出陣前の晩餐
時が流れて、ポーラ王国とドネレイム帝国との間に戦争が起こった。
そして、ゴレスト神国はポーラ王国からの呼びかけに応じ、デティットを指揮官に三千の兵士の派遣を決めた。
オンデールはカスミの予想通り、連合への参加はしなかった。
_____ゴレスト神国オンデンラルの森、共存エリア。
サレン、デティット、ロスト、アラドの四人は、オンデンラルの森で人間とエルフの出入りが自由な区画で、とある木造の食堂に集まっていた。
デティットとロストの出兵が決まり、しばらく会えなくなるため、出陣前に四人で和やかに食事会をしようという話だ。
楽しい時間を過ごすために集まった四人だが、注文を決める間も、注文をする間も、サレンは叱られた子供のように暗いテンションで目線を落としていた。
「・・・・ごめんなさい」
「サレン様が謝ることではありませんよ」
落ち込んだ声で謝るサレンに、デティットは母のように優しい声を掛ける。
「でも・・・まるで、デティットとロスト副将を見殺しにしたみたいで・・・」
「いやいやいや。サレン様。私もデティット将軍も、まだ死ぬと決まったわけではありませんよ」
「あ!?ご、ごご、ごめんなさい!」
「い・・いや、サレン様が謝ることではありませんよ」
サレンはオンデールが西方連合への参加を拒否したことで、ゴレスト神国の人々に対して罪悪感を抱いていた。
そのせいで、せっかくの食事会が盛り上がらない。
少しは明るい雰囲気にしたいものだが、同じように罪悪感を抱いても明るく振る舞える大人のアラドと違い、それを抱えたまま笑顔を見せるのは、少女のサレンにはまだ難しいだろう。
三人はそれを分かっているので、苦笑いするばかりだった。
特にアラドは、長老議会でのサレンを見ているので、見ていて胸が苦しかった。
西方連合の参加を話し合う際、殆どのエルフ達が反対する中、サレンは参加する意思を示し続けた。
戦う事が嫌いとはいえ、デティットを姉のように慕っているため、参加を希望すること自体は不思議ではなかったが、周りが大反対する中、大人しく優しい性格のサレンが最後まで長老たちに食って掛かっていたのにアラドは驚いていた。
そんな姿と、不参加が決まった時の、悲しんで涙を流すサレンの姿を見ていたアラドとしては、サレンのこの態度を攻める気にはなれなかった。
デティットとロストも、その話を事前にアラドから聞いていた。
二人としては、サレンのその気持ちだけで十分だった。
昔の事とはいえ、西方連合に参加している国には、ラルスエルフを迫害していた国も参加している。
二人もゴレストの上の者たちも、そんな国とオンデールが肩を並べることは最初から期待していなかった。
サレンが大反対の空気の中、最後まで長老たちと渡り合ってくれただけで、救われた気持ちだった。
「確かに帝国は強い。でも、その為の連合です。勝機の無い戦いに行くわけではありませんよ、サレン様」
「ロストのいう通りです。我々は必ず帰ってきますよ」
「はい。・・・あ、あの!じゃーせめてこれを!」
そう言ってサレンは、懐から子供の拳位の大きさの組紐の付いた板を取り出した。
板は歪な長方形で、ゴレストの国のマークがこれまた歪に描いてあった。
「サレン様・・・これは?」
「私が作ったお守りです。連合への不参加が決まってから作ったので、見た目は変ですが、付与した魔法は強力です。きっと役に立ちます」
「ありがとうございます。戦場ではこれをサレン様と思って、肌身離さず持っておきます」
「ありがとうございます。あ、あの・・ロスト副将も・・・」
そう言って、懐からまた同じお守りを取り出す。
「え?わ、私も分もあるのですか!?」
「もちろんです。絶対、無事に帰ってきてください」
「ありがとうございます!いや~これは素晴らしい!きっと、ドワーフの遺跡で見つけた物より、役に立つに違いない!」
「フフ♪」
ロストの少し大げさなリアクションに、三人は笑顔を見せた。
だが実際、ドワーフの遺跡で見つけた宝より、サレンのお守りの方が役に立つだろう。
タルトゥニドゥの探検は、ベヒーモスを倒した後、遺跡の探索を行った。
幸か不幸か、その遺跡はドワーフの住居区画だったため、侵入者用のトラップなどは存在しなかった。
おかげで、全員無事に帰還できた。
だが、住居区画だからこそ、目覚ましいお宝には出会えなかった。
見つかったのは、そこそこの魔法が付与された武具と、珍しいドワーフの骨董品のみで、帝国に対抗できるような物は無く、結果は軍資金が手に入っただけだった。
だが、デティットとロストが落ち込むことは無かった。
「サレン様。西方連合での戦いの結果がどうであれ、私は必ずサレン様の元に帰ってきます。そして、サレン様をお支えいたします。そうやって、我らが一つとなって協力し合えば、きっと大丈夫です」
「ええ!そうですとも!」
「デティット・・・ロスト副将」
遺跡には宝が無かったが、別のところで宝が見つかった。
あの日、二人はサレンから“希望”という宝を見つけたのだ。
ベヒーモスとの戦いで最後に見せた力が何なのか、二人には分からない。
本人も、咄嗟の事でよくは分からなかったという。
さらに、アラドや長老たちでも分からないのであれば、サレンの力の解明はお手上げだった。
だが二人は信じている。
あの力と、あの力を扱うサレンの精神は、必ずゴレストとオンデールを救い、世界に平和をもたらすものだと・・・。
サレンの気持ちもようやく整理がつき、食事も運ばれて来ると、テーブルは明るいムードになり、四人は和やかな時間を過ごした。
そして後日、サレンとアラドに見送られながら、デティットとロストは帝国と戦うべく、兵を連れてポーラへと出陣するのだった_____。




