閃光の勇者ろうらく作戦:デート(3)
市場から早々に退却した二人は、レインの提案で人気の無い場所で気分を変えようという話になった。
レインはオーマから承諾を得ると、自身の中で一番の穴場と賞する景勝の高台へとオーマを連れて行った。
「ほら!見てください!ここからの景色!」
「おお~~、本当だ。すごいなぁ・・・」
「本当は夕日が沈む時間帯が一番綺麗なので、その時に案内するつもりだったのですが・・・」
「なるほどー。それは間違いなく絶景だろうなー」
「でも風は好い感じですよね?」
「赤面して火照った顔に心地良いかい?」
「もう!やめてくださいよー。本当に恥ずかしかったんですからぁ。・・・はぁ・・次あそこ歩くときどうしよう・・・・」
「気にすることないだろ?街の人には愛されているみたいだったし」
「そうですかぁ?めちゃめちゃイジられましたけどぉ?」
「だから愛されているんだろ?羨ましいよ。レインやプロトス卿と、この街の人達との関係は・・・」
作戦のための世辞ではなく、自分の国を思いながら、心の底からそう思っていた。
「本当ですかぁ?・・どこがですぅ?」
「本当だよ。今日一緒にいて、君たちの関係性が素晴らしいというのが一番の感想だよ。市場や屋台だけじゃなく、街を散策している時も、レインも街の人も気軽に会話しててさ」
「いや~、照れますねぇ。・・・ん。そう言われて少し立ち直ってきました」
「そうかい?じゃー、また後で市場によるかい?」
「いや・・それはちょっと・・・今日はもうカンベンです。次、また案内します!その時で!・・・・あの」
「ん?」
「次・・・ありますよね?」
「ああ、是非行きたいね。市場もここの夕日の景色も、また一緒に見たい」
「はい♪」
「ただ・・・」
「?」
「今度は、俺からも何かしたいな・・・次でも、その次でもいいからさ?次の次もあるんだろう?」
「あ・・・はい!もっちろんです♪」
レインの花咲く笑顔に、オーマは心がポッと鳴る喜びの音と、チクッと鳴る罪悪感の音を聴いた。
心中複雑ながら、今度はレインに心配されないよう表情には出さず、あたたかい笑顔をレインに向ける。
そのオーマの笑顔にレインは一瞬見惚れて、顔を赤く染めていた。
照れる気持ちを隠すように、高台からの景色を観賞するため、レインはフイッと視線を移した。
それに合わせて、オーマも高台からの街の様子を見て、またも感心する。
「・・・本当に良い街だな。景色も良い、人々の人柄も良い・・・こういう街を故郷に持てたら幸せだろうな・・・」
帝国に心酔していた頃なら絶対に思っていなかっただろう。
「本当ですか?」
「本当だって。お世辞はそんなに得意じゃないから、もう少し素直に受け取ってくれよ」
「ハハ・・・すいません・・・・・そういう意味ではないのですけど・・・」
オーマに聞こえないトーンでレインは呟く。
レインがオーマの褒め言葉を素直に受け取れないのは、お世辞を言われていると思っているからではない。
自分の心の内にある想いを打ち明けても大丈夫だと思える自信が欲しかったからだ。
そんなレインの気持ちを知る由もないオーマの口は止まらない。
「本当にさ、レインもプロトス卿も街の人達もさ、話していて楽しいんだよ。俺、あんまり口が上手くないし、そういうところ不器用でさ・・でもレイン達とは気軽に楽しくお喋りできるんだ」
ヴァリネスに対しても思っていることだ。
オーマ自身は、基本的に真面目で不器用だ。だが、ヴァリネスといる時は楽しめて、口もノリも軽くなる。
レイン達から、ヴァリネスと似たような人柄を感じていて、このお手のタイプと相性がいいのかな?なんて、思っていた。
「とにかくさ、何か居心地が良いんだよ。この街はさ」
「・・・・・なら、ここに居ませんか?」
「え?」
「オルスさん。もちろん他のみなさんも一緒に、ここに居てくれないですか!?」
「・・・・それはどういう・・・ベルヘラの軍人になれと?」
「それでもいいです!でも、その、なんていうか、そういう事じゃないっていうか、上手く言えないのですけど・・・どんな形でも・・・それこそ、傭兵のままでもいいのです!何と言ったら良いのか・・・・その、前からオルスさんの事もっと知りたいなって思っていて、今日街を案内して、一緒に過ごして、もっとそう思えてきて・・・それで、その、お義父様にも一度話をしていますし!お義父様からは返事を聞いてませんが、でもお義父様もオルスさんの事は一目置いていると思うので、多分大丈夫かと!」
「ちょ!ちょっと待て、レイン!落ち着け!それじゃー、何を言いたいのか分からないぞ!?」
「ご、ごめんなさい!・・えっと、その・・・つまり・・・・」
「つまり?」
「私達の仲間になってほしいのです!!」
レインは勇気をふり絞って、自分の心の内にある想いを打ち明けた。
レインの中で、“ついに言ってしまった”という間が流れる・・・。
オーマの中で、自分が何を言われたのかを理解するための間が流れる・・・。
お互いに間ができて、少しの間、二人は見つめ合っていた・・・。
「仲間・・・」
「はい・・・」
自分がレインに何を言われたのかを、ようやく理解し、“仲間”というフレーズに、オーマはじわじわと驚いていく。
要するにレインが言いたいのは___
「地位とか立場とかではなく、“人”として、損得を超えた関係になりたいという事か?」
「は、はい・・・そういう関係に成れたら好いな、って・・・・・」
レインは俯いて頬を赤く染めながら消え入りそうな声で、オーマの言葉を肯定した。
再びオーマの時間が停止する_________________________________________________________動き出す。
(うっっっしゃぁあああああーーーーーーー!!!!)
オーマの心の中で、カーニバルが始まった______。
“損得を超えた関係”とはまさに、オーマが帝国に対抗する上で、勇者候補の子達と築きたい関係だ。
嬉しくないわけがない。
(お、落ち着け!落ち着くんだ!俺!!ここで取り乱して全てが台無しになる、なんてことは避けたい。落ち着いて、嬉しさを出しつつ、しっかりレインの心を掴むんだ!)
心の中で気合を入れつつ、オーマは“決め”にかかると決めた。
本当は別の機会に、メンバーのサポートのある状態で“決め”るつもりだったが・・・
(レイン自身が望んでいるなら、遠慮はいらない!マサノリがもうベルヘラに来ている以上、決められるところで“決め”るべきだ!頑張れ、俺!あと一歩だ!決めろ、俺!!)
はやる気持ちとは裏腹に、オーマは余裕のある態度でレインと向き合う。
「嬉しいよ、レイン。そんな風に思ってくれていたなんて」
「ほ、本当ですか!?」
「もちろん。レインのように、人として尊敬できる人に仲間に誘われたんだ」
「そ、尊敬って・・・ッ~~~~~~~~!!」
レインは顔を真っ赤にしたまま、それでも恥ずかしさを堪えて、オーマから目を逸らさない。
オーマもレインも、お互いに視線を外すことなく見つめ合う。
「あ、あの、あの、本当にそう思ってくれていますか!?」
「プッ・・・本当だよ。レインはこういうことに対しては疑り深いんだなぁ。それとも、俺って信用無いのか?」
「い、いえ、そうじゃないんです!た、ただ、その・・・私がオルスさんの事を利用していると思われるんじゃないかって・・・」
「利用?君が俺を?・・・・・・・ああ、それって、帝国のこと?」
「はい・・・・センテージがこんな状況なので、帝国とどうなるか分かりません。当然このベルヘラも、どうなるか・・・場合によっては・・・・」
「戦争になると?そしてそのために、戦力として俺達を加えようとしているんじゃないかって?」
「はい・・・この国の状況を考えれば、そう思われても仕方がないと・・・もちろん、そんなつもりで言っているワケではないのです!本当に!純粋に!仲間になれたらいいなって思っています!!」
「信じるよ」
「え?」
「だから、信じるよ。レインのこと。もちろん、君の全てを理解したわけじゃないけど、そういう打算で“仲間”なんて言葉は使わないってことくらいは、この短い期間でも分かるよ」
「そ、そうですか・・・」
レインは信じてもらえて安心し、更に迷わず信じると言ったオーマに見惚れてしまう。
ホッとした気持ち、ポッとした気持ち、二つ合わさってレインの瞳は見開かれ、瞳は潤んで、頬は再び赤く染まる。
「ありがとうございます。オルスさんにそう思ってもらえて、嬉しいです。あ、でも、この話のちゃんとした返事は帝国との外交の結果がでた後で構いません。さすがに、もし帝国と戦争になったときは____」
「構わない」
「えっ・・・」
「もし、本当に君と仲間になれるなら、帝国とだって戦うよ」
「あっ・・・・ほ、本気ですか?」
「本気だとも。ドネレイム帝国、表向きは魔王に対抗するなんて言っているけど、やっている事は完全に侵略だからな。だから、センテージが・・・いや、君やプロトス卿が帝国に戦いを挑むのなら、君の隣に立ちたいと思う。誓うよ」
これは完璧に本心だった。
より正確に言えば、“自分達が帝国に戦いを挑むので隣に立ってほしい!”、なのだが____。
「ほ、本気ですか?あの帝国ですよ?私やお義父様のために、その・・・」
「また疑うのかい?レインの方こそどうなんだい?俺を仲間にって話、ウソでは無いというのは分かるが、どこまで本気なんだい?」
「わ、私は・・・・」
オーマの帝国とも戦うという、レインにとって意外な発言はレインの胸を打ち、鼓動を高鳴らせた。
そして、その鼓動が、レインから決意の言葉を押し出した。
「私も・・・私も本気です!!互いに命懸けで背中を守り合える仲間に!どんなときだって!誰が相手だって!共に戦うことを誓います!!」
「・・・・ありがとう」
そう言って、オーマは右手を差し出し、レインと握手を交わす。
レインの真っ直ぐな言葉に対して、虚実織り交ぜて話をしたことに引け目を感じていたが、レインと仲間になりたいという気持ちは作戦抜きで本心だった。
レインとプロトスという人物は、本当にオーマにとって掛け値なしで仲間になりたい人物だった。
優しさと気高さがあるレインの柔らかい笑顔をその瞳に焼き付け、気持ちだけは裏切らないとオーマは誓った____。




