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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第二章:閃光の勇者ろうらく作戦
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マサノリの目論見(3)

 オーマ達が協力してくれるとなって、歓喜で瞳を潤ませているレイン・・・・オーマからすれば望ましい事だ。

望ましい事ではあるのだが、正直に言えばオーマとヴァリネスに、そのレインの気持ちを受け取る余裕はあまりなかった。


 理由は魔獣騒動が関係している。


 元々オーマとヴァリネスがここに来たのも、フランたち情報収集組から魔獣の噂を聞いたからだ。

そして、もしそれが本当なら召喚によるものだろうと、レインと同じ推理をしていた。

これは、何者かの意思が有る、という事を意味する。

野生の魔獣が現れて起きた“事故”ではなく、何者かが魔獣を召喚して起こした“事件”という事だ。

 さらに、この事件は帝国が絡んでいると、これもレイン達と同じ推理をオーマはしていた。

ただ、事件の起きた日を考えると、魔獣の召喚者は帝国の人間の可能性が低い。

これもプロトスと同じ推理で、こんな怪しまれる時期にはやらないと考えたからだ。


(恐らく、魔獣を召喚した奴は魔族だろう・・・)


そして、人間が犯人の可能性はほぼ無いだろうというのが、オーマの見解だ。


 この世界で、人類の歴史は魔王の脅威の歴史でもある。

それだけに魔族との契約や、魔獣の使役といったことは非常にイメージが悪く、禁忌としている国が多い。

 帝国も同じだ。

人類が一つとなって魔王軍と戦おうと謳っている国が魔族の力を借りていたらおかしいし、周辺国に何を言われるか分かったものではない。

 極秘に魔獣を使役する魔術を隠し持っている可能性は有るが、まず表には出さないし、出せないはず。

これは他の国にも言えることだ。

ならば、街中でこうも簡単に魔獣を使うなど、そのリスクを持たない魔族の可能性が高い。


 そして今、レインから事件現場の調査報告で、襲われた側が手練れの隠密と聞いて、オーマとヴァリネスは自分達の推理は正しかったと確信していた。

帝国には、今ここで魔獣を召喚して騒動を起こす人も理由もない・・・オーマの知る限り、だが。

 だが、それとは逆に、魔獣に襲われた側の隠密には心当たりがある。

事件当日この現場に居そうで、魔獣を相手に生き延びることができる者など、そいつら位だ。

オーマとヴァリネスは、ジェネリーとレインに気付かれぬようアイコンタクトでお互いの推理を確認する。

“魔獣に襲われたのは、自分達を監視していたカラス兄弟だ”・・・と。


(そして魔族が襲った相手がカラス兄弟なら、勇者絡みの可能性が有る。魔族には人間の政治なんて関係ないからな。魔族が人間相手に意図して行動を起こすなんてそれくらいだ)


 オーマは、そこからマサノリの思惑についても考える。


(・・・マサノリはこの事を知っているんだよな?)


 カラス兄弟が襲われて、プロトスに魔獣騒動の話しを持ち出したのはマサノリらしい。

なら間違いなく、マサノリはカラス兄弟から魔獣の報告を受けて、プロトスに話したのだろう。


(理由は何だ?レインにはああ言ったが、単純な外交の駆け引きだけじゃ無い気がする・・・魔獣を召喚した者を探らせるためか?もしかして、俺の時も?)


 オーマが思い返すのは、先日のマサノリから呼び出しを受けた時のこと。


(勇者の件で魔族が帝国の邪魔をするなら、俺も襲われると考えた?)


“実際に襲われたらどうすんだ!”と心の中で吐き捨てつつ、頭を働かせる。


(じゃー、俺が襲われなかったから、勇者の件とは無関係?なら、召喚者の動機は何だ?単純に帝国の外交の邪魔?いや、それだとカラス兄弟が襲われるのはおかしい。カラス兄弟はこの外交に関係ない。偶然に出会ったのでなければ、カラス兄弟が魔族に襲われたのは、勇者の件だろう・・・なら、カラス兄弟の動きを掴んで襲ったはず・・・なら、俺達の動きだって掴んでいたはず・・・)


勇者の件でカラス兄弟が襲われたのなら、オーマ達も補足されて襲われてもおかしくない。

いや、むしろ実行犯のサンダーラッツこそ、標的となるはず。

特に、マサノリに呼び出された日は、オーマを襲う絶好の機会だっただろう。


(・・・・・なるほど。あの時のマサノリのリアクションの意図が分かった気がする・・・)


マサノリもオーマと同じ推理をしていて、オーマが魔族に襲われていない事に疑問を抱いていたのだろう。


 考えを整理すると、全くの偶然で襲われるワケが無いし、帝国の外交の邪魔をするならカラス兄弟が襲われるのは変だし、勇者の件で帝国の邪魔をするならオーマ達が襲われないのは変だ。

辻褄が合わない。魔獣を召喚した人物の意図が読めない・・・・。

意図が読めないのに加えて、魔獣を召喚する魔族など、無視するのも探るのも危険な相手だ。

恐らく、マサノリがプロトスに話したのも、この相手が危険だからベルヘラに調べさせるつもりなのだろうとオーマは考えた。


(厄介だな。俺達が襲われてないからって、安心できない・・・)


魔獣召喚者の意図は分からないが、オーマが襲われないというのは楽観視できる事態ではない。


(マサノリが、俺達と召喚者がグルだと疑っている可能性が有る・・・)


そして“可能性が有る”の時点で疑われていると、オーマは判断する。


(弱ったな・・・だからといって、魔獣に襲われるのも嫌だぞ・・・)


 もちろん、現在襲われていないだけで、これから襲われる可能性は有る。

犯人を知らないオーマはそう考えている。

なので、オーマは、サンダーラッツはこれから第一貴族に魔族と組んでいると疑われながら、魔獣の襲撃を警戒しなくてはならないとも考えていた。

 疑われるのは嫌だが、第一貴族相手なら今更とも思う。

だからオーマはむしろ、召喚者の方に危機感を覚えていた。


(魔獣は分からんが、召喚者の方は一対一じゃ無理だろうな)


 魔獣は恐らく大丈夫だろう。

襲われたカラス兄弟は隠密で、暗殺は怖いが、真正面から戦えばオーマは自分が勝つと思っている。

そこから考えると、カラス兄弟が対処できる魔獣なら何とかなる気もしていた。

だが、召喚者の方は厳しい____。



 『魔獣召喚』は、魔族とそれ以外の種族によって、魔法の形態が違う。

魔族は自分より弱い者を従属させることによって、魔法術式で召喚が可能になる。

魔族だけが使える『従属魔法』と呼ばれる、特殊な召喚魔法だ。

よって、大抵の場合は魔獣召喚を使う魔族は、召喚される魔獣より強い。

 ちなみにだが、魔王は誕生した時点で全ての魔族を従属していて、全ての魔族を魔界からファーディー大陸に召喚できる。


 それ以外の種族、あるいは魔族の者でも、自身より強い存在や魔獣以外の精霊や幻獣などを召喚し、使役する場合は通常の信仰魔法となる。

自身が信仰する神を通じて、術式でその属性の魔獣や精霊と契約を結ぶのだ。

そのため、別の呼び名で『契約魔法』と呼ぶこともある。

術式で呼び出し契約を提示、そして呼び出された存在が“コイツは自分と同族だ”と認めて、契約してくれれば召喚が可能となる。

だが、それは容易なことではなく、かなり信仰魔法が熟達していなければ、同族とは認めてもらえない。

 帝国の定めた基準ではSTAGE7にもなり、人間なら一握りの天才で、若くして召喚ができるなら勇者候補レベルである。



 召喚者は魔族であれ人間であれ、オーマには手が余る相手ということだ。

だから魔獣騒動を聞いてここに来る際、万が一の対抗手段としてジェネリーを連れて来たのだ。

 オーマは魔獣の召喚者と第一貴族の事を思うと、気が重くなり、体が沈んむ感覚を覚えてしまった。


「あの・・・オルスさん?」


声を掛けられ気が付くと、レインが心配そうな表情でオーマの顔を覗き込んでいた。


「あ、いや、すまん」

「すいません。なんか、その・・・やっぱりこんな事・・・」

「それは違う」

「え?」

「“こんな事”だからだ。こんな厄介な事件、仲間なら放っておけない」

「そうよ。私達もできる限りの事はしてあげるわ」

「はい!微力ながら私も!」

「あ・・・・」


“仲間”という言葉と共に、喜んで厄介ごとに足を踏み入れてくる三人に、レインは再び瞳を潤ませて頬を赤くした。

そしてまた、その表情を隠すように勢い良く頭を下げた。


「ありがとうございます!本当にっ!!本当に感謝いたします!」

「礼には及ばないわよ」

「まったくだ。正直どこまで力になれるか分からないしな」

「そんな事ありません!本当にっ!!本当に感謝いたします!」

「ハハ・・・」

「これはお礼と謙遜の無限ループね・・・」


レインのこの態度に、三人はまた照れくさく苦笑いするのだった_____。






 傭兵だけの方が動きやすいと言って、オーマ達はレインと別行動を取る。

レインもプロトスに報告するため、これを了承してその場を立ち去った。

 オーマ達三人は、一度仲間に報告するべくアジトへと向かっている。

オーマはヴァリネスと二人だけで話すため、ジェネリーに一足先に戻ってメンバーを集めるように指示を出した。

 ジェネリーが先に戻った後、オーマとヴァリネスは話を始めた。


「ねぇ?レインにはああ言ったけど、どこまで分かると思う?」

「正直、何も分からんだろうな。魔獣の遠吠えを聞いたという話と、現場検証で争った痕跡も、犯人を特定できるものではない。この状況で俺達が捜査を進展させるとなると、帝国に力を借りなきゃならん。その帝国のマサノリが、この事件のことを把握するため、ベルヘラに圧力をかけて調べさせているくらいだからな」

「・・・この事、マサノリに報告する?」

「・・・ああ。心苦しいがな。マサノリに俺達が魔獣の召喚者とグルだと疑われている可能性がある。奴はプロトスとレインを経由して、俺にこの話が伝わるようにして、俺達に探りを入れているのかもしれない」

「やましい事が無ければ、私達が自分のところに報告に来るはずだと?」

「ああ・・・・試していると思う」

「そこまで怪しんでいるの?」

「恐らく・・・・」


オーマはヴァリネスに、自分のマサノリに対する見解を説明した。


「そう・・・アイツに呼ばれた時、そんな事が・・・。なら、その時にマサノリが魔獣の話を持ち出さなかったのって・・・」

「俺達もグルだと疑ったんだろ。そうでなきゃ、そこで魔獣の話を出して、最低でも警戒するよう指示を出していたはずだ」

「なるほど。確かにそれなら、レインに捜査協力することを報告しないと怪しまれるわ・・・・・はぁ、さすがに良心が痛いわねぇ・・・あの子、私達のことを完全に信じてたもの・・・・・」

「・・・・・」


 正直、レインには後ろめたい気持ちがある。

この件に首を突っ込んで捜査協力を申し出たのも、自分達に無関係ではないと思ったからで、レインを利用していると言っていい。

だが、


(だけど・・・・)


だがそれでも、オーマとヴァリネスのレインのために力になりたいという気持ちにウソは無かった___。

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