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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第二章:閃光の勇者ろうらく作戦
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閃光の勇者ろうらく作戦:デート(2)

 オーマは、レインが案内してくれたフリーマーケットに足を踏み入れた。

 第一貴族の統制が敷かれている帝国ではお目にかかれぬ規模の自由市場だ。

出店に並ぶ商品も帝国では手に入らないだろう。

色々な地域から持ち込まれている商品が視界に入ってくる。

 帝国では見られぬ、文化や歴史がまるで違うと分かる、様々な品を見てオーマの心は弾む。


 帝国は侵略した後、その国の文化や宗教を禁ずることが多い。

侵略者としては自国の支配力を高める手段として当然だが、帝国の場合は一言で言って、“無駄を省くため”だ。

良いものは吸収し、余計なものは捨てる。そうあり続け、結果として侵略した国の文化といったものを殆ど残さなかったのだ。

無駄だと感じる文化でも残してきたという例外は、建国に携わった4ヶ国(皇帝と三大貴族が治めていた国)だけである。

 そのため、色々な国の文化が見えるこの市場は、オーマにとって新鮮な光景だった。


(昔は帝国のやり方を効率が良いとか言っていたっけ・・・・ハハ・・・くだらねぇ)


 昔の自分を思い返して、心の中で思わず自笑してしまう。余りにも盲目的だったと・・・。

今思うと、本当に自分で効率が良いと判断していたわけではなく、“そう言われたからそうなのだ”、と受け入れていただけだった気がする。


(あの頃にもう少し、国というものについて考えていれたら、こんな事にはなっていなかったのかな・・・)


「どーしたんですか?オルスさん?」

「えっ!?あ、いや・・すまん」


余計な事を考えて、目を伏せてしまっていたのであろう、レインに心配されてしまう。


(俺のバカ!今は感傷に浸る時間じゃないだろ!!)


「あのー・・・私、何かしちゃいましたか?ここ、嫌でしたか?」

「いや、レインは何もしていないし、ここの光景は見ていて楽しいよ」

「そうですか・・・」


 ごまかしてみたものの、レインの表情は晴れない。


(そういえば、ヴァリネスがレインは男性とのデートが初めてだから、妙な態度を取ると楽しんでいないのかと心配になるだろうから、気を付けるように言われていたっけ・・・・)


 初めてのデート。

しかも自分がリードして、街を案内するデートだ。更に相手は年上ときている。

そんなときに年上の相手がつまらなそうにしていれば、自分が何か悪い事したのかと不安になるのは仕方のないことだろう。


(ここはちゃんと、話した方がいいな)


オーマは女性とのコミュニケーションに慣れないながら、変に隠して気まずい空気でいるより、今は多少テンションが下がっても正直に打ち明けた方がいいと判断する。

というよりオーマ自身、女性経験が少ないのでこれしか思い浮かばなかった。

 オーマは申し訳ない気持ちになりながら、暗い顔になっていた理由を話した。


「いやぁ・・・こういう、色々な文化が交わった光景は見慣れていなくてね。傭兵として戦場を渡り歩いて見た光景はこれとは真逆のものだったから・・・少し感傷的になっていたよ・・・ゴメン」

「いや、謝らないでください。気にしてません。・・でも・・・そうですか・・・・・」


 レインも言われて何か思うことがあるのか、少し俯き考え込んでしまう。

予想通りムードが下がり、オーマは内心で慌てる。

 さらには、なかなか良いフォローが思い浮かばないオーマより先に、レインが口を開いた。


「やっぱり・・・そうですよね・・・」

「え?」

「やっぱり奪われたら、もう国じゃ無くなるのですね・・・奪った側の色に染められる・・・私達もそうなってしまうのでしょうか・・・・」

「あっ・・・・」


オーマは自分が想像していた以上にやらかしたのだと自覚する。


(そうだよ!今、レイン達は帝国に吸収されるかどうかの瀬戸際じゃないか!ああっ!本当に俺って奴は!!)


自己嫌悪というより自己憎悪と言えるほど、オーマは先の発言をした自分を恨んだ。


「オルスさん・・・これ、傭兵の方に聞いて良いのか分からないのですが、聞いてもいいですか?」

「ああ、いいよ。何でも聞いてくれ」


少しでもレインに償いをしたいオーマは、躊躇わずにそう言った。


「オルスさんは、どうして傭兵をしているのですか?・・・何故傭兵になったのですか?」


 レインはオーマの瞳を真っ直ぐ見て質問した。

その瞳の中の光は、これがただの疑問でない事をはっきりと物語っている。


“あなたも奪う側の人間ですか?”


と、そう目が訴えている。


 その質問への答え方は、オーマは一つしか知らない・・・・・“誠実に話す”、だ。


 誠実・・・正直ではなく誠実だ。本当の事だけを言うのではないというのが悲しかった。

言える範囲で、やれるだけの誠意を持って話す。

先程と同じで、もうここまで来るとオーマにはそれしかできない。

デートで雰囲気が悪くなったとき、それを盛り返す気の利いた言葉などオーマから出るはずもない。

こういう場面で上手く立ち回る術など、オーマは30歳を過ぎても持っていない。


(こういうところがダメなんだろうな。相手が同じ男ならもう少し器用に立ち回れるのに・・・女性相手だとどうもな・・・遠征軍で戦場を渡り歩いていたから、なんて言うのは止めて、しっかり女性にも配慮できるようにならないと、人としてダメだし、作戦も失敗する)


心の中で猛省をして、オーマはレインの質問に答えた。


「・・・・奪われた理由を知りたかったからだ」

「・・・奪われた理由?」

「俺は戦災孤児だったんだ。故郷が戦争に巻き込まれてね。そこで両親を亡くした。それで、孤児院で毎日考えていたんだ。何故、戦争は起きるんだ。何故、父と母が死ななくてはならなかったんだ、ってね」

「・・・・」

「そして、そのうち戦争が起こる理由や仕組みについて勉強するようになった。実際、戦場がどんなもので、軍人は何を思って戦っているのか、戦争を決断する連中はどんな思いで決断し、命令しているのかって・・・・・それで・・・その・・・・」

「?」

「少しでも早く戦争が無くなって、少しでも多くの人が死なずに済めばいいな、って・・・そう思っていたよ」

「・・・・・そうだったんですか・・・すいません。ご両親の事、知らぬ事とはいえ、辛い話をさせてしまって・・・・」


レインは深く頭を下げた。その誠意のこもった謝罪に、オーマは恐縮してしまう。


「い、いや、気にしないでくれ。もう心の整理もついているから、本当。こちらこそ、せっかく案内してくれたのに不謹慎なこと言ったよ、すまない」

「い、いえいえ!それこそ気にしないでください。私も気にしてませんから!」


オーマに頭を下げられて、今度はレインが恐縮してしまう。

 お互いに恐縮して少しの間、沈黙が流れる。

お互いの気持ちが落ち着いてきたころ、レインが何かを感じ入ったように、柔らかい表情を浮かべてポツポツと話し始めた。


「・・・・・でも・・・そうですか・・・・そんな理由があったんですね」

「意外だったかい?」

「いえ!とんでもない!海賊との戦いで初めて会った時に感じていました!正義感のある方だなって!」

「せ、正義!?よ、よしてくれ!ガラじゃないよ、本当に・・・」


 第一貴族にいいように利用されていただけと分かった今では、“正義”という言葉など、とてもじゃないが受け入れられるものではない。

何より海賊を相手にしたのは、レインに近づくという打算があってだ。正義などではない。

本当にガラじゃなくて、落ち込みそうにすらなる。

 だが、当然オーマの事情と心中を知らないレインは、真っ直ぐな瞳で、真っ直ぐな言葉をオーマに伝えてくる。

今のオーマには一番厳しい態度だ。


「いえ、本当です。そんな事ないです。私、誤解してました。傭兵の方って、もっと自分勝手な理由で戦っていると思っていました。たまに生活に困ってやむを得ず・・・といった人が居るくらいで」

「今の俺はそいつらと大差ないよ。結局何もできやしなかった。自分と仲間が生き残るので精一杯だ・・・・・いや、今はそれも厳しい」


生きるか死ぬかの瀬戸際で、生き残れると断言できず、最後の方の言葉は小声になってしまった。

 それを落ち込んでいると感じたのか、レインは励ますように声のテンションを少し上げた。


「いいえ、そんな事本当にないんです!私、分かります!オルスさんには正義があるって!」

「お、おお?・・・何をもってそんな・・・」

「私と似ているからです!」

「レインと・・・似ている?」

「私も小さい頃、両親を亡くしています。海賊に襲われて___」


街で情報収集をしてすでに知っているが、もちろんそんな事言わない。オーマは黙って聞く。


「私は孤児院ではなく、プロトス卿が義父になってくれましたが、その頃からずっと理不尽な暴力が嫌いで、オルスさんみたいに考えることが多かったんです。どうして人は争うのだろうって。だから似てます!私とオルスさんは!もし、オルスさんに正義が無かったら、私にも正義が無いことになっちゃいます!だからオルスさんには正義は有ります!」

「フッ・・・すごい理屈だな」


思わず吹き出してしまいながら、そう言った。・・・面白い、というより“らしい”と思った。

オーマが落ち込んでいた本当の理由までは知るはずないだろうが、レインの気持ちは素直に嬉しかった。


「オルスさん!私達でいつの日か平和な争いのない世界を作りましょう!正義は我らに有り!です!」


勢いあまって熱い言葉を出したレインに、オーマは苦笑いで一応乗っかる。


「おお・・・熱いな!レイン!」

「はい!!燃えてきました!」

「おお・・・あの・・良い事だとは思うが、ここが何処か分かっているか?」

「はい?」


レインの言葉が嬉しい反面、周りが見えていないことに思わずツッコミを入れてしまった。

 言われて、レインが周りを見ると、市場に居る人達が足をとめて、人だかりができていた。


「あ・・・・あ~~~~~~!!」

「だ、大丈夫か?レイン?いやー、俺も場所がここじゃなきゃ、もっとちゃんと乗っかっていたんだがな・・・結構感動してたし。でも年のせいかな?それはそれ、これはこれ、というかー・・・どうしても場所が気になってしまって・・・・何かすまん」

「~~~~~~~~!!」


ノリが良いレインでも、さすがに周りの視線に耐えられず、しゃがみ込んで顔を隠してしまった。

オーマはちょっとカワイイと思ってしまった。

レインが可愛くて、少しからかいたくなってしまったが、その役目は周りの人達に取られてしまった。


「よ!熱いね!レインちゃん!!」

「かっこいいわよー」

「そんなレインちゃんがこの街を守ってくれているなんて、ありがないねー」

「でも、場所選べよー」

「面白いから選ばなくていいぞーー」


周りの人達の声援?に耐えられず、レインはしゃがみながら、首を左右にブンブン振っている。


「男の前でカッコつけたかったのか?」

「好きなのか!?」

「もっと可愛らしく振る舞った方が良くない?」

「いや、あの熱さと凛々しさが良いんだろ!?」

「彼氏ぃ?あっちも熱いのかい?」


「ぐはっっっ!!」


ついに恥ずかしがピークに達して、レインは深いダメージを負ってしまった。


(どうやら俺はフォロー役だな・・・)


冷やかし役に少しだけ未練を残しつつ、自分の立ち位置を把握する。

そして、オーマがレインを慰めようとレインの肩に手を置くと、この場に居る事に限界を感じたレインはいきなりその手を取って、オーマを連れてその場から二人で立ち去るのだった。


 その間、オーマはずっとレインを慰めていた____。

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