レインの告白(前半)
オーマとプロトスの同盟が成立した次の日______。
プロトスとの同盟が成立し、後はレインが帰って来たら、プロトスと一緒に事情を話して仲間に加えるだけ。
この作戦は、ほぼ成功したといっていい。
そのためサンダーラッツ一同は、レインが返って来るまでの間、ベルヘラの街を観光して待つことにした。
作戦成功の解放感から、サンダーラッツのメンバーの表情は、この街に来てから一番明るい表情だった。
「美味い!捕れたての海老だからプリプリだ!食べてみろよ、ジデル!」
「こっちの貝も美味しいですよ、フラップ!ソースが甘辛くて!何ていうソースでしょう?」
市場の屋台で売っている魚介類の串焼きを頬張り、舌と胃を満たす。
何の気兼ねも無く楽しめるため、前以上に料理は美味しく、景色も美しく見え、風が気持ち良く感じる。
「はぁ~、最高ねー。これでお酒があれば文句無しなんだけどなー」
「それは作戦が完全に成功したらって言ったろ?レインがいつ戻るか分からないんだ。それまで我慢」
「ちぇ、ちょっとくらい良いじゃない」
「副長は飲み始めたら、ちょっとじゃ済みませんよね?」
「ブー!」
祝うとなったら飲まずにはいられないヴァリネスを、オーマとクシナがなだめる。が、ヴァリネスにはあまり効果が無い。
「いいじゃないですか副長、たまには。皆でテーブルを囲んでお酒で祝うのも良いですけど、こんな風に来た土地を気ままに観光するのも楽しいです!」
「それもそうねー♪ジデルくん♪」
ロジの効果は抜群だった____。
「ねぇ?じゃーあっちのお店に行ってみない?アクセサリーとか小物が売っている方!」
「あ、良いですね!ちょうど、良いアクセサリーがあればプレゼントしようと思っていたんです!」
「プレゼント!?そ、それって・・・わ、私にとか?」
「はい」
「えーーーー!?本当!?」
ヴァリネスは嬉しさで瞳を輝かせ、歓喜した。
「日ごろお世話になっている皆さんと孤児院の方々に。それと子供たちには玩具を・・・」
「えー・・・・・本当?」
ヴァリネスは虚しさで瞳を濁らせ、嘆息した。
「ジデル。私も行く。お腹パンパン」
「はい!ではフェイも一緒に行きましょう!」
ヴァリネスのテンションはあっという間に谷底に落ちたが、ロジからの誘いを断るわけもなく、フラフラとロジとウェイフィーに付いて行く。
「上がったり下がったり忙しい奴だなー。あいつは」
「観光のテンションじゃ無くなってましたね・・・」
「あの~・・・観光のテンションじゃない人がもう一人います~」
ユイラが小さく挙手をして、控えめに皆にそう告げる。
皆がユイラの方を振り返ると、ユイラの隣には表情を失くしたジェネリーが突っ立っていた。
「ジェ・・ミスティ・・・まだ落ち込んでいるのか」
「表情死に過ぎだろ~。ラシラちゃん。いつからよ?」
「数日前には少し持ち直したのですけど、今朝からまた・・・・」
「今朝?もう作戦は殆ど終わったんだぞ?」
「もう終わったからです。ワムガ隊長」
「何?」
ユイラの発言の意味を知ろうとオーマとフランとイワナミ、クシナの四人はジェネリーのそばで耳を澄ます。
「終わった・・・任務完了・・・私、何もしていない。役立たず・・・要らない子。騎士になれない子・・・」
「な、何の役にも立てなかったから落ち込んでいるのですね・・・・」
「仕方ないだろ。ミスティにとっては初任務だし。しかもこんな特殊任務」
「正規兵というより、諜報員向けの内容だからな」
「そうだぜ?ミスティちゃん」
ば~~~~~~~~~~
「「うお!?」」
ジェネリーが溜息と共に吐いた黒いモノに全員が恐怖で身をよじった。
「何!?ジェ、いや、ミスティちゃん!?何!?今の黒いオーラ!?」
「落ち込み過ぎて、負のオーラが漂っている」
「ま、魔王が誕生するぞ・・・」
「情緒が不安定過ぎるだろ・・・」
「ど、どうしましょう?団長~~」
ユイラに懇願されて、オーマは考える。
だが、こんな風に落ち込んでいる女性を慰めた経験などオーマには無い。
_____そこで
「よし!特訓だ!ミスティ!」
女性として扱うのではなく、軍人として扱い、体育会系でいってみた___。
「は?」
「団長・・・それはさすがに・・・」
「どうしたんですか?」
「特訓ってよー・・・」
「と・・・・くん・・・と・・くん・・・とっくん・・特訓!?」
オーマの体育会系のノリに他のメンバーは、“落ち込んでいる女性にそれはどうよ?”という態度だったが、当の本人には生気が戻った。
「オルス団長!特訓とは!?」
「うむ!二度とこのような事が無いように、今から情報収集の特訓を始める!いいな!」
「はい!もちろんです!よろしくお願いします!!」
____ジェネリーに火が点いた。
「うお!熱い!!ミスティちゃん!熱いよ!!」
「も・・・燃えている・・・」
「体育会系ですねー」
「だが・・まあ、いいんじゃないか?・・・・多分」
全員が、 “暑苦しいノリだ!”という様子だったが、ジェネリーのやる気が出ている以上、オーマはこのノリを貫くと決めた。
「先ずは情報収集の基本!聞き込みだ!街の人と気軽に会話できるようになってもらう!ついてこい!!」
「はい!気軽に会話します!!」
二人はズンズンと足を踏み鳴らし、傍観しているメンバーを置いて、歩いて行った。
「いや、そのノリがもう気軽じゃねーって・・・・」
「き、きついですね・・・」
「観光中だぞ・・・」
「ま、まあ。いいじゃないですか。出だしはともかく、あの調子なら元のミスティさんに戻るかもしれません」
隊長達がドン引きしている中、ユイラだけが乾いた笑いをしながら、オーマ達をフォローした。
「本気で言ってますか?ラシラ?」
「ほ、本気ですとも!わ、私は応援します!」
「そうか・・・では、ラシラ。頼んだぞ」
「へ?」
「へ?ではない。あの二人に付いて行くんだ」
「ヴェッ!?な、なんで、ですか!?」
「なんで、って・・・万が一、連絡が必要になったときのために、セリナかラシラちゃんが居なきゃだろ?」
「私はあのノリ、付いて行けません」
「なっ!?」
ユイラは、この世の終わりのような表情で固まってしまった。
「そうゆうことだ。よろしく頼む」
「私達は副長達と合流しますから」
「頑張って、あの二人を応援してあげてくれ。そいじゃ!」
三人はそう告げて、ユイラを残し、ヴァリネス達の行った小物市の方へ歩き去っていってしまった。
「・・・・・ウソでしょ」
ポツンと一人でポツリと呟くユイラだった____。
「____それで~お酒を飲もうとして、親に見つかったんです!そしたらその子、カエルの鳴きまねで、親をごまかそうとしたんですよー、ゲコ(下戸)って!プププッププーーー!」
「あーーーはっはっはっはーーそれは愉快愉快!カエルの鳴き声のゲコと、お酒が飲めない人の下戸を掛けているのだね~?面白いねー!」
「ハ、ハハハ・・・そうっスね・・・・・」
「・・・・・・・・」
オーマとジェネリーは快活に笑っている・・・その話を聞いていた屋台の店員は引きつっている・・・・ユイラは白く凍死しかけている。
ジェネリーのクソしょうもない話しを聞いて後、ハイテンションでどこがおもしろかったかを説明して笑うオーマを見れば、そうもなるだろう・・・・店員さんは初対面だし。
特訓が始まって、何処に行ってもこの調子の二人に、ユイラはとっくに恥ずかしさの限界を超えて、一人だけモノクロの世界にいる。
「では店主!私はこれで失礼する!」
「ハ、ハハ・・・どうもー」
乾いた笑顔の店員さんに見送られ、オーマとジェネリーは次の相手(犠牲者)を探す。
心底うんざりしているユイラは、もう何度目かの進言を試みた。
「あ、あの・・・そろそろ特訓を切り上げて、皆さんと合流しませんか?」
「何を言うんだラシラ!むしろ特訓はこれからじゃないか!」
ユイラはオーマをジト目で睨む。
ジェネリーを元気づけるつもりで始めたことを忘れて、ノリにノッているオーマに恨めしい気持ちが湧いてくる。
「そうです!私もようやく調子が出てきたところ。もう少しでコツが掴めそうなのです!」
あんなクソしょうもない話しと、鬱陶しいテンションで掴めるコツとは何だろう?
相手を挑発するコツ?惑わすコツ?恐怖させるコツだろうか?いや、角度を変えて周囲に自分達の存在をアピールするコツだろうか?
いずれにしろ、潜入任務で情報を集めるためのモノではないだろうと、ユイラは呆れた。
「はぁ・・・・」
ユイラは深いため息をついて、ズンズンと先に行く二人の後に続く。
そんな調子で市場を歩いていると、ユイラは通行人から見覚えのある人物を見つけた。
次の相手(犠牲者)探しで二人は店に意識を向けていたためか、ユイラはその人物と面識が無いのに最初に気付いた。
「団長!前の人!」
「ん?」
「ほら!あれ!確かレインさんじゃ・・・」
「何ぃ!?」
レインの名を聞いてオーマは直ぐに意識が切り替わる。
前を見ると、確かにレインがこちらに向かって歩いて来ていた。
「本当だ!おーい!レイン!」
「・・・・オルスさん。こちらに居たのですね」
「こんにちはレイン」
「こんにちはミスティ」
「あのー・・・」
「ああ、そうだ。レイン、彼女は初めましてだったな。彼女の名はラシラ。ウチの傭兵団の一員だ」
「初めまして、ラシラです」
「初めまして・・・」
「?」
以前とテンションの違うレインに、ジェネリーは少し違和感を覚えた。
「・・・何かあったのですか?レイン?いつもと様子が違いますけど」
「大丈夫です。少し遠出をしていたので、疲れているだけです」
「・・・そうですか」
「それにしても、もう戻っていたんだな。会いたかったよ、レイン」
「ありがとうございます。私もオーマさんを探してました」
「そうなのか?よく、ここだと分かったな?」
「噂になっていました。鬱陶しいテンションの傭兵らしき格好をした男女が市場に居ると。特徴を聞いたらオルスさんだと分かりました」
「そうか。わざわざ探してくれたんだな。それはあれか?例の件で話があってか?」
「例の件?」
「プロトス卿から魔獣の件で国外に出ていると聞いた。その件で来たんじゃないのか?」
「ああ・・・いえ、魔獣の件は何もつかめませんでした。一番信憑性のある情報だったのですが、確認しに行ったらガセネタでした。オルスさんに会いに来たのは、その件じゃありません」
「そうか?じゃあ、何だい?」
「オルスさんとお話ししたいことがあるのです。二人きりで」
「「!!??」」
“二人きり”という意外な言葉に、三人は驚いて口がタコになった。
「ちょ・・・」
「わー・・・」
「レ、レイン・・・それは・・・」
「はい。男女の事です。私の告白を聞いてもらいたいのです」
「「!!!???」」
“男女”と“告白”という意外な言葉に、三人は再び口をタコにした。
「ですので、申し訳ありませんがミスティとラシラさんはご遠慮願います。よろしいですか?」
「は、はひ!」
「わ、分かりました・・・・」
「ありがとうございます。では、オルスさん、行きましょう」
「えっ?えっ?えっ?」
オーマは状況がつかめないまま手を引かれ、そのままズンズンと進むレインと共に人ごみに消えて行った。
ユイラとジェネリーはその様子を呆気に取られて、見送った後も少しの間呆然としていた。
「はぁ~~、ビックリしました。皆さんから気さくでわりと積極的な方とは聞いていましたけど、あんな大胆に告白だなんて・・・」
「・・・・・」
「ねぇ、ミスティ」
「・・・・・」
「・・・ミスティ?どうしました?」
「え?ああ、はい・・・いや、なんか前に会った時と、雰囲気が違って・・・いや、雰囲気じゃなくて気配か?」
「告白をするのですから気持ちが入っている、ということではないですか?」
「気持ち・・・確かに・・・・でも・・・」
「でも・・・なんです?」
「入っている気持ちは好意ではなく、殺意だったような・・・」
「はぁ?何でですか?」
「いえ、分かりません・・・なんとなく、そう思いました・・・」
「不吉なこと言わないでくださいよ、もう!今回の作戦も、後もう少しで完遂なんですから。あ、私、セリナさんと連絡取ってきます!」
そう言って、ユイラは通信魔法を使うため、路地裏に入って、人ごみから離れていった。
ジェネリーはそのユイラの姿を目で追うことはなく、いつまでもオーマが連れていかれた方を見つめていた。
「・・・・・まさかね」
ジェネリーの中で、レインの態度に感じた違和感は消えることはなかった____。




