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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第二章:閃光の勇者ろうらく作戦
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レインの告白(後半)

 レインに連れられるままオーマが来た所は、以前魔獣騒動があった船着き場から少し離れた物流倉庫だった。


「すいません、オルスさん。こんな色気のない場所で・・・でも、あそこから一番近い人気の無い場所といったら、ここしかなくて・・・」

「い、いやいやいや。気にしないで、あ、謝る必要なんて、な、無い・・・無い」


人生初の異性からの告白を前に、素人童貞のオーマは動揺しまくっていた。


「プッ・・オルスさん、そんな緊張しないでください」

「き、きき緊張なんて、し、してないさ・・・ほ、本当に・・・本当に・・・」

「本当ですかぁ?・・・じゃー・・・・えい♪」

「おぶっ!?」


レインは突然オーマの胸に飛び込んできて、オーマの頭の中はパニックになった。


「オルスさん・・・緊張してますか?」

「い、いや・・あの・・・べ、別に・・・・」

「私はしてます」

「え?・・・え?」

「聞こえませんか?私の鼓動・・・ドキドキしてます」

「あっ・・・・」


 言われて、自分ではなくレインに意識を集中する。

すると確かに、レインの当ててきた胸から、トクントクンと鼓動を感じる。

人前で堂々と告白したいと言うのだから、緊張などしていないと思い込んでいたが、冷静に考えてみれば、レインはデートでさえオーマと出かけたのが初めてだ。慣れているわけがない。

 オーマは、レインが自分と同じように緊張していたのだと知って、強がろうとしていたのが恥ずかしくなった。


 今まで、異性に抱きつかれたことはある。でもそれは、戦場などでだ。こんな色気のある場面ではない。

色気のある場面で抱きつかれたことは、商売(主にリデル)でしかない。

商売で磨かれた娼婦たちが漂わせる、股間を刺激する色気で抱いてしまうものとは違う高揚。

匂いも、香水とは違う健康的な汗の人の匂い。

そのレインの匂いと体のぬくもりは、性を意識させるものではあるが、それ以上に胸を熱くさせる。

そして、レインが人生初の異性の告白に緊張しながらも勇気をふり絞っていること、その相手が自分であるということに、オーマの心は陽だまりのように暖かな気持ちになった。

オーマはその気持ちに従って、レインをそっと抱きしめた。


「うれしいです・・・オルスさん」

「レイン・・・」

「告白。・・・聞いてくれますか?」

「ああ・・・・」

「私、オルスさんのこと好きです。本当です」

「レイン・・・その・・・上手く言えないけど・・嬉しいよ」


本当だった。今オーマは、軍人ではなく一人の男だった。


「好きです、オルスさん・・・だから・・・・だから!」

「レイン・・・」



_____だから殺すのは本当に心苦しいよ。オーマ・ロブレム



「なっ!?」


 レインから強力な魔力が溢れ、術式が展開される。

軍人ではなくなっていたオーマは完全に油断した。

オーマの魔法防御は間に合わず、レインの雷魔法の直撃を受けた____。


「ガァアッ!!」


 今まで受けたことのない凶悪な電撃。

如何に雷属性を扱えるオーマとて、魔法を使わず生身で食らえば一緒だ。

救いは、レインが本気じゃなかったこと。即死することはなく、意識も辛うじて繋ぎとめた。

もっとも、本気の魔法攻撃なら、タメが必要になるから、さすがに反応できただろう。

レインもそれが分かっているから、速攻ができる魔法を選んだのだろう。


「褒めてやるぞ、帝国のスパイ。良くここまでベルヘラと私の懐に潜り込んだな」


言いながら、レインは別の魔法術式を展開する。

不意打ちからの止めの一撃____。

オーマを殺すつもりなら当然の流れだ。


「ッ!!」


 体中に電気を流されて、オーマは動けない。

次のレインの攻撃を無防備な状態で食らうことになる。

これが雷属性を扱える魔導士の恐ろしさだ。

 レインの止めの一撃は、さっきの速攻とは違う桁外れの魔力。

オーマの魔力では防ぎきれない。

雷魔法の使い手によってもたらされる、必殺のタイミング。

 オーマは体が動かせない代わりに、魔法術式を展開する。


「?・・・なんだ、それは?」


攻撃態勢のレインは訝しげな表情を浮かべる。

 オーマの展開した術式と込められた魔力は、全く大したことないSTAGE1の錬成魔術。

速攻こそできるものの、レインの魔力と比べると、子供が一人で騎士団の突撃を受けるようなもの。

心許ないという表現すら生ぬるい。

 だが、いくら体を動かさなくても魔法は使えるといっても、体が麻痺した状態ではやはり魔力は練りづらい。今のオーマにはこれが精一杯だ。

でも同時に、これだけで十分だった____。


 オーマの行動の意図が分からないレインだったが、迷いは一瞬。構わず、渾身の一撃を放った____。


______バシィィイイイイイイン!!


 大きく何かが弾けたような電気音が鳴り響く。

その音が鳴った二人が居た場所には誰もおらず、両者ともそこから対極に数メートル離れたところに倒れていた。


「何だ!?」


ダメージは殆ど無いらしく、レインは即座にガバッと起き上がる。


「は、はは・・・」


オーマはそれに対して、ゆっくり起き上がる。だがそれは、最初の雷のダメージのせいであって、今の接触のダメージはレインと同じく殆ど無かった。

 レインは、そのダメージの無いオーマの様子より、オーマが展開した術式に注目し、自分の攻撃をオーマが防いだカラクリの答えを導き出した。


「・・・・静電気の極性を変えた?」


そう、オーマが使用した魔法は特殊STAGEの性質変化で、自身が錬成した静電気のプラスとマイナスを操作して、磁石のようにレインの雷との間に斥力を発生させて、レインの攻撃を弾いたのだった。


「魔法の知識も扱いも一枚上手か・・・やるな」

「ぐ・・ガァ・・ハァ・・・ハァ、そ、そんなことより・・レイン・・・これは・・さっき俺の名を・・・」

「オーマ・ロブレムか?貴様の本当の名だろう?」


やはり聞き間違いではなく、レインはオーマの正体を知っていた。

 オーマの頭の中で、“どうして?”、“どうする?”、“どうなる?”が渦巻いている。

先手を打たれて攻撃された困惑。正体がバレた動揺。ダメージの苦痛。勇者候補と対峙している戦慄。

オーマは完全にパニックになっていた_____だが


(じ、時間稼ぎ・・・説得・・・そうでなければ・・・)


長く戦場を渡り歩いた経験とそこで培った生存本能が、今、自分が何をすべきかを教えてくれる。


「ハァ・・ハァ・・どうして、俺の正体が分かった?」

「・・・帝国との親善試合があった日だ。私が試合に勝利した後、帝国兵士が私の噂をしていた。そこで聞いたのだ。私の魔法術式の癖が、オーマ・ロブレムという人物に似ていると」

「!?」

「私の術式の癖は、貴方をマネしてできた癖だ。一つでも多く貴方から学ぶためにな。つまり、オーマ・ロブレムの癖はオルスの癖でもある」

「・・・・・」


 レインは話ながら、魔力を込め始める。

オーマの意図に気付きながらもオーマの誘いに乗ったのは、自分もオーマに止めを刺す魔力を溜めたかったからだろう。

淡々とした口調で話ながら、桁の違う魔力を練り上げるレインの姿は、断頭台の準備をする死刑執行人のようで、オーマの心と体を憔悴させた。


 オーマはその死刑の執行を必死に拒む。


「それで、俺と決めつけたのか?だったら____」

「確認してきた」

「は?」


オーマの言わんとしていることを悟り、レインはそれを制す。

暗に、“貴様の言い訳は聞かない”と言っているのが、オーマに伝わった。


「行って来た、リジェース地方の旧バークランド領へ。お義父様を通して、入国許可を貰ってな」

「・・・・・魔獣騒動を名目にか?」

「そうだ」

「・・・・・・」


オーマの中で激しい驚愕の感情が生まれ、顔が歪めた表情のまま固まってしまう。


 このベルヘラからリジェース地方のバークランドに行くには、早馬でも十日以上かかる。

だがレインは国を出て数日で帰って来た。

たった数日で、ベルヘラからバークランドを往復したことになる。

 レインの雷魔法で光速移動したのは想像できる。

だが、あの距離を数日で光速移動しきる魔力量とはどれ程だろうか?

オーマの常識の範疇どころか、想像の範疇にすらない。

こんな数日で自分の正体を探るべく、リジェース地方まで行って来たなどと誰が想像できるだろう?

 改めてオーマはレインの素質に脅威を感じ、その脅威が自分に殺意を抱いていることに恐怖した。


「現地に着いたら直ぐに分かったぞ。北方では有名なのだな?雷鼠戦士団の団長、オーマ・ロブレムは」

「は、はは・・・どうも・・・」

「帝国では救国の英雄などと呼ばれているそうだが、このベルヘラに来たのが運の尽きだ」

「運が尽きたのは帝国軍人になった時だ・・・」

「は?」

「・・・・・」


絶望的な状況のためか、オーマは思わず本音で毒づいて目線を落としてしまう。


「・・・何を言いたいのか分からないが、諦めろ。私とお義父様に近づいて、利用しようとしたことを後悔して死ね!」

「違う!!」

「!?」


目線を落としたまま、オーマはヒステリックに叫んだ。


「違う!・・・俺がプロトス卿に近づいたのは、帝国のためじゃない。利用するためでもない。帝国と戦うため、プロトス卿の協力が欲しかったからだ!」

「・・・帝国と戦うため?」

「そうだ・・・・俺はもうすぐ帝国の貴族たちに殺される。それが嫌で・・・だから反乱を起こすためにプロトス卿と通じたかったんだ・・・ウソじゃない!」

「・・・・・」

「君に近づいたのも、帝国との戦いに協力して欲しかったからだ。君に言った言葉も、抱いた感情も、全部が嘘というわけじゃない!」


この追い詰められた状況では、作戦もクソも無かった。

オーマは開き直るように全てを白状して、レインに気持ちをぶつけた。


「・・・言いたいことは、それだけか?」

「!」

「くだらん。懺悔でもするのかと思えば、見苦しく言い訳するとは・・・分かった、分かった。帝国に殺されるのが嫌なのだな。なら、今ここで私が殺してやる」


レインの無情の宣告。オーマに説得のチャンスは無い。プロトスが居なければ、やはり無理だろう。

オーマも薄々気付いていたことだったが、試さずにはいられなかった。


(当たり前だろ・・・・)


そう、当たり前だ。この状況なら説得を試すのが当たり前。


(だって・・・・)


そう、“だって”だ。だってそれ以外に無い。


“だって、閃光の勇者レイン・ライフィードにオーマ・ロブレムが勝てるわけがないのだから、説得を試すのは当たり前だ”


苦悶の表情で地面を見ていたオーマが顔を上げると、閃光の勇者レイン・ライフィードが圧倒的な魔力と存在感で、そびえ立っていた_____。

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