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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第二章:閃光の勇者ろうらく作戦
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親子の団欒2

 プロトスとオーマの交渉が終わって数日後______。


 帝国の使節団が到着するこの日の朝、プロトスとレインは再び二人で朝食を囲んでいた。

 オーマと会った翌日から、帝国使節団を迎える最終準備に入り、この日まで顔を合わせることはあっても公務の話ばかりだった。

使節団が来ればいよいよ忙しくなるため、プロトスは英気を養う意味でも愛する娘とゆっくり過ごす時間を設けたかった。

レインも快くこれに応え、二人の食事と会話は進む。

 レインは上機嫌だった。

レインの機嫌の良さは恐らく、家族の時間を持てた事だけではないだろうと、プロトスはレインに尋ねた。


「・・・レイン。最近何か良い事でもあったのか?今朝は食事も会話も進むじゃないか」

「え?・・はい。そうですね・・・最近は調子が良いですね・・・・・」

「ん?」

「ん?どうなさいましたか、お義父様?」

「いや・・調子が良いで終わりか?何故調子が良いのかは教えてくれないのかい?」

「あー、いえ、そんなことは・・・・実は最近魔法の特訓の調子が良いのです」

「なんだ。結構な事じゃないか。何故黙る必要があったのだ?」

「いえ・・・あの、また色気のない話題かな、と・・・」

「なんだ・・・気にしていたのか。レインが充実した日々を過ごしているのなら、それで構わないよ。是非聞きたいな」

「あ・・・は、はい♪えっと、実は____」


 レインは先程より、更に生き生きした表情で、魔法の訓練の話をし始めた。

その話の内容からプロトスは、この前我が家に招いた帝国の男が、確かに約束を果たしていると分かった。


「____なるほど。良くやってくれているようだな。オルス団長は」

「はい♪最初は秘密にしていた魔法に関する知識も、お義父様のおかげで教えていただけるようになって、日々成長の手応えを感じています!・・・あ!そうそうお義父様?オルス団長はすごいんですよ!魔法だけじゃなく、軍隊の戦術にも明るく、詳しいのです。まるでどこかの国の将軍のようです!」

「案外そうかもな。私も彼が傭兵になる前、何をしていたかまでは聞かなかったが・・・」


ウソをつく必要は無いのに___と、内心で苦笑いをしながらプロトスはオーマのためにウソをつき、レインに話を合せた。


「お義父様!!いっそのこと、オルスさん達“雷鳴の戦慄団”を我が軍に迎えては如何です?あの方達なら、あのダサい兵団名を変えれば問題ないかと!」

「・・・・そこまであの団長を気に入ったのか?」

「はい!それはもう♪立ち振る舞いも傭兵でありながら野蛮じゃありませんし、それにとっても話し易い方です!」

「そうか?あまり若い女性にウケる感じはしなかったが・・・」

「フフッ♪そうかもですね。でも私は子供の頃から、年の離れた男性の方と接することが多かったので話し易いです」

「・・・それは異性として、そういった男が好みという意味か?」

「うーん・・・どうでしょう?ベルヘラ軍人の男性を異性として意識したことは無いですが、ただ・・・」

「ただ?」

「今まで、魔力の暴走を恐れて、殿方からのお誘いを受けたことは無かったのですが、オルスさんなら大丈夫そうなので意識したことは有ります」

「フム・・・」

「・・・それで、明日オルスさんに街を案内するため、一緒に街にお出掛けすることになりました」

「何!?」


 思わずプロトスは慌てた声を出してしまう。その態度にレインも驚いた。


「そんなに意外でしたか、お義父様?」

「え?あ・・・いや」

「お義父様もお認めになった方なら、デートくらいはいいかと思ったのですが、何かマズかったですか?」

「い・・・いやいや、そ、そんな事はない。そう、ほら!色気のある話など無いと言っていたからな、そんな話が出て驚いただけだ・・・」

「ああ・・そういう・・・確かに男性の方とのデートなんて話したことなかったですね」

「ああ、私から催促するような事を言っておいてなんだが、実際に言われるとビックリするなぁ。まあ、楽しんできなさい」

「フフ・・・ハイ♪」


 最愛の娘の無邪気な笑顔に、複雑な心中は更にかき乱される。


(やれやれ・・・娘から色気のある話が聞けたのは好いが、相手がなぁ・・・あの男自身は信用できそうではあるが、あの男の置かれている状況と立場がなぁ・・・)


立場は帝国軍人。状況は上から切り捨てられそうになっており、そうなる前に反乱を起こそうとしている。

更には、その反乱のため、複数人の女性を口説いて籠絡しようとしている・・・。


(せめて、レインが勇者でレインとだけ向き合ってくれるのであればなぁ・・・)


 プロトス自身は妻のシェリー一筋だが、貴族なこともあり、複数の妻を持つこと自体には抵抗が無い。

妻を複数人持つことは、この時代では豊かさの象徴でもある。

例えばそういう相手と娘が納得して結ばれるのであれば、将来が安泰なので反対する気も無い。

 だが、オーマはこれに当てはまらない。それに、


(自分の身を守るためにレインを口説いていると知れば、レインはどう思うか・・・怒るのか、それとも、状況を不憫に思って同情するのだろうか・・・)


レインに恋愛経験が無かったため、恋をしたレインがどんな感情でどんな行動に出るのか、プロトスには全く予想ができない。


「ただ・・・まあ・・そのなんだ。レインにとっては初めての相手なんだ。だから・・その・・・慎重にな?相手がどんな男かをよく見てだな・・・」

「はい。分かっています、お義父様。でもオルスさんは大丈夫ですよ。私、信用できる方だと思います。お義父様もお会いになった時、そう思ったのですよね?」

「ん・・・ああ、まあ、確かにな・・・だが、彼のすべてを信用したわけじゃない。一回会っただけで、相手の全てを理解できるワケではないからな。だからレインも、その・・・熱中し過ぎないようにな」

「はあ・・・どんなお方かをこれから知るところなのですが・・・まあ、お義父様の心配はよく分かりました。気を付けておきます」

「う、うむ・・・すまんな」


プロトス自身も心中複雑すぎて、何を言っているのか分からなくなってしまった。


(・・・結局、あの男の事はレイン次第になるか・・・)


ならば、プロトスは自分にしかできない事をするまでだと気持ちを切り替え、手に持ったカップをテーブルに置き、席を立つ。


「とにかく、レインが楽しんでいるようで良かった。これで私は何の憂いも無く、帝国と向き合える」

「いよいよですね。私も微力ながら、お義父様のお役に立ちたいと思います!」

「ああ、よろしく頼む。レインの出番そう多くはないが、期待している。出番がくるまでは、デートも特訓も楽しんだらいい」

「はい。お義父様」

「では、行こうか」

「はい!」


 家族団欒の時間は終わり、二人は上司と部下の関係に切り替わる。

国の命運が決まる外交に出るため、二人の表情は徐々に戦場に立つような真剣なものになっていった。




 プロトス邸宅の入口の大広間には、軍事、政治の主要な高官たちが集合していた。

プロトスはその者達の表情を一人一人確認し、全員がこの外交の重要性を理解していると判断する。

それならば、伝えることは最早無いと、プロトスは全員に号令を出す。


「これより、ドネレイム帝国の使節団の方々をお迎えする。皆、無様な姿を見せることの無い様、センテージ王国を背負う者として誇り高き振る舞いを期待する!」


「「はっ!!」」


プロトスと共にベルヘラを守り、発展させてきた者達。

皆、一糸乱れぬ返事と礼でプロトスの号令に応え、プロトス邸から出陣して行った____。






 使節団が到着したその日の夜_____。


 使節団の団長を務めるマサノリは、自分自身で用意された寝室をくまなくチェックし、盗聴や監視等が無いことが分かると、そこで初めて声を出した。


「来い。カラス」


ロウソクの明かりだけの薄暗くした部屋の角から黒い人影が二つ現れ、音を立てることもなくマサノリの前まで来ると、膝をついた。


「監視ご苦労。それで?サンダーラッツ相手に何処まで探れた?」


マサノリに問われて、似非鴉は自分達が魔獣に襲われた事まで、隠すことなく、これまで調べた事の全てを報告する。

マサノリは、二人が魔獣からの襲撃によって追跡が不可能になった失態を咎めることなく、報告を最後まで聞き少しだけ眉をひそめた。


「そうか・・・ご苦労だった。怪我の具合はどうだ?」

「ハッ。命に別状は無く、信仰魔法の回復が無くとも、潜在魔法の自然回復だけで数日で任務に戻れます」

「結構。・・・・だが、戻っても再び邪魔が入らんとも限らんか・・・」


 そう言うと、マサノリはカラス兄弟を放置して、口元に手を当てて一人で考え始める。

カラス兄弟は邪魔にならないよう同じ姿勢のまま、再び声が掛かるのを待つ。

 少した後、ある程度考えをまとめたマサノリが二人に目線を戻し、声を掛けた。


「お前達二人は今すぐ帝都に帰還し、この事をクラース宰相に報告しろ。任務に戻れても、再び邪魔される可能性も有る。上級魔獣を扱える勢力との対立はリスクが高い。魔族に勇者の件が漏れるのもマズイ。その勢力がどこと繋がっているか分からん以上、監視体制は見直さなければなるまい」

「かしこまりました。マサノリ様」

「失礼します」


カラス兄弟は、傷を負っているとは思えないほど身軽な動きで、音の無く消えて行った。


 部屋に一人残ったマサノリは、カラス兄弟が居なくなってからもずっと席に座って、カラス兄弟の報告を思い返していた。


「魔獣の襲撃・・・・偶然ではないはず。何処の勢力だ?・・・センテージ?いや、上位の魔獣を召喚できるような奴がいるなら、西方連合での戦いで出していただろう。それに、カスミが勇者候補として見つけているはず。やはり上級悪魔か・・魔族が介入してくるとはな、何処と繋がっている?単独勢力ではないだろう。最悪なのは、サンダーラッツが我々の思惑に気付いて魔族と結託したというケースだが・・・・・クラースもオーマは自分の切り捨てに気付いている可能性が有ると言っていた。上級悪魔が相手なら、私も警護を増やさねば・・・探りはどうする?オーマやプロトスを探って何か分かるか?いや、危険か?」


魔族相手とあって、マサノリは慎重に考える。だが、そこに恐れはない。


 魔族は、魔王が居ない今なら数は多くない。だが、個々の能力はかなりの力を持つ危険な相手だ。

上級悪魔相手なら、第一貴族の中でも三大貴族とカスミ位の者でないと、一対一は厳しい。

 だがそれでも、マサノリは慌てるでもなく、恐れるでもない。

ただ、冷静に耽々と今後の動きを検討するのであった____。

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