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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
幕間ゴレストとラルスエルフ
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タルトゥニドゥの探検(1)

 ファーディー大陸の西方、ラルス地方の一番西に『オンデンラルの森』という、東方のアマズルの森と同じ位広大な樹海がある。

 アマズルの森では、『エリストエルフ』というエルフ族が『アマノニダイ』という国を作り、アマズルの森の約七割を統治している。

そして、オンデンラルの森でも、『ラルスエルフ』というエルフ族が『オンデール』という国を作り、オンデンラルの森の約半分を統治していた。

オンデンラルの森の残りの二割は、魔獣などが住み着き無法地帯となっており、残りの三割は人間族との共存共栄のため貸し与えている。

 ラルスエルフからこのオンデンラルの森の三割と、ラルス地方で最西方の平原を治めているのが、ゴレスト神国である。

西方の肥沃な土地と森の恵みが主な生きる糧で、ラルスエルフから伝わる魔術や薬の生成方法などを使った、魔道具や薬などの産業もある。

 だが何といっても、特徴的なのは宗教国家であることだ。

四大神の大地を司る土の神マガツマを信奉しているマガツ教が国教だ。

 そして、この国教がラルスエルフとの交流が可能になった要素である。


 ラルスエルフは、肌が浅黒いのが他のエルフ族と大きく違う特徴で、別名『ダークエルフ』とも呼ばれている。

この特徴と、エルフ特有の秘術や呪術を扱うため、まだ広く魔法が伝わる前の魔法を忌み嫌っていた時代に、魔族と同族と思われ、人間族から迫害を受けていた。

 これに対して当時のゴレスト王は、ダークエルフの肌の色をマガツマの恩恵を受けた大地の色だと考え、ラルスエルフをマガツマの使徒として神聖視すると、人間族の迫害からラルスエルフを守ったのである。

それ以降、ゴレストとオンデールは交流するようになる。


 両国の交流は多種族ながら上手くいった。

 エルフとの交流が上手くいった事例は、このゴレスト以外ではドネレイム帝国だけである。

ドネレイム帝国がエルフ族との交流に成功したのは、トウジン家の活躍もあるが、建国したばかりで新しい物や価値観に対して柔軟だったからだ。

新しいものや優れたものを積極的に取り入れる姿勢で、エルフの技を偏見無く評価し、受け入れたのだ。

 帝国がこういう進歩的な考え方で交流を成功させたのに対して、ゴレストはその逆で、宗教と保守的な考えでラルスエルフとの交流を成功させた国だ。

 一番の要因は、ラルスエルフもまたゴレストと同じように、土の神マガツマを信仰していたということだ。

ゴレストもオンデールも同じ神を信仰しているため、国の価値観が合ったのだ。

そして、その国教を守る保守的な考えもまた、両国の結びつきを強くした。

 それだけに、この信仰は単なる宗教ではなくなってしまった。

互いが強く同じ神を信じるからこそ、種族を超えた絆を得ることができた。

だからその信仰心が薄れれば、両国の絆も薄れる。

マガツ教は今や、両国の国交にもなっているため、政治的にも大事な位置づけになっている。

 そして、これは民間にも言える。

神を信じる宗教としてだけではなく、ゴレストの人間とオンデールのラルスエルフの共通の価値観になっているということだ。


 近年、魔法技術の発展により、四大神の信仰と信仰魔法の仕組みが明らかになってくると、若い世代を中心にマガツマのみを信仰することに疑問を抱く声が増えてきた。

だが、その者達もマガツマへの信仰が両国の交流の基盤であることを知っているため、マガツマへの信仰自体は薄れない。

そのため、ゴレストは変らず宗教国家として___、オンデールは迫害の歴史があるため、両国の政治傾向は以前と変わらず保守的で、両国の交流以外の変化は嫌う傾向が続いていた。

 だが、この変化を嫌う両国が、変らねばならない事態が起こった____ドネレイム帝国だ。

大陸に覇を唱えるかの国の軍馬の駆ける音が、大陸最西方の両国にも聞こえてきたのだった。


 時は、帝国がオーレイ皇国を手中に収め、ポーラ王国と隣接した頃の、西方連合の結成前まで遡る____。






 『タルトゥニドゥ』___。

北方のリジェース地方と、西方のラルス地方の境界線となってそびえる広大な山脈の名だ。

一度、魔王が誕生したこともあり、それからというものの、東のスカーマリス同様に魔王が滅んだ後も、魔の者が住み着くようになっている。

そのため、ほとんど人の手が入っていない。

スカーマリスのように、魔族を討伐するといったことも行われていない。

険しい山道に足を踏み入れる者など滅多におらず、現在この山脈は完全に秘境となっている。


 矛盾してしまうが、それだからこそ、この地に足を踏み入れる者達が多くいる____冒険者だ。

冒険者がこの地に残されたお宝を求めて、この山脈に挑むのだ。

 魔王の住処だったということは、魔王他、上級の魔族なども居たという事。

魔王の力を利用するのは不可能だが、上級悪魔などの魔族の秘術などは、術式を解明して利用できる場合があり、それらは非常に強力だったりする。

 さらに、このタルトゥニドゥは、魔王に占領される前まで、ドワーフの都市が点在していた。

ドワーフといえば、エルフと同様に、独自に発展させた高度な魔法技術を持っており、その技術で作られた武具は非常に強力で、人の世で貴族の屋敷が買えるほどの値が付いた剣などもある。

 住み着いている魔獣にしても、敵としてみれば恐ろしいが、錬金素材としてみれば高級なお宝だ。

 魔族の秘術。ドワーフの技術。魔獣という素材。このタルトゥニドゥは険しく、危険な山脈ではあるが、文字通りの宝の山でもあるのだ。

この山脈に、一攫千金の夢を見て冒険に挑む者は多い・・・・大抵の者は悲惨な結末となっているが。

 そして今、ゴレストとオンデールが、共働で冒険隊を編成し、このタルトゥニドゥに挑んでいるのだった。




 「・・・また、谷か」


 一人の白い鎧を着た若い男が、溜め息を吐きながらそう呟く。

鎧の上から羽織っている土色のマントには、土の神マガツマのマークとその周りにマガツマを飾るツタと花の刺繍が施されている____ゴレスト神国の国旗だ。

 ゴレスト神国の白い鎧は精鋭の証。

ラルスエルフの秘術で防護の魔法が付与されたその鎧を着る者は、兵士として優れた武芸と、魔導士として巧みな魔術と、人として気高く勇敢な精神を併せ持つ。

 そんな精鋭の男でも、このタルトゥニドゥの探索は、五日目にして弱音がこぼれる。

人の手が入っていないため、道と呼べる道は無く、馬も連れて来られなかった。

 男が跨がっている生物は、『デオン』というカモシカに似ている魔獣で、ラルスエルフが飼いならしたものを借りている。

デオンはこのタルトゥニドゥの山を苦も無く走って見せるが、如何せん数が少なく、こうして斥候に出る人数分しか連れて来ていない。

そのため、本隊は徒歩での行軍になるわけだが、徒歩での魔獣を警戒しての山越え、谷越え、時に迂回しての行進は遅々として進まず、男にストレスを与えていた。


「本当に、帝国と渡り合える魔法や魔道具が見つけ出せるのだろうか・・・・」


溜め息ついでに愚痴もこぼし、斥候のゴレスト兵は部隊に合流するため、もと来た方向に戻る____。


 今回のゴレストとオンデールの探索作業の目的をざっくり言うと、“ドネレイム帝国に対抗するための何か”を探すというもの。

 先日、帝国と戦争状態だったオーレイ皇国が、ついにその膝をついたという報告が入った。

となれば、これまでの帝国の動きから、直ぐに“ラルスの胃袋”と呼ばれる、ポーラ王国にも手を出すだろう。

そして、そう遠くない日に、ゴレスト神国にも進行し、オンデンラルの森が炎に包まれる日が来るかもしれない。

その日に備え、戦力を整えるためこの地に足を踏み入れたのである。

 帝国の技術と人数差を埋めるのは、ゴレスト神国とオンデールの国力では不可能だ。

なればこそ、この地の宝に目を付けた。

魔族の秘術や、ドワーフの武具であれば、扱う者によっては一騎当千の働きが期待できる。

そういった物でなかったとしても、物珍しい品なら高値で取引できて、軍資金が得られるだろう。

その金で、傭兵などを雇えるという考えだ。

 だがこの考えを、この若きゴレスト兵は嫌っていた。


「何故そのような邪な物のために、このような地に足を踏み入れねばならん。そのようなものに頼るなど、主神マガツマへの冒涜だ。なにより我らにはサレン様もいらっしゃるというのに・・・・」


 若いゴレスト兵は、自分自身では決して帝国を侮っているつもりなどない。

侮っているつもりはないのだが、それでも思ってしまうのだ、“所詮は人間だ”____と。

 ラルスエルフの“神の子”と呼ばれるサレン・キャビル・レジョン。

魔法の扱いにおいて人間を上回るエルフ。そのエルフの中でもそう呼ばれる、かの天才魔導士ならば、帝国軍兵士など、物の数ではないと男は思っている(この後に、西方連合での戦いで、帝国の強さを目の当たりにして、考えを変えることになるのだが・・・・)。

 そんな思いで、デオンの背の上でブツブツと愚痴っていると、本隊の人影が見えてくる。

若き兵士は、先程の愚痴を全て呑みこみ、不満顔を整えて、上官に報告した。


「報告します!この先四キロ地点に深い谷があり、通れそうにありません!」

「ご苦労。デオンを返して、少し休め」

「は!ありがとうございます!失礼します!」


ハキハキとした応対で、若いゴレスト兵はデオンを返すため、ラルスエルフの班の所に去って行った____。



 報告を受けた副将のロストは、難しい顔を隣にいる上官のデティットに向けた。


「ふぅ・・・この先も行き止まりとは・・・少し戻ることになりますが、途中にあった山を超えますか?」

「そうするしかないだろう。少し戻って山の麓に着けば、西日を浴びることになるだろう。今日はそこで陣を張り、明日山越えをする。麓までの指揮を頼む」

「了解しました!・・・全部隊注目!この先は谷となっていると報告があった!我々はここに来る途中にあった山の麓まで戻る!全軍転進!」

「全軍転進!」

「転進!」

「転進!」


三百人ほどの探検隊は部隊を反転させて、もと来た道を戻る。その行軍の隊列に乱れはない。

 だが、兵士たちに疲れが出て、士気が今一つなのを一人のラルスエルフの少女は見逃さなかった。


 滑らかで光沢のある草色のローブを羽織っており、そのローブの背中辺りまで黒髪がサラサラと垂れている。

顔も体格も小さく、瞳がクリクリと大きく、口は小さく童顔な顔立ちをしている。

そんな幼さではあるが、浅黒く、艶のある肌は、幼く見える少女に女性の色気を与えている。

人の頃でいうなら、十五・六。これから幼さが無くなり、大人の女性へと成長する年頃。

エルフは寿命が人より長いせいか、人より成長が遅い。

恐らく、実年齢は周りにいる成人のゴレスト兵と、あまり変わらないだろう。

とはいえ、同行している二十人ほどのラルスエルフの中では一番若い。

一番若い身でありながら、身に付けているローブ、杖、手袋、ブーツ、軽装革鎧は全て魔法が付与された一級品で、一番良い品を与えられている。

 このタルトゥニドゥの中で、異質な存在である探検隊の中で、更に異質な存在感を放っている。

この少女の名は、サレン・キャビル・レジョン_____。

魔法に長けるラルスエルフの中で、若くして一番の魔導士と呼ばれている天才少女である_____。

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