沈む景色は良いよね♪」

「ああ。そうだな。海だったら、サレン様にも良いかもな。海賊が出てもあいつ等大したことないから」

「海賊・・・・・」

「初めて船で海に出た時に出くわしたのだが、船で魔法を使うには____がっ!?」


オーマは再び足を踏まれた。そして、再びアイコンタクトで怒られる。


(だからぁ!何でわざわざ海賊とか物騒な話題出すのよ!?ワザとやってるの!?)

(そ、そういうつもりは無いのだが___)

(何回私のアシストを台無しにしたら気が済むの!?ちゃんとして!もう、気さくに話す事なんて期待してないから、普通に相手の会話を広げてみなさい!そしたら、後は私がどうにかするから!)

(り、了解であります!)


見れば、サレンは再び不思議そうな顔をして、キョトンとしていた。


「えっとー・・・」

「あはははは。気にしないでください、サレン様。このクソ野郎は唐変木の甲斐性無しなだけですから!」

「そ、そうそう!その通り!私は、唐変木の甲斐性無しだよ!」

「は、はあ・・・」


「「・・・・・」」


気まずい空気が流れ、ヴァリネスは再び場を和ませるべく、話題を振った。


「えーと・・・私はアマノニダイには行ったことが無いのですが、団員に帝国の東方出身の子が居るの。んで、その子達が言うにはかなり独自の文化で、着ている服も“着物”とかいうもので独特なの。この使節団の大使を務めているカスミ様をご覧になればわかりますよ」

「あ!その方、街で見かけました!変っていますよね。でも綺麗でした」

「後“さくら”って木が生えている一帯があって、春になると薄いピンクの花を咲かせるんですって。それが一斉に満開になると、すっごい綺麗な景色らしいわ」

「へぇー。良いですねぇ!見てみたいなぁ・・・」


サレンの瞳に___以下略。

それを見たヴァリネスが、オーマに____以下略。


「だが東方は、魔王の侵略を____がっ!?」


オーマは再び____以下略。


(もういい!!団長は黙ってなさい!!)

(り、了解であります・・・・・)


 今回はオーマとサレンのコミュニケーションを諦めたヴァリネスは、この後は殆どサレンと二人で会話していた。

時々アラドが入るくらいで、オーマは完全に蚊帳の外だった。

だが、その甲斐あって、二人が帰る頃には、互いを“サレン”、“ヴァリネス”と呼び合うまで親しくなっていた。

 一方のオーマは、手持ち無沙汰になって、ひたすら果物を食べ続けるという陰キャ行動をとった挙句、食べ過ぎて腹を壊して、場の雰囲気をまた下げる始末だった。

それで幻滅するサレンでは無かったが、オーマとサレンの間には、気まずい空気が流れ続けたのだった____。

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