タルトゥニドゥの探検(4)
やる事が決まれば、後は早かった。
探索隊は昼食を取る前に、周囲の探索を始める。
ゴレスト兵四人一組にラルスエルフを一人加えて一小隊五人編成、それを八小隊、計四十人を探索に出す。
残りは何かあったときのために待機させる。
そしてサレンは、遺跡の入り口から三十メートルほど離れた所で、探知用の魔法術式を展開する。
デティット、ロスト、アラドの三人はその護衛だ。
「アース・ソナー」
サレンが杖を地面に突き立て、魔法を発動する。
魔法が発動すると、地面に接している杖の先端と、その周囲の地面が淡く光る。
そして、コーーン・・・コーーン・・・と、鐘のような音が一定間隔で鳴る。
アラドはそれを見て、サレンの魔法がどういうモノかを理解した。
この魔法は、地面に突き立てた杖から鳴る音の響き方で、地中に生物が居るか、居るたら何体で、どれくらいの大きさかを調べる魔法だろう。
デティットとロストは、何をしているか分からなかったが、サレンを信じて待った。
コーーン・・・コーーン・・・とソナー音がなること十回目、
「ッ!?」
何かを探知したサレンは驚き、悲鳴を上げそうになる。
「どうなさいましたか?サレン様?」
「魔獣です!大型の魔獣が一体、地中から上がってきます!」
「「ッ!?」」
_____ゴゴゴゴゴゴ・・・。
サレンがそう言うと、それに返事をするように地面が揺れながら、地鳴りを起こす。
デティットは、転ばないようにバランスをとりながら意識を下に向けると、何かが動く気配と、地面から槍が突き出てくるような殺気を感じ取った。
その気配は徐々に入口の方へと動いていた。
「入口だ!!出てくるぞ!!」
デティットがそう叫ぶと、すぐにロストが指示を出す。
「各員!遠距離迎撃態勢!防護魔法で壁も造れ!遺跡入り口からの大型魔獣の襲撃に備えよ!!」
「「了解!!」
各員がアースウォール、ロック・スローイングなど、土属性の魔法をメインに、岩や土の壁、岩の投石機、長槍などを錬成、そしてエルフは弓を構えて襲撃に備える。
「ブォオオオオオオ!!!」
その魔法の詠唱に交じって、魔獣の唸り声が響く。
まだ地下にいて姿を見せていないにも拘わらず、地下で鳴って、入り口から抜けてくる咆哮は、下腹までズシンと響き、兵士達を戦慄させた。
そして____
_____ドコォオオオン!!
荷馬車も悠々と通れる入口から、窮屈そうに入口の周りをぶち壊して、その魔獣が姿を見せた。
先の咆哮と気配だけでも、ヤバいと思っていたアラドだったが、その魔獣の姿を見るや否や、血の気がサッと引いていく音を聞いた。
魔獣は、どうやって地下に入ったんだ?と思うほどの黒い巨体で、十数メートルはあろうかという大きさだ。
四足歩行のネコ科の肉食動物のような体型をしている。
前足も後ろ足も、森の大樹の幹のごとく太い。
肩、胸、首、尻も同じく筋骨隆々で、力比べなど考える気にもならないほど力強く迫力がある。
頭は牛に似ているが、歯は肉食動物の牙が生えており、瞳は魔獣らしく赤く、獲物を狙う獰猛な光を宿している。
「な・・・何だ!?この化け物は!?」
「ベ・・・・ベヒーモス・・・」
危険信号が最大レベルで鳴っているロストの悲鳴のような問いに、正体を知っていたアラドがぼそりと答えた。
アラドから魔獣の名を聞いたデティットとロストは、顔を青くしながら互いに目を見合わせた。
「ベ・・・ベヒーモスだと?・・・それって・・・」
「確か、一体で国を一つ滅ぼせるとかいう魔獣の?」
「は、はい!間違いありません!上級悪魔たちによって創られたという、生物兵器ベヒーモスです!」
「クッ!・・・・・全員!一斉斉射!!」
それを聞いて、デティットは迷わず攻撃指示を出す。
この状況では逃げられるはずがない。逃げるにしても、手負いにしなくてはならない。
______ビュン!ビュン!_____ドコォオオオン!!_____ドコォオオオン!!
兵士達とエルフが槍と矢を放つ。続いて、鋭利な棘のついた岩が投石機から放たれる。
標的がデカいため、それら全てが命中するが、まるで効果が無かった。
槍と矢は身体に刺さること無く、藁が絡んだだけのようにパラパラと落ちていき、投石はベヒーモスの身体に土汚れを付けただけだった。
「ブォオオオオオオ!!!」
ベヒーモスは咆哮する。
何の効果も無い攻撃でも不快に感じたのか、あるいは獲物が逃げないことに喜んでいるのかは分からない。
ベヒーモスは土の壁を築いているゴレスト兵士達の一角に向かって突進した。
「ひぃっ!!」
ドドドドドド!と、その突進は体格に似合わず恐ろしいほど早く、兵士達はとても逃げられそうにない。
「ハイ・アース・ウォール!」
そこにサレンの高い声が響く。
サレンが魔法を発動すると、ベヒーモスの正面に巨大な岩壁が現れ、ベヒーモスはそのまま衝突した。
衝突によって壁は破壊されるも、突進は止まり、兵士達は逃げ出すことができた。
_____ツチゾクセイノ、キョダイナマリョクヲタンチ。
「私とアラド様、サレン様の主力三人が前に出る!ロスト!部隊の指揮をとり、我らの援護を頼む!!」
「了解!各員!固まらず散開せよ!!それから援護射撃の準備!!さっきの倍の魔力を込めろ!」
「「了解!!」」
「サンド・リンク!!」
デティット、ロストが作戦指示と部隊の指揮をしている間に、魔力を溜めていたアラドが魔法を発動した。
ベヒーモスが立っている地面の岩を砂に変えて、動きを鈍らせる。
「ウィンド・スラッシュ!」
動きが鈍ったところに、デティットが魔法で風の斬撃を飛ばす。
風の斬撃は疾風の速さでベヒーモスの前足に駆け込み、傷を負わせることに成功した。
「___チッ!なんて硬さだ!」
傷は負わせたが、思ったほどではないことに苛立ち、デティットは舌打ちをした。
「ブォオオオオオオ!!!」
雑魚に傷を負わされたことに怒ったのか、荒れ狂ったベヒーモスはバタバタと砂場から脱出すると、デティットに向かって突進してくる。
だが、そうはさせまいとサレンはすでに準備していた。
「アクア・ウェイブ!」
サレンが再び魔法を唱えると、ベヒーモスがすっぽり入るほどの巨大な津波が現れ、その巨体をさらっていった。
_____ミズゾクセイノ、キョダイナマリョクヲタンチ。
波にさらわれて、バタバタと暴れながらベヒーモスは体を起こす。
起き上がるとベヒーモスは、今度は動かず立ち尽くす。
何の事はない戦法を変えるだけだ。
ベヒーモスの足下には巨大な魔法術式が展開されていた。
「魔法!?赤色の術式!・・炎魔法が扱えるのか!?」
「今だ!撃てーーーー!!」
魔法を発動しようとするベヒーモスに、デティットが冷たい汗を背中に流した時、ロストの号令が飛んだ。
ロストの号令で、兵士達がベヒーモスに一斉射撃を再び行い、これも再び全弾命中する。
今度は先程よりも魔力が込めてある分、威力が上がっている。
とはいえ、ダメージはそこまでではない。
だが、ベヒーモスの魔法術式の解除に成功した。
「バカめ!集団相手に一体だけで、タメが必要な魔法など、そう簡単に打てるものか!サンド・ウィップ!」
アラドはそう言うと、砂の鞭を錬成し追撃を掛ける。狙うは目だ。
デティットの攻撃を見て、ダメージを与えるのに自信が無いアラドは、相手のスキを作ることに専念する。
これまでの戦いで、ダメージを与えられたのはデティットの風魔法だけ。
そのデティットの攻撃も大ダメージというわけではない。
ならば、この魔獣に効果的なダメージを与えられるのはサレンだけだろう。
だから、今まで被害が出ないようサポート役をしていたサレンに、攻撃役に回ってもらおうという考えだ。
砂の鞭はベヒーモスの目にヒット。アラドの思惑通り、スキを作ることに成功した。
チャンスを貰ったサレンはこれを逃すまいと、魔力を練り上げる。
そして使用する魔法を考える。
(水、岩などの衝撃はダメージが殆ど無かった・・・風などの斬撃、土や岩の槍や弓矢も、ぶ厚い皮膚に守られていた____なら!)
使用する魔法が決まると、サレンは炎属性の魔法術式を展開し、自身の持つ才能を披露する。
水属性の魔法に次いで、炎属性_____反対属性の使用だ。
四大神の基本属性は二つまでが限界である。
これが現在の定説だ。ドネレイム帝国でもそうだ。
末端の兵士にさえ、二つの基本属性を修得させられる技術を持つ帝国でも、三つ以上は修得できない。
どんなに頑張っても、炎を修得すれば水が、風を修得すれ土が・・・といった具合に修得した属性の反対属性は修得不可能だと、帝国では結論付けられていた。
だが今、サレンはその定説を容易く破って見せる。
そう・・・サレンが魔法に長けるエルフ族の中にあって、“神の子”と呼ばれるのは、この不条理を成立させる才を持つが故だ。
サレンの才の1つは、基本の四属性全ての信仰魔法が扱えるというものだ。
「バーン・プリズン!」
巨大な炎がベヒーモスの足下から現れ、その巨体を業火で包み込む。
「グォオオオオオ!!」
ベヒーモスが、明らかに苦しんでいると分かる叫び声をあげる。
炎属性の魔法を扱う生物兵器と呼ばれる魔獣でも、やはり生き物。炎は効果的なダメージとなった。
_____ホノオゾクセイノ、キョダイナマリョクヲタンチ。
これまで探検隊は、ベヒーモス相手に一方的な展開で戦ってきた。
だが、デティットは余裕が有ったとは考えていない。
集団で翻弄しているということは、ちょっとしたミスで態勢が崩れる。
態勢が崩れた集団は脆い。そうなればあっという間に形勢は逆転するだろう。
デティットは、自身とサレン、アラドの主力三人の集中力が続いているうちに勝負を決めるべきだと判断する。
デティットは自身の使える最強魔法の術式を展開しつつ、身に着けている鎧と剣の力を開放した____。
デティットの装備は、全てラルスエルフの秘術で魔法が付与されている特注で、量産はできないが、帝国の一般軍人の装備より優れている。
鎧は魔法防御力を上げられる上に、力を開放すれば、一時的に身体能力も強化できる。
剣は力を開放しても、それ単体では効果が無いが、風魔法を強化できる、風属性の魔導士専用の剣だ。
デティット個人の力量を帝国基準で表せば、信仰魔法はRANK1(風)STAGE4(放出)、潜在魔法はRANK3(骨)STAGE3(回復)となる。
帝国の隊長クラスだが、これに装備の力が加われば、帝国の団長や精鋭クラスにはなるだろう。
デティットは、この一撃で決めるつもりで勝負に出る。
魔力をためつつ、サレンの業火に焼かれて弱っているベヒーモスに向かって走り出し、助走をつける。
勢いが乗ってところで跳躍すると、鎧の力で人の数倍の跳躍力で、ベヒーモスを見下ろせる高さに達した。
そして、狙いを定める____狙うは眉間。
そこが弱点かは分からないが、眉間が弱点になる動物が多いという理由でそこを狙う。
そして、剣を槍投げするときのように構えると、風魔法と共に、ベヒーモスの眉間に向かって投げ放った。
「ペネティエラ・ゲイル!」
風魔法によって、剣がシュルルルルと高速で回転し、貫通力を生みながら高速でベヒーモスを襲う。
_____ズブシュゥウウウウウ!
サレンの炎によって、ベヒーモスのぶ厚い皮膚は焼けただれており、剣は見事に頭蓋骨を貫通し、脳をえぐった。
「グゥォオオオオオ!!」
ベヒーモスは今までで一番の叫び声と共に、ズシン!と土煙を上げて地面に沈んだ_____。
「や・・・やったのか?」
一瞬の沈黙・・・・・だが、ベヒーモスがピクピクと痙攣して立ち上がる気配が無いと____
「「うぉおおおおおおお!!」」
___兵士たちの歓声が響いた。上級魔獣を倒した事実と、生き残った喜びが弾け、涙を流す者もでる。
そんな風に、兵士達とロストは大喜び。主力として戦っていた、サレンとデティットはホッと一息といった様子だった。
アラドは一人冷静に、ベヒーモスの死亡を確認するため、死体に近づき様子を窺う・・・
______そして、恐怖で凍り付いた。
「え?・・・・え?」
「「うぉおおおおおおお!!」」
兵士たちの歓声は続き、アラドの様子を気にする者は居ない・・・・。
「あ・・・・・ああ!」
「「うぉおおおおおおお!!」」
アラドも、うるさいくらいの歓声を気にする様子は無い・・・・いや、余裕がない。
「ま・・・まさか・・・」
「「うぉおおおおおおお!!」」
「た、大変だーーーー!!」
「「うぉおお・・・お!?」」
普段は冷静なアラドの怒号で歓声が止む。
デティットとサレン含め、そこでやっと皆は、アラドとベヒーモスに注目した。
「ど、どうしました?アラド様?」
「デティット将軍!直ぐに避難を!!」
「避難?どういうことです!?」
「魔法です!!魔法が発動しようとしています!・・これは自爆魔法です!!」
「「ッ!?」」
アラドがそう言うや否や、ベヒーモスから巨大な魔法術式が展開された。
_____ホノオゾクセイノ、キョダイナマリョクヲタンチ。
「な!?・・・何て規模の術式だ!?」
「あ、あんな規模の術式で爆発したら・・・」
「な・・・なんで、なんで死んだベヒーモスにこんな事が!?」
「ベヒーモス自身ではありません!恐らく、ベヒーモスを創った上級悪魔たちの仕業です!!」
「そんな!?逃げられるのか!?」
無理である____。
この魔獣ベヒーモスは、上級悪魔たちが他種族を殲滅するために創った生物兵器。
万が一、倒されて命を落としても、その役目を全うさせるため、ベヒーモスが死亡した際は、上級悪魔数人分の魔力が込められた自爆魔法が発動する仕掛けになっている。
殲滅を目的としているため、当然爆発の規模は発動までに逃げ切れる範囲ではない。
「うああああ!」
「ひ・・ひぃ!!」
「にげ・・・逃げろーーーーー!!」
「お、お前達!落ち着け!!」
無理である_____。
こんな状況で冷静になれる者などいないだろう。
仮に冷静になれたからといって、止められるものでも、助かるものでもない。
アラドは、混乱を招く不用意な発言をしたと後悔したが、それも意味はない。
そうこうしている数十秒の間に、自爆魔法は臨界点に達し、今まさに爆発しようとしている。
そこに向かって走る、小さな影があった____。
「!?・・・サレン様!?」
ベヒーモスに向かっていったのは、サレンだった。そして、魔法術式を展開した_____。
「!?な・・・なんだ?あの術式は!?」
_____ゾクセイフメイノ、キョダイナマリョクヲタンチ。
「!?・・・どういうこと?ヴァサーゴ!?」
デティットたち探検隊は、こんな状況でありながら、サレンの術式に目を奪われる。
サレンの発動した魔法術式は綺麗な虹色で描かれていた。
そして____
______カッ!
虹色の魔法術式が光に変わって、辺り一面が沈黙する。
すると、自爆魔法は発動することなく止んで、ベヒーモスの魔法術式も無くなっていた。
ベヒーモスは完全に沈黙し、見ていた者達も理解の及ばぬ出来事に呆然としていた。
周囲は静寂に包まれたのだった______。




