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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第二章:閃光の勇者ろうらく作戦
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閃光の勇者との戦い (2)

 オーマのダメージはまだ深い。

潜在魔法で回復を始めているが、潜在魔法の自然回復では、まだ立ち上げることすらできない。

かといって、観光中だったので、傭兵に偽装するための装備こそ身に付けているが、回復薬などの道具の持ち合わせはない。

回復系の信仰魔法が使えないジェネリーは治癒をあきらめ、代わりにオーマを護衛するべく、レインの前に立ちふさがった____。



 ジェネリーは剣を構えてレインと対峙しながら、どう戦うかを考える。

 ほぼ互角の素質と魔力を持つ両者。

 レインは環境の差で自分の方が不利だと考えていたが、ジェネリーも自分の方が不利だと考えていた。

理由は、自分の才能に気付いた早さだ。

ジェネリー自身が自分の才能に気付いたのは、シルバーシュ残党のザイールとの戦いの時で、約二か月前だ。

それに対して、レインが自身の才能に気付いたのは、集めた情報だと三年前の暴走事故を起こした時からだ。

 つまり、ジェネリーと違いレインは三年もの間、自分の才を磨く期間があったということ。

レイン自身はその期間伸び悩んでいたらしいが、ジェネリーに至ってはその自覚すらない。

オーマと出会う前までは、剣術も下手、魔法技術も無い劣等生だった。


 両者とも自分が不利という判断で、しばらく互いに警戒しながら睨み合う。

 時間が経つにつれ、焦りを覚えるのはレインの方だった。

オーマは回復に時間が掛かるだろう。だが、サンダーラッツには、まだ仲間がいる。

ジェネリーがここに来ている以上、他の仲間も直にここにやって来るだろう。

時間はレインにとって敵だ。

 その逆に、時間が味方しているジェネリーに焦りはない。

レインは油断ならない相手で余裕はないが、ジェネリーは今自分のすべきことが時間稼ぎだと分かっていた。

 ならば当然、先に仕掛けるのはレインの方だった。

術式を展開し、強力な魔法の準備をする。

普通こういうタメが必要な攻撃は、隙を作らないと使用するのは難しい。

だがレインは、ジェネリーは動かないだろうと判断し、躊躇なく魔力を溜める。

 ジェネリーはレインが思った通り、動かなかった。

ジェネリーは、仲間が来るまでオーマを守るのが役目だと自覚している。

だから、オーマをレインの眼前に曝すことなどしない。盾となって攻撃を受けきるつもりでいた。

代わりに防御力を上げるため、ジェネリーもタメが必要なレベルの上級防護魔法の術式を展開する。

 それにレインは迷うことなく正面から攻撃魔法を繰り出した。


「レールガン!!」


_____ドウッ!!


雷を圧縮したような貫通力のある電撃が一直線にジェネリーに伸びる。

ジェネリーの体ごと貫通させてオーマを葬る攻撃だ。


「アースウォール!!」


レインの魔法とほぼ同時に、ジェネリーも魔法を発動する。

ジェネリーの目の前に、縦に長く、横に広い、奥行きのある土の壁が出現する。

 ジェネリーの使用できる基本属性は炎と土の二種類だ。

炎の方が得意ではあるが、雷を防ぐならば土属性の方が向いていると判断し、自身が扱える一番の土属性防護魔法を発動した。


______ドゴンッ!!____バチィイイン!!!


だがレインのレールガンは、その土の壁を貫いて、そのままジェネリーに直撃した。


「ガァッ!!」


 ジェネリーから、喉を潰しそうな鈍いうめき声が上がり、上体が大きく反れる。

そのまま倒れそうになるが、辛うじて踏みとどまる。

常人なら即死のレインの魔法を食らっても、ジェネリーは膝をつくことさえしない。


「はぁああ!!」


それどころか、ジェネリーはその圧倒的な魔力で、不死鳥のごとく即座に回復した。

だがジェネリーが回復して上体を起こすと、それを見越していたレインが、低い態勢でジェネリーの懐に既に潜り込んでいた。


「回復すると分かっていたぞ!!」


 懐に潜り込まれたジェネリーの驚きを表現するように、バチバチィイイ!!という雷の着弾音が響く。

そして、レインの拳がその音と共に、ジェネリーの腹部にめり込んでいた。


「ぐがぁ!?・・・ガッ!」


再びジェネリーがうめき声をあげる。

そのジェネリーを置き去りに、雷を纏ったレインの拳がラッシュを始めた。


_____ズガン!ズガン!ガン!ガガン!!ズガガガガンッ!!


 レインの畳み掛ける怒涛の連族攻撃_____。

だがその一発一発は、レインの魔力が込められた凶悪な雷撃。

食らう度にジェネリーは感電し、身動きができないまま、無防備な状態でレインの連続攻撃を浴びる。


______ぐちゃ!ベキ!バキッ!!どちゃっ!


雷の打撃音に紛れて、ジェネリーの骨が砕かれ、内臓が潰れる音が鳴っていた。


(いける!?このまま押し切れるか?)


レインは自分の攻撃の手応えを十分に感じていた。

ジェネリーはレインの攻撃を受けながらも回復しているが、その回復力はレインの猛攻に追いついていない。


(いける!!奴の方が練度は上だと思っていたが、違う!魔法の技術も格闘の技術も私の方が上だ!)


 勝利を確信したレインの猛攻は更に激しさを増す。


______ズガガン!ズガガン!ズガガガガンッ!!


ジェネリーの肉体は、どんどんひしゃげて人の形を維持できなくなっていく。


______ズガガン!ズガガン!ズガガガガンッ!!


右左右、右左右、足、肘、膝、裏拳と、無慈悲なレインの攻撃を食らい、とうとうジェネリーは足下の自分の血の池にバシャン!と膝と手をついてしまった。


「止めだ!!」


勝機と見たレインが、右拳に力と魔力を込めて、四つん這いのジェネリーの後頭部目掛けて、最後の一撃を打ち下ろそうとした。

だが、ジェネリーが手を付いている地面に、血の色以外の赤色があることに気付く。

その赤色は淡く光っていた_____。


「魔法!?」


 レインが右の打ち下ろしを止めて上体を反らす。

そこに、ゴウッ!!とジェネリーの炎魔法が吹き荒れた。

不発_____。レインは前髪を少し焦がしただけで、ノーダメージだった。

ジェネリーの抵抗は悪あがきに思えた。

だがそうではなかった。


「がぁ!!」

「ッ!?」


ジェネリーは、ボロボロの膝で踏ん張りながら体を持ち上げて、レインの腰にタックルを決め、そのまま両腕で胴を締め上げた。

タックルは弱々しく、胴締めも力がない。

 だが、そんなジェネリーの行動に、レインは背中に冷たいものを感じた。


「・・・・まさか」


ジェネリーを見下ろすと、ジェネリーの肉体はあまり回復していない。

その代わり、炎の魔法術式が展開されていた。


「自爆!?」


 戦闘技能も魔法練度も負けているジェネリーの打つ手はこれしかなかった。

ジェネリーは、数少ないレインに勝るその耐久力と回復力を活かすため、レインを捕まえて自分もろとも火炙りにする作戦に出た。

近くで動けないオーマも、ジェネリーの作戦を察して、一旦潜在魔法での回復を中断して、防護魔法の準備を始める。


 ジェネリーの凶悪な魔力で作られた魔法術式に、レインの形相が変わる。


「うぉおおおお!!」


レインは叫びながら、厳つい手甲でジェネリーの頭部を殴りつけ、引きはがそうとする。

ジェネリーの頭皮はめくれ上がり、頭蓋骨がむき出しになるが、ジェネリーはそれでもレインを離さない。


「ぐ・・・ぐばべ・・・!(食らえ!)」

「ひっ!?」


ジェネリーのうめき声と共に、ドゴオオオオオオン!!と上空に向かって爆炎の柱がそそり立つ_____。



 オーマの防護魔法は辛うじて、間に合った。


「ぐ・・・ぐぅ!」


 炎の柱は上に向かって伸びており、さらにオーマは炎の防護魔法でガードしているにもかかわらず、皮膚に火傷を負ってしまう。

ザイールとの戦いで見せた、ジェネリーの魔力による圧倒的な炎だった。



 グオン!!グオン!・・・・と、巻き上がっていた巨大な炎が、徐々に弱くなっていく。

 そして、ジェネリーの生み出した炎が止んだ時、レインの姿はそこには無かった。

オーマの視界に映った光景は、炎と共にすでに肉体を再生しているジェネリーと、そこから十メートルほど離れた場所で、少し火傷を負って地面に手を付いてゴホッゴホッとむせているレインだった。


「逃げられたか・・・・」


 悲痛な表情でオーマはそう呟く。

 正直なところ、頭では冷静に逃げられる可能性を導き出していた。

武芸、それも体術はレインの方が専門だ。何より、レインは雷と融合して閃光となって移動できる。

肉体がボロボロになっているジェネリーでは、魔法発動まで押さえつけて置くことは困難だろうと、分かってはいた。

 だが、そう頭で予想していても、気持ちが抑えられなかった。

レインという怪物との争いは、どうしても避けたかった。

早く終わってほしかったのだ。

 ジェネリーの驚異的な回復力で、戦いにこそなっているが、戦況は不利なままだった。


「ジェネリー・・・」


レインを見据えているジェネリーの背中を、オーマは悲痛な思いで見つめる。


「オーマァ!!」


オーマの悲痛な想いを代弁するような叫び声が響く。

だが、相手はジェネリーではなくオーマへの呼びかけだった。

 どういうことだと、声の方を振り向いてみれば、数人の男女がこちらに向かって走って来ている。

さっきの叫び声は、サンダーラッツの到着を告げるヴァリネス声だった_____。

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