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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第二章:閃光の勇者ろうらく作戦
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閃光の勇者との戦い (1)

 レインは溜めた魔力を一旦解除すると、小さく簡単な術式で何度か雷の錬成を繰り返していた。


「ふむ・・・こうか?」


一見すると、電気を出したり消したりしているだけで、何をしたいのか分からないが、オーマには理解できた。


「・・・マジか?あれは俺がやった・・・」


 今レインがやっていたのは、特殊STAGEの性質変化で、電荷の極性をプラスやマイナスに変化させていた。先程オーマがレインの攻撃を防いだ技だ。

止めの一撃のため魔力を溜めていたレインだが、再びオーマに弾かれないよう対策を講じたのだ。

 オーマは、その様子をポカーンと口を開けて見ていた。開いた口が塞がらないとはこのことだ。

レインの才能に、驚きを通り越して呆れてしまう。


「もう覚えやがった・・・」


 特殊STAGEの性質変化は決して難しい技術ではない。

だが、だからといって、あんなに簡単にできるモノでもない。あくまで他のSTAGEと比べて、だ。

オーマがこの電気の極性変化をできるようになるのに半年掛かっている。

実戦で使えるようになるのにはもう半年で、マスターするのに一年掛かっている。

だがレインは、一回見て数回マネるだけで扱えるようになってしまった。

 オーマの経験というアドバンテージがふっ飛ぶ。

測り知れない才能。理不尽な力。勇者候補に名が上がる者の素質に、オーマはさらに絶望的な気持ちになる。

 その絶望の中で、それでも死にたくないオーマが展開した魔法術式は、赤い光を放っていた。


「炎魔法・・・・」


レインが呟いたように、オーマが出した術式は炎魔法の術式だった。

魔力量はもちろん、経験の差さえも埋まってしまっては、同じ属性では勝ち目がない。


「フッ・・・」


 レインは嘲笑する。オーマが炎魔法を使用する理由が分かり過ぎているからだ。

つまりは悪あがきだ。それしか理由がない。

 オーマは帝国軍人ゆえ、派生属性だけじゃなく、他の属性(炎と土)も扱える。

戦闘のバリエーションは、基本属性を鍛えず雷属性しか実用できないレインより豊富だ。

だが、それがレインに通じるというわけではない。オーマ自身も分かっていることだ。

オーマは完全追い詰められている。

 レインは、改めて止めの一撃の魔力を練り上げ、術式を展開する。

その術式の規模はオーマとは比較ことすらバカらしい程だ。


「来る!!・・・だが!」


 オーマが先に魔法を発動する。

放った魔法は、大人の頭部サイズのファイヤーボール。

今のレインにとっては犬に噛まれる以下のダメージにしかならない。

だが_____


_____ズドーーーン!!


「!?」


 ファイヤーボールが着弾したのは、物流倉庫の一角。それによって、倉庫から火の手が上がる。

 一対一では勝機が無い以上、助けを呼ぶしかない。

オーマがファイヤーボールを使ったのは、狼煙を上げるためだった。


「貴様ッ!くだらんマネを!!」

「はっ!」


 オーマに少しだけ、余裕ができる。

後は海に飛び込んで、人が来るのを待てばいい。

海の海面は電気が伝わるが、海中までは届かない。潜ってしまえばしばらく時間が稼げる。

オーマは意を決して、海に飛び込むため駆け出した____。


 オーマの小細工に怒ったレインは、決着を付けるため魔法を発動する。

オーマも残りの魔力で、炎の防護魔法フレイムアーマーを発動し、即死を避けようとした。


_____バチバチバチィイイイイイ!!!


だが、レインからの雷撃が来る前に、オーマの体は雷に打たれ、海の手前で動けなくなってしまった。


「ガァッ!?」


 オーマは短く鈍い悲鳴を上げる。

その悲鳴を上げた表情には、“何故?”と、“どうして!?”が、ありありと顔に出ていた。

 レインは必殺の一撃の態勢を維持したまま目を細め、薄笑いを浮かべながら、そのオーマに対して冥途の土産を渡した。


「帝国の基準ではSTAGE6になるらしいな、この技は」

「ッ!!」


 STAGE6(付与)、何かの物体に永続的に魔法を付与する魔術。

 オーマの中で答えが出る。


(さっき抱きついて来たのは!?)


レインが張った予防線だったのだろう。

オーマに抱きついた時に、STAGE6の魔術でオーマの装備に魔法を付与していたのだ。

STAGE6の使い手などというレベルの相手とは戦った経験がないオーマには、気付くことができなかった。


(ま・・・間に合わない・・・・・)


 さっきの火の手で誰かが気付いても、ここまで来るには時間が掛かる。

身動きの取れないオーマでは、それまで時間を稼ぐのは不可能だろう・・・・・万策尽きる。


“最後はこんなもんなのか?”


“やっぱり無謀な作戦だったのかな”


“でも死にたくなかっただけなんだ”


“こんな、人に利用されて死ぬだけだなんて”


“俺も人を利用して罰が当たったのかな”


“だったら何で、俺を利用した奴らには罰が当たらないんだろう”


“皆、巻き込んですまない”


オーマの頭の中で、色々な思いが駆け巡る。


「くらえ!!」


レインの止めの一撃がくる____


「・・・・・」


オーマは完全に戦意を失くしている。最早できる事はない。


(・・・・あの魔力だったら、苦しまずに死ねるかな)


そんな事を最後に考え、オーマは瞳も思考も閉じた____。


「アクロスサンダー!!」


 レインの怒号と共に魔法が発動される。

目を閉じていても、オーマの周囲が光に包まれたのが分かった。

そして____


____ぐちゃ!!ベキバキ!ずちゃ!ズヴゥゥウウ!


レインの拳が体にめり込み、肉をえぐり、骨を砕き、内臓を潰し、拳が体を貫通する不快な音が耳に入る。

それから____


_____ズガガガガーーーーン!!!


雷鳴____。レインの必殺に一撃が決まった。


(嫌な音だなぁ・・・)


肉体を貫かれた音、響いた雷鳴、その生理的に不快な音にオーマはげんなりして、うなだれた・・・・うなだれることができた。


(!?)


_____生きている。


「!?」


どういうことかと、目を開けると、地面には大きな影ができている。

視線を上げて、その影の正体を見た。


「ジェ、ジェネリー!?」


オーマの目に映ったのは、オーマを庇ってレインの攻撃を受け、体を貫かれて血反吐を吐いているジェネリーだった。


「グ・・・ガァア・・だ・・・だいじょ・・・ぶ・・すが・・・・オー・・・だん・・ちょ・・・」

「貴様・・・ミスティ!?」

「ジェネリーーー!!」


 オーマはジェネリーの名を叫ぶ。

嬉しさ、申し訳なさ、心配、安堵、恐怖・・・自分の気持ちが上手く言葉にできない。

 その困惑しているオーマに、致命傷を負ったジェネリーが優しく微笑みかける。


「だい・・じょ・・ぶ・・・・すか?・・・オー・・・マ・・・団長・・・だいじょ・・夫です・・・・私は大丈夫」

「あ・・・・」


ジェネリーの柔和な表情が、ただオーマを安心させる為のモノではないと、徐々に口調がしっかりしてくるジェネリーの言葉でオーマは気付く。


「あ?・・ああ!・・・そうだ」


 それを思い出して、オーマに冷静さが戻る。

ジェネリーの言っている大丈夫の意味とは、“本当にそのままの意味”だ。


 ジェネリー・イヴ・ミシテイスは“不死身の勇者”だ_____。


「見上げた根性だな。味方を庇って、死ぬとは。敵ながら大したものだ・・・だが」


レインは拳をジェネリーの体から引き抜き、冷徹な表情でオーマを見据える。


「状況は変らない。今、止めを____!?」


レインがジェネリーから拳を引き抜いた直後、ジェネリーの体から炎が吹き荒れる。


「な、何だ!?」


想定外の事態と炎の火力で、レインは一歩後退する_____それが幸運だった。


____ゴウッ!!


炎が揺れる音と共に、炎の中からジェネリーが飛び出してくる。

その姿と動きは、致命傷を負っている者のそれではない。


「はあ!」


ジェネリーの横薙ぎの斬撃が鋭く飛ぶ。

だが、一歩後退していたレインは、偶然にもジェネリーの必殺の間合いからズレていたため、右腕にかすらせるだけで済んだ。


「ぐっ!」


 レインの腕の傷は結構な血が流れたが、皮を切っただけのかすり傷だった。

それよりも頭の混乱によるダメージの方が大きく、レインは思わず後方に大きく飛び、距離を作った。


「大丈夫ですか!?オーマ団長!?」


 レインが距離を作ると、ジェネリーはオーマを心配して駆け寄った。

レインに背を向ける形だが、レインも混乱して距離をとったため、追撃はない。


「ジェネリー、ありがとう。助かった。けど、どうして?」

「勘です。レインがオーマ団長と二人きりになりたいと言った時、嫌な予感がしたので後から追いかけたのです。そしたら倉庫に火の手が上がって・・・」


説明しながらジェネリーは、オーマからレインの魔法が付与された鎧を外す。


「そうか・・・そうだったのか・・・・」


オーマは大きく安堵の息を漏らした。

 幸運なことに、助けを呼んで一番来て欲しかった人物が来てくれた。

ジェネリーなら、あのレインにも対抗できる。

やはり、今回の作戦でジェネリーを連れてきて正解だったと、心底思うオーマだった。


「・・・・君がいてくれて本当に良かった。ジェネリー」

「は!?・・・は、はひ!!」


ジェネリーはオーマの心の底からの言葉に、顔を真っ赤に染めた。


「何なのだ・・・」


一方のレインは、改めて冷静にジェネリーを観察する。


「な、なんて魔力だ・・・あれで回復したのか?致命傷だったに?・・・コイツ」


自分と同等の才能を持つ人物_____。

それがレインの、ジェネリーに対する感想だった。


「お義父様の仰っていた通りだな・・・・」


“帝国にレインに匹敵する才能を持つ人物がいないとも限らないだろう?”


まさにプロトスの言う通り、帝国にはジェネリーという存在が居たのだ。


 レインの動きが止まる。

まだオーマを仕留めるチャンスなのだが、ジェネリーの戦力が未知数なため、追撃できない。

プロトスの警告通りなら、環境に差があるレインが不利かもしれないからだ。

 帝国の魔法技術の方が上で、魔導士の育成環境も向こうの方が上。

それはオーマから魔法を学んだレイン自身、実感している。

ならば、才能が互角だったとしても、魔法を扱う技術は向こうの方が上かもしれない。


(最悪、奥の手を使う覚悟もせねば・・・・)


 暴走____。かつては不意に起こしてしまった事故だが、それを故意に起こす。

暴走すれば、この港もどんな被害に遭うか分からない。


(だが、奴らはここで必ず仕留めなければならない)


自分と同等の才能を持つからこそ、ここで倒さねばならないとレインは考える。

 帝国の圧倒的な軍事力にジェネリーのような一騎当千の個が居ては、帝国はいよいよ手が付けられなくなる。誰も帝国を止められないだろう。

レインのこの戦いへのモチベーションは、ジェネリーが現れてから、“父親と自分を利用した怒り”では既になく、“帝国の大陸制覇を止める”ひいては、“全人類の未来のために戦う”というデターミネーションに変わっていたのだった_____。

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