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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第二章:閃光の勇者ろうらく作戦
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レインの告白(前半)

 オーマとプロトスの同盟が成立した次の日______。

 プロトスとの同盟が成立し、後はレインが帰って来たら、プロトスと一緒に事情を話して仲間に加えるだけ。

この作戦は、ほぼ成功したといっていい。

そのためサンダーラッツ一同は、レインが返って来るまでの間、ベルヘラの街を観光して待つことにした。

 作戦成功の解放感から、サンダーラッツのメンバーの表情は、この街に来てから一番明るい表情だった。


「美味い!捕れたての海老だからプリプリだ!食べてみろよ、ジデル!」

「こっちの貝も美味しいですよ、フラップ!ソースが甘辛くて!何ていうソースでしょう?」


 市場の屋台で売っている魚介類の串焼きを頬張り、舌と胃を満たす。

何の気兼ねも無く楽しめるため、前以上に料理は美味しく、景色も美しく見え、風が気持ち良く感じる。


「はぁ~、最高ねー。これでお酒があれば文句無しなんだけどなー」

「それは作戦が完全に成功したらって言ったろ?レインがいつ戻るか分からないんだ。それまで我慢」

「ちぇ、ちょっとくらい良いじゃない」

「副長は飲み始めたら、ちょっとじゃ済みませんよね?」

「ブー!」


祝うとなったら飲まずにはいられないヴァリネスを、オーマとクシナがなだめる。が、ヴァリネスにはあまり効果が無い。


「いいじゃないですか副長、たまには。皆でテーブルを囲んでお酒で祝うのも良いですけど、こんな風に来た土地を気ままに観光するのも楽しいです!」

「それもそうねー♪ジデルくん♪」


ロジの効果は抜群だった____。


「ねぇ?じゃーあっちのお店に行ってみない?アクセサリーとか小物が売っている方!」

「あ、良いですね!ちょうど、良いアクセサリーがあればプレゼントしようと思っていたんです!」

「プレゼント!?そ、それって・・・わ、私にとか?」

「はい」

「えーーーー!?本当!?」


ヴァリネスは嬉しさで瞳を輝かせ、歓喜した。


「日ごろお世話になっている皆さんと孤児院の方々に。それと子供たちには玩具を・・・」

「えー・・・・・本当?」


ヴァリネスは虚しさで瞳を濁らせ、嘆息した。


「ジデル。私も行く。お腹パンパン」

「はい!ではフェイも一緒に行きましょう!」


ヴァリネスのテンションはあっという間に谷底に落ちたが、ロジからの誘いを断るわけもなく、フラフラとロジとウェイフィーに付いて行く。


「上がったり下がったり忙しい奴だなー。あいつは」

「観光のテンションじゃ無くなってましたね・・・」

「あの~・・・観光のテンションじゃない人がもう一人います~」


ユイラが小さく挙手をして、控えめに皆にそう告げる。

 皆がユイラの方を振り返ると、ユイラの隣には表情を失くしたジェネリーが突っ立っていた。


「ジェ・・ミスティ・・・まだ落ち込んでいるのか」

「表情死に過ぎだろ~。ラシラちゃん。いつからよ?」

「数日前には少し持ち直したのですけど、今朝からまた・・・・」

「今朝?もう作戦は殆ど終わったんだぞ?」

「もう終わったからです。ワムガ隊長」

「何?」


ユイラの発言の意味を知ろうとオーマとフランとイワナミ、クシナの四人はジェネリーのそばで耳を澄ます。


「終わった・・・任務完了・・・私、何もしていない。役立たず・・・要らない子。騎士になれない子・・・」

「な、何の役にも立てなかったから落ち込んでいるのですね・・・・」

「仕方ないだろ。ミスティにとっては初任務だし。しかもこんな特殊任務」

「正規兵というより、諜報員向けの内容だからな」

「そうだぜ?ミスティちゃん」


ば~~~~~~~~~~


「「うお!?」」


ジェネリーが溜息と共に吐いた黒いモノに全員が恐怖で身をよじった。


「何!?ジェ、いや、ミスティちゃん!?何!?今の黒いオーラ!?」

「落ち込み過ぎて、負のオーラが漂っている」

「ま、魔王が誕生するぞ・・・」

「情緒が不安定過ぎるだろ・・・」

「ど、どうしましょう?団長~~」


 ユイラに懇願されて、オーマは考える。

だが、こんな風に落ち込んでいる女性を慰めた経験などオーマには無い。

_____そこで


「よし!特訓だ!ミスティ!」


女性として扱うのではなく、軍人として扱い、体育会系でいってみた___。


「は?」

「団長・・・それはさすがに・・・」

「どうしたんですか?」

「特訓ってよー・・・」

「と・・・・くん・・・と・・くん・・・とっくん・・特訓!?」


オーマの体育会系のノリに他のメンバーは、“落ち込んでいる女性にそれはどうよ?”という態度だったが、当の本人には生気が戻った。


「オルス団長!特訓とは!?」

「うむ!二度とこのような事が無いように、今から情報収集の特訓を始める!いいな!」

「はい!もちろんです!よろしくお願いします!!」


____ジェネリーに火が点いた。


「うお!熱い!!ミスティちゃん!熱いよ!!」

「も・・・燃えている・・・」

「体育会系ですねー」

「だが・・まあ、いいんじゃないか?・・・・多分」


全員が、 “暑苦しいノリだ!”という様子だったが、ジェネリーのやる気が出ている以上、オーマはこのノリを貫くと決めた。


「先ずは情報収集の基本!聞き込みだ!街の人と気軽に会話できるようになってもらう!ついてこい!!」

「はい!気軽に会話します!!」


二人はズンズンと足を踏み鳴らし、傍観しているメンバーを置いて、歩いて行った。


「いや、そのノリがもう気軽じゃねーって・・・・」

「き、きついですね・・・」

「観光中だぞ・・・」

「ま、まあ。いいじゃないですか。出だしはともかく、あの調子なら元のミスティさんに戻るかもしれません」


隊長達がドン引きしている中、ユイラだけが乾いた笑いをしながら、オーマ達をフォローした。


「本気で言ってますか?ラシラ?」

「ほ、本気ですとも!わ、私は応援します!」

「そうか・・・では、ラシラ。頼んだぞ」

「へ?」

「へ?ではない。あの二人に付いて行くんだ」

「ヴェッ!?な、なんで、ですか!?」

「なんで、って・・・万が一、連絡が必要になったときのために、セリナかラシラちゃんが居なきゃだろ?」

「私はあのノリ、付いて行けません」

「なっ!?」


ユイラは、この世の終わりのような表情で固まってしまった。


「そうゆうことだ。よろしく頼む」

「私達は副長達と合流しますから」

「頑張って、あの二人を応援してあげてくれ。そいじゃ!」


三人はそう告げて、ユイラを残し、ヴァリネス達の行った小物市の方へ歩き去っていってしまった。


「・・・・・ウソでしょ」


ポツンと一人でポツリと呟くユイラだった____。






 「____それで~お酒を飲もうとして、親に見つかったんです!そしたらその子、カエルの鳴きまねで、親をごまかそうとしたんですよー、ゲコ(下戸)って!プププッププーーー!」

「あーーーはっはっはっはーーそれは愉快愉快!カエルの鳴き声のゲコと、お酒が飲めない人の下戸を掛けているのだね~?面白いねー!」

「ハ、ハハハ・・・そうっスね・・・・・」

「・・・・・・・・」


 オーマとジェネリーは快活に笑っている・・・その話を聞いていた屋台の店員は引きつっている・・・・ユイラは白く凍死しかけている。

ジェネリーのクソしょうもない話しを聞いて後、ハイテンションでどこがおもしろかったかを説明して笑うオーマを見れば、そうもなるだろう・・・・店員さんは初対面だし。

特訓が始まって、何処に行ってもこの調子の二人に、ユイラはとっくに恥ずかしさの限界を超えて、一人だけモノクロの世界にいる。


「では店主!私はこれで失礼する!」

「ハ、ハハ・・・どうもー」


乾いた笑顔の店員さんに見送られ、オーマとジェネリーは次の相手(犠牲者)を探す。

 心底うんざりしているユイラは、もう何度目かの進言を試みた。


「あ、あの・・・そろそろ特訓を切り上げて、皆さんと合流しませんか?」

「何を言うんだラシラ!むしろ特訓はこれからじゃないか!」


 ユイラはオーマをジト目で睨む。

ジェネリーを元気づけるつもりで始めたことを忘れて、ノリにノッているオーマに恨めしい気持ちが湧いてくる。


「そうです!私もようやく調子が出てきたところ。もう少しでコツが掴めそうなのです!」


 あんなクソしょうもない話しと、鬱陶しいテンションで掴めるコツとは何だろう?

相手を挑発するコツ?惑わすコツ?恐怖させるコツだろうか?いや、角度を変えて周囲に自分達の存在をアピールするコツだろうか?

いずれにしろ、潜入任務で情報を集めるためのモノではないだろうと、ユイラは呆れた。


「はぁ・・・・」


ユイラは深いため息をついて、ズンズンと先に行く二人の後に続く。

 そんな調子で市場を歩いていると、ユイラは通行人から見覚えのある人物を見つけた。

次の相手(犠牲者)探しで二人は店に意識を向けていたためか、ユイラはその人物と面識が無いのに最初に気付いた。


「団長!前の人!」

「ん?」

「ほら!あれ!確かレインさんじゃ・・・」

「何ぃ!?」


 レインの名を聞いてオーマは直ぐに意識が切り替わる。

前を見ると、確かにレインがこちらに向かって歩いて来ていた。


「本当だ!おーい!レイン!」

「・・・・オルスさん。こちらに居たのですね」

「こんにちはレイン」

「こんにちはミスティ」

「あのー・・・」

「ああ、そうだ。レイン、彼女は初めましてだったな。彼女の名はラシラ。ウチの傭兵団の一員だ」

「初めまして、ラシラです」

「初めまして・・・」

「?」


以前とテンションの違うレインに、ジェネリーは少し違和感を覚えた。


「・・・何かあったのですか?レイン?いつもと様子が違いますけど」

「大丈夫です。少し遠出をしていたので、疲れているだけです」

「・・・そうですか」

「それにしても、もう戻っていたんだな。会いたかったよ、レイン」

「ありがとうございます。私もオーマさんを探してました」

「そうなのか?よく、ここだと分かったな?」

「噂になっていました。鬱陶しいテンションの傭兵らしき格好をした男女が市場に居ると。特徴を聞いたらオルスさんだと分かりました」

「そうか。わざわざ探してくれたんだな。それはあれか?例の件で話があってか?」

「例の件?」

「プロトス卿から魔獣の件で国外に出ていると聞いた。その件で来たんじゃないのか?」

「ああ・・・いえ、魔獣の件は何もつかめませんでした。一番信憑性のある情報だったのですが、確認しに行ったらガセネタでした。オルスさんに会いに来たのは、その件じゃありません」

「そうか?じゃあ、何だい?」

「オルスさんとお話ししたいことがあるのです。二人きりで」


「「!!??」」


“二人きり”という意外な言葉に、三人は驚いて口がタコになった。


「ちょ・・・」

「わー・・・」

「レ、レイン・・・それは・・・」

「はい。男女の事です。私の告白を聞いてもらいたいのです」


「「!!!???」」


“男女”と“告白”という意外な言葉に、三人は再び口をタコにした。


「ですので、申し訳ありませんがミスティとラシラさんはご遠慮願います。よろしいですか?」

「は、はひ!」

「わ、分かりました・・・・」

「ありがとうございます。では、オルスさん、行きましょう」

「えっ?えっ?えっ?」


 オーマは状況がつかめないまま手を引かれ、そのままズンズンと進むレインと共に人ごみに消えて行った。

 ユイラとジェネリーはその様子を呆気に取られて、見送った後も少しの間呆然としていた。


「はぁ~~、ビックリしました。皆さんから気さくでわりと積極的な方とは聞いていましたけど、あんな大胆に告白だなんて・・・」

「・・・・・」

「ねぇ、ミスティ」

「・・・・・」

「・・・ミスティ?どうしました?」

「え?ああ、はい・・・いや、なんか前に会った時と、雰囲気が違って・・・いや、雰囲気じゃなくて気配か?」

「告白をするのですから気持ちが入っている、ということではないですか?」

「気持ち・・・確かに・・・・でも・・・」

「でも・・・なんです?」

「入っている気持ちは好意ではなく、殺意だったような・・・」

「はぁ?何でですか?」

「いえ、分かりません・・・なんとなく、そう思いました・・・」

「不吉なこと言わないでくださいよ、もう!今回の作戦も、後もう少しで完遂なんですから。あ、私、セリナさんと連絡取ってきます!」


そう言って、ユイラは通信魔法を使うため、路地裏に入って、人ごみから離れていった。

ジェネリーはそのユイラの姿を目で追うことはなく、いつまでもオーマが連れていかれた方を見つめていた。


「・・・・・まさかね」


ジェネリーの中で、レインの態度に感じた違和感は消えることはなかった____。

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