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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第三章:静寂の勇者ろうらく作戦
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リデルの知略

 クラースと面会した次の日の朝、オーマは娼館“昏酔の魔女”で目を覚ます。


(体が重い・・・)


 自重で沈み込んでしまう羽毛ベッドが、体を起こすのを引き止めてくる。

寝返りを打つのでさえ、面倒くさく感じるほど身体が怠い。

だが、気分は良かった。

 クラースとの面会で溜まったストレスなど、昨夜のこの店一番の娼婦とベッドで冒した激しい行為のおかげで、体力と精力と共に全て吐き出せた。

心も体も、全てがリセットされたような感覚で心地良く目覚め、仰向けでぼんやりと天井を見ている。

その中で、何か物足りない感覚があった。

 昨夜、眠りに落ちるまで有った感触が無くなっている。

ふかふかのベッドとは違う、温かく柔らかな肉感。

シルクの肌触りとは違う、すべすべとした肌触り。

そんな、極上の心地よさを与えてくれていた存在が無くなっていて、肌淋しい・・・。


「リデルは・・・?」


 オーマは、部屋の天井を見上げながら、足りない感触の持ち主の名をぼそりと呟いた。

すると、オーマが見上げている天井の視界の横から、リデルがひょっこりと現れた。


「おはよう。オーマ♪・・・・チュ」


 リデルは優しい声で挨拶すると、目覚めのキスをしてくれる。

その唇の感触と、軽く触れた前髪から香る甘ったるい匂いが、ドクンッとオーマの血を弾ませ、身体に熱を与えてくれた。

 昨夜、全ての精を出していなければ、股間も固くなっていただろう。

リデルの目覚めのキスで、身体と意識が覚醒したオーマは、ゆっくりと体を起こした。


「おはよう。リデル・・・」

「フフッ♪この部屋で目を覚ますと、いつもカラッポな表情をするね♪それだけ楽しめたってことかなぁ?」


言いながら、リデルは畳んであったオーマの着替えを持ってくる。

そして、一流のメイドのように慣れた動作で、オーマに服を着せていく。


「・・・・・ありがとう」

「フフッ♪・・・・チュ」


 お礼を言ったオーマに、リデルはまたキスをする。

その後も、服を着せながら、合間にキスやハグをしてイチャついてくれる。

 そうして、オーマの着替えが終わり、オーマが部屋のドアの前に立つと、リデルは最後に腕を首に回し、キスをして舌を絡めてきた。

お互いに唇を離せば、糸を引く濃厚なとろけるキス。

昨夜、全てを出しきったはずの股間が反応してしまう____


「必ずまた来てね♪」

「あ、ああ・・・・」


____また来たいと思わせるのに十分な一流娼婦の仕事だった。

オーマは、自分がリデルにとって、良い金づるなのだと頭の中で理解しつつも、ゴレストから帰って来たら、またすぐに来ようと思ってしまった。

まんまとリデルの手口に踊らされ、オーマは後ろ髪を引かれる思いで、店を後にするのだった____。






 オーマが店を出て、少しした後。着替え終わって部屋でくつろいでいるリデルの下に、オーナーのボロスが訪れた。


「お疲れ様でございました。リデル様」

「お疲れ~・・・って、でも私は疲れていないわ。オーマから精力を頂いて、体力も気力も満タンよ♪・・・・なんだけど・・・」

「如何なさいましたか?」

「手に入った情報がねぇ・・・」

「余り重要な情報は手に入らなったのですか?」

「いいえ。重要な情報は手に入ったわ。・・・でも前回の様に、反乱軍を結成したとか、そんな面白いニュースじゃないのよー」


面白い、面白くないの話では無いのでは?と、ボロスは心の中で思った。


「・・・どのようなニュースでしょうか?」

「そうねぇ・・・・重要な情報は二つあるんだけど、どっちから話そうかなー・・・。やっぱり次のターゲットの話かしら?」

「次のターゲット・・・確か、ダークエルフのサレン・キャビル・レジョンでしたか?彼女を籠絡するため、ベルヘラの領主を介して、ゴレストの要人と繋がろうという話でしたが・・・」

「そう。その子の能力が分かったんだけど、四大神の四属性全てを扱えるんですって」

「ほう・・・人間・・いや、エルフ・・どちらにせよ、この大陸では珍しいですね。確かに勇者候補になるのも分かります」


 ボロスは目を見開いて、少しだけ驚いて見せる。

とはいえ、四属性全てを扱う存在は、幻獣、大精霊、そして魔界に住む上級魔族の中にも存在するので、そこまで意外ではなかった。

そんな、“中々やるな”といった反応のボロスに、リデルはイタズラっ子な笑みを見せて話を続ける。


「それだけじゃないわ。四属性全てを極めた事で、魔法の源流となる力も扱えるんですって」

「なっ・・・!?」

「プッ!・・・アハハハハ♪」


 ボロスは、今度は驚愕の表情を顔に出した。

予想通りのボロスのリアクションに、リデルは思わず吹き出した。

 そんな、呑気な主人の様子に、ボロスは少し苛立ちを覚えてしまう。


「わ、笑い事ですか!?リデル様!源流となる力とは、太古に魔界から失われた“源流の英知”のことですよね!?だとしたら、とんでもないことですよ!?」

「ハハハハハ。そう、それ♪魔界にも、もう存在しない源流の英知!それを持っているなんてねぇー?サレンに魔法で対抗するのは難しいでしょうねー?」


驚愕の事実を楽しそうに語るリデルに、ボロスは眉をひそめて唖然とする。

我が主人ながら、ちゃんと事態を理解しているのかと、疑ってしまいそうだった。

 だがそれも一瞬、すぐに頭と気持ちを切り替えて、ボロスは殺気交じりの真剣な表情になって、冷静に考え始めた。


「・・・その少女が勇者でしょうか?」

「分からないわ。クラースやカスミ達、第一貴族は彼女が本命と思っているらしいけど・・・でも、仮に違っても、真の勇者と比肩できるくらいの存在だわ」

「・・・・・奪いたいですね・・・その力」

「そうね・・・手に入れられれば、魔族という種そのものが強くなる。けど、今すぐには難しいわ。源流の英知は太古に失われて、その情報はほとんど残っていない未知の力・・・迂闊には手が出せないわ」

「そうですね、先ずは調査からですね。確か魔界の記録では、封じることができるのが信仰魔法だけなのかすら、分かっていませんから」

「そう!それよ!カスミ達も分かってないみたいだから、私が調査を手伝ってあげようかなって♪」

「では、ゴレストに行かかれるのですね?」

「ううん、私は行かないわ。今回はオーマ達の一行にカスミも同行するみたいだから・・・今はまだ、あの女に見つかるわけにはいかないもの」

「では、どのように調査しますか?」

「スカーマリスに行ってくるわ。あそこに住む魔族に協力してもらうわ」


主人がそう言うと、ボロスは露骨に嫌な顔をした。


「・・・・役に立つのでしょうか?奴らはすっかりこの地に根付いてしまった腑抜け共ですが・・・」

「捨て駒くらいには成るでしょう?」

「はあ・・・」

「もう~。そんなに心配しなくたって大丈夫よ」

「分かりました・・・」


 ボロスにとって、スカーマリスの魔族達はこの地に根付いてしまい、最早、勢力として成り立っていない、烏合の衆という認識だった。

そんな、野生の獣と変わらない連中では、主人の足を引っ張る事になりはしないかと心配になるが、主人が決めた以上、任せるしかない。

 ボロスは説得を諦めて、先の会話で気になった事を話題にした。


「それにしても、カスミがゴレストに行くという事は、単に同じエルフだからという理由ではなく、サレンの能力を調べるという目的もあるのですね?」

「いいえ。・・・ああ、まあ、それもあるでしょうけど、一番の理由は“釣り針”だと思うわ」

「釣り針・・・・誰を釣るのでしょう?」

「オーマよ・・・・もし、帝国がゴレストと共にオンデールも敵に回した場合、アマノニダイはオンデール側に付いて帝国と敵対する可能性が有る。さらに、オンデールの魔法技術とサレンという研究素材はカスミにとって魅力的。だから、カスミが裏切るかもしれないから監視しろ、ってさ。オーマは、クラースにそう命令されているわ。これは多分ウソ・・クラースの罠よ」

「・・・本当に、アマノニダイとオンデールが結託し、カスミが裏切る可能性はないのですか?」

「無いわね。アマノニダイとオンデールは分からないけど、カスミが帝国よりアマノニダイやエルフを選ぶことは無いわ。魔王大戦の時から、あの女を見てきているけど、あの女に郷土愛なんて無い。あの女にとって、魔法の研究こそ第一。帝国の研究環境が大陸一である以上、あの女は帝国側に付くわ」

「ではクラースは、オーマの真意を探るために、カスミを同行させ、帝国を裏切る可能性を示したわけですね」

「私のせいでもあるわねー・・・ベルヘラでオーマ達を監視するカラス兄弟を引き剥がせたのは良かったけど、そのせいでマサノリにオーマが魔族と結託していると疑われたわ。このオーマに命令したカスミの監視は、その報告を受けたクラースが、オーマを探るために打った一手でしょうね」

「こちらが一方的に協力しているだけですが、オーマが魔族と結託しているが第一貴族に知られるのは不味いですね」

「何で?」

「え?」

「・・・ボロス。勘違いしないで。オーマ自体が疑われても問題は無いし、その結果、帝国と反乱軍が争うことになっても問題は無いのよ。私達の最終目標は魔王様の下、大陸を破滅させること。そのための現在の目的は、“勇者を覚醒前に見つけて殺す”事と、“なるべく早く魔王様を誕生させる”事の二つよ。不味いのはオーマが疑われた結果、私達ビルゲインの存在が帝国の第一貴族に知られる事よ。だから、私はスカーマリスに行くのよ」

「なるほど・・・」


スカーマリスの魔族を利用するのは、カスミに見つからない様にサレンの能力を調べるだけじゃなく、オーマと魔族の関係を疑っている、帝国の目をビルゲインに向かないようにするためでもあると分かり、ボロスは主人の知略に感心にした。


「じゃー、そういう事だから。ボロス、留守をお願いね。私はオーマのおかげで、気力も魔力も十分だから、早速、今からスカーマリスに行くわ」

「畏まりました。いってらっしゃいませ、リデル様」


丁寧な仕草で頭を下げたボロスに見送られながら、リデルは邪悪な笑顔を浮かべて、姿を消した____。

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