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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第二章:閃光の勇者ろうらく作戦
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帝国反乱軍結成

 「アハハハハハハ、いや~すみません。そんなことになっていたとは知らなくって~」


 レインとの戦いが終わって二日目の朝、プロトスの政務室に通されたオーマとヴァリネスの前で、レインは気まずそうに笑っていた。


「まったく・・・笑い事じゃないわよ。死ぬかと思ったんだから」

「アハハハハ、でも、まさかお義父様と兄様が帝国と戦うために同盟を組んで、反乱軍を立ち上げるなんて思わないじゃないですかー」


 あれから、プロトスが昨日一日かけて説得してくれたおかげで、レインは事情を理解し協力してくれることになった。

結果として、レインにはろうらく作戦から反乱計画まで、全ての事情を話すことになってしまった。

だが、オーマはプロトスも仲間にする以上、そうなる可能性も有ると思っていたので気にしてはいなかった。

むしろ、全ての事情を知った上でこの計画に協力してくれる勇者候補が現れ、喜ばしい結果だと思っていた。


「いや、だからって、いきなり____」

「もういい、副長。こっちもレインに対してやましい事していたんだ」

「・・・分かっているわよ。でも、何か言わないと気が済まないのよ」

「・・・・ロジの膝枕ヒールで、デレついていたのに?」

「え?・・えへへへへー♪ま、まあ、それはそれ、これはこれと言いますか・・・・そうね、これから仲良くやっていくんだし、野暮な真似は止めるわ」

「おお?良いのですか?知らぬ事とはいえ、殺し合いを仕掛けたのに・・・ヴァリ姉様は心が広い♪」

「ありがと♪・・・って、レイン、そういうあなたはどうなの?あなたこそ全てを水に流せるの?」


 ヴァリネスが突っ込んだ質問をして、オーマに緊張が走る。

レインは自分が殺し合いを仕掛けたことを気にしていたが、元を辿ればオーマがレインに籠絡を仕掛けたのだ・・・・いや、元を辿れば全部第一貴族が悪いが・・・。

 とはいえ、気持ちの上では違っても、レインを騙そうとしていたのは事実だ。

レインがそのことをどう思っているかは、知るのが怖かった。


「うーん・・・まあ、正直言えばモヤモヤしていますが、でも事情を聞くと仕方ないかなって思いますしー」

「へー?心が広いのね?団長を恨む権利はあるわよ?」

「う・・・」

「そうですね~・・・確かにイラッとしたので、一発くらい殴りたいところですがー・・・」

「・・・殴られるくらいで許してもらえるなら、甘んじて受けよう。殴ってくれ・・・・・・・あ、でも、死なない程度でお願いします」


死んでしまっては元も子もないので、そこは素直に懇願した。


「いや、でも実際いきなり一緒に戦ってくださいと言われても、私は首を縦に振らなかったでしょうし、貴族としてそういう行為に理解もありますからー・・・・・それにまだ一線は超えてないですし」

「一線・・・?肉体関係を結んでいたらどうしていたの?」

「そりゃーその時は、“どんな事があっても”責任取ってもらっていましたー♪」

「おう・・・・」

「まあ、そうれはそうだな」

「おう・・・・」


サラッと不穏なことを言うレインにも、それを爽やかに肯定するプロトスにも恐怖せずにはいられないオーマだった。


「ま、色々有りましたけど、今は同じ目的で手を組めているので良しとします♪なにより___」

「なにより?」

「そういうことなら、まだ決着はついていないわけですし」

「け、決着?」


“決着”という言葉の意味がオーマには理解できていなかった。


「へー・・・。まあ、いいんじゃない?」

「うむ。レイン、頑張りなさい」

「はい♪」


そして意味が分からないまま、三人に置き去りにされるのだった。


「が、頑張りなさいって・・・よろしいのですか、プロトス卿?」

「もちろんだ、ヴァリネス副長。そっちの事はレインの意思を尊重しようと思っている・・・・というより君らの事情が事情なだけに口を挟みにくい。だから知らん。レインに任せる。私も忙しくなるし」

「そ、そうですか・・・・フッ」


 プロトスと初対面のヴァリネスは、プロトスの意外なノリの軽さに驚く。

でも、改めて考えると、レインと似ているなと感じ、思わず笑顔になるのだった。


「さて、娘が納得しているのなら、話題を次へ移そう。今後の我々の動きについてだが、私は先ず、裏で信用できる人物を何人か抱き込みワンウォール諸島へ送る。そこで反乱軍の拠点を作らせるつもりだが、それで問題ないかね?」

「はい。問題ありません。ワンウォール諸島を拠点に海上をベルヘラ海軍で守れば、帝国も簡単には手出しできなくなります」

「なら、これでいく。ワンウォールの部族長達の説得は任せてくれ」

「ありがとうございます」

「それでオーマ。君たちは今後どう動く?」

「え?」


 聞かれてオーマは戸惑う。正直なところ、現在プランは無い。

今後のことはレインを加えてから考えるつもりでいたからだ。

だからレインと殺し合いになって、それが終わったばかりの今は、何も頭に浮かんでいなかった。

 オーマは正直に言うしかなかった。


「正直なところ、今は次のプランはありません。先ずは帝都に戻って、宰相のクラースに作戦成功の報告をしなければなりません。その上で、引き続きろうらく作戦を継続しつつ、反乱計画の準備を進めることになるのでしょうが、具体的には・・・・・」


 同盟を組んだばかりなのに、頼りない姿を見せることになってしまい、オーマは落ち込む。

オーマは本心でプロトスやレインとの同盟を歓迎しているので、二人に幻滅されるような姿は見せたくなかった。

 後ろめたい気持ちでオーマがプロトスの顔を覗くと、プロトスは幻滅どころか、その答えを待っていたかのような含みのある笑みを見せており、オーマは頭の中と顔に?マークを作った。


「・・・では、ろうらく作戦の次のターゲットは決まっていないのだな?」

「え?あ、はい・・・・」

「ならば私から提案がある」

「え!?プロトス様からですか?」

「ああ、以前、裏庭で勇者候補の話もしてくれたろ?その中に、一人手助けできそうな人物がいる」

「ほ、本当ですか!?」

「誰なんです?」


プロトスの意外な提案に、オーマもヴァリネスも驚いた。


 残りのリストのメンバーは、誰からアプローチすればいいか分からないほど、難しい状況だったのだ。

元バークランドのフレイスはもちろん、ゴレストのサレンは国が戦争したばかり、ベルジィのいる国は情勢が不安定、アマノニダイのヤトリが一番近づきやすそうなので、次のターゲット候補だったが、アマノニダイ自体が帝国の第一貴族と同盟関係にあるため、物怖じしていた。


そんな現状だったので、プロトスからの提案は渡りに船だった。


「ゴレスト神国にいる・・・いや、正確にはゴレスト神国と友好的な?サレンという候補者だ」

「彼女をご存じなのですか?」

「いや、彼女のことは知らない。だがゴレスト神国の要人に一人、懇意にしている知り合いがいる。デティット・ファイバーという将軍だ」

「デティット・ファイバー!?」

「団長、知っているの?」

「知っているも何も、戦ったろ?西方連合との戦いに参加した時、対峙したゴレスト軍の将だ」

「あ?・・・ああ!そういえば、そんな名前だったわ」

「わ、忘れていたのですか?ヴァリ姉様」

「ハ、ハハハ・・・いや~、とっくに帝国の忠誠なんて無くなって、真面目に戦ってなかったから・・・」

「・・・昔は忠誠心が有ったみたいな言い方だな」

「有ったのよ!これでも!昔は!アンタほどじゃないけどね!」

「そうだったのか・・・長年一緒に居て、感じたことなかった・・・」

「んだとぉ!?」

「ははは、仲が好いな、二人とも。だが、私の話も聞いてほしいのだが?」


「「ッ!・・・すいません」」


 プロトスにやんわりと嗜められて、二人は素直に頭を下げた。

プロトスはその姿を微笑ましく見た後、話を戻した。


「彼女なら恐らく、反乱軍にも加わってくれると思うのだ」

「本当ですか?」

「ああ、彼女とは何回も会っている。あの性格なら、ほぼ間違いなく帝国とは徹底抗戦するだろう。今なら、今回の外交結果を諸国に広める名目で、裏で彼女に手を回せるが?」

「是非ともお願いします!」

「分かった」


今後に明るい展望ができて、オーマもヴァリネスも表情が明るくなる。


「よーし。じゃー、こっちはそれを念頭に置いて、次の作戦を練ろう」

「次はゴレスト神国ね。どんな国かしら?」

「かなり宗教色の強い国だと聞いてますよ、ヴァリ姉様。後、ラルスエルフと交流があるとか」

「らしいな。ゴレスト神国に居る勇者候補のサレン・キャビル・レジョンも資料では、“神の子”と呼ばれているラルスエルフらしい」

「神の子?宗教国家で?じゃー、ゴレストってエルフを神としているってこと?」

「正確には、ラルスエルフを神の使徒としているのだ。ゴレストが信仰しているのは土の神マガツマだ。マガツマは四大神の長兄だ、という伝承があってな。それで、命を司る最も偉大な神だとみなしている」

「四大神の長兄?そうなの?」

「実際は知らん。国を運営するためのプロパガンダかもしれん。だがゴレストの民、特に年長の人間はこの考えが根強いそうだ」

「えー・・・なんか頭の堅い、頑固おやじが多そうね」

「帝国の俺達とは価値観が合わなそうだな・・・」


 宗教と年長と聞いて、二人は少しげんなりする。

宗教も、年長者も味方ならばいいが、敵対していたり説得が必要だったりする場合、どちらも厄介なタイプだ。

 その二人の態度にプロトスは苦笑いを浮かべた。


「でもだからこそ、帝国への反発が強い。そして仲間にできる可能性が有る。頑固おやじということは、そう簡単に自分を曲げず、帝国の脅しや暴力に屈しない人物が多いだろう。信心深い者も暴力や脅しで神を裏切る事はない。その点においては我々にとって都合が良いだろう?」


「「なるほど・・・確かに」」


 プロトスの言い分に、二人は素直に納得する。

レインは、父親に説得され従順になる二人が微笑ましかったのか、その様子を笑顔で眺めていた。


「じゃー、大きな流れは、プロトス卿に手を回してもらって、えーと・・・その・・デティット?って人を反乱軍に加えて、その人を通じてサレンやゴレストに居る反帝国派を仲間にするって感じかしら?」

「そうなるな」

「じゃー、決まりね!・・・他に話すことってあったかしら?」

「無いんじゃないか?」

「そうだな・・・一先ずはいいのでは?」

「おっしゃ!じゃー、早速反乱軍の結成祝いを____」

「あの~・・・」


真面目な話が終わり、ヴァリネスが酒の話に切り換えようとした時、レインがスーッと手を上げた。


「質問なのですが、私はどうなるのですか?ここに残るのですか?それとも兄様達と帝国へ?」

「もちろん帝国へ連れて行く。じゃないと、クラース達に作戦成功の報告ができんからな」

「その場合って、私はどういう立場で帝国に行くことになるのでしょう?帝国の傘下に入る形は不味いですよね?」

「そうだな。センテージは、表向きは帝国と友好関係を結ぶ。センテージの貴族の人間が配下に加わる形は世間体が悪いな」

「確かに。かといって特使などの立場で帝国に来た場合は、俺達サンダーラッツと行動を共にするのは変だ」

「他国の賓客が、平民の軍隊と一緒に行動するのは確かに変ね・・・いっそ、帝国には来てもらうけど、私達とは別行動にする?」

「えー!!私、兄様やヴァリ姉様と一緒が好いです!」

「それはダメだ、副長。レインは対帝国だけじゃなく、ろうらく作戦においても戦力になる。今回のように万が一勇者候補と戦闘になった場合、絶対に必要だ」

「ああ、そうだったわね。じゃー、センテージにとって問題なくレインがウチらに加われる形って何かしら?」

「センテージとしては、いっそレインの身分を隠してほしいな。帝国はどうだ?」

「問題ありません。それでしたら、第一貴族が如何様にでもするでしょう」

「そうか。なら、そうしてくれるか?いいな?レイン?」

「はい、お義父様。では兄様!ヴァリ姉様!これから、よろしくお願いしますね♪」

「ええ!よろしくね♪レイン!」

「よろしく頼む・・・・・で、レイン?さっきから気になっていたが、何故“兄様”なんだ?」

「はい!これから行動を共にするので、“オーマさん”というのは少し他人行儀な気がして嫌なのです。でも、私に近づいたのが純粋な好意だけじゃないと分かったので、そこまで近い距離の呼び方も、まだどうかと思ったので・・・」

「それで兄様?」

「はい!兄様です♪」

「う~~ん・・・・」

「嫌ですか?」

「い、いや、嫌というわけではないのだが・・・なんかむず痒いな・・・・」

「えー・・・じゃー、“ダーリン”でいいですか?もう決着つけますか?」

「・・・よくないです」

「ですよねー。私もまだ早いと思います。なので、兄様で♪」

「はい・・・」


受け入れるしかないオーマだった。


「ほー、積極的ねー・・・クシナにも見習わせたいわ」

「はい!私、欲しいものは“ぶんどる派”ですから!」

「ハハハハハ、そうか。ちょっと心配だったが、これなら安心だな!」

「いや、安心じゃねーよ!なんだよ!“ぶんどる派”って!」


めちゃめちゃ怖いことをサラッと言うレインと、それに笑って乗っかるプロトスにオーマは全くついて行けていなかった。


(・・・レインって実は明るくて積極的なんじゃなくて、単にぶっ飛んでるだけなのか?雷と融合を繰り返して頭のネジが飛んじゃったとか?)



 こうしてサンダーラッツは、オーマが引いてしまうほど愉快な仲間を新たに加える。

それから、反乱軍の結成祝いでしこたま飲んで騒いでから、数日後に帝都へと帰還するのだった。


____閃光の勇者ろうらく完了。

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