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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第二章:閃光の勇者ろうらく作戦
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親善試合(前半)

 マサノリとプロトスの決着が付き、プロトスがオーマと手を組むことを決めたころ、親善試合は大将戦を迎え、レインの出番が回ってきた。

 これまでの試合結果は、予想されていた通り帝国の四戦四勝。センテージに勝ち星は一つも無い。

試合内容も、帝国側の兵士が完全に主導権を握り、一方的な展開で勝利していた。

だが試合中は、帝国側からセンテージ側を嘲笑したり、冷やかしたり、といった声は出なかった。


 使節団の帝国兵士達は、センテージの高官たちへはもちろん、兵士や街の領民に対しても親切だった。

 マサノリに選ばれて連れてこられた帝国兵士達は、この試合や外交の意味をちゃんと理解しているからだ。

帝国はセンテージをバカにしたいのではない。無傷で手に入れたいのだ。

ゆえに、センテージに対しての誹謗中傷は許されない。当然、兵士同士のいざこざもご法度である。その教育が行き届いているのだ。

 試合に勝利した後も、試合をした兵士は特別勝ち誇るでもなく、静かに待機している。

だが、それらがかえってセンテージの者達に“王者の余裕”として映り、センテージ側の兵士と高官たちの表情は暗く、目線は気持ちと一緒に落ちていた・・・。




「大将!前へ!」


 審判が叫ぶと、木造の柵の扉が開かれ、帝国側の大将とレインが闘技場に入場した。

お通夜ムードのセンテージ側の中で、レインはただ一人、気合の入った表情で闘技場中央へと進み、対戦相手と対面する。

 レインはこの親善試合で、自分はセンテージ側で唯一勝算がある人間だと自覚している。

今こうして帝国の大将と対峙して、相手が只者ではないのは薄々気付いている。

だがそれでも、レインは負ける気がしなかった。

レインは決して自信家ではない。ちゃんと理由がある。

その理由は____


(・・・・オルスさんの方が強い)


 オルス(オーマ)の存在。

目の前の相手より強い人物を知っている、手合わせしているという事実だった。

短い期間ながら、自身の能力を向上させ、色々な技を見せてもらい、様々な事が学べた。

オルス(オーマ)という存在は、ベルヘラの中しか知らない井の中の蛙と思っていたレインの心の支えになっていた。


(感謝します。オルスさん)


オルス(オーマ)という強者の存在と、その人からの教えに勇気づけられ、レインは堂々と名乗りを上げた。


「レイン・ライフィードです!よろしくお願いします!」

「ジノス・フルランルード・バツェインです。よろしくお願いします」


ジノスと名乗った男は、爽やかながら気迫の有る視線で、レインと向き合う。


 帝国側の大将を務めるこのジノスは二十二歳と若く、爽やかな顔立ちをしていて、スラッとした体系で、その姿は好青年という言葉がよく似合う男だ。

第二貴族の人間だが、誠実で紳士な性格で、第二貴族にしては珍しく、帝国内の平民からの評判も良い。

そして、その性格が、実力だけでなく、ジノスが大将に選ばれた理由だった。

 帝国側で唯一、マサノリはレインが勇者候補であると知っている。

なので、レインが出るこの大将戦だけは、勝機が薄い事をマサノリは理解している。

だから第一貴族から大将を選ぶわけにはいかなかった。

たとえ勇者候補相手でも、第一貴族が公の場で他国の人間に敗北するなどあってはならないからだ。

更に平民に大将を任せるわけにもいかないため、第二貴族から大将を選ぶ必要があった。

だが、大半の第二貴族がどういう性格かをマサノリは把握している。

第二貴族を調教している一人なので当然だ。

 大抵の第二貴族なら、ここでレインに負ければ、確執が生まれる。

場合によっては、その第二貴族の僻みや恨みで、レインを帝国に迎えた際に問題を起こさないとも限らない。

だからマサノリは、第二貴族から大将を選ぶ条件に、“決着が付いた後、揉め事が起こらない相手”というのを入れる必要があった。

 ジノスは実力も第一、第二貴族から評価されている。そして、家柄も第二貴族の中では良い方だ。

ここでレインに負けても、第一貴族は気にしない(興味がない)。

第二貴族たちも、ジノスを蔑んだりはしないだろう。

勝っても負けても、問題にならない人物だからこそ、ジノスは大将に選ばれた。


 そしてもう一つ、ジノスがレインの相手に選ばれた理由がある。


 「始め!」


審判の声と共に試合が始まると、両者は即座に魔力を解放した。すると___


バチチチチッ!!


と、両者の体から電気が走った。


「レイン様と同じ雷属性!?」


センテージ側にいた、ベルヘラの兵士の一人がそう呟いた。


 マサノリがジノスをレインの対戦相手に指名したもう一つの理由はこれ、同じ雷属性である事だった。

ジノスもまた、数少ない派生属性を使える魔導士で、だからこそ帝国貴族たちに一目置かれている。

同じ属性を持つ魔導士の戦いは、属性の相性が無いため、魔力と技量の勝負となる。

つまり、相手の力量を測るのに向いている。

単純に勇者候補としてのレインの力を測りたいというのもあるが、勇者候補はそれと同時に帝国の魔法技術を発展させる良い研究材料でもある。

帝国としては、少しでも魔法の研究のため、レインの戦闘データがほしいところなのだ。

 マサノリが座る高官たちの観戦席から少し離れたところに、その高官たちの従者達がいる。

その従者の中にカスミ・ゲツレイが、エルフとバレないようフードで被って、戦闘データをとるため紛れ込んでいる。

 ジノスも、マサノリから勇者候補とは聞かされていないが、同じ雷属性で評判の騎士だから実力を測るように言われていた。


「ッ!?」


 同じ属性の相手を分かり、レインは一瞬怯む。

自身の技量がまだ足りてないと感じるレインは、技量の勝負になりやすい同属性の対決に自信が持てないのだ。

だが、直ぐに自身に喝を入れ、気持ちを立て直す。


(戦場ならともかく、いくら精鋭といっても外交の使節団。派生属性持ちなど居ないと思っていたが、考えが甘かった。さすがに層が厚い・・・)


 レインは両手のガードを上げて、ジノスは槍を両手で持ちレインの胸元に突き付けるように構えて、両者は睨み合う。

 槍対拳___。

間合いは圧倒的にレインが不利だが、レインなら魔法で一瞬のうちに間合いをゼロにできる。

だがレインの落雷と化す速攻はタメが必要なため、この距離では使えない。

次に得意な戦法は距離を詰めての乱打戦だが、ジノスの槍は射程が長く、技量も分からない。

レインは自分の得意な戦法を一旦諦め、フットワークを使って距離を取り、ジノスを軸にして時計回りに回りながら様子を見る。

 ジノスは動かず、己の槍をレインの心臓にピタリと標準を合わせ観察している。


 試合開始、互いの初手は、様子を見ながらの戦力分析だった。



 勝つ見込みのあるレインではあるが、決して楽勝というワケではない。

あくまで、勝てる要素が有るというだけだ。

 レインが勝てる要素の一つが魔力。

制御できず暴走してしまうほどの魔力は、間違いなくジノスを上回る。

それはレイン自身も、ジノスの発した魔力から確信している。

そして、ジノスもこれを理解していた。


(この子は一対どれだけの魔力があるのだ?同じ雷属性で、私より高い魔力を持つ者はオーマ・ロブレムくらいだと思っていたが、魔法技術が遅れている国で、これほどの使い手がいるとは・・・マサノリ様第一貴族の方々が、今なお大陸進行に慎重になっておられる理由が分かるな。・・・魔力比べは分が悪い。ならば___)


___ならば他の要素はどうだろう?戦力分析中のためか、お互い同じ疑問を抱く。

 魔力はレインだが、魔法の技量の方はどうか?

 単純に魔力量が多いと、それだけ制御も難しい。

さらに帝国の方が、センテージより、魔法技術が進んでいる。

ジノスはレインより高度な魔法教育を受けてきた。

そうなると、ジノスに分があるように思えるが、ジノスはこの考えを危険と判断する。

というのも、先程試合開始と同時に、お互いが魔力を解放した時の速度はほとんど変わらなかった。

ならば、魔法技術の練度は互角の可能性が有る。


(レイン殿は、帝国ほど高度な魔法教育が受けられない環境で、魔法の技術も卓越している・・・)


 これは、レインの素質のなせる業だ。

オーマから帝国式の魔法教育を受け、短期間でレインの魔法技術は向上していた。

前までのレインの魔法練度は、通常ならSTAGE2だった。本気を出せばSTAGE8までいけるが、その場合は一瞬だけ____長く続けば暴走してしまう。

 だがレインはこの短い間に、常人なら年単位の鍛錬を必要とするSTAGEアップをして、現在はジノスと同じSTAGE3までの技を制御できるようになっていた。

魔法の技量はほぼ互角といっていい。

 だが魔法以外のところではレインが不利だろう。

日常的に海上警備で海賊などと戦っているとはいえ、帝国は大陸に覇を唱え戦争している国。

このジノスたち外交使節団は、本土防衛軍から選ばれていて、サンダーラッツなどの遠征軍ほど戦経験は多くないが、それでもレインよりは戦闘経験が豊富だ。

通常戦闘なら、技量、経験ともにジノスが勝る。

 レインが暴走覚悟で全力をだして戦えば必勝だろうが、魔力を制御しながらだと、プロトスたちが思うほどの勝率ではない。


 お互いに第一印象での戦力分析を終える。

そして、先に動いたのはジノスだった____。

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