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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第三章:静寂の勇者ろうらく作戦
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ゴレスト道中恋話

 オーマが“昏酔の魔女”で朝を迎えてから更に二日経ち、サンダーラッツ幹部一行は、カスミを大使とする使節団と共にゴレストへと向かった。


 四台の豪華な馬車がゴレストへ向け、草原を走る____。


 四台の馬車は、前を行く二台が第一貴族専用の馬車で、白を基調とした車体に金の装飾が施された豪華な四人乗りだ。

後ろの二台は、十人乗りの大型ながら、落ち着いた色調で装飾も銅で施されており、豪華ではあるものの前の二台よりは絢爛さで劣る馬車だ。

 だが、四台とも帝国の馬車らしく、車にも馬の鎧にも魔法が付与されている。

そのおかげで耐久力はかなりのもので、物理攻撃からはもちろん、魔導士の魔法にも耐えることができる馬車だ。

更に、その周囲を帝国の本土防衛軍の精鋭三十人で陣形を組んで護衛しており、防備は万全だ。

 大型の馬車には、一台には高官の世話をする使用人が十人乗っており、もう一台にはヴァリネスを含むサンダーラッツ幹部と通信兵のナナリーが乗っている。

前方の白い豪華な馬車には、一台には帝国高官が二人とアマノニダイの高官が二人の計四人が乗っており、もう一台にはカスミ、そしてオーマ、ジェネリー、レインが乗っていた_____。


 四人に今のところ会話は無い。

オーマはもちろん、気さくな性格のレインも、オーマ達から第一貴族の事を聞いているので、容易には話かけられないようだ。

ジェネリーは元から第一貴族を怪しんでいるので、自分からは話かけようとはしない。

カスミはカスミで、馬車の中には明らかに気まずい空気が流れているにも拘わらず、気にする様子もなく平然としている。というより、オーマには無表情に見えて、何を考えているのか分からない。


 誰も、喋る気配がない___。


 ここはやはり、自分が話を切り出すべきだと思うオーマだったが、如何せん話題も話かけるスキも無い。

女性慣れしていないオーマには難易度の高い空気だった。


(くそ・・・副長が居てくれれば・・・)


 こういう場にヴァリネスが居れば、きっとカスミ相手でも会話ができて、円滑にコミュニケーションを取ってくれるだろう。

今まさに、彼女の力を当てにしているのだが、肝心の本人が居ない。


(せめて、出発する前に相談できれば良かったのに)


 この馬車の割り振りは、出発直前に聞かされた。

まさか道中でカスミと一緒になるとは思っていなかったため、平然を装いつつも、内心で焦りに焦った。

そんなわけで、現在、オーマにはこの場を切り抜けるプランは無い。

 そんな中でもなんとかしようと、外の景色に目をやり、会話の糸口を探し、話題をふり絞るのだった。


「おお・・・タルトゥニドゥの山脈が見えてきた」

「かつてドワーフの国があったという山脈ですね。私、一度は行ってみたいんですよね」


内心で必死なオーマの心境を察してか、レインがオーマの話題を拾ってくれた。


「へー。レインは冒険とか興味あるのか?」

「そうですね。興味あります。特に私は海育ちですから、山の冒険には憧れますね。ご主人様はどうですか?」


さらにレインは気を利かせて、ジェネリーにも話題を振った。


「ごしゅ!?・・・・あ、ああ、そうだな。故郷のシルバーシュは、タルトゥニドゥの東北側の麓に隣接していて、何回か探索隊を向かわせたことがあったそうだ。でも、毎回ドワーフの遺跡までは行けずに戻ってきていたらしいから、挑戦してみたいかな。良い訓練になりそうだ」

「く、訓練って、ご主人様・・・もっとこう、夢のある感じじゃないんですか?」

「訓練じゃいけないのか?」

「あ、ああ・・・」


空気を理解せず、いたって真面目にジェネリーは答える。

気まずい雰囲気を盛り上げようとかは全く考えてない、天然で真面目なジェネリーらしさに、オーマとレインは苦笑いしかできない。

 会話が止まり、再び場の空気が沈みそうになった時、口を開いたのは意外にもカスミだった。


「私も、タルトゥニドゥには興味があって、行ってみたいですね」


「「えっ?」」


意外な人物が話を拾ってくれたので、オーマとレインは思わずハモった。

その様子に、カスミはクスッと笑みを浮かべた。


「意外でしたか?タルトゥニドゥは、ドワーフと魔王軍が争った跡が手つかずのまま残っている地。魔法を研究する者にとっては宝の山です」

「カスミ様は本当に研究熱心なのですね。・・・ドワーフの魔法形態は我々とは違うのですか?」

「帝国でタルトゥニドゥの探索は行わないのですか?」


オーマもレインも、場が白けないようにカスミを質問攻めにする。

それに対して、カスミは嫌な顔一つせずに淡々と答えていく。


「自分の知らない魔法に関する知識は、どんなものでも興味があります。ドワーフの魔法形態は、我々とはさほど変らないと聞きますが、魔法を使ったギミックやアイテムの造作に長けていたと聞きます。是非調べてみたいですね。帝国もタルトゥニドゥの調査には前向きですが、国を挙げての発掘作業になると、人手が足りません。それに、タルトゥニドゥを完全に調べるなら、タルトゥニドゥを制圧しなければなりませんから、北方遠征軍がリジェース地方の攻略を終えないと、計画も立たないでしょう・・・窮屈な話です」

「窮屈ですか?」


カスミの不満とも取れる発言に、ジェネリーは意外そうなリアクションをした。

オーマにとっても意外だったので、カスミの本音に興味が湧き、質問してみた。


「それは、帝国で思うような研究ができていない・・・もっと自由に研究したいという事でしょうか?」

「そうですね。私が帝国に力を貸しているのは、魔法の研究ができるからです。帝国側も、自分達の利益になることなので、力が及ぶ限りの協力はしてくれています。それは大変ありがたいのですが、帝国はやはり敵も多い。ゴレストやオンデール、それにココチア連邦などの帝国外の魔法技術に触れる機会は少ないです・・・まあ、それでも魔法を研究する上で、今のところ帝国が一番の環境だとは思いますが」

「て、帝国以上の環境があれば、そちらに乗り換える可能性も有るのですか?」

「フフッ、内緒ですよ?とはいっても、クラース達も承知していますが・・・」


帝国との関係は、あくまで利害関係であると、カスミは言う。

どこまで本当かは、オーマには分からなかったが、全てが嘘だとも思えなかった。

 こんな風に、表情はまだ固いままだが、カスミは割とざっくばらんに話をしてくれる。

この意外な態度にオーマは驚きつつも、興味半分、盛り上げ半分で会話をつないでいくのだった___。






 後続のサンダーラッツ幹部達の乗る馬車は、オーマ達の馬車とは違い、盛り上がってはいないものの、気まずい雰囲気は無く、ぽつぽつと会話のキャッチボールが行われていた。

いつもの気さくで緩いムードだ。

 ただ、ロジは少しオーマのことが心配な様子だった。


「・・・団長、大丈夫でしょうか?」

「大丈夫よ、ロジくん。団長だってクラースとか第一貴族と何回もやり合ってるから、ボロは出さないわよ」

「いえ、そこは心配してはいないのですが、その・・・団長のストレスというか・・・」

「そうですね・・・異性慣れしていない団長が、狭い馬車の中で女性だけの中にいるなんて・・・」

「しかもその面子も、第一貴族と、口説いた勇者候補の二人だしな・・・」

「しんどい」

「う~ん・・・言われると、確かにメンタルの方は心配ね・・・」


ロジの言葉を切っ掛けに、メンバーの殆どがオーマを心配し始めるが、ただ一人、フランは不満な様子だった。


「何言ってんだよ。向こうは美女三人と旅ができるんだぜ?そんなのハッピーに決まってるじゃんか。ストレスとか意味わかんねぇよ。羨ましい」

「そりゃー、色事でしかものを考えない、アンタからしたらそうでしょーよ。ったく、私以上の色欲魔ね」

「本当にどうしようもないですね、フランは」

「その言い方だと、こっちに美女が居ないみたいに聞こえる」


フランの文句に、女性陣が呆れた様子を見せた。


「いやいや、そうじゃないよ、ウェイフィーちゃん。こっちの馬車に乗っている女性の皆さんも美人だって。ただ、馴染みの顔だから特別意識していないだけで」

「あらぁ?じゃー、馴染みではない私は、意識してくれているのかしら?」

「うげっ!・・・ナ、ナナリー・・・・」


ナナリーの発言に、フランは気まずそうな表情を見せ、テンションを下げてしまった。

普段、他の女性には見せないフランの態度を、サンダーラッツのメンバー(特に女子)は面白がった。


「プッ・・・何そのリアクション」

「“うげっ”とは、なんですか?失礼ですよ、フラン」

「おもろい・・・」

「え?・・あ、ああ・・いや、だけどな・・・」


女子三人に詰められて慌てるフランに、助け舟を出したのはナナリーだった。


「ああ・・・大丈夫ですよ、クシナ隊長。私、男性のこういう“弱い所”、可愛げがあって好きですから」

「弱い所・・・」

「可愛げぇ?どこがぁ?」


ナナリーの言葉に、ヴァリネスは信じられないといった様子で、訝しげな顔をした。

そのヴァリネスに、ナナリーは不敵な笑みを見せた。


「可愛いじゃないですか、ヴァリネス副長。こういう、普段、人前には自分の弱さを見せない人が、自分にだけ弱い所を見せてくれると、守ってあげたくなって、つい甘やかしちゃうんです」

「チッ」


ナナリーの言葉に、今度はフランが気まずそうに舌打ちをした。


「へぇー・・・ひょっとして、ナナリーってダメ男を好きになっちゃうタイプ?」

「あー・・・かもしれません。他の女性が呆れる部分も、嫌悪する部分も、母性が刺激されたりしますね」

「なんだ。フランにピッタリじゃないか。何で別れたんだ?」

「うるせーな。真顔で聞いてくんなよ、イワナミ。ほっとけ。どーせお前には、女の股座で、徐々に腑抜けになっていく怖さは分かんねーよ」

「腑抜けですか?」

「そうだぞ、ロジ。“何にもしなくていいよ”なんて、普段頑張っている奴らには優しい言葉になるが、本当に何にもしてない、させてくれない奴にとっては、惨めになるだけだ。それでもいいならともかく、少しでもプライドがあるなら、こういう女とは付き合うな。本当のダメ人間になる」


フランの“こういう女”発言にも、ナナリーは気にする素振りも無く、不敵な笑みを浮かべている。


「自立心を奪われる、ということですか・・・」

「ふむ・・・確かに俺には分からんな。自分で、簡単には人に甘えない強い気持ちを持っていれば、問題無いように思う」

「そういう強い気持ちが俺には無かったんだよ。だから、この女から離れるしかなかったんだ」

「あはははは。可愛い♪」


そう言って、ナナリーは穏やかに笑って見せる。

その何とも言えない無敵感に、皆は感心し、フランはバツが悪そうに顔を伏せた。


「フランを可愛いと思えるなんて、すごい母性と包容力ですね・・・」

「本当にねぇ・・・人の好みにあれこれ言いう気はないけど、フランはオススメしないわよ?」

「あら、そうですか?では、副長はどんな方がオススメですか?」

「そりゃーもちろん、ショタ・・いや、素直で可愛い子でしょ!あ、でも、ロジくんに手を出したら殺すわよ?」

「?」

「フフッ、レンデル隊長の事は分かっています。それに、正直そういった方はタイプじゃないんですよ」

「じゃー、どんなタイプが好みなの?」

「そうですね・・・サンダーラッツの中でしたら、団長でしょうか?」

「なっ!?」

「ほう・・・」

「それは、それは・・・」

「・・・おもろい」


ナナリーの発言とクシナのリアクションに、ロジ以外の一同は好奇心を刺激された。


「な・・・何故、団長なのです?」

「だって、可愛いじゃないですか。あの頼りない感じ。守ってあげたくなります」

「・・・団長は頼りがいがある方だと思いますが?」


「「ほ~う♪」」


「うるさいですよ!外野!」


そうクシナに注意されるが、皆のニヤニヤは止まらない。


「クシナぁ?それは本当に、団長が頼りになるから言ってるのぉ?それとも、ナナリーに興味を持ってほしくないから言ってるのぉ?」

「そ、それはもちろん・・・本当に頼りになる方だから・・・です」

「ウソだな」

「絶対両方」

「素直じゃなねぇなぁ・・・」

「ち、違います!本当に尊敬できる人ってだけです!」


恥ずかしさが爆発して、クシナはやけになって否定した。


「頑なになっちゃった」

「フフッ♪乙女ですね。クシナ隊長」

「皆さんがクシナさんを煽るからですよ」

「でも、もういい加減告白して、当たって砕けたらいいのに」

「砕けるのは流石に可哀想です。副長」

「なんで、素直に“好きです”って、言えないかねぇ」

「だ、だから違います!本当に_____!」






 「_____本当に尊敬しているだけだ!」


オーマ達の乗る車内で、ジェネリーの声がこだまする。


「い、いや・・・あの。ジェネリー?」

「もう~。なんで素直に“好きです”って、言えないんですかねぇ。このご主人様は」

「お~い・・・レイ~ン・・・カスミ様の前だし、その・・・」


二人の言い争いを止めるべく、二人をなだめようとするオーマだが、オロオロと小声で話すため、どちらの耳にも入っていなかった。


「何だと!?じゃー、そういうお前はどうなんだ!?私のことをおちょくっているのは、自分の気持ちをごまかすためじゃないのか!?」

「私は、オーマ団長のこと好きですよ」

「はぐっ!?」

「お・・おう・・・」

「へぇ・・・・」


レインの真っ直ぐな物言いに、ジェネリーはたじろいだ。

その様子を見て、レインは勝者の笑みを浮かべて、畳み掛けた。


「別にやましい事ではないのですから、自分の気持ちに正直になって、堂々と言えばいいじゃないですかぁ♪勇気無いですねぇ、ご主人様は♪」

「ぐぬぬぬぬ・・・」


(ぐぬぬぬぬ、って口で言う人初めて見た・・・・って、そうじゃない!)


 タルトゥニドゥの話から、さっきまで順調に会話が進んでいた。

だが、研究環境の話から魔法の話になって、そこから魔法戦闘の話になり、魔法を使用した個人戦と集団戦の違いについての話に話題は流れ、そして、指揮官の重要性についての話になったところで、オーマが謙遜して言った、“俺なんて指揮官としてまだまだだよ”という発言から雰囲気が変った。

 オーマのその一言を切っ掛けに、レインとジェネリーの、“そんなことない!”というフォローが始まり、オーマの顔から爆炎魔法が出そうなほどの賛辞が二人から送られ、そんな褒め言葉の応酬の末、“どっちがオーマの魅力をより知っているか?”という勝負になり、喧嘩が始まったのだった。

 異性に褒められる耐性も無く、異性同士が自分を巡って喧嘩するなどという経験もないオーマには、どうすることもできなかった。


(勘弁してくれ!どうしたら良いんだ!?二人の喧嘩も、喧嘩の内容も、どう対応すればいいか全くわからん!!しかもカスミの前だし!)


 二人の喧嘩にオーマはオロオロしながら、申し訳ないという気持ちで、カスミの顔色をうかがった。

するとカスミと目が合い、そのオーマの表情を見たカスミが口を開いた。


「・・・私もオーマ殿は好きです」


「「えっ!?」」


 目が合ったカスミは、オーマに助けを求められていると勘違いしたのか、意外にも意外な一言で喧嘩を止めて見せた。

カスミの意外だらけの言動に、オーマは驚きを隠せなかった。

レインとジェネリーも、カスミの発言に動揺した。


「そ、そそそ、そうなのですか?」

「び、びっくりです・・・本当ですか?」

「ええ。だって、お二人は別格ですけど、オーマ殿だって帝国一の雷属性魔導士と言われている方。魔法の研究者として、興味がありますね」

「あ、ああ・・・そういうこと」

「“研究者として”ですか」

「な・・・なんだ・・・・」

「フッ♪」

「?・・・何でしょうか?カスミ様」

「いえ・・・オーマ殿には、“女として興味がある”と言った方が良かったかしら?」

「ヴェ!?」


「「むっ!・・・」」


喧嘩を止めるどころか、火に油を注いできた。

やはり、気を利かせてくれたわけではないらしい・・・。

 勇者候補二人に睨まれて、オーマの心臓が締め付けられる。


「い、いやいや・・・べ、別にそういうわけでは!・・・あ?いや!べ、別に、カスミ様が女性として魅力が無いとか、そういうわけではなくて、ですね!」


「「むっ!・・・」」


「あ!いや、だから!そうじゃなくって・・・!」


オーマは混乱しながら、ひたすら二人に弁解するのだった____。


 こんな調子で、ゴレストへ向かう旅の初日は過ぎていった。

そして二日目以降は、事前にヴァリネスから助言をもらい、オーマはゴレスト到着まで、なんとかカスミとコミュニケーションを取り続けることができた。

 その会話の所々で、カスミは帝国に対する愚痴をこぼしたり、他国の魔法技術に興味を持ったりした。

 オーマはそんなカスミの様子を見て、味方に引き入れられるかもと、期待を持ち始めていた____。

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