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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第二章:閃光の勇者ろうらく作戦
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閃光の勇者ろうらく作戦:デート(1)

 使節団が到着した次の日_____。

 オーマは、レインとデートをする約束をしていたこの日、太陽が真上に来る少し前に、待ち合わせの広場に来ていた。

オーマが待ち合わせ場所で待って暫く、ちょっと遅れてレインがやって来る。


 レインは、いつものレザーガードを付けた軍服のような服装ではなく、フリルの付いた白いサマードレスだった。

金髪で色白なレインが着ると、いつもの凛々しい印象から一転、爽やかな雰囲気をかもし出す。

眩しい太陽の光と相まって、レインはいつも以上に輝いており、オーマはその透明感のあるレインの姿に、男心を優しく高揚させられて甘酸っぱい気持ちを抱いた。


「お待たせしました、オルスさん」

「いや、大丈夫。全然待っていないよ」

「えー?本当ですか?私、結構支度に手間取りましたよ?」

「本当に大丈夫だよ。分かっていたからね」

「へ?分かっていた?」

「初デートだから、オシャレしてきてくれるだろうな、ってね」

「へー、予想通りってわけですか」

「いや、違うよ」

「へ?」

「予想以上に可愛くて怒る気が失せたんだ」

「プッ、ハハハハハ・・・いやー、照れますねぇ♪」

「本当だよ。普段の軍服姿も凛々しいけど、その服も可愛くて似合っているよ」

「ヘヘ♪ありがとうございます」


オーマの少し不慣れな褒め言葉に、レインの方も褒められ慣れていない様子だが、レインの方は褒められたことが嬉しく、オーマの方は喜んでもらえたことが素直に嬉しく、二人は笑顔を見せ合った。

 オーマはそのことが心から嬉しく、同時にホッとした。


(ふぅ・・・・何とか上手くいったか・・・)


 今日はオーマとレインの二人きり。

念の為に、周囲には、まだレインと面識の無いフランとウェイフィーが見守ってくれてはいるものの、他のメンバーは他の仕事で来ておらず、今日は基本、味方の援護は無い。

その為、前日にオーマはヴァリネス達から頭が痛くなるほど今日のデートのレクチャーを受けていた。

 その時にヴァリネスが何度も眉間にシワを寄せて言ってきたのが、“初めてのデートではりきってオシャレしてくるはずだから必ず褒めろ!”だった。

オーマの中では恥ずかしくなる気障なセリフだったが、ヴァリネスに強く念を押されたので勇気を出して言ってみたところ、レインは喜んでくれたみたいで言って良かったと思った。


(女の子を褒めるなら、これ位の方がいいのかな?)


そんな事を思いつつ、レインとのデートを盛り上げるため、スキあらばレインを褒めようと心に決めた。


「しかし、良かったのかい?今は帝国から使節団が来ているのだろう?」

「大丈夫です。今日は主に貴族同士の顔合わせですから。私は領主の娘といっても役職には就いていませんし、使節団の方々には昨日挨拶しました。私の出番は夜の晩餐会と軍事演習、それと親善試合ですね。今日はやる事が無いです」

「そうか・・・じゃあ今日は、これから忙しくなるレインが英気を養えるよう、精一杯楽しませて見せよう!」

「ハハハ、ありがとうございます♪でも、今日は私が街を案内するんですよ?」

「あ・・・そうだった」

「それに私はそんなに帝国の方に緊張してはいませんから、お気持ちだけで十分です。ああ、もちろんデートは楽しみましょうね♪張り切り過ぎないで、って意味です」

「心得た。それにしても、レインは帝国のお偉方にも緊張しないなんて、肝が据わっているんだなー」


レインがデートを楽しもうと言ったのだから、帝国の話は切り上げて別の楽しい話題を話せば良いのに、オーマはどうしてもレインの帝国への印象が知りたくて、帝国の話題を続けてしまった。


「いえ、そんな事は・・・ただ向こうの方が思ったより気さくな方だったのです。トウジン・ミタツ・マサノリという方なのですが、帝国でも三大貴族と呼ばれる国の中心となる大貴族の方なのに全然偉そうではなく、話し易い方でした」


(まあ、外面はそうだろう・・・)


「へぇー・・帝国のトップともなると、人格も優れているのかもなー」

「かもしれません。“美しいお嬢さん”、なんて褒められて、悪い気はしませんでした」

「いや、それは褒めているんじゃないよ、レイン」

「え?」

「ただ、事実を言っただけだよ」

「・・・・・」

「君が美しいのは事実だからね☆」


オーマは精一杯カッコ付けて、キランと歯を輝かせて爽やかな笑顔を作った。


「・・・・・」

「・・・どうした、レイン?」

「プーーーーー!!」

「・・・・・」

「ハハハハハ・・・・ど、どうしたんですかぁ?似合わないですよ?ぷぷ」

「むぅ・・・そうか・・・」

「最初の時も思っていたのですが、どうしちゃったんですかぁ?」

「いや、せっかくのデートだから・・・・」

「もー、だから張り切らなくて大丈夫ですってぇ」

「そ、そうか?・・・てか、最初の時も似合ってなかったのね・・・」

「まあ、正直言えば少し。今ほどじゃないですけど・・・プッ」

「そうかー・・・・」


 自分で思い返して恥ずかしさがこみ上げてくる。


(褒め過ぎることも、らしく無いこともしない方が良いんだな・・・)


 そうオーマは心に刻む。

恥ずかしさでレインの顔を直視できず、視線を外せば先程のオーマのセリフを聞いていたらしく、フランとウェイフィーが悶絶していた。


(くそー・・・アイツら後で覚えていろ!)


「そんなに気にしないでください。私はいつものオルスさんが好きですから」

「そ、そうか?」


軽いノリとは分かっていても、“好き”と言われると照れて、顔が赤くなってしまう。


「まあ、さっきのはさっきので、面白くて可愛かったです・・・プッ」

「そ、そうか・・・」


恥ずかしくて、顔が赤くなってしまう・・・。


 その後、暫くレインにからかわれたが、レインが楽しんでいるなら良しとしようと考え、前向きになる。

そして、その調子のまま二人は街を散策し始めるのだった。




 レインが最初に案内してくれたのは市場だった。


「軍の仕事を手伝う時は、兵士の皆さんと良くここで食べるんです。午前中なら漁で捕れたばかりの新鮮な魚介が並ぶので、店で食べるより美味しくて安い屋台が在るんです」

「へぇー、この街に到着したばかりの時に来たが、そういう“穴場”ってやつは分からなかったなー」

「こっちですよ!」


そう言ってレインはオーマの手を取って、二人で人ごみに入って行く。


(デートだし、オシャレをして来たからもっとオシャレな店が並ぶ通りに案内されると思ったが・・・俺に気を使ってくれているのかな?)


オーマは少し照れながら、つないだ手を人ごみに切れ離されないよう、できるだけレインとの距離を詰めてレインの後ろを付いて行く。


 人より体格の良いオーマだが、人ごみの中でも武術で鍛えた足さばきで埋もれることなく進んで行ける。

レインはそのオーマ以上に難なく進んでいて、オーマも付いて行くのがやっとなほどだ。

武術に関してなら技量はオーマの方が上であるため、単純にレインの方がこの市場を歩き慣れているのだろう。


(・・・俺に気を使ってオシャレな店を避けて、こういう場所を選んだのかと思っていたが、そうでもないのかな?)


だとするならば、オーマにとってレインはかなり接しやすい子と言える。

オーマの中でレインという存在が少し身近に感じ、緊張がほぐれて柔らかい笑顔が浮かんでくる。


 オーマ自身もデートを楽しめそうな気がしてきていた。


「はい!この屋台の一品がおススメです!」


レインの進めてきた料理は、捕れたての海老や貝、魚などの切り身を油で揚げて、好みのソースで食べる串揚を売っている屋台だった。


「私のおススメは、このエリス海で捕れるエリスホールフィッシュの唐揚げをピリ辛ソースでいくヤツです」


レインに言われて、屋台の中にある水槽を見ると、何やらボール状の魚がフヨフヨと泳いでいた。


「じゃあ、それにしよう。やっぱり魚が食べたいしな」

「はい♪すいませーん!エリスホールフィッシュの唐揚げを二つ!ピリ辛で!」

「あいよー!銀貨2枚ねー!」


 レインが注文すると、店主がさっきの水槽からボール状の魚を網で捕り、その場でさばき小麦粉を付けて揚げ始める。

ジュワーという音と共に香ばしい匂いが漂ってきて、ピリ辛ソースのスパイシーな香りと合わさってオーマの胃を刺激する。

 オーマは待ちきれなくなり、いそいそと支払いのお金を用意する。


「あ、いいですよ。ここは私が払います。ていうか、今日は私がだしますよ」

「え?いや、それはさすがに悪いよ」

「大丈夫です!今日は私がオルスさんを誘ったワケですし」

「いや、でもだからって、女性にデート代を払ってもらうなんて・・・」

「リジェース地方ではそうなんですか?私が知っている限りでは、この辺では普通に割り勘もありますけど」

「そ、そうなのか?でも俺の育った環境だと、女性に支払いをさせる男はクズって感じだったからなー。なんとなく抵抗あるなぁ」

「ですが、私も貴族なのでこう言ってはなんですが、市民の方に奢ってもらうのは気が引けます。だから、私がだしますよ」


お国柄なのか、世代のギャップなのかは分からないが、レインは自分が支払うと言って譲らない。

レイン自身、貴族として平民を差別する気はないのだろう。それでも受けた教育から奢られるのには抵抗があるようだった。

オーマ自身も良くない流れと感じつつ、自分が受けた教育がら、異性に奢られるのには抵抗があった。


(まいったな。外国になると年の差だけじゃなく地方の価値観の違いも出てくる・・・せっかくのデートなのに、お互いに意地になってもな・・・いや、待てよ?意地といえば___)


昨日のレクチャーを振り返って、ヴァリネスに言われたことを思い出す。


“もし、男女の違いや身分の違いで、お互い意地になって揉める事があったら遊び心を持ちなさい。男女の意地の張り合いはユーモアを出せた方の勝ちよ。それに、あの子はノリが良いから多分ノって来るわ”


 ヴァリネスのアドバイスを思い出して、オーマにある考えが浮かんだ。


「よし!じゃー、ゲームで決めるのはどうだ?」

「ゲームですか?どんなゲームです?」

「コインがどっちの手の中にあるか当てるゲームだよ」


そう言ってオーマは金貨を1枚、銀貨を3枚、財布から出した。


「当てるのは金貨で、3枚の銀貨はダミーだよ。いいかい?・・・いくぞ!」


 そう言うや否や、オーマは計4枚の硬貨を空中に放る。そして____。


シュババババ!!


「!?」


オーマは、レインが驚くほどの凄まじい速さで両手を動かし、硬貨を空中でシャッフルする。


ババババ____ババ___バババ____パシン!


最後に両手を合せてから左右に離すと4枚の硬貨は何処にもなく、レインの目の前にはオーマの左右の握り拳だけが前に突き出されていた。


「さあ!右と左。どっちに金貨はある?」

「は、速い・・・」

「まあな。訓練も兼ねて、よく軍・・・いや傭兵仲間とやっているんだ」

「訓練も兼ねて?」

「そう。仕掛ける方はハンドスピードが鍛えられるし、仕掛けられた方は反射神経を鍛えられる。それに、駆け引きは戦場で必要だったりするしな」

「なるほどぉ!すごいです!」

「クスッ」

「?」

「すまん、ウソだ。ただのこじつけだよ」

「む~~!」

「はは、そう怒るなって、楽しもうって言ってくれたじゃないか。なら、冗談もゲームもあって良いだろ?」

「・・・クス、そうですね。いいでしょう♪受けて立ちます!」

「よし。じゃあ、この市場での屋台巡りの支払いはゲームで決めていくってことで♪」


 オーマのイタズラっ子のような表情に、レインもニヤッと笑みを見せて勝負にノってきた。

ヴァリネスの言う通り、レインはこういうノリが好きなようだった。


(感謝するぜ、副長)


「ああ、ただ、すいません」

「ん?」

「今のはよく見てなかったので、もう一度いいですか?」

「ハハ、じゃー、今回だけ特別な?・・・フッ!」


再びオーマは空中で硬貨を高速でシャッフルし始めた。

その後も、二人はゲームをしながら屋台巡りを楽しんだ____。






 屋台巡りでゲームを楽しみつつ、空腹を満たしたオーマは次の目的地へと案内されている。


「くそ~。レイン、やるじゃないか」

「えへへへへ♪どうもごちそうさまでした♪」


満面の笑みを浮かべるレインに対し、オーマは少しだけ悔しい思いをぶつける。


 ゲームは、最初の方こそオーマの手捌きに付いていけず、数回奢る羽目になったレインだが、あっという間に目が慣れてしまい、後半戦ではオーマがどれだけ本気でやっても見切られてしまっていた。

 人間の動体視力は横の動きには強いが、縦の動きには弱い事をオーマは知っている。

 そこで、最初は横の動きだけでフェイントを入れていたが、目の慣れてきそうな後半には、縦の動きのフェイントも入れてレインを翻弄しようとした。

それにもかかわらず大差で負けたのである。

 正直、いくらレインが勇者候補とはいえ、この短い時間で自分の動きに慣れるのは不可能だと思っていた。

常人なら間違いなくそうだろう。


(ジェネリーの成長速度といい、レインの成長速度といい、凄まじいな)


 そう感じると同時に、オーマはレインの潜在魔法がどの程度なのかも気になった。

この短時間でオーマのフェイントを見切るようになったのは、潜在魔法の効果だと考えたからだ。

 ジェネリーの肉体の成長速度は、ジェネリーの潜在魔法のRANKが高いからだろう。

では、同じように動体視力が急激に成長しているレインもジェネリーに匹敵するのだろうか?

単純に視覚が鋭くなるのは、潜在魔法RANK4(神経)なのだが、現状答えはでない。


(だが、最低でもRANK4だ・・・やれやれ、本当にすごいな・・・)


 潜在魔法のRANKは平均的にRANK1(皮膚)RANK2(筋肉)は大抵の人間が持っている才能で、むしろ無い方がおかしいくらいだ。

RANK3(骨)位から個人差が出始め、サンダーラッツでは、オーマ、ヴァリネス、ロジ、イワナミだけで、他の兵団でもそう多くはない。

それ以上になると兵団ではなく軍全体で数人になってくる、サンダーラッツでは唯一、フランだけがRANK4の才能を持っている。

フランはそのRANK4の才能で、狙撃や斥候を得意としている。

 ただ潜在魔法RANK4の魔法は消費が激しいとフランは言っていて、1日に2・3回が限度らしい。

少なくとも、屋台巡り中のゲームで毎回使用するのは常人では不可能だろう。


 最初こそ負けが続いて悔しかったが、そうやって考えてみると敗北は必至だったと思えてくる。

なので、羨ましいような、頼もしいような複雑な気持ちになってくる。


「どうしたのですか?」

「あ、いや・・もう少し勝つ自信があったんだよ・・・だから、ちょっとな」

「ハハハハハ♪元気出してください!ほら、あそこ!あそこの一帯の出店はベルヘラだけじゃなく、ワンウォールやココチアの品も並ぶのです。掘り出し物から高級品まで幅が広いので、買い物にはおススメです!」


 明るい笑顔でレインがオーマに見せたのは、大賑わいしているフリーマーケットだった。


「おお!?スゴそうだな!」

「でしょ?すごいですから、気を取り直して行きましょう♪」

「お?おい!レイン!そんなに引っ張らなくても・・・!」


まだまだはしゃぎたい様子で、オーマの手を引っ張るレインに、オーマも自然と笑みがこぼれ楽しくなってくる。


 時間はお昼を少し回ったところ、二人の楽しいデートはまだまだ続くのだった____。

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