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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第三章:静寂の勇者ろうらく作戦
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ナナリー・ユジュ

 「どうしました?兄様?表情が死んでいますよ?」


イワナミの騒動を思い出してトリップしていたオーマは、レインの声で目を覚ます。


「あ?・・・ああ、すまん」

「どうしたんですか?落ち込んだ様子でしたけど・・・」

「ああ、うん・・・まあ、そうだ。少し落ち込んでいた」


オーマにとってレインの“ノリ”は、ヴァリネスと似たところが有るため、つい本音を漏らしてしまった。

しまった___と、弱みを見せて一瞬後悔したが、口に出してしまった以上、そのまま言うしかなかった。


「レインの成長ぶりを見ていて、ジェネリーに追い抜かれたイワナミの事を思い出していたんだ」

「それって、模擬遠征の時に起きたヤツですか?」

「そうだ。それで俺も、いつか自分のアイデンティティを失くす日が来るのかなー、って・・・。レインの力を当てにして仲間に誘ったのだから、レインが強いことは望ましい事だし、頼もしい限りなのだが・・・」

「役立たずには成りたくないと?」

「ん・・・まあ、そうだな」


そう言ってうなだれるオーマに、レインは少し呆れた様な反応を見せた。


「も~!何言っているのですか、兄様ぁ!?力だけがすべてじゃないですよ!」

「い、いや、分かってはいるのだが、ずっと戦場に居たせいか、無力だと痛感すると、ちょっとな・・・」

「割り切れないというのですか?大丈夫ですよ。兄様は無力じゃないし、役立たずには成りません。私が上を行ったといっても、雷属性だけですから」

「ん?そうなのか?風属性は成長していないのか?」

「はい。多少は成長していますが、雷属性ほど向上していません。他の基本属性に至ってはからっきしです。兄様達と戦って、扱える属性は複数あった方が良いなと思って、水属性も試してはみたのですが・・・」


 そう言われると、今度は不安になってくる。勇者候補は対帝国の要なのだから・・・。

成長し過ぎると無力感を抱いてしまうし、成長してくれないと不安感を抱いてしまう・・・・・なんとも身勝手な話だと自分でも思うので、いい加減、どちらの気持ちも心の奥底に押し込めた。


「ちゃんと教えてもらっているのか?指導が下手とかじゃないだろうな?誰に教わっている?」

「水属性はロジさんに、風属性はクシナさんや通信兵の方々が指導してくださります。それでも、風属性は雷属性ほどではなくSTAGE2(形成)までですし、水属性に至ってはSTAGE1(錬成)もまだちゃんとはできません」

「ふむ・・・・」


確かにそのメンバーなら、上手く教えられるだろう。となると、レインの魔法の才は、雷属性限定なのだろうか?

 ジェネリーも潜在魔法の成長は早いが、信仰魔法は潜在魔法ほどの速さで成長していない。

魔力が高いので、威力は相変わらずだが、バラエティーに富んではいない。

未だに、魔力の高さでごり押しするような扱い方だ。

魔法も魔法の才も、まだまだ分からないことが多い・・・。


「だから、私も時々落ち込むんですよ?せっかく親身に指導してくださるのに、なかなか成長しなくて・・・特に一番指導してくださるのはナナリーさんなんですけど、申し訳ないな、って・・・」

「_____そんなこと思う必要な無いわよ、レイン」


 そう、優しく落ち着いた雰囲気の声が聞こえた。

声がした方を二人が振り向くと、ガサガサと音を立てて、草木の中から一人の美女が現れた。

ダークブラウンのふんわり長い髪が腰まで垂れており、前髪も長く、片方の目が隠れていて妖しい色気がある。

 色気があるのは、顔と髪型だけじゃない。

170センチ近くある身長が描く曲線は、豊満な胸と艶めかしいくびれで、ボン、キュッ、ボンとなっていて、モデル顔負けのスタイルをしている。

それらの色気に加えて、30手前の熟した甘ったるい色気も漂わせ、さながら睡魔の様な大人の女性だった。

 ナナリー・ユジュ____。

元娼婦という異色の経歴を持つ、サンダーラッツの通信兵だ。


「あ、ナナリーさん。こんにちは」

「こんにちは、レイン。お疲れ様です、団長」

「お疲れ、ナナリー。どうしたんだ?」

「はい。団長に伝言を持ってまいりました」

「ナナリーが?珍しいな」

「そうですか?」

「ああ。普段、伝言はもちろん、幹部の集りにも参加せず、俺達と距離を置いているだろ?」

「あら、それは誤解ですよ。幹部の皆さんの集りに参加しないだけで、副長なんかとはよく飲みに行きますし、クシナ隊長やフィットプット隊長とも仲良しです」

「では何故、幹部の皆さんが集まっている時は、距離を置くのですか?」

「それは・・・フランが嫌がるから」

「なんだ、そうだったのか・・・あいつまだ、ナナリーと距離を取っているんだな」

「えー!?フランさんが女性と距離を!?しかも、こんな美人と・・・ど、どうして・・・」

「ふふ♪どうしてかしらね?」

「・・・・・」



 二人の距離感、特にナナリーに対するフランのよそよそしさは、兵士たちの間でも噂になる位だ。

どうしてフランが、ナナリーによそよそしい態度を取るのかは、サンダーラッツの幹部と一部の古参兵は知っている。


 それは、昔、フランがナナリーのヒモだったからだ。


 フランは昔、何人かの女性の家に転がり込んで、ヒモ生活をしていた時期がある。

ナナリーが、そのうちの一人だったらしい。

ナナリーが帝都に来て娼婦をしていた時、家に転がり込んでいたと、フラン自身がしぶしぶ語ったことがあった。

その当時の事はフランの中で黒歴史らしく、詳しくは話したがらないが、ナナリーのヒモ生活をしている中で、“このままだと自分はダメになる”と思って、ナナリーのもとを去ったらしい。

そして、家も仕事も無いため、寮の在る軍学校に入ったそうだ。

 ちなみに、ナナリーが軍人になったのは、勝手に自分のもとを去ったフランを追いかけるとかではなく、態度の悪い客と喧嘩になって、自分に魔法の才があることに気付いたからだそうだ。

フランに対して未練は全く無いらしい・・・。

 二人がサンダーラッツに入ったのも、オーマが二人の事情など全く知らない時に選抜したからで、まったくの偶然だ。



「気になりますねー、ナナリーさんとフランさんの関係」

「そお?じゃー今度、時間があるとき教えてあげよっか?」

「本当ですか!?」

「おいおい・・・フランが嫌がるぞ」

「あら・・そうですか?じゃーやめておこうかしら?」

「ぶー。兄様ぁ!」

「団長として一応忠告しておかないとな。恋愛も噂話も面倒を起こさなければ好きにしてくれていいが、二人の当時の話は、フランの奴、絶対嫌がるだろ?」

「確かにそうですね。本人が嫌がる過去を噂するのは良くないですね。ごめんね、レイン。知りたかったらフランから聞いてちょうだい」

「むー・・・」


レインは口をすぼませて不満な態度だが、オーマの言い分を正しいと思っているのだろう、それ以上は何も言わなかった。


「それで、ナナリー。伝言ってなんだ?」

「ああ、そうでした。クラース宰相よりお呼びが掛かりました。今日の夜、城に参上せよとのことです」

「!・・・そうか、分かった。レイン、すまないが今日の特訓はここまでだ。今日の夜なら、今から戻って準備したい」

「分かりました。気を付けてください」


 クラースの呼び出しと聞いて、レインも真剣な顔でオーマを心配した。

 レインは、帝都に初めて来た時にクラースと一度顔合わせしたが、その時に“かなり危険なヤツ”という印象を持ったそうだ。


「それと団長。私から一つ提案があるのですが、よろしいですか?」

「なんだ?ナナリー」

「次のろうらく作戦では、私もゴレストに連れて行ってくださいませんか?お役に立てるはずです」

「ほう・・・ゴレストにツテでもあるのか?」


オーマにそう聞かれて、ナナリーは不敵な笑みを見せて答えた。


「はい。昔、客として来ていたゴレスト兵を相手にしてました」

「きゃ、客ぅ!?」


レインも、ナナリーの経歴を知っているはずなのに、思わず声を出してしまった。

その初心な反応が面白かったのか、ナナリーはレインを見てクスッと笑った。


「どういうことだ?ゴレストで商売していたのか?あの国は宗教国家で、そういう事は禁止されているはずじゃ・・・」

「帝都に来る前は、ゴレストの隣に在るイロード共和国で商売していたのです。二年くらいですけど。その時期に外交やら合同演習やらで、ゴレスト軍がイロードに訪れた際、若いゴレスト兵の方々が何度も店に来てくれていました・・・理由はお分かりでしょ?」

「ああ、なるほど。自国では禁止されているから、他国を訪れた際に羽目を外していたのか」


 どんな国のどんな思想にも裏の顔はある。

人間なのだから、どんなに崇高な理想を掲げていても、どこかで現実と折り合いをつけている部分があるだろう。

崇高な理想を掲げて、崇高な精神を持ち続けることができる人間は少ない。

帝国の裏の顔を知ったオーマには良く分かる話だ。


「ゴレストでも、誰しもが土の神マガツマに対して、清廉潔白というワケにはいかないんだろ。若いなら尚更だ。多分、上官は見て見ぬふりをしていたな」

「そうなのですか?若い兵士達が夜中にこっそり~、って感じでは?」

「そうかもしれんが、そんな行動は上官にはお見通しだ。その上で、“ガス抜き”として見て見ぬふりをするんだ」

「兄様もですか?」

「当然だ。遠征軍だからな。そういった“ガス抜き”を許容してやらないと、事件を起こす可能性が有る」

「事件?」

「遠征先の街などで、暴行事件を起こすといったことだ。生死を掛けた戦場での兵のストレスには、上官として注意しておかないといけない」

「ふーん・・・」

「まあ、それはともかく、当時、店を利用していた若いゴレスト兵の何人かは出世しているかもしれません。その方達の前に、私が姿を見せたら面白いことができると思いませんか?」


ナナリーの不敵な笑みが、さらに口角を上げる。

オーマには男を弄ぶ悪魔に見えた。


「大丈夫でしょうか?リスクも有るように思えるのですが・・・」

「ふむ・・・・・」


 レインの言う通り、リスクはあるだろう。

他国ならともかく、宗教国家で売春を違法としているゴレストでは、売春はスキャンダルだ。

脅しの材料になるが、その分危険もある。

 先ず、ナナリー自身の身の危険だ。

神に対して、清廉潔白であろうとする国だからこそ、スキャンダルを闇に葬るため、殺人を行うことを躊躇いはしないだろう・・・まあ、何処の国でもそうだが。

 とはいえ、これは問題にならないだろう。

娼婦のままならともかく、今のナナリーの立場は帝国軍人だ。

力ある国家の使者として来た者を闇に葬るのは難しいだろう。

 それよりもリスクになるのは、ナナリーのネタを利用した場合、ゴレストからの信頼は得られないという事だ。

いざとなれば、脅しでも何でもするつもりだが、今はプロトスにゴレストの将軍へ働きかけてもらっている。

その状況が分からないと、ナナリーのネタがプロトスの外交に悪影響を及ぼす可能性が有る。


「クシナ以外に、連絡要員をもう一人連れて行くつもりだったから、ナナリーを連れて行くのは構わない。だが、ナナリーの持っているネタを利用するかどうかは、ゴレストに行ってみないと分からない。使わないかもしれないぞ?」

「はい。もちろん、それは構いません」

「わかった。なら、今回の作戦メンバーに入ってもらおう」

「ありがとうございます」

「じゃー話は終わりか?なら、俺はもう行く。すまんな」

「はい。分かりました。私はもう少しここに残って、特訓してから帰ります」

「あら、それだったら、お手伝いしましょうか?」

「本当ですか!?ありがとうございます、ナナリーさん!」


 こうして二人を残し、オーマは一足先に宿舎に戻った。

そして、陽が沈みかけた頃、クラースに会うために城へ入るのだった____。

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