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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第二章:閃光の勇者ろうらく作戦
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スパイ疑惑

 親善試合が終わって、その日の夕方_____。


 夜には野営地でレクリエーションが開かれ、兵士同士の交流が行われる。

その最後の打ち合わせをするために、レインはプロトスの使いでマサノリに会うべく、帝国の野営地に来ていた。

 レインが頼まれた理由は、先の親善試合の勝者だからで、勝利した者が訪れた方が面子が立つ、という単純な理由だった。

プロトスから頼まれては断れるわけもなく、レインは試合の疲れが残っていたがこれを引き受けた。


 レインは勝った喜びと強くなった実感を抱きながら、帝国の野営地を歩いていた。


「これもオルスさんのおかげだ・・・あの人の教えが無ければ、敗北か途中で暴走して惨事になっていた。今度またお礼をしなくては・・・何がいいかな?また街を案内しようか?まだ一緒に見たい景色や場所もあるし、ご馳走したい料理もある・・・・いや?これだと私へのご褒美か?・・・フフッ♪・・・おっと」


 レインはニヤけ顔をグッと堪える。今、自分がいる場所は帝国の野営地。だらしない顔など見せられない。

 周囲をよく見れば、帝国兵士達がチラチラとレインを見て噂しているのが分かった。

上手くは聞き取れないが、断片的に聞こえる内容から、先の試合の事だと分かる。

敵意より、むしろ尊敬や感心、称賛の声だった。

 レインは改めて気を引き締めて歩く。

帝国兵士達の噂で、心の中で得意な気分になったが、それを表には出すまいと努めて無視して先を急ぐ。

ざわざわと噂する声を無視して歩いていたが、途中で入って来た声は雑音として聞き流せず、耳に入ってきた。


「____申し訳ない」


・・・・・聞き覚えのある声。試合で戦ったジノスの声だった。


「そう落ち込むな、ジノス。相手が悪かったのだ」

「だが、彼女がSTAGE8だと判断していながら、それ以下のSTAGEの技を使う事を考慮していなかった。注意していれば、手甲に術式が埋め込まれた事にも気付けたはず・・・勝機はあったのだ・・・それを逃したと思うと、悔しくてな・・・」


どうやら医療天幕で傷を治療しながら、他の兵士と試合について話しているようだった。

 レインはジノスの試合の感想が知りたくて、行儀が悪いと思いつつも、天幕と天幕の間に身を隠し、ジノスの話しに聞き耳を立てた。


「まあ、勝機を逃したのは悔しいかもしれないが、俺達に詫びる事はあるまい?」

「だが、大将に選んでもらいながら、帝国の面子をつぶしたのだぞ?」

「マサノリ様は何も仰らなかった。それが答えだ。恐らく、STAGE8を彼女が見せた時点で、この場の兵士で彼女に勝てる者は居ないと判断されたのだろう。それは事実だ。俺なら彼女が本気を出した時の最初の一撃で敗れていた・・・・お前、よくあれが防げたな?」

「・・・・彼女の術式展開の仕方がオーマと同じだったのだ・・・それで咄嗟にオーマの術の発動タイミングで防御したら助かっただけだ・・・・」


(オーマ・ロブレム・・・)


話を聞いていたレインは、試合の時にジノスが口にした人物の名前を思い出した。


「術式展開の癖が同じという事か?偶然じゃないか?」


ジノスと話している兵士と同じ疑問をレインも抱いた。


「防げたのは偶然かもしれん。だが、彼女の術式とオーマの術式展開の癖が似ているのは事実だ」

「そんな事あるか?基本しか知らない訓練兵じゃあるまいし。帝国の魔法技術とはいえ、まだ成熟していない。大抵の帝国軍人はそのことに気付いて、自分に合った魔法術式を体で覚えていく。つまりは術式展開の仕方は十人十色、同じになるなど有り得ない。思い違いだろ?」

「いや、思い違いではない。オーマは雷属性の使い手としてなら、帝国一といってもいい。だから私は彼を超えるために努力してきた。彼の戦い方だって研究してきた。バークランド帝国との戦争で援軍に行った時には、雷鼠戦士団の天幕に行って、彼と手合わせしたことだってある・・・貴族相手の余興と思われて手を抜かれたが・・・だが何年も彼を研究してきたのは事実。誓って思い違いはない」

「ふむ・・・・・」


 二人の会話が途絶えたところで、レインの意識も自分の所に戻ってくる。

そして、ジノスの言ったことについて考える・・・・・出た感想は、“まさか・・・”だった。

 まったくお互いを知りもしない、まったく別の環境で魔術を学んだ人間の癖が同じ_____。

ジノスと一緒に居た帝国兵士の言うように、偶然にしても有り得ないことだとレインも思う。

 だがレインの中で、二つの引っ掛かることが、“まさか・・・”と思わせる。

 一つが“オーマ・ロブレム”という人物。

知らない名だが、問題は名前ではなく、その人物がリジェース地方で戦っていた雷属性の魔導士ということ。

これと同じ人物をレインは知っている。オルスだ。

 そしてもう一つは、自分の癖はオルスの癖でもあるということだ。

オルスを講師に迎えてから、レインはずっとオルスを見て鍛練に励んできた。

オルスに教わるだけでなく、自分からも積極的に魔法の技を磨こうと、オルスがお手本で見せてくれた魔法は毎晩その術式の癖から何までマネて練習していた。

短い期間の間に、自身の癖を矯正してでも、オルスの魔法の技をマネて学修していたのだ。

 つまりまとめると、レインの術式の癖はオルスの術式の癖であり、オーマ・ロブレムの術式の癖がレインと同じならオルスの癖と同じということで、オーマ・ロブレムという人物はオルスと癖まで同じリジェース地方の雷属性魔導士ということになる_____。


 ならば当然、一つの疑惑が浮上する。


(まさか・・・同一人物?)


自分の中に生まれた“まさか・・・”の疑惑に、レインは胸に手を当て、締め付けられるような不安な気持ちを押さえつけるのだった____。






 親善試合のあった軍事交流から二日経って、使節団との交流最終日。

 最終日の内容は、午後からの両国での会議だけだ。

これまでの交流を基に、国王会談に向けての最終調整を行うというもの。

午前は自国の者同士での事前協議を行うため、帝国使節団との交流はない。

 センテージ側はほぼ事前協議を終えているため、時間に少し余裕があるプロトスはレインと朝食を共にすることができた。


 数日ぶりの親子の団欒。

マサノリとの駆け引きで参っていたプロトスは、少しは元気になりたくて、明るい話題を出そうと努めていた。

だが、その話はレインに早々に切り上げられてしまい、真剣な表情でレインの提案を聞かなければならなかった。


「リジェース地方に行きたい?」

「はい。帝国の旧バークランド領です。何とか帝国領に入る許可を貰えるよう、マサノリ様に掛け合っていただけませんか?」

「旧バークランド領?・・・何故?」

「はい。例の魔獣騒動の件で確認したいことが有ります」

「む・・・・・」


 明るい家族団欒をしようと思っていたが、内容が内容なだけにプロトスは諦めるしかなく、父親ではなく領主の顔を見せた。


「可能だろう。魔獣の件でということなら、帝国側も断れば自分達が魔獣と係わりがあると疑われるからな。それに、一応両国は現在友好的な交流中だ」

「是非、お願いできないでしょうか?」

「・・・例の魔獣はやはり帝国と繋がりが有るのか?」

「分かりません」

「・・・ふむ。立場が立場なだけに、確たる証拠がなければ表沙汰にはできんぞ?」

「分かっております。ただの確認です。万が一、また魔獣が現れては困りますでしょう?証拠がでなければ諦めます」

「確かに・・・正直に言えば、その情報が間違いであってほしいところだ・・・表沙汰にしなくて済む」

「・・・・・私も人違いであってほしいです」


レインは冷たいトーンで小さく本音を漏らした。


「は?」

「いえ、何でもありません。場合によっては両国が揉める事の無いように隠蔽します」

「分かった。そういうことなら許可をもらってこよう」

「ありがとうございます」

「一人分で良いのか?供は?」

「私一人で行きます。時間が掛かりますから、お供は要りません。私一人なら数日で帰ってこられます」

「そうか。親善試合の時にも感じたが、ずいぶんと魔法の制御が上手くなったな。これはオルスに感謝だな」

「・・・・・」

「・・・レイン?」

「あ?・・はい。そうですね。オルスさんのご指導のおかげで、先の試合にも勝てました」

「そうか。なら今度、改めて礼をしなくてはな」

「・・・・・はい」


 魔獣の件の話も終わり。話題を明るいものに戻し、プロトスは気分を盛り上げようと饒舌になる。

レインもそれに合せて、明るく振る舞う・・・心の中で暗い疑惑を抱えながら・・・。


(・・・・本当に、人違いであったほしいものだ・・・)




 レインの帝国への入国許可は、プロトスの言う通り、午前中にすんなり下りた。

 そしてレインはその日の午後の内に、一人で旅立つのだった____。






 帝国使節団との親善会合が終わって二日後_____。

 オーマはプロトスに呼ばれ、以前来たプロトス邸の裏に庭に来ていた。


「遅くなってすまないな。会合の残務処理に追われて、なかなか時間が作れなくてな」

「とんでもございません。むしろ早い方だと思いました」

「ハハ・・・そうか。正直に言うと、まだ仕事の全部は片付いていない。レインが少し遠出しているのでな・・・」

「そういえば、ここ数日会っておりませんが、親善会合に関する仕事をしているのではないのですか?」

「魔獣の件で国を離れている。詳しくはレインが戻ってきた時に話そう。今日の話はそれじゃないし、時間もあまりない」

「・・・分かりました」


 レインの動向が少し気になったオーマだが、プロトスの有無を言わさぬ態度に感じるものが有り、詮索するのを止めた。


「最終日の両国間会議で、我らセンテージはドネレイム帝国と友好的な関係を築き、センテージがより良く発展するため、帝国から指導をしてもらえることになった」

「指導?・・・とは、つまり・・・・」

「・・・敗北したということだ!奴らはあくまで“友好”と“指導”という言葉を曲げなかった!“協力”や“同盟”といった対等な言葉を使わなかった!・・・我々も使えなかったのだ!・・・・」


プロトスは顔を下に落として、悲痛な表情で声を荒げる。

 オーマはそれに驚く・・・怒りの感情をむき出しにしたことにではない、感情を抑えていることにだ。

プロトスが本当はもっと嘆き叫びたい気持ちなのは、オーマにはよく分かる。

この叫びでも、領主として立派に抑えている方だと思った。


「・・・・今後、両国は友好関係を築きつつも、立場は向こうが上、ということだ」

「では、今後センテージは・・・・」

「ゆっくり吸収されていくだろう。どれくらいの期間かは分からないが、こちらが強く出られないのを良いことに、“指導”という名目で色々な制約を敷かれ、実権を奪われていくだろう。そして最後は帝国の一部だ・・・・これでも、いきなり“併合”や“属国”という形にならなかっただけマシなくらいだ・・・・」


そう言って俯くプロトスを見て、オーマは胸が締め付けられた。

 昔なら、プロトスに対して同情はしなかったかもしれないが、今はプロトスの悲痛が良く分かる。

今のオーマは、プロトスに対して掛ける言葉を失うほど同情していた。


 オーマが掛ける言葉を探せないまま、沈黙が流れる・・・・・。

その沈黙を破ったのはプロトスの方だった。


「・・・・・絶対に認めんぞ」

「!?」


静かに呟いたプロトスから、激しい殺気が放たれる。


「私は、親善試合でマサノリの本性を見た。あまりに冷たく無機質な、冷酷という言葉ですら生ぬるい凍てついた人間性・・・あんな奴らにこの国を、妻と過ごしたベルヘラを!最愛の娘を!私の愛する全てを委ねていいはずがない!!」

「プロトス様・・・・・」

「礼を言うオーマ・ロブレム。私が奴の本性を見破れたのは、君の忠告のおかげだ」

「では・・・」

「ああ、私、プロトス・ライフィードは君たちサンダーラッツと手を組もう!私は君たちの生き残りをかけた戦いに協力する。君もこの国が帝国から解放されるよう、協力してほしい」

「もちろんです!喜んで協力致します!ありがとうございます!」


オーマはプロトスに深々と頭を下げた。


「レインには帰国次第、一緒に説明しよう。その時はまた呼ぶ」


プロトスのその一言で、とりあえずは解散となる。

オーマはプロトスの仕事の邪魔にならぬよう、そそくさとプロトス邸を後にして、アジトへと足を向けた。


 帰りの道中、オーマは胸の中に新鮮な風が吹いているような、高揚があった。

 自身の計画が上手く行った___そういう思いは今は無く、ただ純粋にプロトスの決断に対して、敬意を払っていた。

プロトスの表情からその決意と、それに至るまでの苦悩が垣間見え、プロトスの事を一人の人間として尊敬していた。


(あの人が仲間になってくれて良かった)


オーマの中で、かつてドネレイムの皇帝に抱いていた忠誠の感情を、今プロトスに対して抱いていた。

計画と関係なく、プロトスという人間と手を取れた事が嬉しかった____。

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