閃光の勇者との戦い (3)
サンダーラッツのメンバーが駆けつけてくれたと分かり、オーマは歓喜する。
「みんな!!」
「オーマ!!オーマ!?大丈夫!?ロジくんとユイラは早く回復魔法を!!」
ヴァリネスが空気を裂くようなヒステリックな声で指示を出す。
その表情に普段の余裕は無い。
オーマへの呼び方も、“団長”ではなく“オーマ”というデネファーの下に居たころのフレイムベアーズ時代の呼び方になっていて、その焦りようがオーマにも分かった。
サンダーラッツがオーマとジェネリーの所まで辿り着くと、ロジは水魔法“癒しの水”で、ユイラは風魔法“癒しの風”でオーマの回復を始める。
他のメンバーも、イワナミはジェネリーの横に並ぶ形で前衛に、その二人の後ろにクシナとウェイフィーが援護できる位置につく。
フランが、オーマを護衛する陣形からわざと少し離れて、遊撃としてレインが気にするであろう位置で構える。
そしてヴァリネスが、オーマの壁になる位置に立つ。
「・・・・・」
そのサンダーラッツの素早い対応に警戒心を抱いたのか、レインは観察するような視線でサンダーラッツのメンバーを見据えながら、ゆっくり立ち上がる。
そして慎重に構え、様子を見る______と見せかけて
「はぁ!!」
レインは魔力を練り上げ、中級魔法の術式を展開して速攻を仕掛けた。
だが、ヴァリネスが反応しており、怒号を飛ばす。
「ウェイフィー!イワナミ!」
「キャプチャーバイン!」
「ッ!?」
ウェイフィーが信仰魔法RANK2(樹)STAGE5(発生)で、レインの足下に植物のツルを発生させた。
速攻で仕掛けた弱い魔法なので規模も植物の強度も無いが、駆け出したレインの足に絡みつき、体勢を崩すのには十分だった。
レインは足を取られ、ガクン!と態勢を崩す。
そこにイワナミが、背中に背負っていたバトルアックスを両手に持って、距離を詰めた。
「ふん!!」
イワナミは、必殺の間合いで躊躇することなく、隙だらけになっているレインに斧をフルスイングした。
______ガキィイイイン!!
「くっ!」
魔力はレインが圧倒するが、単純な腕力ではイワナミの方が勝る。
レインは両手の手甲で斧をガードするも、鈍い声を上げてふっ飛ばされた。
ヴァリネスはふっ飛ばされたレインを見ながら、オーマに声を掛けた。
「オーマ!無事!?」
「なんとかな・・・すまん、副長。どうやらバレたようだ」
「そのようね・・・で?どうするの?」
「説得は失敗した。プロトスが居ないと無理だ。だが、プロトスの所へは行かせてくれないだろうから___」
「倒すしかないってのかよ!?マジか!?」
「うるさいですよ!フラン!今は団長と副長が話しているのです!」
「やれやれ。“凍結の勇者”のフレイス以来の強敵だな」
「しんどい」
「でも、相手は一人です。魔力が膨大といっても無尽蔵じゃありませんし、ジェネリーさんのおかげでかなり魔力は減っています」
「ロジ・・・それは楽観視し過ぎらしいぜ」
「え?」
フランの一言で皆がレインの方を注目すると、レインは腰のベルトに付けていた革のポシェットから魔力を回復させる回復薬を取り出して飲んでいた。
「・・・向こうは準備万全で来てるじゃねーか」
「まずい・・・こっちは準備してない」
「観光中でしたからね・・・」
「ジェネリーの魔力が回復できないと不味いですね」
「私のしたことが無駄になりました。・・・申し訳ありません」
「謝るんじゃないわよ。ジェネリー」
「くそ・・・」
いくらこっちの人数が増えても、肝心の戦力はジェネリーだ。勇者候補が勝敗のカギになる。
そのジェネリーとレインとの間に準備の差が出てしまい、サンダーラッツは窮地に立たされた。
「で?どうするよ、団長?レインちゃんが魔力を回復できるなら、ジェネリーちゃんに全部任せるわけにはいかないっしょ?」
「そうだな。それは分かっている。・・・・分かってはいるが・・・」
もし条件が一緒なら、戦い方は簡単だ。ジェネリーをレインとの戦いの前線に出し、サンダーラッツがバックアップすればいい。それで勝敗が付く。
だが、そうでないなら別の戦い方になるわけだが、オーマの中でレインの情報が足らず、作戦が思い浮かばない。
サンダーラッツの面々は、オーマの苦悶の表情を見て、それを理解する。
そして、ロジがそのことに疑問を抱く。
「団長。副長には対抗手段が有ると言っていませんでしたか?」
「うげっ!・・・ちょ、ちょっとロジくん?・・それはー・・・」
「確かに、有るには有るが・・・・」
「何を迷っているのかは分かりませんが、やるしかないのでは?」
「うげっ!・・・マジィ?」
イワナミの言うように、やるしか無いのかもしれないが、指揮官として容易には決断できない。
今ならまだ全員で逃げれば、自分を含め、数人は犠牲になるだろうが、全滅は避けられる。
だが、ヴァリネスを使った対抗手段は、失敗すれば逃げられなくなり、各個撃破されて全滅するだろう。
そして、その対抗手段は現状、通用する保証がない。
その対抗手段が通用すると分かって、始めて賭けになるのだ。
それが分からない現状では、賭けと呼ぶのも苦しい・・・。
「・・・せめてレインの能力に関して、もっと情報があれば・・・・」
「団長。それでしたら____」
そう言ってジェネリーがオーマに近づくと、悩み苦しむオーマの耳元でボソボソと何かを呟いた。
「______」
「______!?・・・・本当か?ジェネリー?」
「はい。間違いありません」
「そういえば・・・・・フッ・・・フハハハハ!そうか!そうだったか!良くやってくれた!ジェネリー!君の戦いは無駄じゃなかった!」
ジェネリーから話を聞いて、オーマは歓喜で思わず吹き出してしまう。
ジェネリーがレインとの戦闘中に得た情報は、正にオーマが欲しかった情報だった。
「よし!ジェネリーのおかげで賭けが成立した!やるぞ!お前達!!」
「「了解!!」」
サンダーラッツのメンバーから迷いのない返事が返って来る。
切り札のヴァリネスだけが絶望的な表情で、オーマを見ていた。
「頼む、副長!」
「え~~~~・・・」
「分かっているんだろ?」
「え~~~~・・・」
「・・・・・・」
「え~~~~・・・」
「・・・・・・ロジの膝枕ヒールが待っているぞ?」
「え~~~~♪♪♪」
「いや、それ突撃隊・・・・」
ヴァリネスのやる気がMAXになった。
「よーし・・・こうなりゃ俺達の手で、勇者様に一泡吹かせてやろうじゃないか!」
オーマが自分を鼓舞するために吐いた言葉で、他のメンバーも気合が入る。
そして、魔力を回復し終えたレインと向き合い、閃光の勇者との戦いは最終ラウンドに入る_____。
サンダーラッツが一致団結して、レインと戦う決意をしている。
その様子を、レインは追撃するでもなく、ただ見ているだけだった。
魔力の回復中だから?___それもある。
攻撃しても止められるから?___それもある。
だが、一番の理由は心配していたからだった。
(港・・・無事に済むかな?・・・・街の方まで被害が出ないといいけど・・・お義父様、ダグラス船長・・・ごめんなさい)
サンダーラッツが現れて、自身の速攻が防がれた時、レインはその時既に奥の手を使うことを決断していた。
そして、自分が暴走したときの港や街、ベルヘラへの被害の心配をしていた。
自身の暴走____。それは自分の脳のリミッターをSTAGE8(融合)で外すこと。
つまり、意識も雷と融合することだった。
帝国、そしてオーマ達はまだ解明できてはいないが、結論から言うと、レインは肉体だけではなく魂さえも雷と融合できるのだ。
そして、体はともかく魂、つまり意識や精神まで雷と融合するということは、理性の消失を意味する。
理性失えばタガが外れ、人間が無意識に制御しているリミッターを解除することになり、全ての力が飛躍する。
その代わりに自身の意識も無いため、自分の魔力が無くなるまで無差別に攻撃をする狂戦士となってしまう。
この奥の手を使えば敵はもちろん、その周囲や自分もどうなるか分からない。
以前、魔力の制御を誤って、意識まで融合してしまい、暴走して暴れ回る結果になったことがある。
それでもその時は、海上の船の上だったから街に被害は出ず、一隻の船が大破して乗組員が負傷しただけで済んだのだ。
だから、どうしてもこの奥の手を使うには、覚悟を決める時間が必要だった。
レインは覚悟を決め、奥の手を使うのに十分な距離を取る。
サンダーラッツの面々が何やらボソボソと作戦会議をしている。
レインを倒す算段をしているのだろう。
だが、最早どうでもよかった。
(どうせ頭で考えて戦うなんてできなくなるし・・・・)
内心で諦めるように吐き捨て、サンダーラッツを無視して術式を展開する。
展開された術式の規模、つまり込められた魔力はこれまでで最大量。
尋常ではないレインの魔法に気付いたサンダーラッツが、慌てて作戦をまとめている様子が見える。
作戦はほぼ決まっていたのだろう。サンダーラッツの各々が、陣形を組み替える。
サンダーラッツの準備が整ったころ、レインの魔法の準備もできた。
後はもう始めるだけだ。
「・・・・ここまでするのだ。誰一人・・・誰一人として生かしては帰さないぞ」
それだけ呟くと、レインは願うような気持で魔法を発動した。
______パッゾ・フルゴラ(狂った稲妻の女神)




